壊れた世界と魔法使い

シロ紅葉

怪しげな魔法使い

 彩葉たちが去った後。
「彼女らが天童纏と友人関係にあると分かっていて、わざわざ煽るような真似をするとは、相変わらずいい趣味をしている」
「ほめ言葉と受け取っておきましょう」
「気分を害したのならば、済まなかった」
 変わらない表情をしていたが、言葉からは皮肉さを受け取った珀亜は冷笑と共に吐いた。
「相変わらず律儀ですね。そのようなことは気にはしませんよ」
 涼し気に返す久遠。険悪な様子は見られない。水が氷を作るように、氷が水を作るように。冷めた様相の二人には相性が良さげだ。これぐらいのやり取りは手馴れているようですらある。
「ただ、彼女たちには改革の時を迎え得る可能性を感じましたので、そこに期待をさせて頂きました」
「しかし、あの調子ではそこまで上り詰めるとは思えないが、……あなたならば、当然それを見越しての算段をしているということか」
 薄く研ぎ澄まされた瞳が、女性を見抜く。まるで心を切り裂いて心中を覗いてきたかの様子で。
 女性は物ともせずに、答えた。
「天童守人、御影蘭、穂高緋真、雨宮彩羽、楪茜、天童纏、近衛覇人。この者たちが辿ると思われる展開を、わたくしはおおよそは予測しています」
「――どこまで先を読んでいるのかは知らないが、あまり考えすぎない方がいいのでは」
 翳る顔つきからいい方向へと進んでいくとは思えなかった。なぐさめのつもりで男は優し気な口調で言った。
「今回の戦闘はすべての者にとっての試練となります。それがどのような結末となろうとも、責任はわたくしがとるつもりでいます」
「たとえ好ましくない結果であったとしても、それぞれの過程による失態なのだから、あなたが負い目を感じる必要はないとはずなんのだが……どうやら聞き入れてはくれないようだ」
 分かってはいたことだが、主のように慕っている久遠が毎度毎度、自分がすべてを背負い込もうとする姿だけは痛ましいものがあった。
「それで――俺たちは次にどう行動を起こすつもりだ」
「そうですね――ここまでやってこられたのは、数々の犠牲者を出した上で成り立っています。そのことを踏まえて、わたくしたちは次の段階の調整に入るべきでしょう」
「そうか。ついに動き始めるのだな」
 珀亜は楽しみに待っていた物がようやく手に入る。それに近い感傷に耽った。
「――古代の遺産は崩壊し、新時代の荒波で飲み込むことは可能となりました。
 よって、わたくしたちは次の世代に向けて、過去と向き合いにいきましょう」
 強い決意を感じさせる凄みがある。
「……例のアレを見せる用意はすでに出来ている」
「早速、見せてもらいしょうか。古代の技術とその歴史を――」
 青空の下、二人の魔法使いは歩を進めた。

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