貴方に贈る世界の最後に

ノベルバユーザー175298

第23話 異世界の住人


 王都のギルドマスター。
 あの爺さんは、世界最強レベルの実力者みたいだ。

 この世界の実力者に、俺は負けた。油断していたとはいえ、負けた。あの時爺さんが俺を殺そうとすれば簡単に出来た筈だ。

 それをしなかったのは、爺さん自身が、関係ない人を巻き込みたくないと思っていたからだろう。

 まぁ、それより今は、ノアの状態が気になる。
 吸血鬼の能力で怪我は直ぐ治るはずなのに、まだ目を覚ましていない。

 それなら、多分。何かの能力の影響だろう。
 俺みたいに、使ったら動けない能力。

 森の中でノアにステータスを見せて貰った事があったが、多分。

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 -真相:吸血鬼-
 任意発動。最後に血を吸った者のステータスを自分のステータスにプラスする。発動から10秒後動けなくなる。

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 このスキルの影響だろう。

 だけど、このスキルの怖いところは、10秒後動けなくなるとしか説明が無いことだ。

 いつまで動けなくなるのかが分からない。
 もしかしたら、もう二度と動けなくなる可能性だってある。

 それなのに、ノアはこのスキルを使った...

 倒れている俺を守るために。
 このスキルを使うのにどれだけの覚悟をしたんだ?
 もう、動けなくなってもいいと思ったのか?

 それで助けられた、俺はどうすればいいんだ?
 ノアにどんな顔して会えばいいんだ?


 目の前の少女が、もう目を覚まさないかもしれないと思うと、気が狂いそうだ。
 そんな時。

 目が開いて、血のような真っ赤な目が現れる。

 「ノア、良かった。もう目を覚まさないんじゃないかと...」

 たけど、様子が変だ。
 いつも笑顔で喋りかけてくる少女の姿ではない。

 ただ、目だけ《・・》が動いている。

 「...ノア、もしかして...」

 ずっとこのまま...動けない?

 何を言っても、反応してくれない。
 いつものような笑顔が見たい...


 でも、こんな事になったのは、俺のせいだ。
 俺が倒れたから...

 「ノア、ごめん。俺のせいでこんな事になった、俺がもっとしっかりしてれば...」

 そんな事を言った時。
 目の前の少女は、泣いていた。
 涙を流していた...

 「どうして、泣いてるんだ...」

 答えは返ってこない。
 ただ、涙が流れるだけ...

 そして、1つだけ思う。

 「もう、俺は一緒にいない方がいいのか?」

 と、そんな事を...言った。

 「俺と一緒に居て、大変なことばかりだっただろう?なら、俺は...」


    パチン

 自分の頬を叩かれる感覚があった。
 感覚がした方に目を向けると、アイリスがいた。
 そして、アイリスも泣いていた。

 「ユウさん、もっとノアさんの事を考えてあげてください!!ノアさんは、貴方の為に戦ったんですよ!!今、貴方がノアさんにかけてあげるべき言葉があるでしょう!!」

 そうアイリスに言われてから気付く。

 あぁ、俺は何をやってたんだ...
 何でこんな事に気が付かなかったんだろう。

 二人で助け合うって決めたじゃないか...

 「ノア...助けてくれてありがとう。それと、気付いてあげられなくてごめん。今度は、二人で一緒に戦おう。約束だ」

 俺はノアの手を持ち上げ、小指をつなぐ。

 そして、指切りをした。


 ノアの顔がいつものように笑っているように見えた。

 そして、今までの認識を改める。
 ノアは、助けるだけの対象ではなく、一緒に誰かを守るパートナーだと。


 ノアが動けるようになったら、もう一度伝えよう。

 本当のパートナーとして。
 一緒に戦う仲間として。
 もう一度...


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