貴方に贈る世界の最後に

ノベルバユーザー175298

第44話 動き出す運命


 俺はどうやら寝てしまって居たようだ。
 そろそろ、起きないとな...

 目を覚ますと、目の前にはノアが居た。
 そして、後頭部には柔らかい感触。それと何かいい匂いがする。
 これは......膝枕!?

 「ん、ユウ、動かないで...くすぐったい」

 初めての感覚に心臓の鼓動が早くなる。
 顔が熱くなっていくのが分かる。

 「ふふっ、赤くなってる。可愛い」

 そう言ってノアは、微笑む。
 唇の間から見える八重歯が可愛い。

 無理だ、耐えられない。
 俺はすぐに飛び起きる。
 ずっとしてもらいたいと思うけど、今は別の事がある。

 ノアは、残念そうな顔をしながら立ち上がる。

 「ノア、ごめん。それと、ありがとう」

 「ん、私も。ごめんね」

 そんな言葉を言って、二人で笑いあう。
 ノアが居る、それだけで幸せな時間が過ごせる。勿論、ここにいる誰かが欠けたら、こんな風に笑いあえないだろう。

 大丈夫、そんな未来は来ないと信じている。
 何より、俺がそんな未来を打ち壊す。

 全員が揃っているという、今の時間を大切に守らないとな。


 それと、今は気になる事がある。

 「そういえば、ノア」

 「何?」

 「俺が最初に見付けた、ノアの形をしたものって何なんだ?」

 あの時、実際に俺が目にしたのは、間違いなくノアだったはず。

 「あれは、21階層から出てくる魔物で、『変身』って言うスキルを持ってる。その魔物は、戦っている相手と同じ姿になるっていうものなの」

 だから、ノアが二人居たのか。

 「それと、ユウ。ダンジョンに入るなら、こういう情報もしっかり把握してないと、危険な目に会うよ」

 「次からは、気を付ける事にするよ」

 「次から?今からダンジョンクリアを目指すんじゃないの?」

 「ああ、ダンジョンに挑むのは全てが終わったあとだ」

 「うん、分かった」

 アイリスの問題がまだ残っているし、その問題はなるべく早く解決しておきたいと思っている。
 魔王にも一度会ってみたいしな。

 「よし、それじゃ行きますか」

 「「「おーーー」」」

 「あれ?三人はいつの間に仲良くなったんだ?」

 「内緒です」

 まぁ、仲良くなるのは良いことだ、セツカも二人と話は出来てるし、心配は無いだろう。

 俺達は、ダンジョンを下っていく。
 20階層には、地上に転移出来る魔方陣が置いてある。
 それに乗って俺達は地上に戻ってくる。

 ダンジョンの中には無かった、太陽が眩しく輝いている。
 俺がユニークモンスターの件を解決したことで、すぐにダンジョン内に入っていく冒険者達がいる。

 なるべく目立たないように、冒険者の群れに隠れながら近くの森まで向かっていく。
 町の中で、セツカが見つかったら大変だから、ノアに『偽装』をかけてもらっている。

 周りから見れば普通の人に見えるだろう。

 そして、俺達は騒がれることなく、目立たない場所までくることができた。

 「ふぅ、何とかここまで来たな」

 「ユウ、安心するのはまだ早い」

 「ああ、そうだな」

 まだここは危険だ。
 転移魔法があれば楽なるだがな、そんな便利なものも無いだろう。
 歩くしかないか。

 「...ユウ...ここから歩くの?」

 「まぁ、そうするしか無いしな」

 「...転移すればいい」

 「え?セツカは、転移魔法を使えるのか?」

 「...来たことがある場所と...見える場所だけ」

 確かに、ダンジョンの中で突然出てくるには、転移魔法が必要か。
 見える場所...か。

 「アイリス、魔王城ってどこの方角にある?」

 「えっと、あっちです」

 アイリスはそう言って、指を指す。

 「分かった。じゃあセツカ、こっちに来てくれ」

 セツカを近くまで呼び、俺はしゃがむ。

 「......?」

 「おんぶして行く、俺の背中に乗ってくれ」

 そう言うと、セツカはうなずいて俺の背中に体重を預ける。
 背中に感じる、凶悪な二つの物体があるが...今は耐えないと。

 「今からセツカをおんぶして、魔王城まで行ってくる。すぐに戻ってくるから待っててくれ」

 「はーい」

 「セツカさん、行ってらっしゃい」

 「周りには気を付けるんだぞ」

 俺は、そう言って足に力を込める。
 セツカに負担を与えないような力で地面を蹴って進んでいく。

 「...すごい早い」

 「大丈夫か?」

 「...うん...もっと早くてもいい」

 意外と楽しんでるのかな?
 今は振り向けないけど、何だか楽しそうな雰囲気が伝わってくる。
 ダンジョンから出てから初めて外に出たんだ、色々と思うこともあるだろう。

 「セツカ、今は楽しいか?」

 「...うん...凄く楽しい...ダンジョンでは...こんな事無かった」

 「そうか、それは良かった」

 「...ユウのおかげ...だよ...ありがとう」

 「俺は、当然の事をしただけだ」

 「...うん」

 周りの景色は、すぐに変わっていく、森を抜けて、荒れ地を抜けて......
 そして、高い木が多く生えている森についた。
 今までとは明らかに雰囲気が違う場所。
 ここから先には、行けないかな。

 「ここまでにしよう」

 「...分かった」

 セツカは、すぐに魔法を唱え始める。
 俺の耳にはよく分からない言葉が、聞こえてくる。
 そして、その呪文が終わると、俺とセツカの足元に大きな魔方陣が出てくる。

 そして、一瞬にして景色が変わる。
 さっきまで居た、森の中に戻ってきていた。

 周りにはノアとアイリスが居て、驚いていた。

 「お帰りなさい、ユウ」

 「あの短時間で、もう魔王城まで行ったんですか?」

 「ただいま。それと、まだ魔王城には着いてないんだ。向かっていった先に大きな森があったから、そこで引き返してきた」

 「大きな森......『魔境の森』ですか、あの森は強い魔物が多く居て厄介なんです。僕も家から出たときには、避けて通りました」

 「まぁ、とりあえず行ってみるか。セツカ、頼む」

 「...うん」


 そして、また俺達の足元に大きな魔方陣が出てくる。

 景色が変わり、目の前には大きな森が広がっている。
 本当に転移魔法は、便利だなと思った。

 「おお、ここが...」

 「ユウさん、ここを抜ければすぐに魔王城です。でも、その分危険で...」

 「それは、アイリスが決めてくれ。俺はこの道でもいいぞ。それに、早く会いたいんだろ」

 「はい」

 「決まりだな、みんなもいいか?」

 「勿論。どれだけ強いのかちょっと腕試しもしたいしね」

 「...それで...いい」

 「よし、行くか」

 俺達は、また新たな冒険をする。
 危険な道へと足を踏み入れる。

 だけど、少し楽しみだな...どれだけ強いんだろうか?
 少しの期待を抱きながらも、進んでいく。


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