双子転生 -転生したら兄妹に分裂してた。天才双子の異世界ライフ-
最終話 双子と……
魔法都市アスパム。
俺たちは宮殿の最上部から街並みを眺めていた。今日はアスパムで数ヵ月に一度開かれる闘技会の日、アスパムには大勢の人々が行き交っている。その中には獣の特徴を残す種族……獣人も多く見られた。
「思えば、パイロヴァニアとの戦いからもうひと月経つんだね」
しみじみとサリアが言う。俺も同じことを考えていたとこだった。
「ああ、あれからはあっという間だったな。パイロヴァニアの再建や怪我人の治療、ゲルスはじめ軍部の人間の対応……それに」
「私とリオネの結婚ね。まさかあんな派手な披露宴をやるなんて」
「仮にも領主と王家の結婚だ、妥当だろう。俺らのいた世界とはだいぶやり方が違うのには驚いたがな」
「でも、ま……なんだかんだ、どうにかなったね」
「そうだな……」
少し感慨深くアスパムの街を見下ろす。平和、という言葉が今の俺らにはしっくりくる。
俺らの後ろに彼女が現れたことを感じ、同時に振りむく。そこには白い装束を着た幼い少女……神が立っていた。
「久しぶりだな、神様。パイロヴァニアで会って以来だな」
「久しいとは言ってくれる、神に対しひと月ぶりで『久しい』などと言えるのはお主らくらいのものだぞ?」
「しょがないよ、元神には毎日のように会ってるもん」
「まったく……」
神は苦笑していたが、その雰囲気は穏やかだった。
「しかし、今回はお主らはよくやってくれたよ。この世界のことだけでなく、我々の側の都合にも巻き込んでしまいどうなるかと思ったが……見事に丸く収めてくれた」
「俺らだけの力じゃない、メイリアにポップ、ミリアにヒトミ、何人もの協力の結果だ」
「もちろん神様もね。パイロヴァニアの一件では改めて、私たちの能力の限界とも向き合うことになったしいい機会だったと思う」
「お主は伴侶も手に入れたことだしな?」
「はいはい。相変わらず神様の癖にからかい方がちっちゃいなあ」
「うぐっ」
サリアの言葉に少しダメージを受けた様子の神だったが、おほんと話を仕切りなおした。
「ともあれ……忠告はしておいたが、この件を収めてくれて感謝している。改めて、お主らに力を与えたこと、正しい選択だったと胸を張れて嬉しいぞ」
神様から直々に言われ、俺らは目を合わせて笑った。自分の存在を認められるというのは嬉しいものだ。かつては自分自身でさえそれができなかった俺らには、特に。
とその時、この宮殿屋上へ続く階段から足音が聞こえ始める。
「誰ぞ来るな、私はここらで退散しよう。これからもお主らのこと、期待しておるぞ」
「ああ、任せてくれ」
「私たちも恩返しがしたいものね」
「ふふふ……では、さらばだ」
神は微笑んだ後、その場からふっと消えた。そして入れ替わるように階段を駆け上がってきたのはメイド服を着た小柄な女性。ぐるぐる眼鏡をかけてはたきを片手にした女性はえらく不機嫌だった。
「ったく! こんなとこにいたのかよ、このオレを走らせやがって……」
メイドの名はゲルス・ワースト、正真正銘の極悪狂人にしてパイロヴァニア関連の全ての事件の元凶。今は俺らの屋敷のメイドだ。
「ゲルス、もう時間か?」
「そうだよ! 闘技会が始まるからお前ら呼べって! このオレにこんなくだらねーしごとさせやがって……あとリオネが衣装選び手伝ってほしいとよ、どーせいちゃつく口実だろうがな、ついでにグリーンの奴が仕事忘れてやがるからてめぇらから言っときな!」
「りょーかい、あいかわらずいい仕事だねゲルス」
「誰がやらせてるってんだ! ったくよォ」
ゲルスからすればメイドとして働くことは屈辱以外の何物でもないだろうが、俺らとしてはこのこの危険人物を手元に置き、かつとにかくゲルスは頭がいいので色々と役立っている。なんだかんだゲルスも他のメイドと親しくしたりメイド業に馴染んできているようにも見えた。
「確かに伝えたぞ! オレはまだ掃除の途中なんだ、余計なことさせんなよな!」
ゲルスはぷりぷりしながら帰っていった。俺らは肩をすくめて見つめ合う。
「行くか。俺はグリーンさんに一声かけていこう」
「私はリオネのとこ行くよ、本当に世話が焼けるんだから」
「そういうなよ、大事な嫁だろ? 前世と違ってリアル美少女嫁なんだからもっと喜べよ」
「私は色々複雑なの! セイルも同性と結婚してみれば? グリーンさん喜ぶよ」
「ばっ、バカ言うなっての!」
いつものようにふざけながら、俺たちはその場を後にした。
闘技会はつつがなく進行した。
いつものように私とセイルがオープニングでパフォーマンスし、その後も討伐や対決などのバトルが続いていく。今回は何より、大勢のゲストが参加してくれた。
ヒトミとミリアは氷の魔法で美しく召喚竜を倒したし。
