銀狼転生記~助けた幼女と異世界放浪~
019 ~月夜の告白~
俺のいる部屋にはベッドがふたつあり、その内の一つにスフィアが、もう一つに俺が座って向かい合う。
そして、スフィアが口を開いた。
「私が2階に上がって来た事に気づいてたみたいですね?」
『あ、ああ。まあな』
嘘だ。
【魔力感知】で誰かが上がってきたのは判ったが、それがスフィアだとは思わなかった。
てっきり、ガーさんかと思ってた。
「……」
『……』
しばしの沈黙。
やべえ。 気まずい。
こういう時ってどんな話題がいいんだ!?
てか、何しに来たこの人!?
「夜這い、しに来ちゃいました♥」
『えっ!?』
「冗談ですよ?」
『わ、わかってるさ』
わかってる。
ああ、わかってるとも。
ホントだよ? これっぽちも期待してなんかないんだからね!
『で、何しに来たんだ?』
俺が尋ねると、
「ロウさん、フィリからこの里のことを聞きましたか?」
質問に質問で返された。
まあ、この話をしに来たんだろう。
『いや、何も聞いてない』
思案顔になるスフィア。
そして、
「わかりました。では、私の方からこの里とフィリのことについて話しましょう」
やはり里とフィリには関係があったか。
『いいのか? 俺はよそ者だぞ?』
「いいのです。それに、フィリが〈アヴァロンの実〉を探していることにも関係する話です。あなたは知っておくべきでしょう」
うーん、フィリには”しられたくない”って言われてるしな~。
でも、この話は確実に重要性の高い内容。
知っておいて損はないだろう。
いざというときは黙ってればいいしな。
『わかった。聞くよ』
「では、まず始めに。そうですね……ロウさんは魔王バアルについてどれほど知っておられますか?」
『そいつは、確か……〈暴食〉の魔王の名前だったか?』
サハラの話のなかで聞いたことがある。
「はい、その通りです。〈暴食〉の魔王バアル、彼がこの里の惨状を作り出した張本人です」
まじか、魔王絡みの案件だったか。
こりゃ、一筋縄ではいかねぇかもな。
「まあ、正確に言えば、彼の部下がこの里に”呪い”をかけたんですけどね」
”呪い”ときたか。
まあ、里がこんな状態なのはわかった。
『でも、その呪いとフィリに何の関係があるんだ?』
今の話だけだと里の連中がフィリを憎む理由がわからない。
「そうですね。この話だけ聞くとそうです。ですが、この話には続きがあります。その内容が、あの子がロウさんに話すのを躊躇った理由だと思います」
そこからの話をまとめるとこうだった。
フィリは、その類い稀なる魔力の才によって、まだ幼いにもか関わらず”里の巫女”の役職についていた。
”里の巫女”は土地に祈りを捧げ、舞を納める事によって里に恵みを与えられると考えられ、作られた役職らしい。
だが、まだ幼いフィリは舞や祈りを度々サボっていたのだという。
そんな時に起きたのが、さっきの話だ。
『つまり、里にかかった”呪い”をフィリのせいにされたってことか?』
「その通りです」
なんてこった。
完全に里の連中の勘違いじゃねえか!
『なんで、魔王バアルの仕業だって教えてないんだ?』
「教えましたが、誰も信じてくれないのです。私があの子を庇っていると思われているのでしょう」
ああ、家族を守るための嘘だと思われてんのか。
「それに、里の人達がフィリにいい印象を持っていなかったのも原因だと思います」
『ん? その前にもなんかあったのか?』
俺の質問に、スフィアはいいずらそうに顔をふせ、口を開く。
「あの子の目、紫色の目を持つ者はエルフの間で〖忌み子〗と呼ばれます」
『っ!!』
ステータスの称号にあった……。
「そして、里の古い慣習には〖忌み子〗とその親は、処分しなければいけません。それによって、〖忌み子〗───フィリを生んだ、私達の親は里の方々によって、殺されました」
『フィリは、なんで……殺されなかったんだ?』
胸くそ悪い。
胸の内から黒っぽいなにかが沸き上がってくる。
熱い、ホントは聞きたくねぇ。
その答えに、予想がついているから。
もし俺の予想通りなら里の連中、いや、奴らは──────
「慣習に従えばそうなるはずでした。ですが、里の方々はあの子の膨大な魔力に目を付けました。そして、その魔力を里の為に使わせる為、巫女の役職を与えたんです」
────クズだ。
「そして、巫女になったあの子の制御をさせるため、私が長の地位に──ひっ!」
『……』
「ロ、ロウさん?」
はっ!!
