君を救う、僕の歩む道

穴の空いた靴下

5話 旅立ちの日

「カロル、カロル! いい加減に起きなさい!」

 僕はいつの間にか家に帰って寝ていたようだ。
 しかも、母親に起こされて気がついたが、もう昼過ぎだった。

「え、もうこんな時間?」

「そーよ、いつまでも寝てないの。
 ところで、試験はどうだった!?」

「そうだそうだ、試験の結果は? Eには届いたか?」

 隣の部屋から父親が顔を出してくる。
 冒険帰りで少し疲れ気味だが、ひょうひょうとしてお調子者の愛すべき父親の顔だ。

「うん! お陰様でEクラスに滑り込めたよ!」

 ぐっとサムズアップと笑顔で両親に試験結果を報告する。

「まぁ! おめでとうカロル! 今日はお祝いしなくちゃね!」

「凄いなカロル! お父さんたちよりも順風満帆なスタートじゃないか!」

 ニコニコと自分のことのように喜んでくれた。
 ……たぶん、自分のことよりも嬉しいんだろうな……良かった……

「お隣のカイト君はどうだったのー?」

「ああ、アイツはもちろんDランクだよ」

「おお、それは凄い! さすがベルトの息子だ!」

 ランクは上だが父親はカイトの父であるベルトさんと仲がいい。
 よく飲みすぎて母親とセンナさんに怒られている。

「それにしても……よし! 今日は飲むぞ! お前も付き合えカロル!」

 うんざりはしたけど、こんなに喜んでいる父親を無碍に出来るほど僕は冷たい男ではない。
 ベロンベロンになった父親を母と介抱している時に、もっと冷たく生きるべきかもと僕は思わずにはいられなかった……二日続いて酔っぱらいの相手は流石に腹に据えかねる……


 そんなこんなで、卒業後色々あったわけだけど、あっという間にカイトとクラリスとのパーティの初依頼をこなす日になった。

「おはようカロル」

「おはようクラリス、早いね!」

「なんか緊張しちゃって……でもカロルも早いね」

「僕も一緒だよ、緊張しちゃって昨日もなかなか寝付けなくてさ……」

「そんなことじゃダンジョン制覇は夢のまた夢だぜカロル!」

 ガバッと背後から肩を掴まれた。

「おはようカイト、珍しいな時間前に来るなんて」

「い、いや。やっぱり最初っから遅刻はまずいと思ってな」

「ふーん。カイトでも緊張するのな」

「ち、ちがっ!」

「お、おはようカイト君。今日からよろしくね」

「おうクラリス! クラリスの魔法には期待してるからよろしくな!」

「う、うん!」

 クラリスもカイトに褒められて嬉しそうだ。

「依頼はどれにするのカイト?」

「……最初はEランクの依頼にしようと思う」

「いいのか? 僕に合わせてくれるのは嬉しいけど、二人にはポイント少ないよ?」

「ま、緊張してるってのは本当だから、まずはそれを解かないとな。
 三人でのパーティもじっくりと戦略を練らないと」

 こういうところで虚栄を貼らずに冷静に判断ができるのがカイトの凄いところだ。
 ただの脳筋イケイケの馬鹿じゃない。
 クラリスも目がハートになってカイトを見ている。
 なんでこれでカイトが気が付かないのか不思議だ。

「と、言うわけで最初はレーモの実の納入クエストを受けようと思う。
 森に入るから多少の戦闘はあると思うし、なにより俺はレーモが好きだ」

「ははっ、そうだねそうしよう」

「わ、私もレーモパイ好き……こ、今度作ってこようか?」

「お、いいな! よろしく!」

 やったぁ! って喜んでいるクラリスはとてもかわいい。羨ましいぞカイト!

