銀狼転生記~助けた幼女と異世界放浪~

テケテケさん

050 ~ピアの直感~

 ピアの姿を見た二人の悪党(話を聞くところ王国からの調査団の一員)は目を大きく見開いて驚きをあらわにしている。
 一度収納した愛刀の〈銀喰〉とサハラの依り代〈呪刀・紫吹〉を喉元に再び突き付けるが、たいした反応は見せない。
 刀で脅されていることより、ピアを見た驚きの方が強いってことか…。

 「あんたらがさっきの話の中でピアを攫おうとしたことを素直に答えて、反省してるんなら国へ帰してやろうかと思ったが…やめだ」

 こいつらは自分達の印象が良くなるような部分だけをかいつまんで話していた。
 当然、そこにピアを…魔物を王国に持ち帰ろうとしていたなんて言葉は出てこなかった。
 …慈悲はかけねえ。

 「ここにいる少女─ピアに謝罪した後、外で殺してやる」
 「くっ…」
 「我々が魔物に…!」

 隻腕でスキンヘッドの男─ケビンが苦々しく唇を噛み、黒服を着た男─ワイドは抵抗の意思を言葉として吐き出す。
 二人とも、謝る気配はない。
 仕方ねえ。
 こうなったら、多少痛い目は見て貰うしかないみたいだな。
 そう考え、刃を少し喉元に食い込ませようとした…が、出来なかった。

 「…えっと、ピア?」

 扉の傍でビクビクしていたピアが、俺の腰に抱き付いていたからだ。
 そして、恐怖からだろう。
 目の端に涙を浮かべて微笑んだ。

 「オにーチャん。ヤッぱリころサナくテいイ、したクないナら”ごめンなさい”もイらなイ」
 「…いいのか?」
 「ウん♪ コのヒトタち、ホントはイいヒと。なントなくワカル」

 いい人…。
 俺は、もう一度男達の容姿を確認する。
 スキンヘッドの頭には軽く刺青が掘ってあり、印象もそれに引っ張られて厳ついケビン。
 異世界版忍者とでもいうような真っ黒の服を着込んで左目に傷があるワイド。
 偏見がだいぶ混ざるが…いい人、には見えねえ。
 ピアはたまに直感めいたことを言うが…。
 この子の持つスキルの効果とか…か?

 そういえばセドリックと稽古してた時、ピアの持つスキルの話になったっけ?
 確か…セドリックはこう言っていた。

 『あの子のユニークスキル【阿呆】の効果は僕にもわからない。いや、思考制限や言語・技術習得力の低下、力の制御能力の減衰…要するにあの子を文字通りアホにしてしまうデバフ効果はある。でも、僕はそれだけじゃないと思ってるんだ。なんていうか…あの子が時折する突拍子もない言動は、決まって良い方に転ぶんだ』

 セドリックはそう考察した考えを述べた後、「不確定だけどね」と笑っていた。
 だけど、もし本当に良い方向に転ぶのなら…賭けてみるか。

 俺は、悪党達を一睨みしてから突き付けていた刃を収納する。

 「…消えた!」
 「・・・」

 ワイドが喉に突き付けられていた刃が突然消えたことに驚いているのに対し、ケビンは俺の腰に抱き付いているピアを凝視していた。
 あいつ、まさかそういう趣味なのか……!?
 ……やっぱ斬るか。

 『いやいや、おにーさんじゃあるまいし…直ぐにそういう発想に持ってくのは良くないよ~?』

 うおっ…!!
 サハラ、てめえ…! 
 誰がロリコンだ!! 俺はちっせえのが好きなだけなの!!
 あ、好きって言ってもLIKEの方だからな?
 LOVEじゃねえからな?

 『…はいはい。今はそういう事にしとこうね~。…とまあ、ここからは真面目な話で…気付いたことがあるんだけど…』

 なんだ?
 珍しく念話使ってきたと思ったら…聞かれたくないことか?

 『うん。あの二人、思考誘導型の精神魔法がかかってる』

 なに!?
 つまり…どういうことだ?

 『その男達は、正気じゃないってことさ』
 『あ! ちょっと…! 私が言いたかったのに──』

 んなっ!?
 セドリック!?
 お前、ケビン達の正体知った瞬間殺そうとしたから下の階でビビアさんに説教されてる途中だろ!?
 というかこいつ、念話出来るのかよ!!

 『おい! 念話出来るなんて聞いてねえぞ! セドリック!!』
 『ん? 何言ってるんだい。念話が出来なかったら、ビビアとのコミュニケーションが大変じゃないか。彼女、最初の内は人間の言語なんてわからなかったんだよ?』

 そうか。
 魔物は基本、同族以外の言葉はわかんないんだっけか?
 俺やセドリックは転移者特典でたまたま言語翻訳系のスキルを持ってるしな。
 言葉の通じない魔物を口説こうと思ったら、念話は必須スキルなのか…。

 『それに、念話は夫婦の営みもサポートしてくれるんだよ? 愛娘を寝かせた後の夜の約束を念話で済ませたり、妻に念話で愛を囁いたり…その時の顔を赤くした彼女は可愛くて可愛くて──』

