Waving Life ~波瀾万丈の日常~
5話 桜花満開!
桜花満開!
1
彼女は言い放った。重い意味を含んだ言葉を。
「私、来年からイギリスに留学するんだ……。留学の話は入る前から考えていたんだけど、 昨日留学の許可が正式におりたの。だからごめん。暫くは会えなくなるの……」
何がどうなっているか自分で把握出来ていなかった。今はただ苦笑いを浮かべることしか出来なかった。
「笑わないって言ったじゃん、別に2度と逢えないって訳じゃないよ。だからどうか笑顔で送り出してほしい」
そういう意味で笑わないって言ったのではない。
まさか、こんなに重たいことだったなんて思いもしなかったから。
勝手になんでも決めて、いきなりこう言われて怒らないはずがない。
だけど彼女が決めたのは、彼女自身の人生だからで、俺が勝手に手出ししていいものでもない。
そう思って怒る気持ちを抑えて、それでも自分の気持ちを伝えた。
「決める前に一度相談して欲しかったな……」
「ごめん、剣也。どうしても相談できなくて……。ほんとに、勝手なこと言ってるのは分かってる。だから本当にごめん」
彼女の声は途中から涙が混じって、どれほど辛い決断だったかを物語っていた。
今、俺にできるのは彼女の言う通り、笑顔で送り出すことなのかもしれない。
この1年間で最高の思い出を作ることが俺たちのこれからやらなければいけないことだ。
暗い雰囲気ははっきり言って嫌いだ。
この雰囲気を消せる言葉、それを必死に考えた。
「よし、1年間最高の日々にしような!」
彼女は安心したように胸を撫で下ろす。
だけどきっと、彼女はまだ胸が痛いはずだ。
「早く帰ろうぜ、時間もだいぶ遅いしな」
「そうだね!ありがとう、剣也。おかげで頑張れそうだよ!」
彼女の言葉を聞いて、軽く挨拶を交わしてお互い帰りの道を歩み始めた。
帰り道、俺は考えた。
なぜ、俺に言ったのか。幼馴染だからか……。
きっと信頼がないなら、彼女はこのことを話すこともなく、気付けば留学して行っただろう。
これ以上深くは考えなかった。
いくら考えても、この事実を曲げることが出来ない。
彼女に最高の思い出を、とは言ったがいったい何をすればいい。
彼女にとって何が1番楽しいことなのか。何が好みで何が苦手で。
1番彼女の近くに長くいた俺だからこそ、出来ることがあるだろう。
その俺だけにある特権を、生かすも殺すも自分次第なのだ。
「でも、思い出を作っても彼女はかえって辛くなるんじゃないか……」
結局、その日にちゃんとした結論が出ることは無かった。
2
次の日の朝、待ち合わせ場所まで行くと彼女が俺に向かって元気そうに手を振っていた。
「おはよう!剣也」
「あぁ」
昨日の出来事などなかったかのようにいつも通りの彼女。
彼女がいつも通りでやろうとしているのだ。きっと俺も同じようにするのがいいだろう。
俺はいつもと変わらい声のトーンで話す。
「行こうか、学校……」
「元気ないよ?どうしたの?」
よく分からない。分からないけど、いつも通りにしようとしても出来ないのだ。
「べ、別に。いつも通りだよ。早く行こうぜ!」
どうしてもどこか、ぎこちなくなってしまう。
やはり、あのことが気になってしまう。
胸のモヤがようやく晴れたと思った矢先。次にかかったのは、濃い霧。
この先、ほとんど何も見えないそんな霧だった。
俺はいつもより少し遅い足どりで、学校へと歩き出した。
学校にたどり着くと、ちょっと来いという感じの仕草をして目立つ絵里を見つけた。
彼女の元に行くと腕を引っ張られて、耳元で囁かられた。
「お金持って来たの?」
「ごめん。忘れてた」
昨日はあんなことがあって、完全に借りたお金のことを俺は忘れていた。
彼女は少しイラッとした感じで、俺に言う。
「もう1回言っとくけど、絶対持ち逃げ禁止ね!返すまで毎日言うからね!」
「分かったよ。極力早く返すよ」
と言って彼女の元を離れた。
