銀狼転生記~助けた幼女と異世界放浪~

テケテケさん

020 ~俺、森を進みます~

 心地よい鳥のさえずり、周りを取り囲む深緑色の木々、所々に木漏れ日が落ちる薄暗い森。

 ────あ~、こういう森を求めてたんだよ

 今、俺はガーさんとフィリと供に、〈アヴァロンの実〉を求めてこの森の主の住処”南の森”を目指している。

 「ロウ、なんか気持ちよさそう」

 「だな。まあ確かに、西の森から来たんだ。あっちの森は生い茂った木でほとんど光が届かねえからな。そう思うのもしかたねえ」

 そう、実はエルフの里には二カ所の出入り口があり、1つは俺が里に入るときに使った西門、もう一つは今朝俺たちが里から出るのに使った東門だ。
 そして、ここ〈サハラの大森林〉はエルフの里を中心に東西南北に森が区分されており、俺たちが今いる東の森は、西の森と違って木々が茂り過ぎておらず、しっかりと空が拝めるのだ。
 で、ここで気になる事が1つ。

 『なんで、フィリは西の森に居たんだ?』

 俺の背中に搭乗しているフィリの体が”ビクッ”となる。
 通常、ぬしがいる南の森は、東門から出て、東の森経由でないと行けないらしい。
 それが、フィリは西の森でゴブリンズに襲われてた。
 と、考えられるのは……。

 「出る門……間違えた」

 蚊の泣くような声をポトリとこぼし、うつむくフィリ。

 まあ、俺には聞こえるんだけどな。

 「いいじゃねえか。フィリ、お前が門を間違えなかったらロウと会えなかったかもしれないぞ?」

 俺に並行して木々の間をくぐるように飛んでいるガーさんが的確なフォローを入れる。
 さすがだ。 ガーさん!

 『そうだぜ、フィリ。俺もお前に会えなかったら今頃、あの鬱蒼とした西の森を延々と彷徨さまよってたはずだ。ありがとな。フィリは俺を助けてくれたんだな』

 「……ん。私、偉い」

 うつむいてた顔を上げてドヤ顔をするフィリ。
 ふっ、チョロいな。
 所詮、子供。おだててやれば、途端に元気になる。


 そんなやり取りをし、森を進みがてら、俺は昨日のスフィアとの会話を思い出す。

 ────〖忌み子〗、か。

 森で、フィリのステータスを見たとき。
 その称号を目にしたときから、予感はしていた。
 ただ、それがどういう予感なのかはわからなかった。
 でも、それが昨日の話でそれが確信に変わった。

 ────俺たち兄妹とフィリは同類だった。

 生まれつき、髪の色が違う。
       目の色が違う。

 それだけで、周りから拒絶される存在。
 だから、フィリに同情した。
 してしまった。
 それが、その同情がなによりもつらいことを、同類の俺が誰よりもわかっていた筈なのに。

 スフィアの話を聞いたとき、自分に同情の芽が出たとき自分に酷く腹が立った。
 あの時の殺意は、里の連中だけに対するものじゃない、俺自身への自己嫌悪も含まれていた。

 ”同情”ほどたちの悪い感情はないと思う。
 嫌悪や忌避、畏怖等は、こちらにマイナスな悪感情しか抱いていないため、突っぱねる、無視する、といった行動が取れる。
 だが、同情は違う、半ばこちらのことをを考えてから抱くため、そこには純粋な悪感情はなく、哀れみ、悲哀、期待、励ましなんかの感情がそんなかには好意さえ混ざり合う。
 だから、こちらも気を使う。好意を無下にする事は出来ない。 
 そうして、同情されることがつらくなっていく

 違う、そうじゃない。
 同情なんていらない。

 俺達は一人の、普通の人としてみられたいんだ。

 俺には、ババアや天哉、柊、愛菜といった理解者がいた。
 だから救われた。

 でも、フィリにはいない。
 あのガーさんやスフィアでさえ、フィリを”かわいそうな子”としてみている。
 里の連中は論外。
 だから、俺がなる。
 フィリの、唯一の理解者に。

