貴方に贈る世界の最後に
第14話 人への憎しみ
目が覚める。
「知らない天井だ」
と、お決まりの台詞を言って周りを見渡す。
すると、ベットに寄りかかって寝ているノアが見える。泣いていたのか、目の周りが赤くなっている。
コンコンコン
「失礼します」
そう言って入ってきたのは、受付の人とギルドマスター。
「起きたようだな、どうだ?体は大丈夫か?」
「おかげさまで、なんとか動けそうだ」
体を少し動かすだけで、全身に痛みが走る。限界を超えて力を使ったから、その制限をくらってるみたいだ。
「すみません。回復魔法では、能力の反動は消せないので」
受付の人は申し訳なさそうだが、
「いえ、大丈夫です。ありがとうございます」
「感謝するなら、お前のパートナーの方だと思うがな。その小さな体でお前をここまで連れ来たんだから。しかも、そのあと2日間ずっとお前の看病をしてたからな」
「2日間!! そんなに寝てたのか...」
ノアを見る。
「そうか...ありがとな、ノア」
ノアの頭を撫でる。
すると、ゆっくりと目が開く。
「ユウ、良かった。もう、起きないかと思って...私...私は一人に」
泣きながら抱きついてくる。
「心配かけてごめんな」
「...うん、もう無茶しないで」
それは、約束出来ないかもな。お前を守る為ならどんな無茶でもするから。
「はぁー。全く、イチャつくのは後にしろ。話がある」
「あぁ」
「まず、お前が戦った相手の『転生者』は、怪我は酷かったが無事だ」
「...そうか」
この手で人を殺したかもしれないと思っていた。でも、力を使って傷つけた事に変わりはない。
「まぁ、それよりも大変な事があるのだが...実際に見たほうが早いか。お前達付いてきてくれ」
そんな事を言われて連れてこられた場所には、あの子がいた。
奴隷になって『転生者』に操られていた子供が
「お前達が助けようとしていた、この子供だが...これを見てまだ助けられると思うか? キサラギ・ユウお前は、どう思う?」
見せられた現実に言葉が出ない。
壊れた人形。
そんな表現が当てはまるだろう。
何も考えてない、何もか感じてないその目に恐怖を感じる。
何をしたら、ここまで人は壊れるんだ。その小さい体でどれ程の苦痛を味わったのか。
体は痣だらけ。力なく椅子に座っている。いや、そこに居るだけ。
「この子は魔族だ。子供だと言ってもこの世界では忌み嫌われる存在。お前は、そんな子供を助けようとしていたんだ。『転生者』の私には分からない事だが、この世界の人間は魔族を見たら殺すか、売るそうだ」
「魔族だから。たったそれだけの理由でこの子は苦しんだのか!!」
「そうだな。だから、この子はすぐに殺される。国によって」
「ふざけるな!!それだけでこの子は殺されるのかよ」
「もう無理だ。諦めろ。国が決定したことだ。だから言っただろ、お前に奴隷は救えないと」
それでも、それでも俺は...
「救ってみせる。何があろうと、俺が救う」
「ユウ、違う。私達が救う」
「お前達は国を、この世界を敵に回して、たった一人を救うのか?その方が馬鹿げている。死ぬぞ」
「構わない。何があろうと、全てを敵にしてもいい。誰かが苦しむ世界は間違ってる。だから、俺が、俺達が変える」
俺は、座っている子供を背負って建物の出口へと向かう。
「ギルドマスター、世話になった。ノア、行くぞ」
「うん」
先の見えない道へ踏み出す。だけど後悔は無い。ノアと二人なら何でも出来る。そんな気がする。
先は見えない。でも、足元は見える。進むべき道があるなら真っ直ぐ進むだけだ。
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行ってしまった二人の影を見る。
「なぁ、リューナ」
「なんでしょう。ギルドマスター」
「英雄って言葉を知ってるか?」
「物語で出てくる、偉業を達成した人のことですか」
「そう、誰かの為に命を張れる。誰かの為に全力が出せる。そんな奴は、もう居ないと思ってた。前の世界では、どれだけ頑張っても駄目だった。目の前で仲間が殺されて思った。誰も英雄には成れないって。人は臆病で、誰かの為に自分を犠牲に出来ないって。実際、私がそうだった。馬鹿みたいに英雄に憧れて...」
「...ギルドマスター」
「でも、あいつらなら。ユウとノアなら、英雄に成れる。そんな気がするの」
「そうですか」
「変えられるかもしれない。この世界を、この世界の真実を...」
消えていった二人を見てそう思う。
「さて、ギルドマスター。まだ仕事が残っているのですから、戻られたほうがいいと思いますよ」
「そうだな」
....あっ。あいつらに話をするのを忘れてた。
まぁ、いいか。じきに分かることだ...
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