メイリアちゃんとポップの凸凹姉妹も剣術や魔法、そしてメイリアちゃんのキャラで観客を盛り上げて。
カインは自分のものにしつつある魔晶兵の力で何人もの男をなぎ倒した。
魔法学校の先生たちもしっかりとした魔法を見せてくれて。
シィコ、そしてなんとシィコが連れてきたドラゴンたちの模擬戦もド迫力だった。
今は友好国のパイロヴァニアの人たちも闘技会に参加して……ゲルスはさすがに出れないけど。
友好の象徴でもあるリオネと私の夫婦(一応私が夫らしい)も、協力してレグルオ王を倒すなんてパフォーマンスをしたり。
平穏の中、闘技会は続いていき……ついにその時が来た。
「魔術結界、OKですよぉ~」
「こちらも万事備えた。何があろうと割れることはまずない」
「私の氷でも補強してあるからね、全力でやっていいわよ!」
魔法学校の先生とミリアが観客に被害が出ないよう頑丈な結界を張る。魔法都市アスパムの広大な中心広場全体を覆う魔法のバリア、その中にいるのは私ともう1人だけ。
いつものように隣には並ばず、真正面から対峙する我が兄にして半身。挑戦的に笑うその表情、きっと私もそっくり同じ表情を浮かべていたんだろう。
そう、闘技会のフィナーレは、私とセイルの直接対決。並んで天才と称されるフェルグランド家の双子が、模擬戦とはいえぶつかるのだ。
「思えば……ずっと戦いは共にしていたが、こうして対決する機会はほとんどなかった」
「うん。ちょっと前までは戦ってもまったく互角で勝負はつかなかったけど……今はどうかな?」
私とセイルは同一人物、記憶も思考も共通している。それはもはや言うまでもないが……転生して生きていく中で、私たちは成長している。
かつては自分という存在を疎み、命すら軽んじた私……あるいは、『俺』。でも今は違う。自分という存在を誇れるし、そうありたいと思っている。
永遠に私たちはいっしょじゃない。セイルはセイル、サリアはサリア、それぞれ1人の人間なんだ。この世界で生まれ、色んな人と出会い、様々な経験を越えて、私たちの存在はより色づき輝いていく。別々に、それぞれに……存在を持って。
今の段階ではどうだろうか。それを確かめるのだ。
「いくぞ」
「いくよ」
私たちは頷き合うと、お互いに向かって駆け出した。
友達の声、家族の声、たくさんの人々の声が、私たちを包み込んでいた。
俺たちは宮殿の最上部から街並みを眺めていた。今日はアスパムで数ヵ月に一度開かれる闘技会の日、アスパムには大勢の人々が行き交っている。その中には獣の特徴を残す種族……獣人も多く見られた。
「思えば、パイロヴァニアとの戦いからもうひと月経つんだね」
しみじみとサリアが言う。俺も同じことを考えていたとこだった。
「ああ、あれからはあっという間だったな。パイロヴァニアの再建や怪我人の治療、ゲルスはじめ軍部の人間の対応……それに」
「私とリオネの結婚ね。まさかあんな派手な披露宴をやるなんて」
「仮にも領主と王家の結婚だ、妥当だろう。俺らのいた世界とはだいぶやり方が違うのには驚いたがな」
「でも、ま……なんだかんだ、どうにかなったね」
「そうだな……」
少し感慨深くアスパムの街を見下ろす。平和、という言葉が今の俺らにはしっくりくる。
俺らの後ろに彼女が現れたことを感じ、同時に振りむく。そこには白い装束を着た幼い少女……神が立っていた。
「久しぶりだな、神様。パイロヴァニアで会って以来だな」
「久しいとは言ってくれる、神に対しひと月ぶりで『久しい』などと言えるのはお主らくらいのものだぞ?」
「しょがないよ、元神には毎日のように会ってるもん」
「まったく……」
神は苦笑していたが、その雰囲気は穏やかだった。
「しかし、今回はお主らはよくやってくれたよ。この世界のことだけでなく、我々の側の都合にも巻き込んでしまいどうなるかと思ったが……見事に丸く収めてくれた」
「俺らだけの力じゃない、メイリアにポップ、ミリアにヒトミ、何人もの協力の結果だ」
「もちろん神様もね。パイロヴァニアの一件では改めて、私たちの能力の限界とも向き合うことになったしいい機会だったと思う」
「お主は伴侶も手に入れたことだしな?」
「はいはい。相変わらず神様の癖にからかい方がちっちゃいなあ」
「うぐっ」
サリアの言葉に少しダメージを受けた様子の神だったが、おほんと話を仕切りなおした。
「ともあれ……忠告はしておいたが、この件を収めてくれて感謝している。改めて、お主らに力を与えたこと、正しい選択だったと胸を張れて嬉しいぞ」
神様から直々に言われ、俺らは目を合わせて笑った。自分の存在を認められるというのは嬉しいものだ。かつては自分自身でさえそれができなかった俺らには、特に。
とその時、この宮殿屋上へ続く階段から足音が聞こえ始める。
