君を救う、僕の歩む道
2話 試験
『それでは間もなく卒業試験を開始する。対象の生徒は中央闘技場へと来るように』
学内に設置されている魔道具からケイトン先生の声が響く。
身体を暖めるつもりが不安から結構本気で打ち込みを続けてしまって、うっすらと汗までかいてしまっている。正直ちょっと疲れた。僕の馬鹿。
上着だけ交換して武闘場から闘技場へと移動する。
何名か、僕と同じように身体を動かしに来た友人たちに混じって歩いていると、聞き慣れた声で話しかけられる。
「おっ! カロルー! 何だよ予習してたのか?
真面目だなーお前は!」
がっしりと肩を掴まれる。
僕はいつものようにカイトとがっちり握手して親指同士を突き合わせるお決まりの挨拶をする。
「お前はいいよなー、こんなテストに不安にならないで……」
「あったりまえだろ、こんなテスト出てきた敵をバコーンってやっつければ終わりじゃねーか!」
「あのなぁ、そんなこと言えるのはお前ぐらいだよ……。
投影魔法で作る土人形はほとんど自分と同じ強さなの、僕みたいな普通の人間は苦労して工夫して倒すんだよ!」
「へー、大変だな。俺はいつも通りぶった斬る!
今日も変わんないさ」
こいつはほんとにそれをやれるから凄い。
父親譲りのガッシリとした肉体。両手剣に近い剣を片手で軽々と操る膂力。
相手の攻撃を見切る眼力。それらを活かした戦いを支える脚力。
本当に近接攻撃をするために生まれてきたみたいな男だ。
188センチ90キロ。研ぎ澄まされた筋肉美、真っ赤に燃えるような髪、鋭い眼光、男でも見惚れるほどのイケメンだ。
これで惚れているのがクラリスという公然の秘密がなければ女の子が放っておかないだろう。
しかも戦い方も言葉遣いとは違って華麗。
僕も参考にしている。
敵の攻撃を冷静に見極めて強烈な一撃を放ち、確実な安全域を取っていく。
ただの力馬鹿ならDランクなんて言われていない。
実習でも全員を率いて各自の実力をきっちり見極めた冷静かつ合理的な指示。
まぁ、なんていうか。完璧なんだよなこいつは。
「あっカイト! それにカルロ、どう身体はほぐれた?」
魔道場との合流する通路でクラリスが合流する。
バレバレだが、カイトを角で待っていたのが見えていた。
「おおクラリス! 偶然だな!」
この鈍感王は気が付かないけどね。
「クラリスも予習かー? ホントふたりとも真面目だなー」
「か、カイトは不安とか無いのー?」
「無い」
「即答かよ……クラリス、こいつには聞くだけ無駄だと思うよー」
「やっぱりすごいなーカイトは……」
クラリスがカイトを見上げる顔は完全に惚れた女の顔になっている。
これで気が付かないんだからカイトには人間としての欠陥があるとしか思えない。
超人的な肉体と能力と引き換えに恋愛に関するセンサーを奪われたんだろう……
「クラリスなんてあんな人形に苦労しないだろ? 何が不安なんだ?」
カイトの言う通り、近接の天才はカイト、魔術の天才がクラリスだ。
彼女の両親は母親が教会の司教、父親が魔術師、共に冒険者としても有名で、父親であるケイネルさんはBランクではあるものの、奥さんが好きすぎてあまり危険な冒険に出ないだけで、本当はAランクの実力があると言われている。
その奥さんであるマーサさんは死者蘇生を操るAクラス、ただし冒険者ではなく教会の人間としてのランクになる。教会は冒険者のサポートをする集団で、その能力によって同じようなクラス分けがされている。
死者蘇生とは、魂のオーブに死後、魂を回収できた場合にのみ可能な魔法で、肉体の損性が激しくなければ生き返ることが可能となっている。
危険な依頼には魂のオーブを忘れずに。これが冒険者の合言葉だ。
万が一魂のオーブを持たずに死亡した場合、もしくは肉体に著しい損傷を受けて死亡した場合。
スキルやアーツをすべて失って、肉体もかなりペナルティを受けて転生を受けなければならない。
転生をした冒険者は、ほぼ100%冒険者としての再起は不可能になる。
それでも、生きていれば通常の生活ぐらいまでは取り戻せることもある。
何にせよ、そういった事態を引き起こさないように行動するのが冒険者の立ち回りってやつだ。
「さーて、がんばりますかー!」
いろいろとテスト対策なんかも思い出しながら歩いていたら闘技場についていた。
カイトとクラリスは楽しそうに話していたし、僕はこれでいいんだ。
「さて、それでは本日見事に卒業試験に挑む、10名の冒険者の卵達よ。
今日は見事な戦いを見せて、自身の冒険者としての門出を華やかにすることを祈っている」
真っ白な髭が見事なピッケル学長の言葉を聞き、目の前の試験に僕の緊張も高まってくる。
微妙な疲労感もカイトやクラリスと話していたら、いつの間にかいなくなっていた。
「各自、自身の武器を取れ!