お金は確かに返さないといけない。
でも今はそれどころではない。
頭の中は、蘭華の留学でいっぱいだから。
一方その頃、蘭華は机に突っ伏していた。
いつもと様子が違う。
きっと、俺と同じように昨日のがこたえているのだろう。
でも、今は余計なことは話さない方がいいんだろう。
変に話しかけて、関係こじれるなんて絶対に嫌だ。
だから、俺はそんな彼女に声はかけなかった。
3
ずっと蘭華のことを考えていて、授業も全く耳に入らなかった。
気付けば放課後。
今日はいつもの玄関じゃなく、坂を下りたところにある喫茶店が集合場所だ。
というのも、今日の昼休み。彼女は俺にこう言った。
「今日は玄関じゃなくて、喫茶店で待ってて!ちょっと話したいこと、あるしさ」
ちょっといつもと違う雰囲気の蘭華は、その言葉を残してすぐに自分の席に戻っていった。
俺はその待ち合わせ場所である喫茶店で、コーヒーを飲みながら外を眺めている。
俺がここについてからもう30分くらい経っただろうか。
もうコーヒーを2杯も飲んでいた。
ただそうして、ここで待っていても彼女はやってこない。
今までこういう約束に遅れることがなかった彼女。
だから、何かあったのでは?と思い俺はお金を払って店を出た。
店を出て、学校に戻ろうとした。
すると、歩道に下を向いて立っていた蘭華がいた。
明らかに様子がおかしかった。
「蘭華?どうした?」
声を聞いて顔を上げた彼女は、目が腫れていた。ここまで崩れた表情の彼女は見たことがなかった。
「ごめん……。遅れちゃって……。やっぱり、帰りながら、話すことにするね」
「分かった」
俺たちは歩調を合わせてゆっくりといつもの帰り道を歩く。
彼女は、帰りながら話すことにする、と言った。
だけど彼女は、一向に話し始めようとはしない。
そんな会話のまったくない状態が長く続き、気付けば昨日のあの場所に来ていた。
ここに着いてようやく、彼女が俺の方を向いた。
そして、一呼吸置いた後口を開く。
「ごめん、話し始めのタイミングが掴めなくて……。って昨日も、こんな感じだったね……」
突然、彼女の口から出た留学の話。
俺にとって大きな衝撃が走った、あの日から1日。
次はいったい、何の話だろうか……。
「今日、私に気を遣ったよね?」
「いや、そんなことは……」
確かに気を遣った。
昨日のことがあってどうしても、蘭華と話そうという気にならなかった。
だから、彼女を自然と避けてもいた。
「私は留学の話する前と変わらない生活を望んでいる。つまり、私は今までの生活が好きなの。毎日剣也と登下校して、遊びに行って、楽しくお話して。そんな毎日がこの上なく楽しかったの……。だからいつもの剣也で、いてくれないと……」
昨日と同じく、涙声になっていた。
顔を見ると頬を伝って、滴る大粒の涙。目のまわりはさらに腫れていた。
間違いだったかもしれない。
そんなの本当は自分でも分かってたはずだ。
今の日常が変わって、気を遣うような生活。蘭華がそんなものを望んでいるわけがない。
いつもの日々が一番いいんだ。
あの、騒がしい日々が一番楽しいんだ。
分かったら、ただそれを実行に移すだけ。
「悪かった。蘭華の気持ち、一番分かってたはずなのに、実は何も分かってなかったのかもしれない……。これからも、いつも通りの俺たちでやっていこう……。っ!」
この頬に感じる感触はなんだろう。体温の暖かさだけではなく、気持ちもその暖かさにこもっていたのかもしれない。
そう。俺は蘭華にキスをされたのだ。
「実は、話っていうのはそれだけじゃなくて……。私、剣也の事が好き、いや大好きだよ!」
彼女はそう言い残して、走ってこの場を去っていった。
桜は今日、満開を迎えた。
その桜が、この場所には一本植えられている。
桃色の花びらは、本当に美しい。
俺は、この大きな桜の木を眺めていた...…。   