『す、すまねえ。あまり酷い話だったんで、つい!』
思わず殺気立っちまったか。
でも、仕方がない。
あいつとフィリはあまりにも、
『似てるな……』
「はい?」
首をかしげるスフィア。
『実は、俺にも妹がいてな』
「妹さんですか?」
『そう、その妹が生まれた時、目が血みたいに真っ赤な赤だった』
「っ!! それは!?」
『ああ、フィリみたいにな。で、捨てられた。その目を気味悪がった実の親にな』
まあ、俺も捨てられた身だが、今は言わなくてもいいだろう。
要は、俺も真も、そしてフィリも体の一部の色が違うだけで、周りから拒絶された者同士ってことだ。
「それは、災難でしたね」
『そうだな』
────コンコン
今日、二回目の扉を叩く音。
誰だ?
「長様、そろそろお時間です」
女の人の声だ。
「ああ、内の使用人です。──もう少しまってください」
「かしこまりました」
使用人か、やっぱお世話付なのかな。
そんなことを考えていると、スフィアがこちらへ向き直って口を開く。
「ロウさん、話は変わりますが、この里の”呪い”を解くためには〈アヴァロンの実〉が必要です」
お、なんで実を探しているかって話か。
『ちょっと待て、”実”って言うからには食べないと効力を発揮しないじゃないか? 土地の呪いをとくのは───』
「はい、その通りです。ですが、私のユニークスキル【恩恵術】あれば別です。これがあれば、この土地に〈アヴァロンの実〉の恩恵だけを与えることが出来ます」
へー、そんなスキルもあんのか。
「ですので、なるべく早く──そうですね。できれば2日以内に身を取ってきてください」
2日以内か、距離によるが、俺のスピードなら余裕だろう。
『わかった』
俺の返答を聞いたスフィアは、ベッドから静かに立ち上がった。
ニッコリと笑みを浮かべる。
「良い返事ありがとうございます。では、私はこれで」
『ああ』
そして、扉の方まで歩いて行き、そのまま出て行くのかと思ったら、こちらを振り向いて言った。
「最後に1つ。どうか、フィリのことをよろしくお願いします。ロウさん」
やっぱ心配か。
そりゃな、あんなちっちゃい子に遠出させるんだ。
そうならない方がおかしい。
『おう、任せろ!!』
今、俺の出来る精一杯の明るい返事をした。
それを聞いてスフィアは、軽く微笑みを返すと、部屋の外に出て行った。
それを見届け、俺は窓から空を見上げる。
月は──隠れちまったか。 あれやってみたかったんだけどな。
まあ、明日は早いし寝るか。
狼らしく、月へ向かって吠えるのは諦め、ベッドでうつ伏せになる。
欠伸をしてから、眠りについた──────────────
そして、スフィアが口を開いた。
「私が2階に上がって来た事に気づいてたみたいですね?」
『あ、ああ。まあな』
嘘だ。
【魔力感知】で誰かが上がってきたのは判ったが、それがスフィアだとは思わなかった。
てっきり、ガーさんかと思ってた。
「……」
『……』
しばしの沈黙。
やべえ。 気まずい。
こういう時ってどんな話題がいいんだ!?
てか、何しに来たこの人!?
「夜這い、しに来ちゃいました♥」
『えっ!?』
「冗談ですよ?」
『わ、わかってるさ』
わかってる。
ああ、わかってるとも。
ホントだよ? これっぽちも期待してなんかないんだからね!
『で、何しに来たんだ?』
俺が尋ねると、
「ロウさん、フィリからこの里のことを聞きましたか?」
質問に質問で返された。
まあ、この話をしに来たんだろう。
『いや、何も聞いてない』
思案顔になるスフィア。
そして、
「わかりました。では、私の方からこの里とフィリのことについて話しましょう」
やはり里とフィリには関係があったか。
『いいのか? 俺はよそ者だぞ?』
「いいのです。それに、フィリが〈アヴァロンの実〉を探していることにも関係する話です。あなたは知っておくべきでしょう」
うーん、フィリには”しられたくない”って言われてるしな~。
でも、この話は確実に重要性の高い内容。
知っておいて損はないだろう。
いざというときは黙ってればいいしな。
『わかった。聞くよ』
「では、まず始めに。そうですね……ロウさんは魔王バアルについてどれほど知っておられますか?」
『そいつは、確か……〈暴食〉の魔王の名前だったか?』
サハラの話のなかで聞いたことがある。
「はい、その通りです。〈暴食〉の魔王バアル、彼がこの里の惨状を作り出した張本人です」
まじか、魔王絡みの案件だったか。
こりゃ、一筋縄ではいかねぇかもな。
「まあ、正確に言えば、彼の部下がこの里に”呪い”をかけたんですけどね」
”呪い”ときたか。
まあ、里がこんな状態なのはわかった。
『でも、その呪いとフィリに何の関係があるんだ?』
今の話だけだと里の連中がフィリを憎む理由がわからない。
「そうですね。この話だけ聞くとそうです。ですが、この話には続きがあります。その内容が、あの子がロウさんに話すのを躊躇った理由だと思います」
そこからの話をまとめるとこうだった。
フィリは、その類い稀なる魔力の才によって、まだ幼いにもか関わらず”里の巫女”の役職についていた。
”里の巫女”は土地に祈りを捧げ、舞を納める事によって里に恵みを与えられると考えられ、作られた役職らしい。
だが、まだ幼いフィリは舞や祈りを度々サボっていたのだという。
そんな時に起きたのが、さっきの話だ。
『つまり、里にかかった”呪い”をフィリのせいにされたってことか?』
「その通りです」
なんてこった。
完全に里の連中の勘違いじゃねえか!