自らの証を魔石へと問うが良い!」
誕生の石。略してストーンと呼ばれる。
この世界に生まれた人間は、生まれてすぐに教会から誕生の石を与えられる。
選定のクリスタルが一人一人に石を産み出す。
そして、その石を腕輪に嵌めて一生、共に成長していく。
そして、この石を持っていることが冒険者としての最低条件だ。
転生はこの石を頼りにクリスタルで行うために、殆どの転生者は石を持たずに転生する。
そのために冒険者に戻ることは出来ない。
極々稀には石を持って転生する人もいるらしいが、ほぼ可能性は0らしい。
そして、この石からは自分自身に適した武器を引き出せる。
それが自身を映す武器だ。
僕は自分の石から武器を引き出す。
武器の生成には魔力を使用する。魔力が強ければより強い武器をより長く運用できる。
ただ、武器に使用する魔力は石が決めるので、極端に強大な武器を作れたりはしない。
全て石が導くのだ。
右の手に光が集まり、見慣れた僕の武器が現れる。
左の手も同様だ。2対のトンファー。それが僕の武器だ。
攻撃にも防御にも優れていて、個人的には大当たりだと思っている。
普通の僕がもしかしたらEランクに上がれるかもしれない大きな理由はこの武器だと思っている。
「今日もお願いね、相棒」
僕は相棒に軽く挨拶をする。これも習慣だ。
「よっしゃー! いくぞー!」
隣で見事な大剣を構えたカイトが叫ぶ。
全てを薙ぎ払う巨大な大剣。
伝説の勇者ラティエの再来と言われるミラーウェポン。
その奥にはクラリスが、2つの球体をフワフワと浮遊させて、戦闘に挑もうとしている。
あの球体はクラリスの意のままに操られ、様々な魔法を放つ。
物理的に殴りつけられてもかなりの破壊力がある。
模擬戦では何も出来ずにボコボコにされたこともある。
誰も見たことがない初めての武器らしく、その応用力、戦闘力は王都からも見学者が来たほどだ。
「それでははじめ!!」
よそ見をしている場合じゃない。
ケーキを切ったように分断された闘技場で、僕は目の前の敵と退治する。
土人形。僕と同じトンファーを構えている。
魔法の一つで魔法陣内にいる対象者の能力と同等のゴーレムを作り出す。
闘技場にはそのための魔法陣が敷かれている。
先生たちがゴーレムを作り出している。
このゴーレムを倒すことが卒業試験の最後の実技課題となる。
「しゃぁ!」
すでに勝利の雄叫びを上げた規格外な親友のことを気にしている余裕はない。
ゴーレムは真っ直ぐに僕の方に飛び込んでくる。
「セイッ! ヤッ!」
飛び込みの一撃をトンファーで受けて、逆の手で脇腹に打ちつける。
脇腹の土がボロっと崩れて、ゾワゾワと再生していく。
正直ゴーレムはあまり強くはない。
戦い方は真っ直ぐだし、キチンと受けて今のように反撃していれば勝てる。
僕の武器の良いところは燃費がいいことだ。
剣のような刃物系の武器は比較的消費が多く、打撃系武器は消費が少ない傾向だ。
魔法系武器は逆に周囲の魔力を取り込めたりする。
僕自身もあまり攻撃が得意ではない。攻撃を確実に受けて隙を見つけてカウンターを取るのが好きだ。
最初の頃は一生懸命攻撃していた時期もあったけど、どうしても手傷が多くなって、防御に優れたトンファーの特製と合わせて今のスタイルに落ち着いている。
決め手に欠けるし、派手さは皆無だ。
それでもカイトなんかは僕の戦い方を褒めてくれたりする。
「フンッ!」
ゴーレムの単調な攻撃にも慣れてきたのでこちらから仕掛けていく。
もちろん相手も同じ武器、防御にも優れているからカウンターには十分気をつける。
もう一点、僕とゴーレムの大きな違いも利用する。
「土よ、敵を穿て!」
ゴーレムが僕の攻撃を受け止めるのに合わせて、魔法を放つ。
両手を防御に使っているゴーレムに深々と土の槍が貫いた。
