壊れた世界と魔法使い
紗綾
組織からいくらか歩いた先にある町まで目指す途中で事故現場にも寄って行くと、すでに警察らなどで現場検証をしている所だった。
聞き耳を立てみると、黒猫のケットシーが放った魔法で炎上したらしい車はすでに鎮火され、身元不明の焼死体が一人出ていることが分かった。
なんてことはよくある話で。そんな日常に身をおいて早数か月も経つと、何でもないことのように感じてしまう。慣れって恐ろしい。けれど、無関係でもいられないというのもまた恐ろしいことで。
いずれ巡り巡って私たちの元へと降りかかってくることもあるかもしれないから。
野次馬さながらに遠目から様子を見続けていると、突然にケットシーが鳴き声を漏らしながら一歩、また一歩とゆっくりした足取りで現場へと向かっていく――ほんの数時間前に変えられた運命の場所へと。
それを紗綾ちゃんが抱きかかえて引き止め、現実から目を逸らせようとする。
「辛い思いは一度で十分」
そうかもしれない。けれど、時には受け止めないといけないこともあるんじゃないかと思う。でもあえて黙っておく。それが、紗綾ちゃんなりの優しさみたいなものというか、生き方みたいなものなんだと思って。
「心さえなければ、こんな思いはしなくて済むのに」
いつもの無表情で無感動な言葉。だからその意図は掴めない。
「それでもあった方がよくない?」
「なんで?」
「え、いやそれは、まあ。なんとなく? その方が面白いし」
フワフワとした答えになりきっていない、私なりの精一杯の答え。
「意味不明」
「だよね。私もそう思ってる」
苦笑いでさっきの適当なやり取りを誤魔化そうとしながら、来た道をちょっと戻って本来の目的地となる町の方へと歩いていく。
「でもさ、さっきの言い方ってなんかロボットみたいだったもん」
「ロボットはつまらない?」
「……どっちかというと。本人的にはどうなのかは分からないけど、他人から見たらまあ、つまらないかな。だって、変化がないし」
それまで隣に一緒に歩いていた紗綾ちゃんがふと立ち止まり、つられて私も足が止まる。振り向くと、うつむいている紗綾ちゃんが視界に入る。何か、勘にさわることでも言ってしまったのかなと思わず不安になる。
「そうじゃなきゃ、ダメなの?」
「駄目とは言わないけど、色々な一面がある方がいいじゃん。だからさ、もうちょっとだけ紗綾ちゃんの違う一面が見てみたいなあ……なんて。――ダメ?」
暗くなりそうな雰囲気を吹き飛ばそうと茶化した感じで口にする。
怒るでも良いし、笑うでも良いし。今までとは違うリアクションを期待してみてみる。
「そんなのない」
期待は泡となり、いつも通りなものだった。だけど。
「私はもう、あんな気持ちを抱えたくない」
悲しさ、淋しさ。そんな感情が籠ってそうな――そんな風に私には聞こえた。
「この感じ――流れが変わった……」
「うん? どうしたの――?」
聞くよりもなお早く、それは感覚が受け取った。
どこか、ここよりもそう遠くない場所から感じる強大な魔力を――。
聞き耳を立てみると、黒猫のケットシーが放った魔法で炎上したらしい車はすでに鎮火され、身元不明の焼死体が一人出ていることが分かった。
なんてことはよくある話で。そんな日常に身をおいて早数か月も経つと、何でもないことのように感じてしまう。慣れって恐ろしい。けれど、無関係でもいられないというのもまた恐ろしいことで。
いずれ巡り巡って私たちの元へと降りかかってくることもあるかもしれないから。
野次馬さながらに遠目から様子を見続けていると、突然にケットシーが鳴き声を漏らしながら一歩、また一歩とゆっくりした足取りで現場へと向かっていく――ほんの数時間前に変えられた運命の場所へと。
それを紗綾ちゃんが抱きかかえて引き止め、現実から目を逸らせようとする。
「辛い思いは一度で十分」
そうかもしれない。けれど、時には受け止めないといけないこともあるんじゃないかと思う。でもあえて黙っておく。それが、紗綾ちゃんなりの優しさみたいなものというか、生き方みたいなものなんだと思って。
「心さえなければ、こんな思いはしなくて済むのに」
いつもの無表情で無感動な言葉。だからその意図は掴めない。
「それでもあった方がよくない?」
「なんで?」
「え、いやそれは、まあ。なんとなく? その方が面白いし」
フワフワとした答えになりきっていない、私なりの精一杯の答え。
「意味不明」
「だよね。私もそう思ってる」
苦笑いでさっきの適当なやり取りを誤魔化そうとしながら、来た道をちょっと戻って本来の目的地となる町の方へと歩いていく。
「でもさ、さっきの言い方ってなんかロボットみたいだったもん」
「ロボットはつまらない?」
「……どっちかというと。本人的にはどうなのかは分からないけど、他人から見たらまあ、つまらないかな。だって、変化がないし」
それまで隣に一緒に歩いていた紗綾ちゃんがふと立ち止まり、つられて私も足が止まる。振り向くと、うつむいている紗綾ちゃんが視界に入る。何か、勘にさわることでも言ってしまったのかなと思わず不安になる。
「そうじゃなきゃ、ダメなの?」
「駄目とは言わないけど、色々な一面がある方がいいじゃん。だからさ、もうちょっとだけ紗綾ちゃんの違う一面が見てみたいなあ……なんて。――ダメ?」
暗くなりそうな雰囲気を吹き飛ばそうと茶化した感じで口にする。
怒るでも良いし、笑うでも良いし。今までとは違うリアクションを期待してみてみる。
「そんなのない」
期待は泡となり、いつも通りなものだった。だけど。
「私はもう、あんな気持ちを抱えたくない」
悲しさ、淋しさ。そんな感情が籠ってそうな――そんな風に私には聞こえた。
「この感じ――流れが変わった……」
「うん? どうしたの――?」
聞くよりもなお早く、それは感覚が受け取った。
どこか、ここよりもそう遠くない場所から感じる強大な魔力を――。
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