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彼女は言い放った。重い意味を含んだ言葉を。
「私、来年からイギリスに留学するんだ……。留学の話は入る前から考えていたんだけど、 昨日留学の許可が正式におりたの。だからごめん。暫くは会えなくなるの……」
何がどうなっているか自分で把握出来ていなかった。今はただ苦笑いを浮かべることしか出来なかった。
「笑わないって言ったじゃん、別に2度と逢えないって訳じゃないよ。だからどうか笑顔で送り出してほしい」
そういう意味で笑わないって言ったのではない。
まさか、こんなに重たいことだったなんて思いもしなかったから。
勝手になんでも決めて、いきなりこう言われて怒らないはずがない。
だけど彼女が決めたのは、彼女自身の人生だからで、俺が勝手に手出ししていいものでもない。
そう思って怒る気持ちを抑えて、それでも自分の気持ちを伝えた。
「決める前に一度相談して欲しかったな……」
「ごめん、剣也。どうしても相談できなくて……。ほんとに、勝手なこと言ってるのは分かってる。だから本当にごめん」
彼女の声は途中から涙が混じって、どれほど辛い決断だったかを物語っていた。
今、俺にできるのは彼女の言う通り、笑顔で送り出すことなのかもしれない。
この1年間で最高の思い出を作ることが俺たちのこれからやらなければいけないことだ。
暗い雰囲気ははっきり言って嫌いだ。
この雰囲気を消せる言葉、それを必死に考えた。
「よし、1年間最高の日々にしような!」
彼女は安心したように胸を撫で下ろす。
だけどきっと、彼女はまだ胸が痛いはずだ。
「早く帰ろうぜ、時間もだいぶ遅いしな」
「そうだね!ありがとう、剣也。おかげで頑張れそうだよ!」
彼女の言葉を聞いて、軽く挨拶を交わしてお互い帰りの道を歩み始めた。
帰り道、俺は考えた。
なぜ、俺に言ったのか。幼馴染だからか……。
きっと信頼がないなら、彼女はこのことを話すこともなく、気付けば留学して行っただろう。
これ以上深くは考えなかった。
いくら考えても、この事実を曲げることが出来ない。
彼女に最高の思い出を、とは言ったがいったい何をすればいい。
彼女にとって何が1番楽しいことなのか。何が好みで何が苦手で。
1番彼女の近くに長くいた俺だからこそ、出来ることがあるだろう。
その俺だけにある特権を、生かすも殺すも自分次第なのだ。
「でも、思い出を作っても彼女はかえって辛くなるんじゃないか……」
結局、その日にちゃんとした結論が出ることは無かった。
2
次の日の朝、待ち合わせ場所まで行くと彼女が俺に向かって元気そうに手を振っていた。
「おはよう!剣也」
「あぁ」
昨日の出来事などなかったかのようにいつも通りの彼女。
彼女がいつも通りでやろうとしているのだ。きっと俺も同じようにするのがいいだろう。
俺はいつもと変わらい声のトーンで話す。
「行こうか、学校……」
「元気ないよ?どうしたの?」
よく分からない。分からないけど、いつも通りにしようとしても出来ないのだ。
「べ、別に。いつも通りだよ。早く行こうぜ!」
どうしてもどこか、ぎこちなくなってしまう。
やはり、あのことが気になってしまう。
胸のモヤがようやく晴れたと思った矢先。次にかかったのは、濃い霧。
この先、ほとんど何も見えないそんな霧だった。
俺はいつもより少し遅い足どりで、学校へと歩き出した。
学校にたどり着くと、ちょっと来いという感じの仕草をして目立つ絵里を見つけた。
彼女の元に行くと腕を引っ張られて、耳元で囁かられた。
「お金持って来たの?」
「ごめん。忘れてた」
昨日はあんなことがあって、完全に借りたお金のことを俺は忘れていた。
彼女は少しイラッとした感じで、俺に言う。
「もう1回言っとくけど、絶対持ち逃げ禁止ね!返すまで毎日言うからね!」
「分かったよ。極力早く返すよ」
と言って彼女の元を離れた。
お金は確かに返さないといけない。