「今だ!」
深々と刺さった槍が崩れると、大きくゴーレムの大勢が崩れた。
僕は渾身の一撃をゴーレムの頭部に叩きつけると、どろりと形態が崩れて土塊に変化する。
「それまで! カロルシアン=マイスティ、勝利!」
「ふーーーー……」
緊張から解き放たれ、僕はため息をつく。
なかなかいい戦いだった。今までの試験でも一番うまくいったと思う。
そう、僕とゴーレムの違いは魔法を使えるかだ。
魔法使いと呼ばれる杖や魔導系武器を呼び出した場合はゴーレムも魔法を使って来る。
僕の武器はトンファー、打撃武器だ。ゴーレムも打撃武器としてしか行動できない。
けど、左のトンファーには魔石があってすごく初歩の魔法なら使えるのだ。
そのお陰で持続力も長い。
本当に僕にはもったいないぐらいいい武器と出会えた。
その後、座学の試験も終えて今日の試験は終了となる。
座学も読みがバッチリでかなり出来た。
僕にとっては会心の出来の卒業試験となった。
「いやー、座学も読みが当たったよ!」
「別にひねりもなく単純な問題だったけどな」
そう、こいつは座学も完璧なんだよな。
今は、クラリス、カイトそれに僕で昼食を食堂で取っている。
まわりでも盛んに試験の出来について話し合われている。
午後の休憩が終わって夕方には試験の結果発表が行われる。
それまでの僅かな心の休息というわけだ。
「まぁ、カロルもゴーレム倒したし、しかも無傷だろ。落ちるわけはないでしょ」
「だと良いんだけど、あとはクラス、何かの間違いでEに引っかからないかなぁ……」
「魔法と打撃で華麗に倒したって聞いたよ! 評価高いんじゃないかなぁ~!」
「カロルの戦いはいつも堅実で突破力はないが、堅実な戦闘で信頼できる。
俺はお前はDでも良いと思ってるけどな……お前が上がってくるの待つのはダリィなぁ……」
「いやいやいや、Dは無理だよ!」
「じゃぁ絶対Eにはなれよ! クラスは一つ差ならパーティ組めるんだからよ!」
カイトは何故か不機嫌そうになってしまった。
「ふ、二人はパーティ組むんだー。そしたら私も一緒に入れてもらおうかな~」
わかりやすくチラチラとカイトを見ているが……
「ま、結果が出てからだな。あーあ、喰ったら眠くなった。仮眠室で寝てるー結果出たら起こしてー」
ひらひらと手を振りながら食堂を出ていってしまった。
あのバカ、クラリスが物凄くわかりやすく落ち込んじゃったじゃないか……
「クラリスとカイトは二人揃ってDクラスになるだろうからきっと凄いパーティになるよ!
ルーキーの期待の星だからね二人は!」
「そ、そうよね。私も頑張るね、ありがとうカロル」
クラリスも立ち上がり食堂を後にする、仲の良い女子の友達が言えたのーとか言いながら集まってくる。やっぱりクラリスは人気者だ。
「カロルー、お前はほんと、あんな天才に囲まれて大変だなー」
同じクラスのベックが声をかけてくれた。
凡人仲間、友達の一人だ。
槍のミラーウェポンで、結構やる。
ただ、食いしん坊でふくよかな身体のせいでやや機敏性にかける。
でも、すごい良いやつだ。
「ベックはどうだった?」
「まぁまぁ……かな、俺たちはこんなもんだよな」
「そうそう、それなりに合格できれば、僕はもうそれでいいや……」
それから結果が出るまでダラダラと食堂で友人たちと会話をして過ごした。
学内に設置されている魔道具からケイトン先生の声が響く。
身体を暖めるつもりが不安から結構本気で打ち込みを続けてしまって、うっすらと汗までかいてしまっている。正直ちょっと疲れた。僕の馬鹿。
上着だけ交換して武闘場から闘技場へと移動する。
何名か、僕と同じように身体を動かしに来た友人たちに混じって歩いていると、聞き慣れた声で話しかけられる。
「おっ! カロルー! 何だよ予習してたのか?
