貴方に贈る世界の最後に
第63話 貴方に贈る世界の最後に
黒く染まっていた心に少しの小さな光が差した。死んだはずの人間が蘇るという異常な事態は、もうどうでもいい。ノアがそこに立っているのなら充分だ。
「ねぇ、未来のユウ。貴方はダンジョンコアに何を願ったの?」
その質問に、未来の俺は答える。
「平和な世界。誰も争うことなく傷付くことの無い平和な世界を願った。お前たちの世界を創ったのも俺だ」
「......やっぱり、ユウはユウだね。その願いも私の事を想っての願いなんでしょ」
「ああ、そう願えばお前がこの世界に転生してくることも無くなると思っていた。だけど、結果は駄目だった。そして今、なぜかお前は俺の目の前に立っている。俺の敵として」
「だけど、貴方は私を殺せない」
「......ああ、そうだな。負ける事が確定した戦いだ」
そう言って未来の俺は、うっすらと笑う。
「だから、もし俺が勝ったら願いを叶えてくれないか?」
「うん、分かったよ」
ノアと未来の俺の距離は近付いていく。
一歩一歩進んでいく。そして、両者の距離があと一歩になったとき、両者の足が止まった。
そして、最初に動いたのは未来の俺だった。拳を振り上げ、そのままノアに振り下ろそうとした。
しかし、ノアがとった行動は、そのまま前に出て未来の俺に抱き付くというものだった。
「ユウ、ありがとう」
その言葉で、未来の俺は完全に動きが止まった。
「私を、助けてくれてありがとう」
「やめてくれ、俺はお前を守れなかった。お前を自分の手で殺した。お前にそんな事言われる資格が俺には無い」
「うんん、そんな事はないよ。ユウは私の大切な人だから」
振り上げられた拳は、役目を果たすことなく静かに下ろされ、膝から崩れ落ちた。
「......ごめん、ノア」
そう言って謝る未来の俺は、涙を流して何度も謝り続けた。
最後の戦いは始まる前に終わりを告げた。
「ねぇ、ユウ。この世界は、みんなが幸せにならないといけないんだって。だから、ユウを幸せにするために私が蘇ったみたい」
そう説明したノアの言葉を聞いて、自分の願いを思い出す。
俺が願ったのは、誰もが幸せで危険の無い平和な世界。そして、未来の俺が願ったのが、誰も傷付くことの無い世界。
同じような願いでも、一言違うだけで結果は全く異なるものになった。
未来は、変えられる。その言葉が今の俺を変えたんだろうか?いや、今は答えなんてどうでもいい。
今ここにある全てが現実で、確かな真実なら俺が願った通り幸せな世界になったんだと確信する。
すると、もう1つの願いが叶ったようで
「ユウ...」
と、もう一人のノアが現れた。
勿論、未来のノアだ。
「私の役目はここまでかな、未来のユウ。行ってあげて、それが貴方にとっても私にとっても幸せな事だから」
「ああ、ありがとう。君も幸せになってくれ」
その言葉を残し、未来の俺は未来のノアと幸せそうに帰っていく。
世界は、こんなにも温かく平和なんだと二人の後ろ姿を見て改めて実感する。
すると、ノアが振り向いて俺の方に歩いてくる。
それに答えるように俺も歩いてノアの方に歩く。
「良かった。俺の願いは叶ったんだな」
「うん、そうだね。ユウのお陰で、みんなが幸せに生きてる。だから、私も言っておくことがある......」
「ああ、俺も同じだ」
俺は、片方の膝を着き、ノアの手をとる。
頬を赤く染めながらノアはそれに答えてくれる。
そして、言葉を紡ぐ。
「俺は、ノアが好きだ。出会った時からずっと。だから、これからずっと俺と同じ時間を過ごしてくれないか」
俺はノアにプロポーズした。
そして、その答えは......
「...はい、ずっとあなたの側に居させてください」
二人は笑い合い、幸せを噛み締める。
幸せな時間はこれからずっと続いて行く。
世界が終わるその時まで......
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