でも今はそれどころではない。
頭の中は、蘭華の留学でいっぱいだから。
一方その頃、蘭華は机に突っ伏していた。
いつもと様子が違う。
きっと、俺と同じように昨日のがこたえているのだろう。
でも、今は余計なことは話さない方がいいんだろう。
変に話しかけて、関係こじれるなんて絶対に嫌だ。
だから、俺はそんな彼女に声はかけなかった。
3
ずっと蘭華のことを考えていて、授業も全く耳に入らなかった。
気付けば放課後。
今日はいつもの玄関じゃなく、坂を下りたところにある喫茶店が集合場所だ。
というのも、今日の昼休み。彼女は俺にこう言った。
「今日は玄関じゃなくて、喫茶店で待ってて!ちょっと話したいこと、あるしさ」
ちょっといつもと違う雰囲気の蘭華は、その言葉を残してすぐに自分の席に戻っていった。
俺はその待ち合わせ場所である喫茶店で、コーヒーを飲みながら外を眺めている。
俺がここについてからもう30分くらい経っただろうか。
もうコーヒーを2杯も飲んでいた。
ただそうして、ここで待っていても彼女はやってこない。
今までこういう約束に遅れることがなかった彼女。
だから、何かあったのでは?と思い俺はお金を払って店を出た。
店を出て、学校に戻ろうとした。
すると、歩道に下を向いて立っていた蘭華がいた。
明らかに様子がおかしかった。
「蘭華?どうした?」
声を聞いて顔を上げた彼女は、目が腫れていた。ここまで崩れた表情の彼女は見たことがなかった。
「ごめん……。遅れちゃって……。やっぱり、帰りながら、話すことにするね」
「分かった」
俺たちは歩調を合わせてゆっくりといつもの帰り道を歩く。
彼女は、帰りながら話すことにする、と言った。
だけど彼女は、一向に話し始めようとはしない。
そんな会話のまったくない状態が長く続き、気付けば昨日のあの場所に来ていた。
ここに着いてようやく、彼女が俺の方を向いた。
そして、一呼吸置いた後口を開く。
「ごめん、話し始めのタイミングが掴めなくて……。って昨日も、こんな感じだったね……」
突然、彼女の口から出た留学の話。
俺にとって大きな衝撃が走った、あの日から1日。
次はいったい、何の話だろうか……。
「今日、私に気を遣ったよね?」
「いや、そんなことは……」
確かに気を遣った。
昨日のことがあってどうしても、蘭華と話そうという気にならなかった。
だから、彼女を自然と避けてもいた。
「私は留学の話する前と変わらない生活を望んでいる。つまり、私は今までの生活が好きなの。毎日剣也と登下校して、遊びに行って、楽しくお話して。そんな毎日がこの上なく楽しかったの……。だからいつもの剣也で、いてくれないと……」
昨日と同じく、涙声になっていた。
顔を見ると頬を伝って、滴る大粒の涙。目のまわりはさらに腫れていた。
間違いだったかもしれない。
そんなの本当は自分でも分かってたはずだ。
今の日常が変わって、気を遣うような生活。蘭華がそんなものを望んでいるわけがない。
いつもの日々が一番いいんだ。
あの、騒がしい日々が一番楽しいんだ。
分かったら、ただそれを実行に移すだけ。
「悪かった。蘭華の気持ち、一番分かってたはずなのに、実は何も分かってなかったのかもしれない……。これからも、いつも通りの俺たちでやっていこう……。っ!」
この頬に感じる感触はなんだろう。体温の暖かさだけではなく、気持ちもその暖かさにこもっていたのかもしれない。
そう。俺は蘭華にキスをされたのだ。
「実は、話っていうのはそれだけじゃなくて……。私、剣也の事が好き、いや大好きだよ!」
彼女はそう言い残して、走ってこの場を去っていった。
桜は今日、満開を迎えた。
その桜が、この場所には一本植えられている。
桃色の花びらは、本当に美しい。
俺は、この大きな桜の木を眺めていた...…。   
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