時代を越えてあの人に。~軍師は後に七人のチート家臣を仲間にします~

芒菫

晴信の“妹”。



現在日の沈みゆく夕暮れ時。信勝と勝三郎が、甲斐を立ち去ってから三日が経っていた。彼女達は戦慣れしているから、大丈夫だとは思うが、トラブルが無いか心配だった。何せ、行きは変態集団に追い掛け回されて、命辛々甲斐に辿り着く事が出来たのだ。
晴信に「妹が勝手に追手を放ってしまった」と謝罪されているが、今回も追手を放っていないとは断言できない。もしかすると、前回より数多くの追手を放っている可能性すら考えられる。……とは言え、実際に考えると信勝はほんわか神、勝三郎はそれに仕えて奴隷に扱われて尚喜んでいる一種の変態だ。何をしでかそうと、ストップを掛ける人はその場に居ないので逆に問題を起こす側になっていそうで怖い。
そんなことを考えながら、俺は海津城の本丸を探索していた。丸く円形状に広がっている本丸。その円の中の四か所にそびえ立つ物見櫓ものみやぐらが建てられ、常に警戒を怠らない。
この海津と言う地域、北には千曲川ちくまがわが流れており、北から攻めにくく守りは堅いイメージがある。この時代、イメージすることはとても大事で、本当に堅いと言う噂がそこら中に流れると兵士達の士気は下がり、本当に守りが堅く、落城させる事が出来ないことがあったそうだ。しかし、城のイメージをすることは軍師にとって基礎的な構造だと考えられる。そもそも軍師とは、この時代では戦場において戦略・戦術の指揮を補佐する役割なのは勿論、軍事だけではなく国政全体の指揮にも携わり、指摘やアドバイスを行う存在だったとされている。発症は現代で言う中国。実際に軍師と言うものは、君主の多くから「先生」と呼ばれ、時にはその君主の上位的存在ともされていたそうだ。特に戦国時代では軍師の存在は重視され、この先の戦国史にも名を残している人物の裏には必ず軍師が居たそうだ。どんな人物が居たかは知識不足でよく分からないが、武田の軍師「山本勘助」も、もしかするとその一人だったのかもしれない。とは言えこの海津城、山城である為、平城と比べれば勿論小さい。特にこの川中島に関しては武田家と長尾家が建てた山城は数多くあり、数え切れないほど。この中で戦をするって言うんだから戦略・戦術勉強するには絶好の機会だ。
風に揺られながら、海津城を一回りした頃、丸太の上にさっき晴信と言い合いをしていた一人の女子おなごが座っているのが見えた。刀の手入れをしているように見える。ちょっと行ってみよう。
彼女との距離を少し取って話しかけるタイミングを計る。

「・・・」

すると、彼女は此方に気付き無言で見つめてくる。
俺も彼女を無言で見つめた。

「・・・」

今度は顔を強張らせて見つめてきた。
ここは負けじと俺も彼女と同じように見つめる。

ポン……ポン……ポン……と三回何かの音が鳴った気がした。
すると彼女は突然、吹っ切れた様に笑い出した。

「ぷっはははは、可笑しいですよ本当に」

「い、いや 可笑しいって酷くない!?べ、別に何も変なことしてないよね!?」

彼女はスッキリしたかのように笑い終えると、再び俺のことを見て嬉しそうに腕を組む。膨らみ掛けの胸を強調したいのか、そんな腕の組み方をしてきた。

「…ふふ、皆さん私と顔を見合わせると恐れて、逆に変な扱いをされてしまうんです。確か、相良殿と言いましたよね。…貴方は私がいつも怒っている様に見えましたか?」

と、彼女は俺に自分の顔について少し顔を赤面させて問いてきた。

「い、いや…そうは思わなかったけど…。別に怒っている様にも見えなかったし、刀の手入れしてて暇そうだな~って思ったから来ただけだし……」

と、あやふやな答えを彼女に述べる。
それでも彼女は「そうですか」と返事をして刀の手入れを続ける。

「申し遅れましたが、私は武田晴信の妹の武田次郎信繁たけだじろうのぶしげと言います。どうぞお見知りおきを」

「んじゃあ俺。さっきの軍議で使者だってこと言ってくれたから、分かっているとは思うけど俺は相良裕太。宜しく!」

俺も彼女も軽く自己紹介をした。やはり、彼女は晴信の妹だったようだ。どちらも赤毛の髪型で、武田のイメージカラーは赤らしいから尚更そう思っていた。

「先程の軍議と言えば、お見苦しいところをお見せしてしまい、申し訳ありません。本来、こちら側が織田家の使者殿を労わなければいけないところを、我が妹の四郎が迷惑な発言を申してしまい······。頭を下げさせて頂きます。申し訳ありません」

と、彼女は心からそう思っていたのか、刀の手入れを一旦止めると俺の方を向いて座例して謝罪を行った。勿論、そんな流暢に謝罪される立場でも無く、俺も頭を上げてくれと言うことしか出来なかったが、彼女を見るだけで武田の事、晴信の事を大切に思っているのだなと感じ取れる。そんなに謝罪される立場ではないと、彼女に言い聞かせて、等々彼女に謝罪させるのを止めさせた。

「まぁ気にしない。俺も気にしてないし、その·····」

「次郎と呼んでください」

「······次郎も気にしちゃダメだ。確かに次郎の妹は、俺を希少種扱いしていたけど···別に気にしてないし、寧ろそれを誇るべきなのは俺なんだ。男が圧倒的に少ないこの時代で、男でいられる俺にね。だから、謝罪される覚えはないし、謝罪する必要も無いんだ」

そう俺が説明すると彼女はなんとか分かったように首を縦に振ると頷いた。

「まぁ······強いて言うなら、なんで晴信が次郎に死ぬなよなんて忠告したことだな」

と、突然さっきの軍議の件で晴信の言った言葉が頭の中で浮かび、引っ掛かっていたので言ってみた。

「······そ、それはですね。言っても信じてくれないとは思いますが······」

彼女は口を開くと、軍議の件について話そうとしてくれるが·········
しかし、次の瞬間。

「皆のもの、出陣するぞ!!戦支度を急ぐのじゃ!!!」

と、勘助の大声が城内に響き、最終的に話はそれまでとなってしまった。一体彼女が何を言おうとしていたのかは分からない。が、今でもとても気になって仕方がなかった。

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