TRICOLORE総務部ヒロインズ!〜もしも明日、会社が消滅するとしたら?!~
3-0 個人情報エマージェンシー?!
***
都会の蒼空を横切るような夜桜が揺れた。鷺原はふ、と笑うと、伸びすぎて枝が下がっている櫻に手を伸ばして見せた。
「雪乃さん、変わったね」
春風に流されないように、髪を押さえる。鷺原ははっきりと告げた。
「会社と、俺、どっちを信用するのかな」
言葉に出せないでいると、鷺原は笑顔を見せた。驚いている雪乃に、「追い詰められた人間はいつでも笑えるようになる」と告げ、夜桜を離れた――。
***
以下PMS個人情報保護及びピーマーク審査スケジュール――。
○1月 申請書類準備開始。
○2月 KIIS《一般財団法人関西情報センター》から受け付け開始の案内。更新満了半年前。
○今月5月――
「さあ、行くわよ、鈴子」と海空がぎゅっと髪を縛り、鈴子も「りょ!」と今日も元気に鈴子流の返事をする。胸にはいつもの社員証だけでなく「PMS委員」のタグ。
お花見接待も終わった翌週。さっそく鈴子のPMS大作戦が始まった。朝から容赦がない海空はまずは「PMS審査マニュアル」を鈴子に叩き込んだ。
PMS――(パーソナル・インフォメーション・プロテクション・マネジメント・システムの略)つまりはプライバシーマーク。
これは、総務の仕事の中でも、一番長期に渉っての二年毎ごとの個人情報審査である。
どこの会社も、「総務」を中心に審査代表を捻り出し、個人情報が滞りなく流れ、廃棄に結びついているかを確認する。KIIS《一般財団法人関西情報センター》の審査を受け、個人情報保護ルートに問題がなければ「Pマーク」の取得継続。無事に審査が通ればPマークロゴを更新して終了。会社規模の資格取りのようなもの。
「全部署のルート確認を総務がやるの」
「全部ですかぁっ!」思わず素っ頓狂な声を出し、対面の雪乃の笑いを買った。
「そうよ、ここで確認しておかないと、Pマーク継続出来ないのよ。これが出来ないと、信用取引にも関わって来るでしょ。目で見る信用の形ね」
黄色のマーカーが引かれたマニュアルを手にして、鈴子はじーっと紙面に視線を落とす。全部署21。それぞれが個人情報をどう扱っているかを明確にして、マークを取得するらしい。
(こりゃ、大変かも……きっかけどころじゃないわ)
「あんたには、5月の資料作り、6月のプライバシーマーク付与適格性審査申請書をKIISに提出するまでをやって貰うわ」
2ヶ月のお仕事らしい。(そ、それならなんとか)と鈴子は胸を撫で下ろした。何しろマニュアルには「現地審査」と書いてある。あれこれ聞かれると、余計なことまで喋りそうで恐い。
「課長、人事部と営業部を回ってきますっ!」
「おー」とは今日もフットワーク軽そうな尾城林が笑顔を見せた。「いってらっしゃい」と挨拶はくれるが、どうやら夜桜以降、落ち込んでいるらしい雪乃が気になったが、今の鈴子には雪乃を気にする余裕はない。
『おまえ、PMSやれ。プライバシーマークだよ』
尾城林の一言から、鈴子の波乱が幕を開けたところである。
「いい? 先月までの準備は滞りなく進めてるから、あとは人事部に《PM101_個人情報保護方針》、《PM301_適用法令管理表》、各部署の《個人情報一覧表・個人情報フローチャート、リスク対策一覧表の最新版》を揃えなきゃならないの。これが年々各部署ともひっかかって、第二審査に落ちるから、毅然とね」
海空はお気に入りらしい青いファイルを開きながら、コツコツと廊下を歩き、エレベーター前でメモを取りつつ歩いている鈴子に微笑んだ。
「無理無理、順番に覚えて。まずは、人事部に適用法令管理表をお願いしてあるから、受け取りにいくわよ」
佐東主任のファイルが格好良く見える。
(あたしも帰りに買って帰ろう)と決めて、鈴子は大きく頷いた。
「個人情報保護法に基づいて始まった仕組みなのよ。特に顧客データの流出よね。特にウチは厳しいからねえ」
