Waving Life ~波瀾万丈の日常~
3話 桜花八分咲き
桜花八分咲き
1
今日は日曜日。遊びに行く約束をした日である。
この町、水山町にある唯一の駅が今日の集合場所となっていた。
空模様同様、俺の気持ちも曇り。
あの日以来、ずっと関係が気になったまま日を過ごしてきたのである。
だがそんな日々も今日で終わりか、と思うと一気に晴れた気持ちになる。
俺は集合時間の1時間前に着いて彼女が来るのを待っていた。
大抵こういう時は、少し早めに来るのが当たり前だ。
だが、それしても早すぎるように思うだろう。
これには訳がある。
昨日のことである。
俺は、家で特にすることもなくゴロゴロしていた。
ゲームして、勉強して、テレビみて、ご飯食べて、昼寝して……。
そんなこんなで夜の9時になった。
明日は大事な約束があるから早く寝ようと、ベッドに入ると喧しい携帯の着信音が鳴った。
誰からかと確認した。案の定、蘭華だ。
「もしもし?どうした?」
「明日のことちゃんと覚えているよね?」
「当たり前だ!」
覚えてないわけがない。
何せ、言い出したのは俺だし、それに関係性を探るまで気持ちが晴れないのだ。
俺は、ようやく晴れる明日を待ちわびていた。
「1つ忠告ね!」
「なんだ?」
「明日遅れたら1日中奢ってもらうからね?分かった?」
「お前、考えてみろよ。電車で500円、入場料で1000円、食事で1000円。この時点で2500円なんですけど?俺、金欠なんだよ……」
「払えなかったら、この前の件聞かせてもらうからね!」
こいつ……。まだ覚えていやがったのか。
俺は仕方なく、
「はいはい」
と返事した。
「じゃあ、明日楽しみにしてるから……」
そう蘭華が言うと、電話が切れた。
蘭華は、明日を楽しみにしていた。
その事を知った俺は、「関係性を聞くだけでなく、蘭華に楽しんでもらわないとな」、そう思った。
こういうことがあり、なんとしても遅れるわけには行かなくなったため、今こうして駅前のベンチにずっと座っているのだ。
「ちぇ〜、遅れなかったかぁ」
「あんなこと言われて遅れるわけあるかよ」
「それもそうね」
「俺なら、何も言わずに当日遅れてきたところで、その罰を下したな」
「あーあ。お金を貰って、さらに剣也の秘密も知るという一石二鳥の作戦だったのになぁ」
「お前な……」
こいつ鬼かよ……。
いつもはじけている笑顔の下には、とんでもない鬼が潜んでいるのではないか、と疑いたくなる。
「まぁいいや!早く行こ、剣也!」
いや、良くねぇよ。
2
遊園地なんていつぶりだろうか。
いつしか楽しみを忘れてしまったこの場所に、俺はまたやってきたのだ。
大きな観覧車がトレードマークのこの遊園地は、聞くところによると再来年の3月に改修工事が入るそうだ。
再来年の3月というと俺たちの卒業式、そして大学の合格発表がある日だ。
そう思うとまだまだ先のことにも思えるが時は早く過ぎる。
それまでに、どれだけ幸運が待っているのだろう。(どれだけ災難が待っているのだろう)
遊園地の入り口で大人2枚のチケットを購入し、園内へと進む。
俺たちは、まずジェットコースターに乗ろうと乗り場へ向かうことにした。
乗り場までは徒歩5分と少し遠い……。が話しでもしていればそうでもないだろう。
そう思って俺から話題を振った。
「蘭華、ジェットコースター乗れるのか?」
「んー、分かんない。乗ったことないもん」
え?乗ったことない……。だということはこの乗り物の恐ろしい面をご存知ないと……。
かなり昔のことだが、昔来ていたこのジェットコースターは怖いと恐れられている。
昔、何度も乗っていたので怖さを熟知しているつもりだ。
それでは説明しよう。この遊園地のジェットコースターの恐怖について。
まず1つ目。地上50メートルから一気に落ちる、その名もフリーフォールだ!ちなみに角度は全国でもトップレベルで急だそうだ。怖い!
