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Waving Life ~波瀾万丈の日常~

柏崎 聖

14話 剣の女王と幼馴染

 剣の女王と幼馴染
 1

 これは、剣也が交通事故で入院している時の話です。

 私は岸川 蘭華。
 中学3年生。
 どこにでもいる普通の女子中学生。

「蘭華!今日は早いな」

 私が『狭間』と書かれた表札の前に立っていると清楚な女性が声を掛けてきた。
 制服を着て鞄を持っているのを見るとどうやら学校帰りのようだ。
 高校1年生とは思えない大人っぽさをもっていて、独特な雰囲気を漂わせている。
 彼女の名前は狭間 美玲。

「どうだった?女優の試験」
「まぁまぁといったところかな。結果は2週間後に出るそうだ」

 彼女は女優志望で、高校に入ったのを転機にオーディションを受けている。
 演技力、ルックス共に高いので問題はなさそうだ。
 ところで私が何故この家の前にいるかというと、彼女と女子トークをするためである。
 彼女とは家が近い関係で幼い頃からよく遊んでいた。
 年が1つ上なので、まるでお姉さんかのように彼女を慕っていた。

「とりあえず、家に入って。お茶入れるから」
「うん」

 私達は家の中へと移動した。

 2


「君の幼馴染、交通事故で怪我をしたらしいな」

 狭間っちがたずねる。

「うん」

 私の幼馴染、蔭山 剣也は中学3年の初日に暴走してきた車に跳ねられて、軽い麻痺を患ってしまった。
 その日から約2週間たった。
 私はほぼ毎日、剣也のいる病院に行き勉強を教えている。
 剣也は学校に行くことすら出来ないからだ。
 3ヶ月という長い間、休んで勉強が追いつかなくなると彼の進路にも関わってくるので、幼馴染の私が手助けをすることになったのだ。

「お見舞いには行っているのか?」
「うん。今日も行くつもり」
「そうか…。ところで」
「何?」
「君はその幼馴染のことは好きなのか?」

 顔が一気に紅潮する。

「えっ!そ、そんなこと、ない。ないよ、たぶん…」
「その慌てようは間違いないな。へぇ〜、蘭華が幼馴染のことをねぇ」

 意地悪な口調で挑発してくる。
 私は売られた喧嘩は買う方なので反論する。

「そ、そんな訳無いでしょ!私は好きな人なんてい、いないし」
「分かりやすいな。バレバレだよ、蘭華」

 演技があまりに下手だったらしく、簡単に見破られた。
 やはり自分に正直になるべきなのかも知れない…。

「ごめん。好きな人がいないなんて嘘だよ」
「うん、知ってた」
「え?」
「なぜなら、君は幼馴染君の話をする時はいつもいつも笑顔が弾けて楽しそうだったからな。君の真っ直ぐな性格がむしろ、裏目に出たな」

 狭間っちがイタズラげに笑う。

「まぁ、知られたならもういいよ。そうだ、この事で狭間っちに相談しておきたいことがあるんだけどいい?」
「相談か。喜んで受けるよ」


 3

 私は中学1年、いや正確には小学校の時から成績がよかった。
 中学2年の時、親に英語スクールを勧められて入会。
 英語スクールは勉強が得意の私にとってはとても楽しいものだった。
 そしてその年の終わり頃だろうか。
 担任の先生との面談の時にあることを提案された。

『あなたの成績は素晴らしい。英語も得意そうだし、留学を考えてみたらどうだ?』
 という提案。

 留学、それは日本を離れて他国で勉強をすること。
 英語を話す本場へ行けば英語の経験値も上がることだろう。
 私は帰るまでその事で頭がいっぱいになった。

 その日、家に帰って親に相談することにした。

「私、先生に留学を勧められたんだけど行ってもいい?」

 ちなみに私の両親は共に優しく私のワガママをほとんど通してくれた。
 今回も許してくれるのだろう、と思っていた。
 だけど、それを裏切る回答だった。

「駄目だ」

 父のちょっと怒ったかのような声。
 こんな声は聞いたことがなかった。

「よく考えてみろ。留学するのがどれだけ大変なことか。学校の友達も知った人も誰1人いない。それに日本語は通じない。そんな環境でお前は耐えられるのか?」

 父は間違えなく怒っていた。

「それに、あなたの幼馴染の剣也君がどれだけ悲しむことか。それも考えないといけないんだよ」

 母はそれに反して優しい声を発しているが、内容は留学を否定しているものだ。

「その点を考えた上でもう1度俺達に伝えに来い」

 そう言って、父はリビングを出て話が終わった。

 私はあの日以来、ずっと考えていた。
 留学するべきか、しないべきか。
 結論を急いでもいい結果は生まれないことは分かっていた。
 だから私は真剣にかつ慎重に考えていた。
 そして今、私の信頼できる狭間っちに相談することにしたのだ。
 私がこれまでの経緯を話した。
 すると狭間っちが頷きながら回答する。

「なるほど。だけどな、この問題の答えはとても単純だよ」
「え?」

 疑問の声が思わず口に出る。

「君の人生は君が決めるもの。他人が口を出して歪めていいものでは無い。つまり、行くか行かないかは君の意志次第なんだ」

 私は悩んでいた自分が馬鹿だったと後悔した。
 狭間っちの言葉は心の奥底まで染み渡ってきた。
 お陰で結論がスッキリまとまった。

「私決めたよ!」
「言ってみて」
「私は留学するよ!そして自分を貫いてみる!」
「それでこそ蘭華だ」

 狭間っちが誇らしげに言う。

「ありがとう、狭間っち」
「君の人生だ。最高の物語を作れるように頑張ってくれ」
「あ、私お見舞いに行くね!」
「行ってこい!お前の意中の男の所へ!」
「もぉ!からかわないでよ!」

 私は笑顔のまま、病院へと走り出した。

 その日、家に帰った私は行くことを親に伝えた。
 両親は納得したように、行ってこいと一言かけてくれた。

「でも、行くのはまだまだは先だけどね!」

 と言い残し、部屋へと走っていった。

「まったく、あの子は」

 母が諦めたように嘆く。

「まぁ、留学もいい経験だ。行かせてやるのがいいだろうな」

 父はどうやら最初から許してくれるつもりだったらしい。
 そんなことに気付くことがない私は希望を胸に抱いて、ベッドで眠りにつくのだった。


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