貴方に贈る世界の最後に

ノベルバユーザー175298

第2話 世界の変化


 部屋に戻るとオロオロしている逢坂が見えた。
 まだ、帰って来た俺に気付いてないようで、部屋の中を世話しなく歩いている。
 そして俺を見つけると、

 「良かった~戻ってきたんだね、遅かったから心配だったんだよ」
 
 と言った。心底ほっとしているようで胸をなでおろしていた。
 美少女にこんなことを言われると勘違いしてしまいそうになる。
 自惚れるのも、ここまでにしよう。
 どうやら俺は神と話していて帰ってくる時間が遅くなったみたいだ。

 「悪かったよ。神様と話をしていたんだ」

 「......へぇーあの綺麗な神様と長い時間、話してたんだ、ふーん」

 なぜか、疑いの目を向けてくる逢坂に対して疑問を浮かべる。
 ん?あの神は、綺麗じゃなくて可愛いほうの部類だと思うが......

 「綺麗な神様?子供じゃなくてか」


 逢坂は俺とは別の神から話しを聞いたようだ。

 「えっ?」

 「...神様も3人いるみたいだしな」
 
 俺がそう言うと、何かに気づいたようで逢坂は顔を赤くしていた。
 
 まぁ勘違いは誰でもあるだろう。
 完璧な逢坂でも、こんなことはあるんだなと思った。



 しばらくの沈黙が続き、逢坂が落ち着いたところで
 
 「さて《ランキング》についての話しは神様から聞いたよな」
 
 と、そう話を切り出す。
 逢坂は、俺の秘密・・を少し知っている一人だ。
 だから俺が言おうとしていることを察しているのだろう。

 「...うん」
 
 「俺は、お前にもう迷惑を掛けられない。だから、この世界から居なくなろうと思う。この力も隠せないみたいだしな」

 「......」

 逢坂は何か言いたそうな顔だったが、もう俺を止められないと心の中では分かっているのだろう。

 「...ごめん、逢坂」

 「謝らないでよ!」

 バタンと、部屋の扉を勢いよく開けて部屋から走り去っていく。
 彼女の目には光るものが浮かんでいたのを俺は見てしまった。




・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・



 少し俺の秘密・・について話そう。
 俺がまだ、子供だった時の話だ。


 俺は昔、両親を事故で亡くした。
 それからは、お隣さんであり両親の親友でもあった、逢坂の家の好意によって住まわせてもらっている。
 と言っても、俺は自分の家に居ることが多いが...


 何故、俺の親戚や身近にいる人間が引き取ってくれなかったのは、俺が人間ではあり得ない程の能力があり怖がられていたからだ。
 俺は子供の時から、異常だったのだ。
 それが、俺の秘密。

 だけど、それを知っていても逢坂の両親は引き取ってくれた。その時は本当に嬉しかった。
 初めて心から涙を流したと思う。
 自然と涙が出て来て、止められなかった。


 でも、いつまでも甘えてる訳にもいかないとも思っていた。

 逢坂の両親は本当の家族みたいに接してくれた。
 ......だけど、家に来た当時の俺は迷惑を掛けてばかり。
 自分の家に閉じ籠ったりもしていた。

 だが、そんな俺に話しかけてくれたのは、逢坂 紗弥だった。
 俺の様子を見て心配したのだろう。

 小さい頃から可愛らしかった彼女はどこでも目立っていた、いい意味でも悪い意味でも。

 そして、俺と出会ってから逢坂紗弥は体が不自由になった。
 その不自由になった理由は、俺だ。


 家から出たことの無かった当時の俺は、外の世界がどうゆうものか知りたかった、ただそれだけだった。

 両親の目から離れた時に、俺は外に出た。
 青い空。眩しい太陽。
 全てが新しく見えた。

 閉ざされた檻の中に居るような気がして耐えられなかった、だけどもう自由だ。
 その時の俺の気分は最高だった、知らないものを知れて飛び上がっていた。


 だけど、その時に出会ってしまったんだ、逢坂紗弥と......

 「ねぇ、僕と友達になってくれない?」

 あまりにも可愛いその子にこんなことをいってしまった。
 それに、友達というものに憧れを持っていた。

 そんなこと、急に言われたら普通は、変な奴だと思うだろう。
 だけどその子......逢坂は

 「うん、いいよ。わたし、逢坂紗弥って言うの君は?」

 「お、俺は、如月悠。よろしくね」

 そう言って俺は握手しようと右手を出す。
 この光景は、周りから見れば子ども同士の可愛いやり取りだろう。




  ......だけど



 コレが全ての始まりだった。





 右手を握り返してくれた逢坂の手が潰れた。
 文字通り潰れた・・・

 痛みによって気絶し、倒れていく逢坂を見て慌てて肩を支える。
 その時、力が入っていたんだろうか?