2つ目。途中途中にある急カーブ!右へ左へと体が振られてしまう。怖い!
3つ目。最後に近づいたあたりにある長いトンネル、名付けてロングダークネス。中に明かりはなく、どちらに曲がるか予想も出来ないところがとにかく、怖い!
柄にもなくこんな馬鹿なことをしている自分が恥ずかしい……。
俺はこの恐怖のジェットコースターの説明を乗り場までの間、蘭華にゆっくりと説明した。
途中から説明に飽きていたが、まぁいいか。
そしてようやく俺たちは、ジェットコースター乗り場に着いた。
珍しく今日は空いていたので、すぐに俺達は乗ることが出来た。
スタッフの指示通り、安全バーを下げて、さぁ行くぞと思って目の前を見ると、ものすごい急な上り坂が見えた。
すると、何故か足が少し震えていた。
俺はその事が恥ずかしく感じられたので、隣の蘭華に声をかけた。
「あらかじめ言っておくが、下手なお化け屋敷より怖いからな!」
「ふ、ふーん」
「緊張してるのか?」
「あのさ、剣也だけには言われたくないね」
そう言って、蘭華は俺の足を指さした。
「こ、これはだなぁ。トイレが漏れそうで我慢するのがやっとで……」
「全然言い訳になってないよ。それと、もしホントなら漏らさないでね。飛び散るから」
「じょ、冗談に決まってるだろ?」
「ふ〜ん」
俺達がそんなことを言ってると、スタッフが、発車までのカウントダウンをし始めた。
『いってらっしゃ〜い!』
そしてこの合図で、ジェットコースターはギギギっと音を立てて進み始めた。
ジェットコースターは次第に坂を登っていく。
そっと下を覗くと、どんどんと人が小さくなっていくのが見える。
観覧車に乗っているのと、さほど高さは変わらないが、ジェットコースターはすごく怖く感じられる。
あれ?ジェットコースター苦手になってないか?
これでも昔は、1日に3回もぉぉぉぉぉ……。
ジェットコースターは頂点をすぎ、客が悲鳴と歓声をあけながら一気に急降下した。
凄まじいスピードで駆け巡り、先頭だからか、顔に春の嵐のような強風がぶち当たってくる。
右に左に体は振られ、宙ずりになったりトンネルをくぐったりと、超高速のジェットコースターは気付けば、元のスタート位置に戻ってきていた。
気持ち悪いのを抑え、隣を見るとそこにはいつもより楽しそうな蘭華の表情が見えた。
気持ち悪くなったけど、そういう表情を見られたから良しとしよう。
3
「ったぁ!面白かったー!」
楽しかったなら何よりです。
乗り場近くのベンチに座りながら、そう思った。
「気持ち悪い……」
「ほらね。やっぱりジェットコースターに弱いんじゃない」
「昔は強かったんだけどなぁ」
「昔は昔。今は今。でしょ?」
俺はため息をつき、目を瞑って背もたれに背中を預けた。
ふぅ、と息を吐き再び目を開けると、目の前に見覚えのある人が立っていた。
「あ……、えっ!?」
俺は驚いて気持ち悪さを忘れ飛び起きた。
「ん?君は確かこの前コンビニにいた……。それに蘭華まで一体どうしたんだ?」
狭間 美玲。俺たちの1つ上の先輩。
はっ!思い出した。
当初の目的、先輩と蘭華との間柄を聞くということを。
「あれ?狭間っち!どうしてここに?」
どうもその呼び方からすると、かなり仲良いんだろうな。
でも本当にどういう関係なんだろう。
「たまたま通りかかったのでな。あ、悪い。お前たちの大事な時間を割くわけにはいかないな。私は失礼するよ」
え?とんだ勘違いしてますよね?
別にカップルなんてことはないですから!