何もかもが高度な気がするが、新入社員のフレッシュさと、大好きな課長に言われたらやるしかない。
鈴子はにっこり笑って敬礼した。
「りょ!」
「――忙しい時は短くていいわね。それ」
***
エレベーターが来て、海空と鈴子は一緒に乗り込む。すー、と上がるエレベーターのようには仕事は行かないだろう。エレベーターが偉く見えて来た。
「総務ってイロイロやるんですね」
「雑用の宝庫よ。営業も新入社員中心のフレッシュチームで組んでるから、やりやすいと思うけど。いい、鈴子、約束して」
海空は心配そうに強く告げた。
「失敗したら、すぐに知らせる。隠さない。自己申告すること。虫歯と一緒よ。酷くなった後に言われたら、大変でしょ。必ず主任のわたしに報告すること」
PMSのタグにうきうきしながら、鈴子は頷いていたが、お腹ではべ、と舌を出した。
――失敗するはず、ないじゃん。
鈴子はいつも成績が良かったし、大学も短大を優秀成績で卒業して、難関の羽山に入社できた。父なしで育ててくれた母への恩返しも済ませて、兄を出し抜き、いつだって朗らかに生きて来た。
大学のサークルでは中心だったし、ムードメーカーには慣れている。
「はい」
「鈴子、そっちは経理部。人事部に書類を貰って来て。あたしは外にいるから」
(え……? ひとりで?)
不安を判りきっている顔で、海空は冷たく言い放った。
「あんたが任された事でしょ。ちゃんと一人で行けるでしょ? 峰山知ってるよね」
――知ってる。よく雪乃の彼氏さんと密談しているくっさいおっさんだ。
「行って来ます」
  そういえば、知り合いに聞いたが、鈴子が尾城林を追いかけている間、何やら海空が啖呵を切ったとか。その結果が、雪乃の指に輝いている指輪だろう。
「あたし、見たかったなあ、主任の啖呵」
鈴子は唇を尖らせた。海空は呆れて「はよいけ」とばかりに入口に置き去りにした。時折あのヒト、酷い。
「こんにちは~……」ぶつぶつ言いながらも顔を出すと、人事部の女子社員がにっこりと笑ってくれた。峰山は不在の様子。
「ぴ。PMSの書類をお預かりに来たんですが」
「あ、ちょっと待ってね。ねーえ、個人情報ファイルどこぉ? 総務部のリンゴちゃんが来てるんだけどぉ!」
年配の女性係長が黄色のファイルを引き出してくれた。《PM101_個人情報保護方針》、《PM301_適用法令管理表》、各部署の《個人情報一覧表・個人情報フローチャート、リスク対策一覧表の最新版》の書類を見つけて、ファイルをお借りして終了。
「あの佐東にこき使われて、大変ねえ」と頭を撫でられて、ぺこっと頭を下げた。
「ご苦労」とこき使い佐東海空は書類を確認して、営業部へ誘導する。何故か待たず、ズカズカと入り込んで、「ちょうどいいヤツがいる」とターゲットにされたは佐々木。先日ゴルフ保険で迷惑を掛けた営業である。
  机の端っこに座っていた佐々木は、今は一番広い机に座って、いきいきとPCを叩いていた。海空はすいっと隣に座ると、足を組んだ。
……ガーターばっちし見えてます、主任。
「おー、東峰の担当。はい、Pマークの営業書類揃えてきて」
佐々木は目をひんむいて、「勘弁してくださいよ」とゴネ始めた。
「お局! 俺、Pマークは全然知らないッスよ~。安藤に聞いてくれませんか?」
「安藤? あー、出退勤ミスしまくるフレッシュ営業ね」
「今年の営業部のPMSの代表ッス」
――げ。鈴子は顔を顰めた。安藤純一郞は同期だが、鈴子は実は告白を受けていた!
  そもそも、B型のオンナだからと軽く見るをやめて欲しい。
  まずい。ひっじょーにまずいぞ。
背中に嫌な汗が垂れた。
(未だに返事、してないんだよ。安藤はA型で、合うはずがないし)
鈴子の好みは年上である。そもそも、安藤が関わるなら、担当を引き受け……。
鈴子はぼんやりと尾城林を思い出して、にへっとなった。引き受けただろう。尾城林課長の期待なら。
(かちょお、まさか知っててあたしをPMS担当に決めた?)
