貴方に贈る世界の最後に
第54話 予兆
さて、終わらせるか。
目の前の敵を見定め
見えない速さで飛び出す。
「よう、ドラゴン」
一瞬で顔の前まで着く。
そこにある、黄金の瞳は大きく見開かれている。
そして俺は、拳を振り抜いた。
だが、その拳は空を切った。
「何!?」
あそこから、どうやって...
まさか、瞬間移動が出来るのか...
「ユウ!!危ない!!」
突然、後ろに大きな氷の壁が現れる。
そして、それは簡単に砕け散り、ドラゴンの爪は俺に届く。
「くっ!!」
ドラゴンのその質量に負け、吹き飛ばされる。
背中を壁に打ち付けられ、衝撃が伝わる。
ダンジョンの壁が壊れない分、その衝撃は身体に打ち付けられる。
血の味が口の中に広がる。
「ユウ!!」
ノアは、こちらに向かってこようとしている。
「駄目だ!!約束しただろ全員でクリアするって」
「...でも!!」
「大丈夫だ、俺は死なない。お前の答えを聞くまでは、絶対に生き残る!だから、みんなを守ってくれ」
重いからだを動かす。
全身の痛みは消えない。
だが、俺には失えないものがある。
守るべき人達が居る。
命を賭けるには充分な理由だ。
「終わらせよう。世界の為に」
そして、黒い何かを超えるために。
今までを超える。
解き放つ力は、限界を超え、その先へ...
1000%
神すら超えるその力は、一瞬しか使えない。
能力が少年を蝕む。
代償だ、と言わんばかりの黒い霧が少年を覆っている。
だが、少年は笑う。
これで、全てを守れると。
さっきのような、瞬間移動能力なんて発動させない。
一瞬で......
突然、異変は起きた。
足が動かなくなったのだ、どれだけの力をいれても動かない。
そして、今更気付く。
ドラゴンの能力は、瞬間移動ではなく、時間を止める能力。
こいつ、俺の力が時間制限であることに気付いて足だけの時間を止めやがった。
「くそっ!!」
身体を蝕む黒い霧はまだ消えない。
だけど、力を解除すれば俺は、反動で動けなくなる。
やられた......
「ユウは、一人だけじゃ無い!!」
「僕達も、居ます!」
「...諦めないで」
そんな声に、顔を上げると...ノア達がドラゴンに立ち向かっていた。
「止めろ、お前達じゃ...」
そこまで、言って思い出す。
いつかノアが言ったあの時の言葉を。
ああ、そうだ俺達は、お互いを助け合う。
なら、今はノア達を信じて...
「任せた!!ドラゴンを止めてくれ!!」
「ふふっ、任されたよ」
こんな時にもノアは嬉しそうに笑っていた。
「私も、本気で行く。『四大魔法』解放。『フレアストーム』『ウィンドストーム』『アースストーム』『アイスストーム』」
四色の竜巻がドラゴンに襲いかかる。
「...捕らえろ『バインド』」
逃げようとしたドラゴンは、セツカの魔法によって止められる。
「アイリスちゃん!!最後お願い!!」
「...アイリス?」
アイリスは、ピクリとも動かない。
ドラゴンがアイリスの時間を止めたからだ。
だけど......
「能力は、一人にしか使えないみたいだな」
俺が動けるようになった。
ドラゴンは、俺にまた能力を使おうとするが...もう遅い。
俺の拳は、ドラゴンを突き破っていた。
ダンジョンに赤い雨が降り注ぐ。
「やっと、倒したか...」
能力を解除したから、黒い霧は消えていった。
だけど、その爪痕は身体を蝕んでいた。
「もう、右手は駄目か」
真っ黒に染まった右手を見て、俺は倒れた。
「ユウ、大丈夫。私が治してみせるから」
ノアは、治そうとしてくれたが自分では分かっている。
もう、治らないと。
この右手は、別の何かに変わっていると。
「ドラゴンを倒したんだから、もっと嬉しそうにしてくれよ」
「でも、ユウが...」
「いいんだ、みんなが無事なら」
「でも、私はユウも無事で...いて欲しかった」
もう、何も感覚がない右手をノアは握って涙を流す。
何も感じられない痛みが胸に突き刺さる。
「ノア...ちょっと休ませてくれ」
身体中が痛い、ずっと焼かれているような痛みが全身を襲っている。
それに、目が重い。
開けているのが辛くなってくる。
「うん、分かったよ...おやすみ、ユウ」
その言葉を最後に、俺の意識は消えた。
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