「誰ぞ来るな、私はここらで退散しよう。これからもお主らのこと、期待しておるぞ」
「ああ、任せてくれ」
「私たちも恩返しがしたいものね」
「ふふふ……では、さらばだ」
神は微笑んだ後、その場からふっと消えた。そして入れ替わるように階段を駆け上がってきたのはメイド服を着た小柄な女性。ぐるぐる眼鏡をかけてはたきを片手にした女性はえらく不機嫌だった。
「ったく! こんなとこにいたのかよ、このオレを走らせやがって……」
メイドの名はゲルス・ワースト、正真正銘の極悪狂人にしてパイロヴァニア関連の全ての事件の元凶。今は俺らの屋敷のメイドだ。
「ゲルス、もう時間か?」
「そうだよ! 闘技会が始まるからお前ら呼べって! このオレにこんなくだらねーしごとさせやがって……あとリオネが衣装選び手伝ってほしいとよ、どーせいちゃつく口実だろうがな、ついでにグリーンの奴が仕事忘れてやがるからてめぇらから言っときな!」
「りょーかい、あいかわらずいい仕事だねゲルス」
「誰がやらせてるってんだ! ったくよォ」
ゲルスからすればメイドとして働くことは屈辱以外の何物でもないだろうが、俺らとしてはこのこの危険人物を手元に置き、かつとにかくゲルスは頭がいいので色々と役立っている。なんだかんだゲルスも他のメイドと親しくしたりメイド業に馴染んできているようにも見えた。
「確かに伝えたぞ! オレはまだ掃除の途中なんだ、余計なことさせんなよな!」
ゲルスはぷりぷりしながら帰っていった。俺らは肩をすくめて見つめ合う。
「行くか。俺はグリーンさんに一声かけていこう」
「私はリオネのとこ行くよ、本当に世話が焼けるんだから」
「そういうなよ、大事な嫁だろ? 前世と違ってリアル美少女嫁なんだからもっと喜べよ」
「私は色々複雑なの! セイルも同性と結婚してみれば? グリーンさん喜ぶよ」
「ばっ、バカ言うなっての!」
いつものようにふざけながら、俺たちはその場を後にした。
闘技会はつつがなく進行した。
いつものように私とセイルがオープニングでパフォーマンスし、その後も討伐や対決などのバトルが続いていく。今回は何より、大勢のゲストが参加してくれた。
ヒトミとミリアは氷の魔法で美しく召喚竜を倒したし。
メイリアちゃんとポップの凸凹姉妹も剣術や魔法、そしてメイリアちゃんのキャラで観客を盛り上げて。
カインは自分のものにしつつある魔晶兵の力で何人もの男をなぎ倒した。
魔法学校の先生たちもしっかりとした魔法を見せてくれて。
シィコ、そしてなんとシィコが連れてきたドラゴンたちの模擬戦もド迫力だった。
今は友好国のパイロヴァニアの人たちも闘技会に参加して……ゲルスはさすがに出れないけど。
友好の象徴でもあるリオネと私の夫婦(一応私が夫らしい)も、協力してレグルオ王を倒すなんてパフォーマンスをしたり。
平穏の中、闘技会は続いていき……ついにその時が来た。
「魔術結界、OKですよぉ~」
「こちらも万事備えた。何があろうと割れることはまずない」
「私の氷でも補強してあるからね、全力でやっていいわよ!」
魔法学校の先生とミリアが観客に被害が出ないよう頑丈な結界を張る。魔法都市アスパムの広大な中心広場全体を覆う魔法のバリア、その中にいるのは私ともう1人だけ。
いつものように隣には並ばず、真正面から対峙する我が兄にして半身。挑戦的に笑うその表情、きっと私もそっくり同じ表情を浮かべていたんだろう。
そう、闘技会のフィナーレは、私とセイルの直接対決。並んで天才と称されるフェルグランド家の双子が、模擬戦とはいえぶつかるのだ。
「思えば……ずっと戦いは共にしていたが、こうして対決する機会はほとんどなかった」
「うん。ちょっと前までは戦ってもまったく互角で勝負はつかなかったけど……今はどうかな?」
私とセイルは同一人物、記憶も思考も共通している。それはもはや言うまでもないが……転生して生きていく中で、私たちは成長している。
かつては自分という存在を疎み、命すら軽んじた私……あるいは、『俺』。でも今は違う。自分という存在を誇れるし、そうありたいと思っている。
永遠に私たちはいっしょじゃない。セイルはセイル、サリアはサリア、それぞれ1人の人間なんだ。この世界で生まれ、色んな人と出会い、様々な経験を越えて、私たちの存在はより色づき輝いていく。別々に、それぞれに……存在を持って。
今の段階ではどうだろうか。それを確かめるのだ。
「いくぞ」
「いくよ」
私たちは頷き合うと、お互いに向かって駆け出した。
友達の声、家族の声、たくさんの人々の声が、私たちを包み込んでいた。
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