 そして、フィリを救う。
 そのためには……。

 「ロウ、元気ない?」

 俺がしばらく黙ったままだったからか、心配したフィリが俺の顔をのぞき込んできた。

 『うおっ! いや、大丈夫だ! よし、スピードあげるから掴まれ!!』

 「ん──キャッ!?」

 そうして、時々出て来る魔獣どもを、分身βやガーさんが滅しながら、南の森を目指して駆けた。



 ◆◆◆◆             



 日が暮れて、辺りが暗くなったころ、俺達は南の森の入り口にたどり着いた。

 「よし、なんとか日没には間に合ったか。夜の森は危険だ。今日はここらで野宿するぞ」

 「ん、わかった」

 『おう!』

 ガーさんの提案を受け、俺達は野宿を開始する。

 周りの木へ、退魔属性を付与した短剣を数本、【空間魔法】で取り出して、突き刺す。

 これで、魔獣はここによってこれない。
 安全なキャンプ場の完成だ。
 一瞬、ガーさんが大丈夫か気になったが、視ても平気そうだったので大丈夫何だろう。(少し退魔の効果を疑う)
 続けて、格納庫から今朝、里でスフィアからもらった干し肉を取り出す。
 と、早速フィリがかぶりついた。
 余程、腹が減ってたみたいだ。

 「にしても、【空間魔法】って便利だな。攻撃にも持ち運びにも使えるなんてよ。反則だろ」

 木の上から周囲を警戒していたガーさんが降りてきて言う。
 道中にガーさんとフィリと1部のスキル内容は交換しあった。
 連携が大事になるかもしれねえしな。

 『まあな、でもそれをいったら、ガーさんの【重力魔法】も大概だと思うぜ?』

 ユニークスキル【重力魔法】は、指定場所の重力を自由に弄る事が出来る。
 重力を大きくする【重圧グラビティ】と重力の塊そのものを打ち出す【重力球グラビティボール】等が使える。
 特に、【重圧】は強弱や範囲設定が自由で、相手の周りの重力を小さくして、行動の阻害をしたり、広範囲を押しつぶす事も出来る。

 「まあ、伊達に魔王軍幹部なんてやってなかったからな。腕っぷしも強くねえとなめられちまう」

 ガーさんは【体術】も強かった。体を部分的に【石化】【硬化】させて、近づいてきた魔獣を片っ端から一発KOしていた。

 「ロウ、私も頑張った。誉めて」

 そこで、食事を食べ終わったフィアが、トレードマークのアホ毛をフリフリしながら擦り寄ってくる。
 表情に出にくい感情がアホ毛に表れているようで、ちょっと面白ろいな。

 『おう、フィリも凄かったぞ?ドカーンってな』

 言いながら、頭を肉球付の前足で撫で撫でしてやる。

 フィリのユニークスキル【風炎魔法】も凄かった。威力が大きすぎて、細かな攻撃はしにくいみたいだが、空中の蜂の魔獣の群れを、〈風爆〉という、風の爆発で一網打尽にしていた。また、〈風刃ウインドカッター〉という風の刃を飛ばす技や、〈竜巻ストーム〉という広範囲技で森ごとなぎ払ってた。(恐ろしい子)

 ──パチパチッ

 火の粉がはじける音と共に、周囲が少し明るくなる。

 「やっとついたぜ。久しぶりだったから手間どっちまった」

 どうやらガーさんが火をおこしてくれたらしい。
 ガーさん特製のたき火を取り囲むようにして、俺達は地面に座る。

 「さて、明日も早いし、しっかり寝ろよー」

 と言って、ガーさんはいびきを立て始める。
 寝るのハヤッ!?
 そのうちガーさんも称号に〖眠り姫〗ってつかねーだろな!?
 そんなガーさん俺は認めん。

 だが、ガーさんが早く寝てくれたのは俺にとって好都合だ。
 俺は、道中に考えていた事を実行するべく、フィリへ声をかける。

 『なあ、フィリ。大事な話がある』
 

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