『なんで、魔王バアルの仕業だって教えてないんだ?』
「教えましたが、誰も信じてくれないのです。私があの子を庇っていると思われているのでしょう」
ああ、家族を守るための嘘だと思われてんのか。
「それに、里の人達がフィリにいい印象を持っていなかったのも原因だと思います」
『ん? その前にもなんかあったのか?』
俺の質問に、スフィアはいいずらそうに顔をふせ、口を開く。
「あの子の目、紫色の目を持つ者はエルフの間で〖忌み子〗と呼ばれます」
『っ!!』
ステータスの称号にあった……。
「そして、里の古い慣習には〖忌み子〗とその親は、処分しなければいけません。それによって、〖忌み子〗───フィリを生んだ、私達の親は里の方々によって、殺されました」
『フィリは、なんで……殺されなかったんだ?』
胸くそ悪い。
胸の内から黒っぽいなにかが沸き上がってくる。
熱い、ホントは聞きたくねぇ。
その答えに、予想がついているから。
もし俺の予想通りなら里の連中、いや、奴らは──────
「慣習に従えばそうなるはずでした。ですが、里の方々はあの子の膨大な魔力に目を付けました。そして、その魔力を里の為に使わせる為、巫女の役職を与えたんです」
────クズだ。
「そして、巫女になったあの子の制御をさせるため、私が長の地位に──ひっ!」
『……』
「ロ、ロウさん?」
はっ!!
『す、すまねえ。あまり酷い話だったんで、つい!』
思わず殺気立っちまったか。
でも、仕方がない。
あいつとフィリはあまりにも、
『似てるな……』
「はい?」
首をかしげるスフィア。
『実は、俺にも妹がいてな』
「妹さんですか?」
『そう、その妹が生まれた時、目が血みたいに真っ赤な赤だった』
「っ!! それは!?」
『ああ、フィリみたいにな。で、捨てられた。その目を気味悪がった実の親にな』
まあ、俺も捨てられた身だが、今は言わなくてもいいだろう。
要は、俺も真も、そしてフィリも体の一部の色が違うだけで、周りから拒絶された者同士ってことだ。
「それは、災難でしたね」
『そうだな』
────コンコン
今日、二回目の扉を叩く音。
誰だ?
「長様、そろそろお時間です」
女の人の声だ。
「ああ、内の使用人です。──もう少しまってください」
「かしこまりました」
使用人か、やっぱお世話付なのかな。
そんなことを考えていると、スフィアがこちらへ向き直って口を開く。
「ロウさん、話は変わりますが、この里の”呪い”を解くためには〈アヴァロンの実〉が必要です」
お、なんで実を探しているかって話か。
『ちょっと待て、”実”って言うからには食べないと効力を発揮しないじゃないか? 土地の呪いをとくのは───』
「はい、その通りです。ですが、私のユニークスキル【恩恵術】あれば別です。これがあれば、この土地に〈アヴァロンの実〉の恩恵だけを与えることが出来ます」
へー、そんなスキルもあんのか。
「ですので、なるべく早く──そうですね。できれば2日以内に身を取ってきてください」
2日以内か、距離によるが、俺のスピードなら余裕だろう。
『わかった』
俺の返答を聞いたスフィアは、ベッドから静かに立ち上がった。
ニッコリと笑みを浮かべる。
「良い返事ありがとうございます。では、私はこれで」
『ああ』
そして、扉の方まで歩いて行き、そのまま出て行くのかと思ったら、こちらを振り向いて言った。
「最後に1つ。どうか、フィリのことをよろしくお願いします。ロウさん」
やっぱ心配か。
そりゃな、あんなちっちゃい子に遠出させるんだ。
そうならない方がおかしい。
『おう、任せろ!!』
今、俺の出来る精一杯の明るい返事をした。
それを聞いてスフィアは、軽く微笑みを返すと、部屋の外に出て行った。
それを見届け、俺は窓から空を見上げる。
月は──隠れちまったか。 あれやってみたかったんだけどな。
まあ、明日は早いし寝るか。
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