真面目だなーお前は!」
がっしりと肩を掴まれる。
僕はいつものようにカイトとがっちり握手して親指同士を突き合わせるお決まりの挨拶をする。
「お前はいいよなー、こんなテストに不安にならないで……」
「あったりまえだろ、こんなテスト出てきた敵をバコーンってやっつければ終わりじゃねーか!」
「あのなぁ、そんなこと言えるのはお前ぐらいだよ……。
投影魔法で作る土人形はほとんど自分と同じ強さなの、僕みたいな普通の人間は苦労して工夫して倒すんだよ!」
「へー、大変だな。俺はいつも通りぶった斬る!
今日も変わんないさ」
こいつはほんとにそれをやれるから凄い。
父親譲りのガッシリとした肉体。両手剣に近い剣を片手で軽々と操る膂力。
相手の攻撃を見切る眼力。それらを活かした戦いを支える脚力。
本当に近接攻撃をするために生まれてきたみたいな男だ。
188センチ90キロ。研ぎ澄まされた筋肉美、真っ赤に燃えるような髪、鋭い眼光、男でも見惚れるほどのイケメンだ。
これで惚れているのがクラリスという公然の秘密がなければ女の子が放っておかないだろう。
しかも戦い方も言葉遣いとは違って華麗。
僕も参考にしている。
敵の攻撃を冷静に見極めて強烈な一撃を放ち、確実な安全域を取っていく。
ただの力馬鹿ならDランクなんて言われていない。
実習でも全員を率いて各自の実力をきっちり見極めた冷静かつ合理的な指示。
まぁ、なんていうか。完璧なんだよなこいつは。
「あっカイト! それにカルロ、どう身体はほぐれた?」
魔道場との合流する通路でクラリスが合流する。
バレバレだが、カイトを角で待っていたのが見えていた。
「おおクラリス! 偶然だな!」
この鈍感王は気が付かないけどね。
「クラリスも予習かー? ホントふたりとも真面目だなー」
「か、カイトは不安とか無いのー?」
「無い」
「即答かよ……クラリス、こいつには聞くだけ無駄だと思うよー」
「やっぱりすごいなーカイトは……」
クラリスがカイトを見上げる顔は完全に惚れた女の顔になっている。
これで気が付かないんだからカイトには人間としての欠陥があるとしか思えない。
超人的な肉体と能力と引き換えに恋愛に関するセンサーを奪われたんだろう……
「クラリスなんてあんな人形に苦労しないだろ? 何が不安なんだ?」
カイトの言う通り、近接の天才はカイト、魔術の天才がクラリスだ。
彼女の両親は母親が教会の司教、父親が魔術師、共に冒険者としても有名で、父親であるケイネルさんはBランクではあるものの、奥さんが好きすぎてあまり危険な冒険に出ないだけで、本当はAランクの実力があると言われている。
その奥さんであるマーサさんは死者蘇生を操るAクラス、ただし冒険者ではなく教会の人間としてのランクになる。教会は冒険者のサポートをする集団で、その能力によって同じようなクラス分けがされている。
死者蘇生とは、魂のオーブに死後、魂を回収できた場合にのみ可能な魔法で、肉体の損性が激しくなければ生き返ることが可能となっている。
危険な依頼には魂のオーブを忘れずに。これが冒険者の合言葉だ。
万が一魂のオーブを持たずに死亡した場合、もしくは肉体に著しい損傷を受けて死亡した場合。
スキルやアーツをすべて失って、肉体もかなりペナルティを受けて転生を受けなければならない。
転生をした冒険者は、ほぼ100%冒険者としての再起は不可能になる。
それでも、生きていれば通常の生活ぐらいまでは取り戻せることもある。
何にせよ、そういった事態を引き起こさないように行動するのが冒険者の立ち回りってやつだ。
「さーて、がんばりますかー!」
いろいろとテスト対策なんかも思い出しながら歩いていたら闘技場についていた。
カイトとクラリスは楽しそうに話していたし、僕はこれでいいんだ。
「さて、それでは本日見事に卒業試験に挑む、10名の冒険者の卵達よ。
今日は見事な戦いを見せて、自身の冒険者としての門出を華やかにすることを祈っている」
真っ白な髭が見事なピッケル学長の言葉を聞き、目の前の試験に僕の緊張も高まってくる。
微妙な疲労感もカイトやクラリスと話していたら、いつの間にかいなくなっていた。
「各自、自身の武器を取れ!