つまりは、大変気まずい。
   前回は雪乃や海空が関わっていたから、安藤とは普通に接すことが出来た。鈴子はのらりくらりと返事を先延ばしにしているのである。
(や、やだな……面倒になりそうな)焦る後ろで無情な海空の声音。
「んじゃ、鈴子、営業部から書類もぎ取って、総務部に戻ってね」
(あ~~~~行かないで~~~~~)
ぎゅ、と海空の自慢の胸を掴んだ。ムニョっとした感覚と「鈴子」と海空の憐れんだ顔。
「うー……」
そうなんです。面倒くさいことになりそうなので、助けて主任。 しかしアイコンタクトも虚しく、海空は「この部署はいつもながらコピー使いすぎなので、後ほど公開処刑のメールしますからね!」といつもの調子だ。
営業部の皆がさーっとコピー機前から去って行った。
「じゃあ、頑張るのよ。鈴子。Fightだ!」
「……りょ……」
新入社員は、もう既にSOS。元気のない「りょ」にも気付いてくれない。
にこやかに手とか振らないで良いから!
前髪をツンツンに立てた安藤がすっとオープンデスクの席を立ち、歩いてくるが見えた。
……こんなことなら、ちゃんと、断れば良かったよ……。
がっくりする背後では、海空が「株価、変動し過ぎじゃね?」と営業部に大きく備え付けられた株チャートを見ていた。
(いいよ、株なんかどーでもいいよ!)
「嫌な上がり方ね。――鷺原に買い叩かれてたりして」
「東峰との連動だと思うッスけど。いま銀行株がアツイ! でも、気になるんスよね……まさか東峰に限って暴落はないと思うけど」
会社の株も、雪乃のイザコザも気にはなります。しかしですね。あたしにはあたしの問題がありまして――。
眼の前に安藤が座った。「ウッ」と上半身を引き攣らせたところで、安藤はにっこりと微笑んで鈴子の手を掴んだ。
「年貢の納め時だ。よろしく。逃げんなよ。リンゴ」
……あたし、悪さなんかしてません。ただ、告白有耶無耶にしてるだけっす……。
都会の蒼空を横切るような夜桜が揺れた。鷺原はふ、と笑うと、伸びすぎて枝が下がっている櫻に手を伸ばして見せた。
「雪乃さん、変わったね」
春風に流されないように、髪を押さえる。鷺原ははっきりと告げた。
「会社と、俺、どっちを信用するのかな」
言葉に出せないでいると、鷺原は笑顔を見せた。驚いている雪乃に、「追い詰められた人間はいつでも笑えるようになる」と告げ、夜桜を離れた――。
***
以下PMS個人情報保護及びピーマーク審査スケジュール――。
○1月 申請書類準備開始。
○2月 KIIS《一般財団法人関西情報センター》から受け付け開始の案内。更新満了半年前。
○今月5月――
「さあ、行くわよ、鈴子」と海空がぎゅっと髪を縛り、鈴子も「りょ!」と今日も元気に鈴子流の返事をする。胸にはいつもの社員証だけでなく「PMS委員」のタグ。
お花見接待も終わった翌週。さっそく鈴子のPMS大作戦が始まった。朝から容赦がない海空はまずは「PMS審査マニュアル」を鈴子に叩き込んだ。
PMS――(パーソナル・インフォメーション・プロテクション・マネジメント・システムの略)つまりはプライバシーマーク。
これは、総務の仕事の中でも、一番長期に渉っての二年毎ごとの個人情報審査である。
どこの会社も、「総務」を中心に審査代表を捻り出し、個人情報が滞りなく流れ、廃棄に結びついているかを確認する。KIIS《一般財団法人関西情報センター》の審査を受け、個人情報保護ルートに問題がなければ「Pマーク」の取得継続。無事に審査が通ればPマークロゴを更新して終了。会社規模の資格取りのようなもの。
