銀狼転生記~助けた幼女と異世界放浪~

テケテケさん

033 ~フィリの進化~

 夕刻

 クマサンの遺体は格納庫に安置した。
 地面へ埋葬してあげようかと思ったが、損傷が少なかったので、何かに利用できるかと判断して取っておく。
 悲惨な死を遂げたクマサンだったが、どうせなら隅々までしっかりと役に立てて上げたい。

 クマサン。ありがとな。

 さて、クマサンの犠牲によって、遂にフィリのレベルが最大になった。
 やっぱし、同格や格上を倒せば手に入る経験値も多いようだ。



 森を散策する時、大切なのは安全な場所を作ること。
 言わば拠点だ。
 これがあるのと無いのでは、体力や精神面で大きな差がでる。

 俺達はクマサンと戦ったこの湖畔を拠点にすることにした。
 周りに、魔除けの短剣を数本設置したので、魔獣対策はバッチリだ。

 飲め水は湖で、たき火はフィリの【風炎魔法】で付けた。

 寝床として適当な場所を掘ってそこに落ち葉をしく。
 これで即席のベッドの完成だ。

 現在、そのベッドにはフィリがペタリと座り込んでいる。

 「ロウ、始めるね?」

 『おう。ここで見てるからな』

 いよいよ進化の時だ。
 フィリの体が淡い光に包まれる。

 次の進化は、確かハイエルフだったか?
 ガーさんが言ってた気がする。
 他人の進化を見るのは初めてだ。
 何だか俺が緊張するな。

 その時だった。

 《条件の達成を確認。対象の進化を確認。 【神々の系譜】を発動。進化先を創造…。創造完了》

 ちょ! お前!!
 究極進化事件の時と一緒じゃねえか!
 どういうことだ!?

 まっ! 進化中止プリーーズ!!!


◆◆◆◆

 いつぞやの脳内アナウンスが止むと同時に、包まれていた光の中からフィリが姿を現す。

 まず、一番の変化は服装だった。
 纏っていたボロキレが一転。

 猫耳?(若干、狼の耳っぽい)フードの着いた黒いローブ、膝から下と、顔が露出するタイプで、激しい動きに対応出来るデザインになっている。
 機能性重視の服に見えるが、正直言って、メッチャ可愛い。

 次の変化。
 服がしっかりしたのもあるのだろうが、全体的に少し大人びたような気がする。
 まあ、進化前の体型が幼女丸出しだったので微々たる者だが、
 例えるなら、小2から小5への変化だ。
 ぺたんこだった胸も慎ましい程には膨らんでる気がする。
 うん。
 総じて、評価はメッチャ可愛い。

 黙ったまま、じろじろ見られるのが恥ずかしいのだろう。
 若干頬を紅潮させてフィリが言う。

 「どう?」

 もう一度言う、メッチャ可愛い。

 『お、おお! メッチャ可愛いぜ!』

 「ん…♪」

 茹でられたタコのように顔を染めるフィリ。

 やっぱ、女の子だな。
 服を誉められると嬉しいみたいだ。
 ガーさんにも見せてやりてえ。

 それにしても、この外見の変化。
 やっぱり、俺のスキルの影響だろうか。
 ちょっと怖えが、【鑑定】してみるか。


*****************************


名前 フィリーネ・エアロ  
種族 ヴァン・エルフ(固有種)
装備 銀狼の加護

LV 4/50 up
HP 633/633 up
MP 5369/5369 up


攻撃力:310 up
防御力:200 up
抵抗力:180 up
俊敏性:622 up
魔法力:6739 up
 運 :0

:ユニークスキル:
 【風の王Ⅲ】【風炎魔法Ⅱ】【夢霧】new

:パッシブスキル:
 【精神汚染無効】【風魔法系統耐性特大】【魔力感知】
 【風王の加護】【氷結無効】new【聴覚上昇大】new【銀紋】


:ノーマルスキル:
 【風魔法Ⅲ】new【弓術】【回復魔法Ⅱ】【短剣術】new
 【眠る★】【瞬足】new

:称号:
 〖風王の加護を受けし者〗〖眠り姫〗〖固有種〗
 〖乗り越えし者〗〖銀狼の加護を受けし者〗

****************************

 『…フィリ』

 「ん?」

 『ごめんな』

 「?」

 いや、ホントにすまん。
 まさか、俺の謎スキルが他人にも影響するなんて思わなかった。

 『えっと…。体の調子はどうだ? 気分が悪いとか、何か変な所はねえか?』

 しばしの間、自分の体の調子を確認するフィリ。

 「ん。問題ない。むしろ、調子が良い♪」

 『そうか。良かった』

 まあ、ステータスが軒並みアップしてるし、調子が良いのはそのお陰だろう。
 このステータス構成なら、さっきみたいに、フィリの行動一つ一つにハラハラする事も無い。
 後衛よりのステから、魔法重視の前衛型のステになってる。

 ん? 軒並みアップ?
 まて、よく見ると、運が下がって…!!
 まさか!!