 「バキバキッ」

 と嫌な音がなった。
 ぐにゃりと曲がった足。
 それを見たとき俺の中には、罪悪感しか無かった。

 「あ...あ...こんなつもり...じゃ...無かった...」

 だだ仲良くしたかっただけなのに......

 「どうして...俺が化け物...だから?」

 俺は、ただその場に立ち尽くしていた。
 僕のそのあとの記憶は良く覚えていない。

 だけど、立ち尽くしている俺に車が突っ込んできた。
 咄嗟に、車を止めようとしたが勢いが強く、右側に逸らすしか無かった。

 だが、右側には俺を心配して追いかけてきた両親が......
 全ては、もう間に合わなかった。

 しばらくしてまわりを見ると両親が車に潰されてる光景を目にした。
 車が突っ込んだみたいで壁にめりこんでいた。
 俺が両親を失った出来事と、逢坂と出会った出来事は同時に起こった。

 子どもが見るには、あまりにも無惨な光景がそこに広がっていた。

 
  そこで俺は、意識を失った。

 



 そのあと、直ぐに病院に運ばれた逢坂は、死ぬ寸前だった、血を流しすぎていた、しかも逢坂は、珍しい血液型だったため病院にある輸血の血が足りなかった。
 そんな事は普通あるわけ無いのだが......この世界は、平和過ぎる世界だった為、大きな事故なんて起こらなかった、まして死者が出るような事故なんて起こらなかったのだ、この数年間。

 病院は大混乱だった。
 直ぐに血を提供してくれる人を捜したが居なかった。

 だけど、一人だけ奇跡的にその血液型の人がいたのだ。

 それは...俺、如月悠だった。

 俺は自分の血液を提供した、これは俺のせいで起こったことだから。
 これで俺が犯した罪か軽くなることはない、だけど何かをしないといけないと気がすまなかった。

 そして、時間が無いため直ぐに輸血が開始された。








 結果は分かっていると思うが、逢坂は助かった。

 だけど、彼女にはあの日の記憶が......無くなっていた。
 俺は、毎日のようにお見舞いへ行った。
 何か罪滅ぼしが出来るのではないかと思って。

 毎日、病院の無機質な扉を叩く。
 彼女の元へ......


 そして、しばらくして彼女の体にも異常が起きていた。

 彼女はあり得ない程早く退院出来たのだ。
 死にかけたような怪我を負ったのに、たった二週間で。

 だけど逢坂の足はすぐには治らなかった。
 車椅子での生活をしなければならない程の重症だった。

 だけど、今では、治らないはずの足が治って、運動ができなかったはずの彼女がすごく運動ができるようになったりと言うこともあった。

 医者達は、死にかけた影響で何かが起きたと言っていたが...



 多分、俺の血が混ざったからだと思う。
 俺の力の一部が逢坂に移ってしまったと俺は思った。


 そして、今では軽く部屋の扉を壊すこともできるので多分、俺の考えであっているということなんだろう。



 そして、この事件の俺以外の目撃者は居なかった為、現場で起きていた車の事故に逢坂も巻き込まれたとされ、俺の罪は無かったことに。

 




 ......と、まぁ過去には、こんなことがあった訳だが、こんなことを知ってるのは俺だけなのだ。

 まだ逢坂には、この事は言えていない。
 あの時の記憶が無い、逢坂には俺がどんな人間に見えているだろうか?
 もし、真実を話したときどんな反応をするのだろうか?
 俺は、怖くて言えなかった。

 今でも、逢坂は俺のことを命の恩人だと言っている。
 真実は違うのに......



 事件の起きたあの日から俺は、力の制御をできるように死ぬ気で頑張った。


 もう二度と自分の手で他の誰かを傷つけないように.....


 そして、今度はその力で誰かを助けられるように.....




・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・



 あの神の騒動が落ち着いてから学校が再会した。

 いつものように学校に行って、教室のドアを開ける。
 すると、教室が凍りついた。

 今まで隠していた異常な力が周りに知られた。

 今まで仲良く話していた人も先生も俺の《ランキング》を見た瞬間に俺を、まるで化け物をみるような目で見た。

 唯一、変わらなかったのは、俺の力を知っていた逢坂ぐらいだった。


 俺は、普通の高校生活を過ごしたかっただけなのにな......

