貴方に贈る世界の最後に

ノベルバユーザー175298

第46話 両者の目的


 ゲームなどでも、伝説の魔物として存在しているフェンリル。
 2メートル以上の巨大な体に、白銀に輝く毛が特徴的だ。
 どれ程の強さを持っているのだろうか?

 勿論、油断は出来ない。

 「100%......一撃で終わるなよ」

 飛び込んでくる、フェンリルを迎え撃とうと拳を握りしめて待ち構える。

 「吹き荒れろ『テンペスト』」

 魔法だと...まずい。
 驚きで少し反応が遅れた。
 足元から、もの凄い暴風が吹き荒れる。
 風の強さによって体が空に投げだされてしまう。

 「ぐっ!!」

 風の中には、見えない刃みたいなものも紛れていて体を切り刻もうと襲ってくる。
 だが、俺の体には傷はつかなかった。

 「ほう、これでも傷つかないか。ならば、『バインド』」

 そう、フェンリルが唱えた瞬間。
 体が硬直する。
 どれだけ力を込めても、動かない。

 空中に投げ出された体は、落下を続ける。
 真下には、フェンリルが待ち構えている。

 「人間よ、ここで果てろ!!」

 「まだ...だ」

 限界を超えて、力を解放する。
 200%......

 くそ、動かない!
 なら.....

 「『フレア』」

 真下に向かって、魔法を紡ぐ。
 まるで、太陽のように大きく輝く魔法を見てフェンリルは、驚愕する。

 「何!?」

 よし、体が動く。
 やはり、『バインド』という魔法は、相手を見ていないと発動できない。

 森に直撃する前に、魔法を消す。
 まだ、空を見上げて俺を探しているフェンリルに向かって走り出す。

 「なぁ、フェンリル。降参してくれ」

 目の前に一瞬で着いた俺は、拳を振り上げながら、そう問いかけた。
 フェンリルは、大きく口を開け、

 「人間に、下げる頭は無い」

 そう言った。

 ドガァァァァン

 そこに一つのクレーターが出来上がった。
 木々は折れ、地面がえぐれる。
 見てみると、フェンリルの姿はどこにも無かった。

 「くそ、やられた」

 俺が殴った瞬間にフェンリルは、姿を消したのだ。
 まるで、幻影のように......

 「やはり、お前は危険だ。キサラギ・ユウお前は、世界を壊しかねない力を持っているようだ」

 上からかかる声を、見上げて確認する。
 そこには、フェンリルが居た。 

 「逃げるのか?」

 「本当の目的は達成した。だから、これで良い。次に会うときは、手加減しないぞ」

 フェンリルは、そう言ってまた煙のように消えていった。
 本当の目的......か。
 俺の実力を測る事だろうか?
 それとも、アイリスの事だろうか?

 そうやって悩んでいると、

 「ユウ、大丈夫?服がボロボロ」

 ノア達が近づいてきた。

 「体は何とか大丈夫だ。服は......どうするか」

 「大丈夫、私が直せる。だから...脱いで」

 「いや、ちょっと待てどうやって直す気だ?」

 俺の服は、ズボンも含めてボロボロだ。
 脱げと言われても、男としてさすがに出来ないものがある。

 「服に回復魔法を使う」

 「...ノア。それは、服を脱がなくても出来るよな」

 「......うん」

 「じゃあ、頼む」

 ノアの手が服に触れると、光だした。
 そして、見る見るうちに服は元とおりに戻った。

 どうやら、この世界での回復魔法というのは、傷を癒すというものではなく時間を戻して、怪我を無かったことにする。
 そういう魔法だった。

 つまり、回復魔法を使うには怪我をしてすぐの時間にしないといけないことが分かった。
 もし、古傷を回復魔法で直そうとしたら、一回傷が開いてから元に戻る。
 気を付けないと、同じ痛みを二度味わう事になるのか......意外と大変だな。

 さて、服も戻ったことだし先に進むとするか。
 とうせんぼ、してきたフェンリルも居なくなったことだし。
 それに、さっき俺が地面を殴った事で、発生したクレーターの周囲には魔物は居ないようだし、進むなら今だろう。


 「そうだ、アイリス。あと、どれくらいで着きそうなんだ?」

 「もう少しだと思いますよ」

 「分かった。じゃあ、先に進もう。今なら安全だろう」

 そして、俺達はまた歩き始めた。
 目的の地はもう少しだ。
 魔王に会えば、全てが分かるだろう。

 自分の拳を握りしめ、覚悟を決め魔王城へと進む。


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