まぁ、悪い勘違いではないけど。
「分かった。またね、狭間っち!」
蘭華がそう言うと、先輩は早々とこの場を去った。
俺はそれを見届けた後に、蘭華に話を振る。
「あのさ、蘭華ってあの人とどんな関係なんだ?」
「狭間っちとの関係?んーとねぇ……」
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今日は日曜日。遊びに行く約束をした日である。
この町、水山町にある唯一の駅が今日の集合場所となっていた。
空模様同様、俺の気持ちも曇り。
あの日以来、ずっと関係が気になったまま日を過ごしてきたのである。
だがそんな日々も今日で終わりか、と思うと一気に晴れた気持ちになる。
俺は集合時間の1時間前に着いて彼女が来るのを待っていた。
大抵こういう時は、少し早めに来るのが当たり前だ。
だが、それしても早すぎるように思うだろう。
これには訳がある。
昨日のことである。
俺は、家で特にすることもなくゴロゴロしていた。
ゲームして、勉強して、テレビみて、ご飯食べて、昼寝して……。
そんなこんなで夜の9時になった。
明日は大事な約束があるから早く寝ようと、ベッドに入ると喧しい携帯の着信音が鳴った。
誰からかと確認した。案の定、蘭華だ。
「もしもし?どうした?」
「明日のことちゃんと覚えているよね?」
「当たり前だ!」
覚えてないわけがない。
何せ、言い出したのは俺だし、それに関係性を探るまで気持ちが晴れないのだ。
俺は、ようやく晴れる明日を待ちわびていた。
「1つ忠告ね!」
「なんだ?」
「明日遅れたら1日中奢ってもらうからね?分かった?」
「お前、考えてみろよ。電車で500円、入場料で1000円、食事で1000円。この時点で2500円なんですけど?俺、金欠なんだよ……」
「払えなかったら、この前の件聞かせてもらうからね!」
こいつ……。まだ覚えていやがったのか。
俺は仕方なく、
「はいはい」
と返事した。
「じゃあ、明日楽しみにしてるから……」
そう蘭華が言うと、電話が切れた。
蘭華は、明日を楽しみにしていた。
その事を知った俺は、「関係性を聞くだけでなく、蘭華に楽しんでもらわないとな」、そう思った。
こういうことがあり、なんとしても遅れるわけには行かなくなったため、今こうして駅前のベンチにずっと座っているのだ。
「ちぇ〜、遅れなかったかぁ」
「あんなこと言われて遅れるわけあるかよ」
「それもそうね」
「俺なら、何も言わずに当日遅れてきたところで、その罰を下したな」
「あーあ。お金を貰って、さらに剣也の秘密も知るという一石二鳥の作戦だったのになぁ」
「お前な……」
こいつ鬼かよ……。
いつもはじけている笑顔の下には、とんでもない鬼が潜んでいるのではないか、と疑いたくなる。
「まぁいいや!早く行こ、剣也!」
いや、良くねぇよ。
2
遊園地なんていつぶりだろうか。
いつしか楽しみを忘れてしまったこの場所に、俺はまたやってきたのだ。
大きな観覧車がトレードマークのこの遊園地は、聞くところによると再来年の3月に改修工事が入るそうだ。
再来年の3月というと俺たちの卒業式、そして大学の合格発表がある日だ。
そう思うとまだまだ先のことにも思えるが時は早く過ぎる。
それまでに、どれだけ幸運が待っているのだろう。(どれだけ災難が待っているのだろう)
遊園地の入り口で大人2枚のチケットを購入し、園内へと進む。
俺たちは、まずジェットコースターに乗ろうと乗り場へ向かうことにした。
乗り場までは徒歩5分と少し遠い……。が話しでもしていればそうでもないだろう。
そう思って俺から話題を振った。
「蘭華、ジェットコースター乗れるのか?」
「んー、分かんない。乗ったことないもん」
え?乗ったことない……。だということはこの乗り物の恐ろしい面をご存知ないと……。
かなり昔のことだが、昔来ていたこのジェットコースターは怖いと恐れられている。
昔、何度も乗っていたので怖さを熟知しているつもりだ。
それでは説明しよう。この遊園地のジェットコースターの恐怖について。
まず1つ目。地上50メートルから一気に落ちる、その名もフリーフォールだ!ちなみに角度は全国でもトップレベルで急だそうだ。怖い!