 クエストを受注して早速森へと向かう。
 レーモの実は森の比較的浅いところに群生している果実で、少し酸っぱいが爽やかな風味と栄養満点で色んな料理に重宝される。
 栽培もされているけど、過酷な自然化で自生している天然モノは価値が高い。
 村から少し離れた森に自生していて、獣や魔物も出るけど初級冒険者のいい小遣い稼ぎになるクエストだ。

 短いクエストだとは思うけど準備は万全に整える。
 僕とカイトは背負うタイプの荷籠、クラリスは麻袋に道具を整えた。
 道具一つで冒険の成否は変わってくる。
 クエストに合わせて適切な道具をしっかりと準備する。
 冒険者としていちばん大事なことだ。

「よし、それじゃぁ出発しよう!」

 カイトの号令で、僕達の初めての冒険が始まる。

「おっ! ルーキー頑張れよ!」

「無理すんなよ!」

 ギルド内にいる先輩冒険者たちが温かく送り出してくれる。

「あと、親父! ついてくんなよ!」

 隅っこでコソコソと動いていた冒険者集団にカイトが指差して声をあげる。
 ああ、僕の親父もクラリスの父親もいた……まったく……

 なんだかんだあったが、村から森までは特に何のトラブルもなく数時間で到着する。

「ここからはクラリスの索敵魔法を定期的に使っていこう。
 浅い場所でも油断しないように、いつでも対応できるようにね」

「はい!」

 クラリスは嬉しくてしょうがないみたいだ。
 索敵魔法は周囲の害意を持つ者を探る魔法で、周囲に魔力による網を張るようなイメージだ。
 持続展開は結構きついんだけど、クラリスは難なく成し遂げる。

「範囲は絞ってムリしないでね」

「ありがとうカロル、気をつけるわ」

 鬱蒼と茂る木々の間に、過去の冒険者が何度も通って踏み固められた道が出来ている。
 僕達もその道を利用して森の中へと侵入していく。

「カイト、あそこ」

 僕は木々の間にレーモの実を見つける。

「ほんとにカロルは探し物してるとすぐに見つけるよな……」

 珍しいものを見るような目でカイトに見られる。たしかに僕は昔から探しものをすぐに見つける、なんていうか不思議な能力がある。

「収穫できそうなのは3個だね、あと17個頑張ろう」

「おうよ」

 さらに森の中を進んでいく。

「皆、静かに……」

 クラリスが鋭い声をあげる。

「右前に魔物、小型で二足歩行」

「コブリンか……」

 小声と手話で打ち合わせをしていく。
 敵は少数、このままスルーして後でさらに多くの敵と遭遇するのもまずい。
 リーモの実はあと6個。

「やろう。敵は2匹なんだよな?」

「うん。今はあちらの方向、こっちに気がついていないわ」

「全員武器を出して準備、準備完了次第一気に片を着ける」

 カイトは普段の大きな両手剣ではなく小型の片手剣にミラーウェポンを調整する。
 これ、難しいんだけどサラッとやってのけるカイト。
 僕もトンファーを作り出す。
 クラリスの準備も完成した。

「3,2,1,GO!」

 カイトと同時に走り出す。
 ガサガサと木々や草木が揺れて音を出す。
 すぐに二匹の魔物が目に入る。
 カイトの言った通りゴブリン、小さな角をもつガリガリに痩せたような子供みたいな見た目。
 肌は茶色、地肌はもう少し肌色っぽいらしいけど、だいたい土汚れなどでそんな色をしている。
 白目の少ない黒目がちな瞳が少し不気味だ。
 簡単な木の棒とかで武装していることもあるが、基本的には知能が低く、力も弱い。
 ただ、数が多いと結構厄介だ。
 不潔な爪で引っかかれたり、汚い牙で思わぬダメージを受けることもある。

 急な来襲に混乱している二匹のゴブリン、左にはカイトが向かっている。
 僕は右だ。
 突然の草木の音に焦ってキョロキョロしているコブリンに飛びかかり、思いっきりトンファーを打ちつける。
 ベキリという嫌な感覚が腕に伝わる。
 感触は悪くない、着地して振り返ると片目から流血して痛みに悶えるゴブリンが倒れている。
 トドメを刺そうと踏み出すと、小さな氷塊が苦しんでいたゴブリンの胸を打ち抜きその動きを止める。

「ありがとうクラリス」

「ううん。ご苦労様です。カイトもお疲れ」

「ふぅ……ゴブリンは何度も倒したけど、結構緊張するもんだな」

 慣れた手つきで胸から魔石を剥がし取る。
 魔石を外された魔物はサラサラと灰に変わっていく。
 僕も同じように魔石を手に入れる。

「ボーナスだな」

 にやりと笑顔を向けてくる。
 こういった魔石はギルドに買い取ってもらえる。

 このパーティでの初めての戦闘は、完全な勝利で終えられた。










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