貴方に贈る世界の最後に

ノベルバユーザー175298

第47話 魔王


 森の中を歩いていても、魔物と出会うことが少なくなってきた。
 出会う魔物達は、大体知能が低そうな感じの魔物だけだった。
 例えば、スライム。
 最初に見たときは、これスライムだよな?と疑うほどあり得ない見た目だった。

 人の形をしていて、透明な体だったから何とかスライムだと分かったけど、この森のゴブリンのようにゴツゴツとしている筋肉が見えるというものだった。

 「この森、おかしい」

 と、ノアが言っていたが俺もそう思う。
 何で、こんなに筋肉がある魔物が多いんだよ。

 そして、もう一体現れた魔物は、ウサギだった。
 遠くから見たときは、少し大きいだけのウサギに見えたんだが、近づくにつれて明らかな異常に気づく。

 そのウサギの足だけが異常に発達していた。
 足以外が普通の見た目の分、違和感が凄い事になっている。

 「こいつも、同じかよ」

 と、溜め息混じりにそんな言葉を吐き出す。

 実際にウサギやスライムと戦ってみて分かったことだが、どの魔物もステータスの一部・・だけが高い。スライムだったら力が、ウサギだったら素早さが高い。まるで、何かの試練のように思える魔物達が居た。そして、この森は何かの目的があって誰かに作られたものなんじゃないか?と思った。

 ふと、思った事がある。
 もしかしたら、勇者達が魔王を倒すために用意された訓練場なのかもしれない。
 まぁ、あの勘違い勇者がここに来た瞬間に殺されるだろう。

 あんな奴とはもう二度と会いたくないがな。

 そんな事を考えていると、

 「ユウさん、見えてきましたよ」

 アイリスのそんな声を聞いて、前を向くと巨大な城が建っていた。
 高台の上に建っているその真っ黒な城は禍々しい気配がたっている。
 あそこが、魔王城か。

 そして、疑問に思うこともある。

 「アイリス。魔王城って、誰も守ってないのか?」

 そう、見張り役が居ないのだ。
 普通なら、誰かを城の周りに置いておくはずだ。
 何かが、起きている?

 「いえ、そんな事は......いつも、誰か居るはずなのに...」

 やはり、何かがあった。

 「少し、急ごう」

 「は、はい」

 俺達は、魔王城へと急ぐ。


 見張りが居ないため、難なく辿り着くことができた。
 来るものを拒まない、そんな開けた大きな入り口の前には......二つの影があった。

 一つの見覚えのある、大きな影。
 フェンリルと、人の形をした影。

 「ようこそ、待っていたよ。キサラギ・ユウくん」

 意味ありげに笑うその顔は、どこか嬉しそうだった。

 「お父様!!」

 アイリスは、そう叫んで、走っていく。

 「え、アイリスのお父さん? つまり、あれが魔王」

 「そう、僕が魔王ケアトルだ。よろしく」

 魔王には、見えない風貌ふうぼう
 どこにでも居そうな、ただのおじさんにしか見えない。
 だけど...魔王だ。


 「良かった、アイリス。無事だったんだね」

 「はい!お父様も無事で何よりです」

 父親に嬉しそうに甘えるアイリスの姿は、心の底から嬉しそうに笑っていた。
 親子水入らずの時間に割って入るのは悪いが、さて......

 「魔王ケアトル。一つだけ質問がある」

 「...なんだい?ユウくん」

 「何で、アイリスを見捨てた?」

 そんな問い掛けに一番に反応したのはアイリスだった。

 「え?ユウさん、何を言ってるんですか?お父様は......」

 「何で、危険な外へと出ていくアイリスを止めなかった?人間と会わせたらどうなるかぐらい分かってただろ?」

 親なら、危険な場所へ行く娘を放って置くわけがない。
 それに、俺がその立場なら、全力で止めている。

 「僕もあの時は、忙しかったんだ。だけど...それに、必要な事だったんだ」

 そんな言葉を聞いたとき、俺の中で何かが切れた音がした。

 「アイリスの苦しみが、抱えた心の傷が...必要な事だっただと?」

 怒りが込み上げてくる。
 拳を居たいぐらいに握りしめて、魔王の答えを待つ。

 「そうだね」

 気付いた時には俺は、飛び出していた。
 一発殴らないと気がすまない。

 俺は、100%の力で思いっきり、魔王を殴った。
 あの時と同じ、手に伝わる嫌な感触。
 俺は、魔王を殴った。

 「......何で、わざと殴られた?」

 魔王は、俺に殴られるまでその場から一歩も動かなかった。

 かなり、遠くまで吹っ飛んで壁に埋まった魔王に、そう叫ぶ。
 しかし、魔王はすぐに出てきた。
 口から血を吐きながら、苦しそうにしている。

 「がはっ......これも、僕の罰だと思ってね...」

 俺は、その場で歯を食い縛る事しか出来なかった。

 「どうしてだよ」

 「僕はね、未来が分かるんだよ。だから、アイリスを君が助けてくれると分かっていた」

 「未来が分かってるなら、アイリスを苦しませないようにする事もできただろ」

 「僕だって、父親だ!!この子の親だ!!大事な娘が苦しんでるのが分かっていてもどうしようも無いときの気持ちが、君に分かるのか!!」

 俺は、そんな事を叫ぶ魔王に何も言えず圧倒されていた。

 「どれだけ苦しんだか!どれだけ心配したか!どれだけアイリスを苦しめた人間を殺そうと思ったか!君には分からないだろ!!」

 「......」

 この魔王は、ちゃんと父親をやっていた。
 魔王がアイリスの苦しみを一番理解していた。
 魔王が一番心を苦しめていた。

 そんな事が分かって、俺は馬鹿だなと思った。
 親が子供を心配するのは、当たり前じゃないか.....と。

 「......悪かった。分かってないのは俺の方だった」

 「いいさ、僕も誰かにアイリスを放っておいた罰を下して欲しかったんだ...」

 「アイリス、ごめん。お前の父親殴ったりして...」

 「いえ、ユウさんも僕の事を心配してやった事なんでしょ?僕は、その事を分かってますよ」

 「...ありがとう」

 少し重くなった空気に魔王が話し出す。
 俺が殴った怪我ももう完全に治っていた。

 「さて、顔合わせも終わったことだし、案内するよ」

 「案内?私たちを?」

 「君達は、お客様だからね。それに、僕の大切な娘の大切な友達だろ?君達は、勇者でも無いし歓迎するよ」

 「ノアさん、ユウさん、セツカさん。折角なんだから、僕の家に入ってくれないかな?紹介したいものが一杯あるんだよ」

 まるで、子供のようにはしゃいでいるアイリスを見て、俺とノアとセツカは、顔を見合わせて笑う。
 本当に嬉しそうにしているアイリスは、この時間だけ世界で一番幸せそうだった。


 

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