「全部署のルート確認を総務がやるの」
「全部ですかぁっ!」思わず素っ頓狂な声を出し、対面の雪乃の笑いを買った。
「そうよ、ここで確認しておかないと、Pマーク継続出来ないのよ。これが出来ないと、信用取引にも関わって来るでしょ。目で見る信用の形ね」
黄色のマーカーが引かれたマニュアルを手にして、鈴子はじーっと紙面に視線を落とす。全部署21。それぞれが個人情報をどう扱っているかを明確にして、マークを取得するらしい。
(こりゃ、大変かも……きっかけどころじゃないわ)
「あんたには、5月の資料作り、6月のプライバシーマーク付与適格性審査申請書をKIISに提出するまでをやって貰うわ」
2ヶ月のお仕事らしい。(そ、それならなんとか)と鈴子は胸を撫で下ろした。何しろマニュアルには「現地審査」と書いてある。あれこれ聞かれると、余計なことまで喋りそうで恐い。
「課長、人事部と営業部を回ってきますっ!」
「おー」とは今日もフットワーク軽そうな尾城林が笑顔を見せた。「いってらっしゃい」と挨拶はくれるが、どうやら夜桜以降、落ち込んでいるらしい雪乃が気になったが、今の鈴子には雪乃を気にする余裕はない。
『おまえ、PMSやれ。プライバシーマークだよ』
尾城林の一言から、鈴子の波乱が幕を開けたところである。
「いい? 先月までの準備は滞りなく進めてるから、あとは人事部に《PM101_個人情報保護方針》、《PM301_適用法令管理表》、各部署の《個人情報一覧表・個人情報フローチャート、リスク対策一覧表の最新版》を揃えなきゃならないの。これが年々各部署ともひっかかって、第二審査に落ちるから、毅然とね」
海空はお気に入りらしい青いファイルを開きながら、コツコツと廊下を歩き、エレベーター前でメモを取りつつ歩いている鈴子に微笑んだ。
「無理無理、順番に覚えて。まずは、人事部に適用法令管理表をお願いしてあるから、受け取りにいくわよ」
佐東主任のファイルが格好良く見える。
(あたしも帰りに買って帰ろう)と決めて、鈴子は大きく頷いた。
「個人情報保護法に基づいて始まった仕組みなのよ。特に顧客データの流出よね。特にウチは厳しいからねえ」
何もかもが高度な気がするが、新入社員のフレッシュさと、大好きな課長に言われたらやるしかない。
鈴子はにっこり笑って敬礼した。
「りょ!」
「――忙しい時は短くていいわね。それ」
***
エレベーターが来て、海空と鈴子は一緒に乗り込む。すー、と上がるエレベーターのようには仕事は行かないだろう。エレベーターが偉く見えて来た。
「総務ってイロイロやるんですね」
「雑用の宝庫よ。営業も新入社員中心のフレッシュチームで組んでるから、やりやすいと思うけど。いい、鈴子、約束して」
海空は心配そうに強く告げた。
「失敗したら、すぐに知らせる。隠さない。自己申告すること。虫歯と一緒よ。酷くなった後に言われたら、大変でしょ。必ず主任のわたしに報告すること」
PMSのタグにうきうきしながら、鈴子は頷いていたが、お腹ではべ、と舌を出した。
――失敗するはず、ないじゃん。
鈴子はいつも成績が良かったし、大学も短大を優秀成績で卒業して、難関の羽山に入社できた。父なしで育ててくれた母への恩返しも済ませて、兄を出し抜き、いつだって朗らかに生きて来た。
大学のサークルでは中心だったし、ムードメーカーには慣れている。
「はい」
「鈴子、そっちは経理部。人事部に書類を貰って来て。あたしは外にいるから」
(え……? ひとりで?)