 《ランキング》1位とは、一般人とは、次元が違う存在。
 しかも俺は身体能力で1位だ。

 周りから見れば化け物以外の何者でも無いだろう。


 それからの時間は大変だった。

 何をしていても周りから怖がられるようになるという辛い毎日を送った。
 ボッチとは違い、無視されるのではなく、明らかに避けられるのだ。
 そんな空間に、俺は耐えられなくなった。

 途中からは学校に行かなくなった。いや、行けなくなった。
 ある日、学校が終わってからの放課後、忘れ物を取りに教室に戻ると

 「おい、やめとけって、あの化け物にばれたら殺されるぞ」

 「大丈夫だよ、化け物はもう帰った。なにびびってんだ」

 「別にびびってねーよ」

 「そうだぞ、ばれなきゃ大丈夫だ」

 とドアの隙間から中を覗くと、俺の机に集まっている三人がいた。

 そして

 「お、ラッキーあの化け物、体操着忘れていったぞ」

 「お、いいねぇ、やっちゃおっか」

 「へへへへへ」

 俺の体操着を切り始めた。

 「化け物め、ざまぁみろ。逢坂さんに近づくからこうなるんだ化け物の癖に」

 「おい、机にも落書きしようぜ」

 「何て書こうかな~ぎゃははは」

 そんな三人を見て俺は立ち尽くして居た。
 もうこんな世界どうでもいいと思った。

 キィーー

 ドアを開けて教室にはいる。

 「お、お、おい」

 「何だよ、どうしたん......」

 「......」

 「「「うわぁぁぁぁ」」」

 その三人は、ガタガタ震えながらこちらを見ている。

 「ひ、ひ、ひぃぃぃ」

 その中の一人が走って逃げていく、それに続いて他の二人も逃げていった。

 その時に慌てて逃げた一人が階段で転んで頭を強く打った。
 他の二人は、意識を失ったそいつを見捨てて我先にと逃げ出していった。

 その時はざまぁ見ろと思ったが、翌日、その三人は頭を打った奴の怪我は俺が殴ったからだと言ったらしく、俺は停学となった。

 その事を逢坂は 俺がやったんじゃないと言っていたが、一人の力ではその結果もくつがえるはずもなく俺は、学校からいなくなった。



・・・・・・・・・・・・・・・・・・・



  そして、時間は現在に戻る。

 あの出来事からちょうど一年がたとうとしているとき。


 自分の部屋でこの世界での最後になるであろう時間を過ごしていた。

 あと、3分か...結局、逢坂は来なかったな...昨日も部屋から出てこなかったし
 あの時と変わらない部屋。
 ボロボロになった扉を見て今までの事を思い出していると、


 ガタン、バキッ


 と俺の部屋の扉を勢いよく開ける音と壊れる音が聞こえた...

 「...あ、ごめん、てへっ」

 「逢坂...お前...」

 逢坂の目元は赤く腫れていた。
 泣いていたことがすぐに分かった。

 だけど、逢坂は、

 「違うでしょ」

 と言った。
 言われてから気付く。
 いつものやり取りだったな...と、

 「あぁ...そうだな」

 「お前は...今まで俺の部屋の扉を壊した数を覚えているか」

 「324回。いや、そんな..ことより..」

 彼女は、泣くのを我慢しながら言葉を続ける。

 「何がそんなことだ、俺がいつもどんな思いでこの扉を直していると...ってなんで覚えてるんだー」

 そうあの日までは、いつもやっていたやり取りを終える。

 この世界で最後の。

 「逢坂、お前の両親には、凄く感謝している。もちろん、俺のことを怖がらずに話しかけてくれたお前にも、だけどもうこの世界にはいられないんだ、周りの反応を見てただろ」

 「ユウは、化け物じゃないもん。昔だって私を助けてくれた優しい人だもん」

 子供のように彼女は言う。

 「昔から逢坂は可愛いかったから変な奴によく絡まれてたりしてたな。だから守ってやらないとと思っていたんだ」


 「!!...じゃあこれからもユウが守ってよ」

 「それは...」

 すると足下に魔方陣が出てきた
 光る魔法陣は、少しずつその輝きを増していく。

 「時間....みたいだな」

 「待ってよ...」

 そう彼女は頼んでくる。

 だけど、これ以上話していると心残りが出来てしまいそうだ。
 覚悟を決め、別れの言葉を始める。

 「...最後に、色々迷惑かけて悪かったなそれと、今まで色々とありがと...それと、ごめん...サヤ」

 その言葉を残して、如月悠はこの世界から消えた。

 「...ずるいよ、そういうのは」

 もう、一人しかいないその部屋で目に涙を貯めてそう呟いた。


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