時代を越えてあの人に。~軍師は後に七人のチート家臣を仲間にします~

芒菫

尺稼ぎとしか言葉で表現出来ない川渡り。

「ちょっと待ってください」

 ここで来るのが初登場、木下藤吉郎の妹である木下秀長きのしたひでなが
 表から裏までの数々の仕事を熟し、藤吉郎を支えた。性格は真面目であり、まさに誰かの下に付くことで真の力を発揮するような、類稀なる勤勉者だ。
 そんな秀長が、一声発したのは他でも無い。近くで不審な動きを察知したからだ。

「もしかすると、獣の可能性も」

 秀長の近くに居た、毛利良勝もうりよしかつが目を細めて動きのあった方を見つめる。

「この近くに獣ですか……? 流石にこの森林にその様な動物は居ないはず。私には複数名の人影が動いたような気が致しました」

 何事にも慎重な秀長は、ここでも慎重な判断で、あまり動こうとしない。だが、実際にこの慎重さが戦国乱世で最も大切なのだと言うことを、良勝こと新助は後に知る事となる。

「ですか……ですが……いや、ですか……」

「はい、です。と、なると……姉上の作戦にも支障が出ます。もし、万が一見つかっていたとしたら、この作戦は行う前から失敗と言う形に……そうなれば、確実に姉上の首が……」

「いやいや、そういう物騒な事を先に考えてはいけませんよ! まだ敵とも分かった訳ではありませんし!第一、もし敵ならばここで討つまで!」

 周り見ていた一人の兵士が、二人を会話を見ながら思っていた。(二人の意見は賛否両論ですね……どちらも言ってることは間違ってはいない……。とは言いたい所だけど、そんなこと話している間に敵が逃げちゃうと思うのだけど……)
 勿論の事、この二人が話し合いをしている間に、動きを見せていた草陰の何か得体の知れない物は、姿形を見せず、何処か遠くへ消えてしまった。
 ……この話には、逸話が二つある。事実、それはただ単に風だったと言う事。この風により、強風に煽られた斉藤軍が、城下町から出ることが出来ず、墨俣築城が簡単に行えたと言う事。そしてもう一つは、豊臣秀吉が天下人へとなる前兆の風である。本能寺の変後、迷っていた秀吉の大きくどす黒い雲を晴らした大風と同じ物であったと、この当時に居た人間がそう思ってからだそうだ。逸話であり、事実ではあるかどうかは真相は不明である。そして、これが後に語られたのかどうかも不明である。



 さて、話は戻り、藤吉郎たちは墨俣までもうそろそろと言う距離にまで達していた。彼女達が川を渡る直後、それは強く生暖かい風が、この季節には似つかない風が、大きく吹いていた。その風に当てられていた川並衆の頭領、蜂須賀ころくが両足を開き、また両腕を伸ばして、自分から風に当たりに行く様は、川並衆の兵士達の象徴への姿へと変わる。

「ひひ、これが私達の戦場だ……」

 一人、覚悟を決める一人の女子が此処に居る。後に秀吉政権でも指折りの重要人物となる、蜂須賀ころくも、この時はまだ、一衆を治める影響力の無い小童こわっぱであった。

「人ならざる者が、人になりたいと、願うのが何となくわかった気がします」

 隣でころくの姿をジッと見つめていた藤吉郎が、何かを悟ったようにそして、何か思い付きで、とりあえず言ったようだった。

「どういうことだ、そりゃ?」 

 藤吉郎の話の意味が分からないころくが、不思議がって聞いた。
「いえいえ、風流です」

「いや、そんなもの風流とは言わない」

 きっぱりと、藤吉郎の主張することを否定するころくだが、これにはいつものじゃれ合いが混ざっている。

「いいませんか?」

 当然、藤吉郎は自分の言っていることに間違いは無いと言わんばかりに主張する。

「いわないだろ、普通。お前、風流分かってんのか?」

「いいえ、分かりませんよ」

 当然、分かる訳無いじゃないですか。と言わんばかりの顔で藤吉郎はころくに言い返す。また、ころくも…… 

「逆に聞きますが、ころくさんは分かっているのですよね?」

「何言ってんだ、分かる訳ねぇだろ。そんな小難しいもの。私は平安時代の呑気な公家じゃないもんでね」

 と、彼女もきっぱりと言い返す。

「ははは、そういうころくさんの公家嫌い、後で痛い目みますよ」

 藤吉郎は、軽はずみにそういうと、些細に笑った。それに納得できなかったころくが、嫌々と文句を言い始める。

「……うるさいな! いいんだよ! 私の勝手なの! 藤吉郎に左右される、いや人に左右されるような人間じゃないんだ私は!」

 はいはい、と更に煽るように藤吉郎は話を流すと、ころくはムキ―っと牙を向けて藤吉郎に怒りを向けた。

「……お二人さん、そろそろ着きますぜ」

 ころくの配下である、戦国時代では稀に見るもじゃもじゃ頭の男がそう言って、藤吉郎ところくに現実の世界へ帰還させようとする。
 現実は非道、そんなことを言った人が居た気がするが、忘れたと相良裕太が此処に居たら言うであろう。しかし、今彼は此処に居ない。

「そういえば、相良殿……大丈夫でしょうか」

「私はお前がこうやっていつまでも無駄話をして尺を伸ばしていくような行為が気に入らないけどな」

 まださっきのことで怒っているころくが、ツンツンした物言いで、藤吉郎に話をくわえさせようとする。

「尺?何を言っているんですか、ころくさん。あまり訳の分からない事を言い過ぎると、皆さんに嫌われますよ」

 どの口が言うか、と藤吉郎の発言を聞きながらころくは思った。もう時期、本格的に夏に入る。そうすれば、川並衆達も川で水浴びをするようになり、こいつ等にもやっと休みを与えられると、全く別の事をころくは考えながら藤吉郎の話を耳に入れていた。

「相良……彼奴、確か数日前に甲斐に言ったよな?」

 不意に、少し時の経った後に、ころくは藤吉郎に続きで話を振る。

「はい。甲斐も敵国なので、第二の出世仕事として、無事に帰ってきて欲しいものです。まぁ、相良殿は多才で、物事を根本的な部分から考えるタイプな気がするので、心配する必要も無いとは少なからずも思いますけどね~」

 藤吉郎は思った事を淡々と語る性分である。

「相良って、彼奴もよく織田家に入ろうとしたな。変わりもんだせ、彼奴」

「私との修好通商出世条約があります。相良殿の借りは私の貸しです。私と相良殿は延々と不平等条約なんですよ。一方的に」

一方的に、と何とも響きの悪い言葉だろうか。勿論、見てわかる通り、藤吉郎は物凄く笑顔。相良裕太がどれ程まで一方的且つ不平等な状況で生きているか、丸分かりだ。ここだけは彼奴に自重したい、ころくはそう思った。

「······はいはい、分かった分かった。藤吉郎、そろそろだ」

切り替えるように話を方向転換させると、ころくは目を前方に向けていく。
墨俣に歓迎される風が、少なからず川全体には吹き通っていた。この風がずっと続けば、流石に夏と言えども寒気はする、夜での作業がスムーズに進む。藤吉郎は今一度、手を合わせて何かお祈りをした。

「······敵前逃亡なかりしか·····少々緊張は致しますが、必ずや成功させて、信長様に美濃を······天下を!!」

彼女達の船は、砂利が辺りに広がる、三角洲へ勢いよく乗り出し、動きを止めた。

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