時代を越えてあの人に。~軍師は後に七人のチート家臣を仲間にします~

芒菫

その名は東海道一の弓取り、今川義元。


「世も、安泰となるのは程遠いようですね。」

一人、個室で酒を飲み、程よく酔っている女子が居た。
彼女は、月を見ながら囁いた。

「本日は満月の為、治部大輔様の様に美しく輝いておりまする。」

朝比奈泰能はそう言っていた。今日は満月の日である。
私も、今日ぐらいは酒にうたれていたいと思い、評定を手早く済ませていた。

「義元公。」

一人の坊女が部屋の前で私の名前を言った。
私は、彼女を中に入れると、顔を引き締めて正座をした。
坊女も、乾いていた手をこすった後、膝の上に置く。

「ふむ。少しずつ様になっているようだな。義元よ。」

坊女はそういうと、少しにやけていた。

「雪斎様に認められる為、日々努力しておりますよ。ふふふ・・・。」

そう、目の前にいるのは太原雪斎様。私の命の恩人として、また師としてこれまで尽してきた人だ。

太源雪斎。2人の出会いは善得寺で、雪斎は義元の命を助け、教育係となり、読み書きは勿論兵法について等様々な事を伝授した今川の重臣としても知られている。主に、政治的な部門を専門として活躍する。特に、今川の家督相続等の統一に力を尽くして、今川の全盛期を築き上げた。
また、今川家軍師としても有名であり、甲相駿三国同盟等にも貢献。今川仮名目録の制定も大きくかかわっていたと言われている。

「さて、早速だが、義元公。どうするのだ。三河・遠江を抑えることには成功した。最も天下を取るのが近いと言われているのはお主だ。さて、ここからどうするかだが・・・。」

雪斎はそういうと、私の方を見つめて問いかけてきた。
出来れば、戦闘は避けたい。だけど、上京することは私の一番の夢だった。
人間、夢を叶えることを最優先としていた。勿論、この駿府も都の様にしてきたつもりだ。それも私の夢だったからだ。
昔から、引っ込み思案で人見知りの私だ。ここまで来ることは夢にも思っていなかった。
だからこそ、今川家の為、家臣たちの為、雪斎様の為にも、この判決にはそれだけの重みがあった。

「そうですね・・・。私は、今川家の当主です。突然、考えを曲げる時だってあります。私の考えは飽くまで、天下を支柱に治める事。」

雪斎は頷いて聞いていた。頭を深く下げ、大きく振る。

「私は、天下を取りたいです!」

今川義元。東海道一の弓取りの異名を持ち、駿河・遠江・三河の三国を治め、天下に最も近い者だと言われていた。国衆を統一するために、今川仮名目録を制定の他、様々な戦いにも参陣し、太原雪斎より教わった兵法等を巧みに使い、その脅威を示した。
この、女義元その立場である。義元は、人々を大切にけしてきつく縛ることもなく、国を栄えさせて順調に天下への道を歩んでいた。彼女は、とても優しいのだ。これまで、大将を何度も捕えてきたが、全て家臣として起用している点も凄いところである。まさに、天下人の一人者であったことは間違いない。

「そうか。ようやく決断したか!ならば、この太原雪斎。今川殿に一生尽くしたいと思い仕りますわ!」

と、後半は女の子らしさを出して話すと、私と雪斎は笑い出した。
こんなに笑えたのは本当に久しぶりだった。

・・・笑いふざけて数分が立った。
これにより、今川家は尾張侵攻を開始する事となる。

「さて、まず義元公。作戦会議と行こうではないか。」

「先陣には、松平の兵に行ってもらいたいと思います。勿論、今川の兵も後に続き、合流していきます。」

「どうする?清州は。」

「清州城はかなりの堅さと聞きます。そんじょそこらの城とはわけが違うようで、中から外まで完璧な守りと聞きました。」

「織田のうつけも侮れんからな。まさかとは思うが、種子島を大量に購入し、しかも量産と共に新型兵器をも作ろうとしているなどとの噂が入ってきておるからな。」

「それは誠ですか!?とすると、此方も少し手強い策で乗っていかねば・・・。」

とすると、突然雪斎が不気味な声で笑いだす。ふっふっふ、と。

「ど、どうされました!?雪斎様!?」

私が驚いて声を掛けると、冗談のように笑い声を止めて此方を見つめてくる。
まさに、引き負けた敗者の様な目をしていた。可哀想です・・。

「策があるわ。これは完璧よ。」

「お聞かせ願いますか。」

ゴクリ、と唾を飲み込む。
雪斎様は地図を真剣に見つめて考えているようだった。

「義元公が先陣を切る。と言うのもありじゃが流石に無理じゃろう。となれば、一番有効なのは私自身が前線へ向かい、敵と相まみえることだ。」

「え?と、すると雪斎様は元康の陣へ先に行っていると・・・。」

「そういうことになる。松平には砦を攻めて貰おう。後ろから我が軍が軍略を持って示唆するが、岡部にも先陣として来てもらい、末森城を攻めて貰う。朝比奈には、名古屋城を。義元公は、後ろからゆっくりとついて来てもらえばいい。そうじゃな・・・。『桶狭間』にでも本陣を置くのがよろしいかと。」

「いいえ。どうせなら、私も先を行きたいと思いますわ。」

本当に、この際天下を取ってしまおう。その為の織田攻め、尾張攻めだった。
失敗してはいけない。非道な戦いになるでしょう。

「あ、雪斎様。元康にはくれぐれも能力を使い過ぎないように言っておいていただけますか。」

「よかろう。それでは、私は戦支度をする。戦場で会おうぞ。」

「えぇ。桶狭間で!」

雪斎は立ち上がると、義元公の部屋をすぐさま後にした。
今日は、雪斎様もお時間が数分しか取れないという事でこれしか話をすることが出来なかったが、とても楽しい時間だった。
これからの時期は、大事な時期だ。絶対に負けられない。全員の力を信じて勝ち上がろう。
それが、今川家の家訓だ。
私もそう言うと、酒の蓋を閉めて夜空を見上げた。
とても美しい月が私を見つめてこう囁いているようだった。

「天下は今川家の物。」



この時、今川治部大輔義元。日本三大奇襲と言われた桶狭間の戦いをすることとなるとは思っても居なかった。
そして、この男。相良裕太。欠伸をしながら部屋の整理などをしているが桶狭間の戦いが本当に起きるという事はまだ気づいていないようだった。
もう一人。尾張の大うつけと呼ばれ、後々大大名と化し、天下人のいわれを持つ織田信長も、この時にはまだ小大名で自分の国を治めることで精一杯尽してきたが、桶狭間の戦いが起きるという事はまだ分かっていなかった。
本当に、怒涛の戦いになるのだろうか。時の歯車は少しづつ動いていた・・・。


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