2つ目。途中途中にある急カーブ!右へ左へと体が振られてしまう。怖い!
3つ目。最後に近づいたあたりにある長いトンネル、名付けてロングダークネス。中に明かりはなく、どちらに曲がるか予想も出来ないところがとにかく、怖い!
柄にもなくこんな馬鹿なことをしている自分が恥ずかしい……。
俺はこの恐怖のジェットコースターの説明を乗り場までの間、蘭華にゆっくりと説明した。
途中から説明に飽きていたが、まぁいいか。
そしてようやく俺たちは、ジェットコースター乗り場に着いた。
珍しく今日は空いていたので、すぐに俺達は乗ることが出来た。
スタッフの指示通り、安全バーを下げて、さぁ行くぞと思って目の前を見ると、ものすごい急な上り坂が見えた。
すると、何故か足が少し震えていた。
俺はその事が恥ずかしく感じられたので、隣の蘭華に声をかけた。
「あらかじめ言っておくが、下手なお化け屋敷より怖いからな!」
「ふ、ふーん」
「緊張してるのか?」
「あのさ、剣也だけには言われたくないね」
そう言って、蘭華は俺の足を指さした。
「こ、これはだなぁ。トイレが漏れそうで我慢するのがやっとで……」
「全然言い訳になってないよ。それと、もしホントなら漏らさないでね。飛び散るから」
「じょ、冗談に決まってるだろ?」
「ふ〜ん」
俺達がそんなことを言ってると、スタッフが、発車までのカウントダウンをし始めた。
『いってらっしゃ〜い!』
そしてこの合図で、ジェットコースターはギギギっと音を立てて進み始めた。
ジェットコースターは次第に坂を登っていく。
そっと下を覗くと、どんどんと人が小さくなっていくのが見える。
観覧車に乗っているのと、さほど高さは変わらないが、ジェットコースターはすごく怖く感じられる。
あれ?ジェットコースター苦手になってないか?
これでも昔は、1日に3回もぉぉぉぉぉ……。
ジェットコースターは頂点をすぎ、客が悲鳴と歓声をあけながら一気に急降下した。
凄まじいスピードで駆け巡り、先頭だからか、顔に春の嵐のような強風がぶち当たってくる。
右に左に体は振られ、宙ずりになったりトンネルをくぐったりと、超高速のジェットコースターは気付けば、元のスタート位置に戻ってきていた。
気持ち悪いのを抑え、隣を見るとそこにはいつもより楽しそうな蘭華の表情が見えた。
気持ち悪くなったけど、そういう表情を見られたから良しとしよう。
3
「ったぁ!面白かったー!」
楽しかったなら何よりです。
乗り場近くのベンチに座りながら、そう思った。
「気持ち悪い……」
「ほらね。やっぱりジェットコースターに弱いんじゃない」
「昔は強かったんだけどなぁ」
「昔は昔。今は今。でしょ?」
俺はため息をつき、目を瞑って背もたれに背中を預けた。
ふぅ、と息を吐き再び目を開けると、目の前に見覚えのある人が立っていた。
「あ……、えっ!?」
俺は驚いて気持ち悪さを忘れ飛び起きた。
「ん?君は確かこの前コンビニにいた……。それに蘭華まで一体どうしたんだ?」
狭間 美玲。俺たちの1つ上の先輩。
はっ!思い出した。
当初の目的、先輩と蘭華との間柄を聞くということを。
「あれ?狭間っち!どうしてここに?」
どうもその呼び方からすると、かなり仲良いんだろうな。
でも本当にどういう関係なんだろう。
「たまたま通りかかったのでな。あ、悪い。お前たちの大事な時間を割くわけにはいかないな。私は失礼するよ」
え?とんだ勘違いしてますよね?
別にカップルなんてことはないですから!
まぁ、悪い勘違いではないけど。
「分かった。またね、狭間っち!」
蘭華がそう言うと、先輩は早々とこの場を去った。
俺はそれを見届けた後に、蘭華に話を振る。
「あのさ、蘭華ってあの人とどんな関係なんだ?」
「狭間っちとの関係?んーとねぇ……」
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