時代を越えてあの人に。~軍師は後に七人のチート家臣を仲間にします~

芒菫

ニートは後に最強を呼ぶ。

 ▼美濃国 稲葉山
 金華山、とは元々稲葉山の名称である。この地を治めるは、斉藤道三の娘にして、斉藤家では三女である、斉藤龍興さいとつたつおき。稲葉山の城下では、これまでの城主の中では一番の不埒者ふらちものであり、不純物であり、要らない存在であり、一国を治める者として恥過ぎると言われている。それでも、この地は龍興が治めていた。

「ふふふ、ご苦労であったわね重治。貴方の活躍には日頃から感謝しているわよ」

「……有難きお言葉」

 竹中重治は、現在稲葉山城にて斉藤家当主の龍興と面会をしていた。髪を下ろし、青の着物を羽織っただけで服も着こなせていないこの女こそが、一国の主である。そんな彼女に重治は、不満を露わにしていた。

「……龍興様、恐れながら申し上げますが、もう少し緊張感を持ってくださいませ。この美濃は今、他家から攻められているのです。当主の龍興様にも戦場に出て頂けなければ、味方の指揮は愚か、勝てるものも勝てなくなってしまいます」

 重治は、戦に無関心で興味が無い龍興を奮い立たせるかの様に言葉を掛けた。しかし、竜興は何ら変わった様子も見せず、酒を一杯飲む。

「何を言っているの、重治。私は貴方を信用しているのよ。全てを貴方達に任せているの。日ノ本で最強の力を持つ美濃兵と、その最強の富と力を持っている君主が居る限り、戦に負けることはまずないわ」

 全て分かり切っている様に、龍興は高をくくりながら笑った。

「しかし、相手は織田家。先日は二万五千もの今川軍を打ち払い、義元自身の首をも討ち取ったと聞きました。種子島と言う近代武器を大量活用しているところからも、今の織田家は侮れません。ましてや脅威なのです」

 重治は真剣な顔つきで龍興を見つめた。もはや真剣な目付きでは無く、睨んでいるような目つきだった。

「まぁそんな真剣な顔で見ないで頂戴よ。貴方は真面目過ぎるわ、少しくらい羽目を外したって損は無いわ。重治、もう一度言うわよ。私は貴方を信用しているの。だから全てを貴方達に任せているわ。天下最強と言われる軍師と、天下無敵と言われる美濃の兵をもってすれば、東海一と言われた今川義元を討ち取って気取っている……何と言ったかしら?」

 肝心である、今責めてきている敵の名前を忘れている龍興は重治に問う。

「織田信長でございます」

「気取っている織田信長なんて軽く一捻りで潰せるわ。尾張だって簡単に盗れる。ふふ、天下を一番最初に手にするのはこの私、斉藤龍興よ。誰にも譲らないわ……」

 微かに笑うと、龍興は再び酒をさかずきに汲んで飲み干した。そのまま盃を床に叩き付ける音が、大広間全体に響いた。

「……分かりました」

 重治はそう言うと、立ち上がって颯爽に大広間を後にする。誰も居なくなった大広間で、龍興は笑っていた。

「ふふふ。竹中重治、稲葉良通、安藤守就、氏家直元。姉上が残してくれた家臣達、私が便利に活用させてもらうわよ……全ては天下の為に……」



 稲葉山城を後にした重治は、城下町に居た。

「ほら、かっちゃん! 早く早く~」

「勘十郎様、見てください! これ殿に献上したら大喜びですよ!!」

遠くから聞こえる声がなにやら騒がしい。まるでこの稲葉山を知らない素人の様だ。声のする方へ行ってみると、そこには刀を腰に掛けた二人の童女が売られている美濃柿を見て喜んでいる様だった。

「それはいいね! じゃあ買っていこうかな~!」

 小柄の赤毛のショートヘアーは即決で言った。しかし、流石に素人に柿を選ばせるのは理にかなっていない。どれが美味で、どれが酸っぱいか分かっていない所で、選んでも意味がない。ここは手助けしてあげよう。

「もし、美濃柿をご所望ですか?」

 重治は、また軽く話をするように二人に声を掛ける。

「え? はい!」

 反応したのは少し体の大きいが、美人な女だった。重治はさっそく柿を見つめて厳選し始める。

「これは痛んでおりますね……こちらも少し色が青い。あ、いくつ買われるのですか?」

「そうだな~。十個ぐらいは欲しいよね~」

 小柄の方が、パッと浮かんだように言った。その通り重治は十個の柿を選ぶと、店主に柿を出し、二人に会計を任せた。布に包まれ、柿は安全な状態で二人に届けられる。

「いやー、誠に助かりました。ありがとうございます!」

 体の大きい方が、頭を下げて礼を言ってきた。

「いえいえ此方こそ、お役に立てて感無量です。旅の
方々、また是非美濃にいらしてくださいね」
 重治は微笑んでそう返した。人助け出来た事は嬉しいが、やはり殿と言っていた所から、何処かの家の偵察人かも知れない。織田家の者ではないのかとまで予想していた。だが、龍興様があれ以上、私もそこまで問い詰める必要性など無いと考え、彼女は問いかけるのを止めていた。そのまま、二人を城下町の外へ見送る。


「あの人、優しかったね~」

 稲葉山を去った後、小柄な方が、ポツンと口にした。

「はい。やはり、美濃の武士は豪傑であり、優しさがあり、武士の頂点に立つ者達なのだと、改めて実感いたしました」

 体の大きい方は、目を輝かせながら武士道について語る。

「あのまま、寝返ってもよかったかな~」

「え? 今何か言いましたか?」

 小柄な方が声を小さくさせて言った言葉を、体の大きい方は聞き取ろうとしたが、聞こえなかった。

「いや~なんでもないよ~~さぁ、かっちゃん! 早く帰ってお姉様に同盟の御報告、しなくちゃ! あと、たーくんのことも!!」

 彼女は何も無かったかのように、話を変えて走り出した。

「あ、ちょっと! 勘十郎様! 待ってくださいよ~~!」

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