自らの証を魔石へと問うが良い!」
誕生の石。略してストーンと呼ばれる。
この世界に生まれた人間は、生まれてすぐに教会から誕生の石を与えられる。
選定のクリスタルが一人一人に石を産み出す。
そして、その石を腕輪に嵌めて一生、共に成長していく。
そして、この石を持っていることが冒険者としての最低条件だ。
転生はこの石を頼りにクリスタルで行うために、殆どの転生者は石を持たずに転生する。
そのために冒険者に戻ることは出来ない。
極々稀には石を持って転生する人もいるらしいが、ほぼ可能性は0らしい。
そして、この石からは自分自身に適した武器を引き出せる。
それが自身を映す武器だ。
僕は自分の石から武器を引き出す。
武器の生成には魔力を使用する。魔力が強ければより強い武器をより長く運用できる。
ただ、武器に使用する魔力は石が決めるので、極端に強大な武器を作れたりはしない。
全て石が導くのだ。
右の手に光が集まり、見慣れた僕の武器が現れる。
左の手も同様だ。2対のトンファー。それが僕の武器だ。
攻撃にも防御にも優れていて、個人的には大当たりだと思っている。
普通の僕がもしかしたらEランクに上がれるかもしれない大きな理由はこの武器だと思っている。
「今日もお願いね、相棒」
僕は相棒に軽く挨拶をする。これも習慣だ。
「よっしゃー! いくぞー!」
隣で見事な大剣を構えたカイトが叫ぶ。
全てを薙ぎ払う巨大な大剣。
伝説の勇者ラティエの再来と言われるミラーウェポン。
その奥にはクラリスが、2つの球体をフワフワと浮遊させて、戦闘に挑もうとしている。
あの球体はクラリスの意のままに操られ、様々な魔法を放つ。
物理的に殴りつけられてもかなりの破壊力がある。
模擬戦では何も出来ずにボコボコにされたこともある。
誰も見たことがない初めての武器らしく、その応用力、戦闘力は王都からも見学者が来たほどだ。
「それでははじめ!!」
よそ見をしている場合じゃない。
ケーキを切ったように分断された闘技場で、僕は目の前の敵と退治する。
土人形。僕と同じトンファーを構えている。
魔法の一つで魔法陣内にいる対象者の能力と同等のゴーレムを作り出す。
闘技場にはそのための魔法陣が敷かれている。
先生たちがゴーレムを作り出している。
このゴーレムを倒すことが卒業試験の最後の実技課題となる。
「しゃぁ!」
すでに勝利の雄叫びを上げた規格外な親友のことを気にしている余裕はない。
ゴーレムは真っ直ぐに僕の方に飛び込んでくる。
「セイッ! ヤッ!」
飛び込みの一撃をトンファーで受けて、逆の手で脇腹に打ちつける。
脇腹の土がボロっと崩れて、ゾワゾワと再生していく。
正直ゴーレムはあまり強くはない。
戦い方は真っ直ぐだし、キチンと受けて今のように反撃していれば勝てる。
僕の武器の良いところは燃費がいいことだ。
剣のような刃物系の武器は比較的消費が多く、打撃系武器は消費が少ない傾向だ。
魔法系武器は逆に周囲の魔力を取り込めたりする。
僕自身もあまり攻撃が得意ではない。攻撃を確実に受けて隙を見つけてカウンターを取るのが好きだ。
最初の頃は一生懸命攻撃していた時期もあったけど、どうしても手傷が多くなって、防御に優れたトンファーの特製と合わせて今のスタイルに落ち着いている。
決め手に欠けるし、派手さは皆無だ。
それでもカイトなんかは僕の戦い方を褒めてくれたりする。
「フンッ!」
ゴーレムの単調な攻撃にも慣れてきたのでこちらから仕掛けていく。
もちろん相手も同じ武器、防御にも優れているからカウンターには十分気をつける。
もう一点、僕とゴーレムの大きな違いも利用する。
