Waving Life ~波瀾万丈の日常~
6話 百花繚乱
百花繚乱
1
俺は集合場所に、いつもより30分も早く来ていた。
この気持ちはなんだろう……。
彼女に早く会いたいっていうただそれだけで、体が自然とここに連れてきた。
昨日、俺は確かに告白された。
「私、剣也の事が好き。いや、大好きだよ!」
それの言葉だけでも十分だった。
その上、キスも……って、思い出すだけでも恥ずかしくなる……。
そんな、高校生には刺激の強すぎる出来事から、まだ1日も経っていない。
「おはよ!剣也!今日は早いんだね」
「あ、あぁ。ちょっとな……」
「気になるなぁ、その言い方。どうしたの?話聞くよ!」
「いや、何も無いよ」
お前が昨日してきたことだよ。
心の中でそう呟く。
ようやく、いつも通りになった。
いつもの雰囲気、いつもの感じに戻って一安心だ。
「30分以上、早いけどどうする?」
「遊園地行こー!」
「いや、お前な。常識考えろよな……。行くのだけでも30分を余裕で超えるんだぞ?」
「じゃあさ、学校を休もう!」
「頭おかしいんですか?いや、間違えなくおかしいですね」
こんな馬鹿げた会話が出来るのも、幸せなことだなって感じる。
ただその代わり、面倒臭いという気持ちも感じるけどね。
「じゃあ、喫茶店行くか……。モーニングコーヒー飲みたいしな」
「えぇ、遊園地でも飲めるよ?そのモーニング何とか」
いや、モーニングよりコーヒーの方覚えとけ。
モーニングだけだと、朝番組なのか、缶コーヒーなのか、「おはよう」なのか判断つかないぞ。
それに遊園地こだわり過ぎだろこいつ……。
「もういいよ。結構早いけど、学校に行こうぜ」
「まぁ、たまにはいいよね」
どうやら遊園地は諦めたらしい。
彼女は、歩き始めた俺の後ろを間隔をあけてついてくる。
いつもなら、横に並んでたのに……。
どこか、意識しているんだろうな。こいつ。
いつも通りがいいとか言っていたのに、結局どっちなのだろうか。
朝の太陽が降らす光は、暖かさを纏い俺たちを照らす。
おそらく周りには、太陽光並みに眩しく見えるだろうな……。
2
「あんた、今度こそ忘れてないでしょうね!」
教室に着いた途端、昨日も聞いた怒声を浴びされる。
昨日の帰り際に言われたことと、キスが頭から離れなくて、借りたお金のことは完全に忘れていました。はい。
「なぁ、絵里。人にはな、順序ってものがあってだな」
「何?言い訳?男のくせにネチネチしたやつ〜。いいよ、聞いてあげる」
特に言い訳など考えておらず、適当に話を終わらしてやろうと思っていたにも関わらず裏目に出てしまった。
当然、昨日のことなど言えるわけがない。
ここはどうやって撒くべきか……。
俺はふと閃いた。
予鈴を待てばこの話に終止符を打てるのではないのか。
そう思って時計を見た。
残念。これまた朝早く来たのが裏目に出てまだ20分程度ある。
こんなことなら喫茶店行っとくんだったな……。
また閃いた。違う言い訳を探す。
ん〜……。
長考の末、たどり着いた結論。
はい。潔く諦めます。
「いや、普通に忘れただけです。すいません」
「もういい。あんたの家に取りに行くわ。あ、でも……。あのさ、お金貸したから、1つお願い聞いてくれない?」
ちょっと待て……。
お金を返したら終わりだと思っていた俺は、急にそのお願いとやらが気になった。
一体なんだろうか。
お金ないから利子200パーセントにしてとか、本当に無理だからやめて下さい。
「今、親と喧嘩してて家に帰れないんだよね〜。お願い!1日だけ家に泊めてくれない?」
「ちょっ、おい。家には妹いるんだぞ……」
「いいじゃん。1日だけだから、お願い!」
絵里は手を合わせてこちらにお願いしてくる。
「お前な……。それよりも男子の家に泊まるってどういう意味か分かってるのか?1つ屋根の下だぞ?」
「別にいいわよ!大体あんた、あんなことやそんなことする度胸ないでしょうし」
なんかすごい酷いこと言われてる気がする……。
俺だってやる時はやる男だぞ。
……っと、そんなことは今どうでもいい。
俺は、仕方なく受け入れることにした。
「分かった。お金を借りてすぐ返さなかった俺が悪かったわ。それで、いつ来んの?」
「え、ほ、ホントにいいの?」
いや、お前どっちだよ……。
絵里は、何故かあたふたしていた。
「別に、いいよ。俺が悪いんだから」
「じゃあ、え、遠慮なく行かせてもらうけど、勘違いだけはしないように!」
「はいはい」
そんなこんなで、彼女は今日泊まりに来ることになった。
3
授業が終わり、俺はいつも通り蘭華と帰った。
絵里は、午後6時くらいに家に来ると言っていた。
リビングでテレビを見ながら、絵里が来るのを待っていると……。
『ピンポーン』
インターホンがなり、俺はスタスタと玄関の方に向かいドアを開ける。
「宅配便でーす。判子をお願いしますね」
ただの早とちりだった……。
俺は判子を押して段ボールの箱を受け取り、再びリビングに戻る。
「いったい何の荷物だよ……」
俺は段ボールの箱を開いた。
「あのなぁ……」
するとそこにあったのは、大量の化粧商品。
これを頼んだのは、間違いなく母親だ。
俺の母親は、何でもかんでも化粧品を買うという、何とも無駄なことをいつもしている。
スーパーに行っても化粧品売り場で必ず立ち止まり、こうしてネットでもよく購入している。
俺はそのダンボールの箱を再び閉じて、ガムテープでぐるぐるに巻いて部屋の端に置いた。
そんなことをしていると、再びインターホンがなる。
再び玄関の扉を開くと、制服を着た生徒が立っていた。
「泊まりに来たよ」
遂に来た。
絵里は、頬をほんのりと赤く染めた様子だった。
俺は、彼女をリビングへと案内した。
「へ、へぇー。案外綺麗なんだね、あんたの家って……」
俺は一切、家事などやってない。
それに母親もしていない。
やったのは全て、無駄に几帳面な妹だ。
暇があれば、母の代わりに色々な家事をこなし、母よりも母らしく感じる。
絵里が、俺がいつもテレビを見る時に座っているソファーに腰をかけたところで、俺は冷蔵庫からお茶を取り出す。
コップに氷をいくつか入れて、彼女の方に持っていく。
これは俺の些細な気遣いだ。
「お構いなく〜」
お茶を持っていくと彼女はそう言う。
俺はそのままソファーの前にある机にお茶を置いた。
「お構いなくって言ったでしょ?聞こえなかったの?」
いや、それってそういう意味じゃないから。
どうも日本語をしっかり理解ていないようだ。
「ただいま~」
玄関から威勢のいい声が聞こえる。
恐らく妹だ。
まだ絵里が泊まりに来たことは言ってないので、伝えるために玄関に行くと、妹は家に男を連れ込もうとしていた。
ちょっと待て。
俺は、修羅場期待した覚えないぞ。
頼むから勘弁してくれ〜……。
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