〖銀狼の加護を受けし者〗:特典 【氷結無効】【銀紋】【精神汚染無効】運にマイナス補正。銀狼の加護を受けた証。

 『どうしたの? ロウ?』

 思わず地に伏した。

 ホンットすまん!!
 まさか、俺の加護がデバフ付きだなんて!
 自分で自分を呪いたい。

 フィリに、俺の加護の詳細を伝える。

 「そんなこと、気にしない。特典たくさん。それに、ロウを凄く近くに感じる。温かい。嬉しい」

 『フィリ…』

 確かに、加護を通してフィリと精神的な意味で深く繋がった感覚がある。
 目を閉じてもフィリの居場所が感じ取れる。
 これは便利だ。

 『そうだな。俺も嬉しいぜ』

 まあ、フィリもこう言ってるし、そこまで悲観する事じゃねえかもな。
 それに、特典盛り沢山だし。
 ポジティブに行こう!

 それにしても、特典の一つ【銀紋】が気になるな。
 調べてみるか。

 【銀紋】:銀狼の加護を受けた者に生じる証。
      魔力を流すことによって、身体強化も可能。
      成長する。〈収納〉可

 何だこりゃ?
 いや、使えるっちゃ使えるが説明がアバウト過ぎてよく分からん。
 成長する? フィリが? スキルが?
 条件もわかんねえしな。

 まあ、いいか。
 説明から、証がフィリの体に表れているはずだが……。
 見えねえな。

 『なあ、フィリ』

 「ん?」

 『ちょっと、脱いでみ?』

 「……!!」

 ん?
 どうしたんだ? 真っ赤になって?

 「……ロウの、エッチ…」

 ……あ!!
 や、そう言う意味じゃねえ!

 『や、やっぱ今のなし!! 俺は、【銀紋】がどんなんか見たいだけで、変な気持ちは「分かった」ない──は!?』

 「〈収納〉」

 服が収納されたことによって、フィリの裸体が露わになる。
 慌てて俺は両手で視界を隠す。
 …額に爪が刺さったが、気にしない。

 『ちょっ、フィリ。何して──』

 「ロウがやれって言った」

 いや、言ったけども…。

 「早く、見て。…恥ずかしい」

 くっ、そうだ。
 いくらフィリでも、裸体を晒すのが平気な筈が無い。
 それに、日が傾いてきた森は肌寒い。
 このままでは、フィリが風邪を引いてしまう!!

 男なら、覚悟を決めろ! 俺!!
 よし。

 一瞬!
 ちらっと見るだけだから!
 確認したらすぐに目を閉じる。

 はい! オッケ!
 行くぞ!!

 恐る恐る、片目を開いて、指の隙間からフィリを見る。

 まず目に入ったのは、顔を真っ赤にしているフィリの顔。
 もうすぐで湯気が出そうだ。
 やっぱ、可愛いよな…。
 はっ!!
 いかん、いかん。
 【銀紋】を探せ! 俺!
 ここから、視点を少しずつ下へずらしていく。

 きめ細やかな白い肌、マシュマロみたいだな──って違う!
 そっちじゃねえ!!

 慌てて視線を上に戻す。
 視線を下にずらしすぎた! 他意は無い。
 無いったら無い。

 ん? あれか?

 鎖骨の間に、【銀紋】らしき物を確認する。
 大きさは、子供の手のひら大ほど。
 正面から見た狼の顔を模した形をしており、名前の通り、鈍い銀色をしている。
 【銀紋】と見て間違いなさそうだ。

 よし! 確認終了!!

 『フィリ、もう良いぜ! 服を着てくれ』

 「ん…」

 【銀紋】が一瞬光ったかと思うと、そこから狼耳ローブが出てきて、あっという間にフィリが元通りの格好になった。
 このローブが、”銀狼の加護”なんだろうか?

 俺も、顔を覆ったいた手を下ろす。

 『「ふぅ」』

 お互いに、一息吐く。

 疲れた…。
 今回の進化で発言した他のフィリのスキルについては、後で考えよう。

 今日は寝よう! そうしよう!

 「じゃあ、次はロウの番」

 ん? 
 俺が、フィリの傍に行って寝転び、いざ寝ようとしたときだった。
 フィリが言った。

 『ん? 脱ぐ服なんかねえぞ? 俺』

 フィリの目のハイライトが消える。
 ちょ、そんな目で見るなよ。

 「違う。私、進化した。次、ロウがする番」

 え~。
 眠たい…。

 空はまだ少し明るいけど…。

 『きょ、今日はいいんじゃ──』

 「ダメ、一緒にするって言った」

 目に涙を溜めて、頬を膨らませるフィリ。 

 『…分かった。やるよ』

 目を閉じる。

 いつぞやの脳内アナウンスが聞こえる。

 《進化が可能です。 進化しますか? YES/NO》 

 YESで。

 《選択を確認。進化を開始します》

 俺は、フィリが見守る中、光に包まれていった。

「銀狼転生記~助けた幼女と異世界放浪~」を読んでいる人はこの作品も読んでいます

「ファンタジー」の人気作品

コメント

コメントを書く