「土よ、敵を穿て!」
ゴーレムが僕の攻撃を受け止めるのに合わせて、魔法を放つ。
両手を防御に使っているゴーレムに深々と土の槍が貫いた。
「今だ!」
深々と刺さった槍が崩れると、大きくゴーレムの大勢が崩れた。
僕は渾身の一撃をゴーレムの頭部に叩きつけると、どろりと形態が崩れて土塊に変化する。
「それまで! カロルシアン=マイスティ、勝利!」
「ふーーーー……」
緊張から解き放たれ、僕はため息をつく。
なかなかいい戦いだった。今までの試験でも一番うまくいったと思う。
そう、僕とゴーレムの違いは魔法を使えるかだ。
魔法使いと呼ばれる杖や魔導系武器を呼び出した場合はゴーレムも魔法を使って来る。
僕の武器はトンファー、打撃武器だ。ゴーレムも打撃武器としてしか行動できない。
けど、左のトンファーには魔石があってすごく初歩の魔法なら使えるのだ。
そのお陰で持続力も長い。
本当に僕にはもったいないぐらいいい武器と出会えた。
その後、座学の試験も終えて今日の試験は終了となる。
座学も読みがバッチリでかなり出来た。
僕にとっては会心の出来の卒業試験となった。
「いやー、座学も読みが当たったよ!」
「別にひねりもなく単純な問題だったけどな」
そう、こいつは座学も完璧なんだよな。
今は、クラリス、カイトそれに僕で昼食を食堂で取っている。
まわりでも盛んに試験の出来について話し合われている。
午後の休憩が終わって夕方には試験の結果発表が行われる。
それまでの僅かな心の休息というわけだ。
「まぁ、カロルもゴーレム倒したし、しかも無傷だろ。落ちるわけはないでしょ」
「だと良いんだけど、あとはクラス、何かの間違いでEに引っかからないかなぁ……」
「魔法と打撃で華麗に倒したって聞いたよ! 評価高いんじゃないかなぁ~!」
「カロルの戦いはいつも堅実で突破力はないが、堅実な戦闘で信頼できる。
俺はお前はDでも良いと思ってるけどな……お前が上がってくるの待つのはダリィなぁ……」
「いやいやいや、Dは無理だよ!」
「じゃぁ絶対Eにはなれよ! クラスは一つ差ならパーティ組めるんだからよ!」
カイトは何故か不機嫌そうになってしまった。
「ふ、二人はパーティ組むんだー。そしたら私も一緒に入れてもらおうかな~」
わかりやすくチラチラとカイトを見ているが……
「ま、結果が出てからだな。あーあ、喰ったら眠くなった。仮眠室で寝てるー結果出たら起こしてー」
ひらひらと手を振りながら食堂を出ていってしまった。
あのバカ、クラリスが物凄くわかりやすく落ち込んじゃったじゃないか……
「クラリスとカイトは二人揃ってDクラスになるだろうからきっと凄いパーティになるよ!
ルーキーの期待の星だからね二人は!」
「そ、そうよね。私も頑張るね、ありがとうカロル」
クラリスも立ち上がり食堂を後にする、仲の良い女子の友達が言えたのーとか言いながら集まってくる。やっぱりクラリスは人気者だ。
「カロルー、お前はほんと、あんな天才に囲まれて大変だなー」
同じクラスのベックが声をかけてくれた。
凡人仲間、友達の一人だ。
槍のミラーウェポンで、結構やる。
ただ、食いしん坊でふくよかな身体のせいでやや機敏性にかける。
でも、すごい良いやつだ。
「ベックはどうだった?」
「まぁまぁ……かな、俺たちはこんなもんだよな」
「そうそう、それなりに合格できれば、僕はもうそれでいいや……」
それから結果が出るまでダラダラと食堂で友人たちと会話をして過ごした。
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