時代を越えてあの人に。~軍師は後に七人のチート家臣を仲間にします~

芒菫

虚々実々と人跡未踏。

「ちょっと待ってください!! 私だけ理不尽過ぎるのですよ!?」

 藤吉郎は焦っていた。得体の知れない何かと何かの大軍が、自分目掛けて猛スピードで追いかけてくる事に。逝ってしまえば、何かの片方は織田軍の勝家隊。もう片方は斉藤軍の重治隊。勝家は重治に追われ伏兵で突かれ、はっちゃかめっちゃか状態でなんとかここまで持ちこたえ、殿としての役を務めている。対して、竹中重治の率いる斉藤軍は巧みな戦術で伏兵を使用。そこら中から勝家隊へ攻撃を仕掛けて攪乱させており、とても効果的な戦い方をしていた。
 そんな状況の最中、藤吉郎は戦場を駆け回る。出口が何処かも分からないこの長森の地を。

「……あれは、木下殿?」

 槍を振るい、一人で敵兵を薙ぎ払っていた女子、仲嶋智慶は藤吉郎の声に気付いて声の方向を向いてみる。そこには涙を流しながら、必死そうに全力疾走で此方に駆けてくる木下藤吉郎の姿。一瞬目を疑ったが、間違いなくあの姿は藤吉郎。その後ろには、大軍が藤吉郎を追うように追いかけてくる。
 ……とはいっても、良く見れば織田の家紋を掲げた旗。そして斉藤軍の見慣れない旗。もしかすると、抗戦中なのだろうか。

「あれは助けないといけませんよね……」

 槍をグッと握って力を込めた。この織田家に来てから、何かを守る為に戦うと言う気持ちを相良殿に教えてもらった。これまで、私は自分を償う為に戦って来たけど、それは間違いなんだって。大事なのは何かを守るためだって。私は織田軍を守る為に、斉藤軍と相まみえる。そう智慶は思った。

「……あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛!!!」

「……!」

 藤吉郎に襲い掛かる敵の腹部に向けて槍を刺す。そのまま刺し抜き、先端に付いた紅色の液体を払うように横に強く振ると、また茂みから現れた斉藤軍の伏兵を槍で突き刺す。

「……あれは智慶か!? 何故此処に!?」

 巧みな槍の裁きに気付いた勝家は馬を走らせながら言った。そのまま智慶に近づけると、馬から飛び下りて勝家も槍を頭上で大きく振る。

「……柴田殿、お先にどうぞ。ここは私が食い止めます」

「なにを言う? 私も此処に残って戦う。兵士達を見殺しにして前線から退くと言うのはやっていられない! 織田軍に告ぐぞ!! 全力で走って逃げろ!! 信長様を追いかけるのだ!!!」

 勝家は大声で兵士達にそう告げる。兵士達も動揺して、一回は立ち止まったが、勝家が何度も念を押して言う姿を見ると、本当に申し訳なさそうな顔をして兵士達は涙を流しながらその場から立ち去っていく。しかし、良く見れば智慶、勝家の他にもう一人その場に残っていた人物がいる。

「うぅ……なんで私は……」

 何故か混乱状況に陥っている木下藤吉郎だった。

「木下殿! 早くお逃げください!」

「無理ですよ! ただでさえ剛力の柴田殿と殺人鬼みたいな智慶ちゃんを置いて行くことは絶対に出来ません! お二人は死をも恐れないような方々だ!! ここで私が置いて行ってしまえば、絶対にお二人は亡き者となって帰って来ませんからね……!!」

 気持ちを入れ替えたのか、さっきとは全く違う雰囲気で腰に掛けてある刀の鞘に手を掛けると、鋭い目で斉藤軍を睨んだ。

「猿ぅ!? 剛力とは誰の事だァ!?」

「ふふ……殺人鬼ですか……」

「ひぇええ!? ご、ごめんなさいいいい!!」

 さっきの勢いとは全く違って今度は臆病な藤吉郎に戻ってしまったのか?気が緩んでいたのだろうか?とにかく藤吉郎は本当に驚いたような声を上げて言った。

「……本当に戯言を。逃げたと思えば結局戦うのですね……織田軍は本当に未知数だ。しかし、貴方がたがとても強いと言うのは事実ですね……到底今の斉藤軍の兵士達じゃ太刀打ち出来なさそうだ……」

 敵の大将的存在と言える、竹中重治はこの状況を深く考察しながら一つの答えを導き出そうとしていた。

「……なんだ? 竹中殿が手を出さないと言うのであれば、私がやってやろう」

 間から稲葉一鉄が出現する。

「あ、ちょ」

「全軍、掛かれ!!」

 重治が何かを言おうとしていたが、その声は小さく優しかったために、一鉄の耳には入らなかった。斉藤軍の兵士達は勝家達の後方だけを除く三方向を囲んで獲物を狙う鷹の様な目付きで襲い掛かって来た。

「先に保険を掛けておきますが……」

 額から汗を垂らして、藤吉郎は二人に呟いた。

「私は戦闘が得意じゃありませんから!!」

 彼女はそう言い、鞘から刀を抜き出して両手で握ると構えの姿勢を取った。

「なにかあれば、この馬に乗って逃げれば良い」

「ならばノルマは馬を守る事と一人千人斬りですね」

「いや無理ですよ!?」

「はああああ!!!」

 藤吉郎の言葉を無視する様に、二人は向かってくる敵に槍を構えて突っ走っていく。見捨てられたような顔で悲し気に一人ウルウルと涙を浮かべる藤吉郎だったが、ブルブルと首を振ってすぐに真剣な状態に戻った。

 向かってくる敵兵。まず、勝家は一人に突きを入れる。その攻撃は鎧をも砕き、身体に貫通。次に、勝家を狙おうとする兵士が左右から現れるので、それを読み切っていた智慶が槍を大きく右から振るって、馬鹿力で二人の攻撃を受け止める。刺した敵兵から槍を抜いた勝家が、今度は串刺しするような勢いで駆け出し、智慶の足止めしている兵士二人に突きかかると、見事に腹部に突き刺さり、また力尽くで槍を抜き取る。これで地面には三人の死体が無造作に転がる。

「まず、三人」

 勝家と智慶は互いに背を向け合って槍を構えた。全体の様子を伺い、少しずつ左右へとずれていく。少し呼吸を整えてから、しっかりと狙いを付けると、二人はまた同時にその場から駆け出して槍を豪快に使う。既に最強と言われる美濃兵を圧倒していた。どちらかが危ない状況になると、襲い掛かっている敵兵の背後に片方が回って槍を縦に振って斬り、危なかった方が今度は後ろを警戒して即座に槍を地面に突く。

「十人」

 智慶は言った。

「私は十二さ」

 勝家は自分の方が上だと自慢してその場で言った。
 次に智慶は一回転して、槍の先だけを使って、人の首を狙って槍を振るうように戦い、一度刺したら抜くなどと言う面倒な事をしないように心がけていく事になる。

「残念ですね、私はもう三十ですが?」

「っ!」

 二人は踊り狂った。いつまでも戦い続けようとした。しかし、その瞳から伺うに全く正気を失っていない、となればどういうことか。二人はこの状況を楽しみ、遊び、人を殺し、残虐さを惜しまず、人斬りであろうとした。辺りには、人体の切り口から流れた赤黒い血液が、そこら中へと広まっていく。首は取れ、腕は千切れ、腹はえぐれ。

「……やっぱり、私が居なかったらこうなってたじゃないですか……とは言っても、私が居ても変わらなかったですが……」

藤吉郎はそう呟いて苦笑いをした。

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