不安を判りきっている顔で、海空は冷たく言い放った。
「あんたが任された事でしょ。ちゃんと一人で行けるでしょ? 峰山知ってるよね」
――知ってる。よく雪乃の彼氏さんと密談しているくっさいおっさんだ。
「行って来ます」
  そういえば、知り合いに聞いたが、鈴子が尾城林を追いかけている間、何やら海空が啖呵を切ったとか。その結果が、雪乃の指に輝いている指輪だろう。
「あたし、見たかったなあ、主任の啖呵」
鈴子は唇を尖らせた。海空は呆れて「はよいけ」とばかりに入口に置き去りにした。時折あのヒト、酷い。
「こんにちは~……」ぶつぶつ言いながらも顔を出すと、人事部の女子社員がにっこりと笑ってくれた。峰山は不在の様子。
「ぴ。PMSの書類をお預かりに来たんですが」
「あ、ちょっと待ってね。ねーえ、個人情報ファイルどこぉ? 総務部のリンゴちゃんが来てるんだけどぉ!」
年配の女性係長が黄色のファイルを引き出してくれた。《PM101_個人情報保護方針》、《PM301_適用法令管理表》、各部署の《個人情報一覧表・個人情報フローチャート、リスク対策一覧表の最新版》の書類を見つけて、ファイルをお借りして終了。
「あの佐東にこき使われて、大変ねえ」と頭を撫でられて、ぺこっと頭を下げた。
「ご苦労」とこき使い佐東海空は書類を確認して、営業部へ誘導する。何故か待たず、ズカズカと入り込んで、「ちょうどいいヤツがいる」とターゲットにされたは佐々木。先日ゴルフ保険で迷惑を掛けた営業である。
  机の端っこに座っていた佐々木は、今は一番広い机に座って、いきいきとPCを叩いていた。海空はすいっと隣に座ると、足を組んだ。
……ガーターばっちし見えてます、主任。
「おー、東峰の担当。はい、Pマークの営業書類揃えてきて」
佐々木は目をひんむいて、「勘弁してくださいよ」とゴネ始めた。
「お局! 俺、Pマークは全然知らないッスよ~。安藤に聞いてくれませんか?」
「安藤? あー、出退勤ミスしまくるフレッシュ営業ね」
「今年の営業部のPMSの代表ッス」
――げ。鈴子は顔を顰めた。安藤純一郞は同期だが、鈴子は実は告白を受けていた!
  そもそも、B型のオンナだからと軽く見るをやめて欲しい。
  まずい。ひっじょーにまずいぞ。
背中に嫌な汗が垂れた。
(未だに返事、してないんだよ。安藤はA型で、合うはずがないし)
鈴子の好みは年上である。そもそも、安藤が関わるなら、担当を引き受け……。
鈴子はぼんやりと尾城林を思い出して、にへっとなった。引き受けただろう。尾城林課長の期待なら。
(かちょお、まさか知っててあたしをPMS担当に決めた?)
つまりは、大変気まずい。
   前回は雪乃や海空が関わっていたから、安藤とは普通に接すことが出来た。鈴子はのらりくらりと返事を先延ばしにしているのである。
(や、やだな……面倒になりそうな)焦る後ろで無情な海空の声音。
「んじゃ、鈴子、営業部から書類もぎ取って、総務部に戻ってね」
(あ~~~~行かないで~~~~~)
ぎゅ、と海空の自慢の胸を掴んだ。ムニョっとした感覚と「鈴子」と海空の憐れんだ顔。
「うー……」
そうなんです。面倒くさいことになりそうなので、助けて主任。 しかしアイコンタクトも虚しく、海空は「この部署はいつもながらコピー使いすぎなので、後ほど公開処刑のメールしますからね!」といつもの調子だ。
営業部の皆がさーっとコピー機前から去って行った。
「じゃあ、頑張るのよ。鈴子。Fightだ!」
「……りょ……」
新入社員は、もう既にSOS。元気のない「りょ」にも気付いてくれない。
にこやかに手とか振らないで良いから!
前髪をツンツンに立てた安藤がすっとオープンデスクの席を立ち、歩いてくるが見えた。
……こんなことなら、ちゃんと、断れば良かったよ……。
がっくりする背後では、海空が「株価、変動し過ぎじゃね?」と営業部に大きく備え付けられた株チャートを見ていた。
(いいよ、株なんかどーでもいいよ!)
「嫌な上がり方ね。――鷺原に買い叩かれてたりして」
「東峰との連動だと思うッスけど。いま銀行株がアツイ! でも、気になるんスよね……まさか東峰に限って暴落はないと思うけど」
会社の株も、雪乃のイザコザも気にはなります。しかしですね。あたしにはあたしの問題がありまして――。
眼の前に安藤が座った。「ウッ」と上半身を引き攣らせたところで、安藤はにっこりと微笑んで鈴子の手を掴んだ。
「年貢の納め時だ。よろしく。逃げんなよ。リンゴ」
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