貴方に贈る世界の最後に

ノベルバユーザー175298

第42話 再び


 ボス部屋を抜け、21階へとたどり着く。
 先程までの洞窟みたいな景色ではなく、木々が生い茂る森だった。

 そして、俺がそこで見たものは、ノアの足跡みたいなものだった。

 何かが焼けた匂い、少し焦げている床、地面にある真っ黒な灰。
 ノアがやったものだとすぐに分かった。
 これを見たアイリスも気付いたようで、

 「ユウさん、もう近くまで来てますよ」

 と言って少しはしゃいでいる。
 その反面、俺の心の中では不安が大きくなっていた。
 なぜなら、ノアが使った魔法はダンジョンの床を焦がす程の威力だったのだ。

 詰まり、それほどの魔法を使わなければ倒せない敵が居ると言うこと。それに、魔法で焦げているところはまだ暖かく、さっき魔法を打ったように見える。

 まだ、ノアは何かと戦っているかもしれない。


 「アイリス、俺はちょっと先を見てくる。だからセツカと待っててくれ、すぐ戻るから」

 身体はすぐに動き出した。

 ノア...ノア...
 嫌な予感がする。
 何かが起こっている、そんな気がする。

 森の中を駆け抜け、人影を探す。
 そして、異常を見つける。

 森の木が焼け焦げていて、少し広い広場みたいになっているところがあった。
 そして、他の木より一際大きな木に寄りかかっている人を見付けた。

 「嘘だろ......」

 そんな言葉がこぼれる。
 遠くから見ても分かる、真っ白に輝く髪、小さな体。
 そして......お腹の辺りに付いている真っ赤な血の色。

 この状況に心臓が止まりそうになる。
 右目だけを大きく開き、その姿を確認する。

 近づいていけば行くほど、分かってくる。
 それが、ノアだと頭の中では理解している、だけど受け入れたくない、これが真実・・だと言うのか?

 木に寄りかかるその人に近づく。
 そして、震えが止まらない自分の手を伸ばす。

 「なぁ、ノア。迎えに来たぞ、ほら、起きろ」

 いつものように、頭に手をのせて撫ようとした時。
 まるで、糸の切れた人形のようにパタリと、倒れた。

 「......」

 もう、言葉を言う事すら出来なかった。
 なんだ、これは...

 頭も回転しない、考える事を拒否している。
 後ろにいる誰かから声が掛かる。

 「これを、貴方はどう思う?」

 「最悪だ...」

 ノアが居なくなった世界なんて、最悪以外の何でもない。

 「貴方はどうしたい?」

 もし、願いが叶うのなら...

 「叶うのならノアを、俺の一番大切な人を生き返らせたい」

 「...ふふっ、ねぇユウ。私はここに居るよ」

 不意に、いつも聞いていた声が聞こえてくる。
 でも、目の前のノアは動いていない。

 「なんだ、幻聴か...本物なら良かったのに...」

 「ユウは、私をいじめてるの? それで楽しんでるの? 確かに私もからかっちゃったけどさ、いい加減、目を覚まして、ユウ」

 そんな声と共に、誰かに背中を叩かれた。
 後ろを振り向くと......

 心配そうに見つめる、ノアがそこに立っていた。

 「......は?」

 視線を前に戻すと、倒れているノアが目に写る。
 あれ? 二人居る?

 「ユウ...もしかして、21階層から出てくる魔物をしらなかったでしょ。駄目だよ、しっかり調べておかないと」

 「なぁ、ノア」

 「ん?」

 「生きてるのか?」

 「私は、しっかり生きてるよ...ほら」

 ノアは、そう言って俺の顔に手を当てる。
 ノアの暖かい体温が肌から伝わってくる。生きているとそう主張している。

 俺は、耐えきれずにノアに抱き付いた。

 「わっ!!ちっょと、ユウ...」

 いつも一緒に居た、ノアのぬくもりを感じる。
 それだけで、安心する。心が落ち着いていくのが自分でも分かる。

 「良かった、本当に良かった」

 「大丈夫、私はここに居るから」

 心の不安が剥がれ落ちた、安心しずきたせいか、涙が出てくる。

 「ふふっ。もう、仕方ないんだから...」

 俺とノアが最初に出会った時のように、優しく頭を撫でてくれる。
 いつもとは、立場が逆だな。

 あの時と同じような森の中でまた、ゆっくりとした優しい時間が流れる。


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