 …こいつ、念話でのろけ話始めやがった。
 現実で怒られて、脳内でのろけてんのか。
 ……説教聞く気ねえな。
 ビビアさん。
 あんたの旦那、全く懲りてないです。

 閑話休題それはそれとして

 俺は、意識を脳内から外側へと切り替える。

 こいつらが、正気じゃない…か。
 とてもそうには見えねえな。

 まあ、とりあえず…。
 鑑定っと。

*********************


名前 ケビン・フォスター (32)
種族 人間
装備 ミスリルの鎖 王国の紋章
状態 思考誘導

LV 59/60
HP 1080/3600
MP 608/2000

攻撃力:200
防御力:207
抵抗力:610
俊敏性:400
魔法力:60
 運 :144

:ユニークスキル:
 【無限鎖縛】

:パッシブスキル:
 【火耐性】【水耐性】【毒耐性】【闇耐性】
 【王国の加護】

:ノーマルスキル:
 【拳術Ⅲ】【鎖術★】【咆哮Ⅷ】
 【鼓舞Ⅱ】【能力強化Ⅲ】【捕縛Ⅳ】

:称号:
 〖Aランク冒険者〗〖鉄鎖〗〖鎖使い〗
 〖加護を受けし者〗
 〖王国の民〗〖妻子持ち〗

*********************
*********************


名前 ワイド・クラス(30)
種族 人間
装備 短剣(隠し武器) 王国の紋章
状態 思考誘導×思考制限

LV MAX/60
HP 930/2600
MP 608/3900

攻撃力:496
防御力:600
抵抗力:130
俊敏性:900
魔法力:300
 運 :40

:ユニークスキル:
 【糸ノ知識スリングノウリッジ

:パッシブスキル:
 【俊敏性up小】【水耐性】【毒耐性】
 【麻痺耐性】【光耐性】
 【王国の加護】

:ノーマルスキル:
 【斬糸Ⅲ】【縛糸★】【罠糸Ⅷ】【操糸★】
 【毒糸Ⅱ】【幻糸Ⅲ】【捕縛Ⅳ】【隠密Ⅲ】

:称号:
 〖Aランク冒険者〗〖暗殺者〗〖糸使い〗
 〖加護を受けし者〗
 〖王国の民〗〖任務遂行者〗

*********************

 ……こいつら、強え。
 いや、流石に俺のステータスとは比べるまでもないが、フィリのステータスよりは上だ。
 スキル構成から察するに、ケビンは鎖を使っての中距離からの攻撃or拳を使っての近接戦闘。
 ワイドは糸を使っての奇襲、または仲間のサポートってとこか?
 鎖に糸…。
 ピアを攫ったのはこいつらだ。
 間違いないな。
 ピアを拘束していたのは鎖だったし、ピアが掴まった原因は蜘蛛の巣─十中八九、ワイドの張った罠って聞いたしな。
 ま、これは既に確定事項。

 それよりも思考誘導に思考制限だが…。
 やっぱ洗脳されてんのか。
 はあ、本人の意思じゃないってなると下手に殺しても罪悪感残るだけだし…どうしたもんか…。

 「なあ、ちょっといいか?」

 「ん?」

 俺が洗脳問題に頭を抱えていると、今までピアを凝視していたケビンが声を発する。

 「あんた─ライフさんは…。そのハーピーの少女の家族なのか?」
 「ケビン!? 何を言ってる!! 魔物は自然発生する世界にとっての害悪だ。そこに家族なんて概念は無いと知っているだろう!?」

 この世界では、そういう認識なのか。
 それとも王国特有の考えなのか?
 どちらにせよ。
 それは間違いだ。
 俺が何気なく殺したゴブリンズやコボルトにだって独自のコミュニティ、家族愛や絆があるんだ。
 勝手な偏見で物事を判断しやがって、虫唾が走るぜ。

 それにしても、ケビンの質問。
 どう答えたもんかねぇ。
 赤の他人?
 ピアの前で言うのはちょっと…。
 ここまで一緒にいてそれはないだろう。
 ここは思い切って家族だと言い切るか?
 いや、もしピアに全力で否定されたら立ち直れんな。却下だ。
 そうだ。
 居候なんてどうだ?
 実際そんなもんだろう。
 これならピアはその意味を理解しにくいだろうし、ケビンの質問にもしっかり答えれる。
 よし、これで行こう──

 「オにーチゃんは、ピアのかぞク。パぱとママがいテ、フぃリちゃンがいテ、オにーチャンがいる。イッショノいえで、くらシてる。だから、かぞく」
 「……ピア」

 俺が返答に迷っている間にピアはケビンへとそう答えて、俺の顔を覗うように顔をあげる。
 はは…。
 ピアがそう言ってくれてるんだ。
 言葉の選択は最初から一つしか無かった訳か。
 俺は、ピアの髪を優しく撫でながら、ケビンの目を見て言った。

 「そうだ。俺とピアは家族だ」
 「そう…か」

 項垂れるケビン。
 そして、小さくそれでいて部屋に響く声音で言った。

 「俺にも…その子と同じくらいの娘がいる」

 「・・・」

 ケビンは独白を続ける。

 「もし、俺が自分の娘を攫われたら──そう思うだけで怒りがこみ上げてくる。…俺はなんて事を…!!」

 おもむろに立ち上がるケビン。
 左腕の痛みに顔を顰めながら、彼は頭を下げた。

 「ッ、お嬢ちゃん!! すまなかった!!」
 「ケビン殿!? 魔物に頭を下げるなど!」
 「・・・」

 頭を下げたまま微動だにしないケビン。
 そんなケビンにくってかかるワイド。
 突然の謝罪に固まるピア。

 それぞれ反応を見せる中、俺はケビンのステータスを見て心底驚いていた。

 サハラ…。

 『うん。私もビックリしてる』

 邪神から見ても驚くのか。
 まあ、それもそうか。

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 名前 ケビン・フォスター (32)
 種族 人間
 装備 ミスリルの鎖 王国の紋章
 状態 なし

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 こいつ、スキルに頼らずに自力で洗脳解除しやがった。

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