貴方に贈る世界の最後に

ノベルバユーザー175298

第12話 人間の本性


 旅をした。
 少しの時間だったけど本当に楽しかった。同じ言葉を交わして、笑って、僕にとって大切な時間だった。

 そして街に着いた。
 僕は街に入ることが出来ない。だから、ここでお別れかなと思った。

 「ありがとう。楽しかったよ。君みたいな人間がもっと居ればいいのに」

 「このまま別れるのは寂しいわね。...そうだ、私が今から街でプレゼントを買ってくるよ。それを、同じ魔族の人に見せれば夢に一歩近づくんじゃない」

 「へ?いいんですかそんな事まで」

 「いいのいいの、ちょっと行ってくるからそこに隠れていて」

 「うん、ありがとう」

 その人は走っていった。
 嬉しかった。僕の為にここまでしてくれる事が。本当に実現できるかもしれない、帰ったらみんなに自慢してやろう。
 ふふっ、お父様も喜ぶかな?


 しばらくすると、その人は帰って来た。

 他に5人の人を連れて。

 「あの、その人達は?」

 「私の仲間だよ。...じゃあみんなお願いね」

 5人が走ってこっちに来る。

 「へ?何?」

 どうすることも出来ずに捕まった。

 「ねぇどういうことなの!!」

 一緒に旅をした人に聞く。

 「ふぅー、大変だったよ。あなたを騙してここまで連れてくるのは」

 「何言ってるの?ねぇ?どうして?」

 意味が分からない。体が震えてくる。真実を聞きたくない、でも問わずにはいられなかった。

 「あなたに価値があるからよ。魔族で女の子。しかもものすごく可愛い。売ったらどれだけの値段になるかしら、ふふふ」

 騙された。騙された。騙された。
 頭の中が埋め尽くされる。

 今までのアレは、僕を騙すための...

 考えすぎてなのか、ショックなのか、僕の意識はブラックアウトした。

 気が付くと僕は奴隷になっていた。

 暗い牢屋の中で少ない食事。それが無かった日も多くあった。
 毎日毎日、痛め付けられる。

 それがしばらく続いた。

 もう僕は、なにも考えられなくなった。胸に大きな穴がポッカリ空いているようだった。


 それから何日が経っただろう。
 僕は今日売られるみたいだ。

 ガタガタガタ

 馬車が揺れ動く。

 騙された最初は憎かった。僕を売った人間を呪った。


 でも、...もう




   どうでもいい




・・・・・・・・・・・・・・・・・・・


 さて、馬車を見失ってしまったが、どうするか。
 ...そうだ、ギルドマスターに聞いてみるか。

 「よし、ノア。今からギルドに行って情報を集めよう。そしてわかり次第すぐに助けに行く」

 「うん。急ごう」


 最短距離を走り、ギルドに着く。
 扉を開け、受付の人に話す。

 「すいません、ギルドマスターと会いたいのですが」

 「ユウさん、ノアさん、待ってましたよ。ちょうどギルドマスターもあなた達に話があるようでしたので」

 ギルドマスターの部屋まで案内してくれるようだ。

 コンコンコン

 「入れ」

 部屋に入るとギルドマスターが待っていた。

 「さっそくで悪いんだが話がある」

 「私からも話がある。まぁお前から用件を話してくれ。私は後でいい」

 「分かった。まず、この世界での奴隷について、教えてほしい」

 「奴隷...か。なんだ興味でも出たのか?そんな可愛い連れがいるのに」

 「からかわないでくれ」

 「...まぁいいか。奴隷は犯罪を犯したものや...売られたもの、捨てられたものがなる身分の事だ。そんな事を聞いてどうするんだ?」

 「いろいろあってな」

 「やめとけ、お前に奴隷は救えない」

 「なっ!!そんな事」

 「嘘だな」

 「くっ...それでも俺は、決めたんだ。それだけは曲げる気は無い」

 助けると決めた。ならば絶対に助けて見せる。

 「なら良いだろう場所は教える。自分の目で確かめてこい」

 「あぁ」

 教えてもらった場所は、街の隅。人が寄り付かないような雰囲気の館。
 ギルドマスターの情報網は広く、さっき見た子の居場所を教えてくれた。


 待ってろよ、もう少しで助ける。


 そして、俺とノアは館に踏み入れた。


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