双子転生 -転生したら兄妹に分裂してた。天才双子の異世界ライフ-

八木山蒼

第71話 諸悪の根源

 唐突に、なんら前触れなくそれは始まった。
 私たちを襲う激しい揺れ。地下全体が震え、立っていられずに私たちは身を屈めて耐える。ゲルスの部屋の物品も見る間に崩れ、固定されている一部を除き秩序を失って散乱する。震度でいうとざっと5はある、かなり強い揺れだった。
 1分ほどで揺れは収まり、なんとか立ち上がった。

「……セイル」
「ああ」

 私たちはある確信と決意を胸の内に固め、頷きあった。



「セイルさん、サリアさん! だ、大丈夫でしたか? ゲルスも、地震も……」

 戻ってきた私たちをヒトミが迎える。私たちは大丈夫と伝えた後、セイルが肩にかついでいるゲルスを指した。

「終わったようだな……だがゲルスは始末しなかったのか?」
「ああ、殺すのも気が引けてな」
「フン、貴様ららしい甘さだよ」

 カインはそう言ったが、実のところ死よりも酷いことをしているかもしれないことは黙っておいた。
 レグルオ王は仰向けに倒れ眠っていた。一度は目を覚ましたもののやはり戦闘のダメージは深刻だったのだろう。メイリアとポップはなぜかいなかった。

「バンディ姉妹は? 姿が見えないが」
「ポップ曰く『自分のツケは払わなくちゃ』とかいって、ゲルスに利用されてた兵士を助けるために外の兵を呼びに行った。メイリアはその手伝いだそうだ」
「そうだな、まだこの部屋の魔導鎧にも大勢の兵士が捕らわれている、助けてやらないといけない」
「でもその前に、私たちにはやることがあるんだ」
「やること?」

 王を倒し、ゲルスを倒し、もはやパイロヴァニアに戦いの意思はなく、戦いは終わったように思える。だがまだ根本的には解決していないのだ。

「私たちが勝ったところでパイロヴァニアの問題は何も解決してない、王が言った通りこのままじゃパイロヴァニアは滅ぶだけ」
「パイロヴァニアも救って初めて、この戦いを終えることができるんだ」

 パイロヴァニアの『計画』は私たちを洗脳して莫大な軍事力を手にし、他国を侵略して領土を拡大すること。逆に領土が必要だったのには理由がある。

「日増しに強くなる地震が国民の恐怖を煽り立て……」
「獣人への迫害の歴史から国外に出れない閉塞感が不安を蓄積させた。それを解決させなきゃね」

 諸悪の根源たるゲルスはもう無力化した、それ以外に俺らがパイロヴァニアを憎む理由はない。王はもちろんメイリアやカインが愛した国だ、可能ならみすみす滅ぼしたくはなかった。

「だが……どうやって? そう簡単に解決できればそもそもパイロヴァニアも『計画』などいらなかった。特に地震だ、いかにお前らといえど、自然に逆らうことはできないだろう」

 カインが忠告する。彼の言う通り、いかに俺らでも自然現象を完全に操ることなどできない。
 だが。

「この揺れが、自然のものだったらね」
「……なに?」

 かつて地震だらけの国に住んでいた私たちは知っている。パイロヴァニアを襲っている振動は、いわゆる地震ではないと。

「最初からおかしいとは思ってたんだよ、地震にしては強さが一定過ぎるし揺れ方も変で、範囲も狭すぎる」
「アスパムで少し調べてみたがパイロヴァニア周辺には地震の条件となるような地形もない。これは地震じゃない、それは断言できる」
「なんだと? だ、だが、じゃあいったいなんなんだ?」
「それは見ればわかると思うよ」

 怪訝な表情を浮かべるカインとヒトミ。2人を促すように私たちは……ゲルスに視線を向けていた。



 ポップたちに呼ばれた兵がやってきて王が搬送されるのを待ってから、私たちはそこへと向かった。
 パイロヴァニア地下に広がる広大な地下道。その最深部がゲルスの研究室。
 しかし実はその研究室にも奥があり、秘密の扉が隠されていた。その扉を抜け、用意されていた設備(驚いたことにエレベーターに似たものがあった)でさらに地下へ地下へと進んでいく。パイロヴァニアのはるか下、通常ならば絶対に人が踏み入ることなどできない領域へ。

「こっ……これは!?」

 カインが驚き絶句する。ヒトミも言葉を失っていた。
 地下には巨大な空間があった。人の手で掘削されたのだろう、あちこちに金属の補強がなされ、簡素な設計ながらも通路などが組んであり、またあちこちに『それ』を運び出すためであろう魔導ゴーレムやクレーンなどが備えられていた。
 地下の空間をいっぱいに占めるのは、巨大な魔水晶だった。石英とよく似た六角形の結晶を無数に集結させ、黒紫色の怪しい輝きに満ちている。その大きさは人間の体と比較して軽く数百倍……マナの固体化したものである魔水晶、その内に秘める莫大なエネルギーは抽出されていない生の状態でもビリビリと感じた。

「実はずっと疑問だったんだ、ゲルスの魔法技術は種類を問わずほとんど魔水晶を介して扱われていた」
「でもその魔水晶はいったいどこから来ていたのか? ゲルスもエネルギー問題には苦心していたからね、何か秘密があると思ってたの。案の定だったね」

 拳大の魔水晶でも人間を殺せるくらいの魔力を秘めている、目の前の魔水晶はその何千倍という魔力を蓄えているわけだ。

「おら、説明しろ」
「ぐっ……ちっ」

 セイルが担いでいるゲルスに促す、説明させるために目は覚まさせておいたのだ。ゲルスは不服そうな顔をしながらも命令には逆らえず説明した。

「そもそもオレは魔水晶研究が専門だったんだよ、自然に埋設された魔水晶の探索だって世界一だ。だが肝心の魔水晶の不足で満足な研究ができなかった。パイロヴァニア地下にこの大魔水晶を見つけた時は心が躍ったぜ、天才的頭脳を存分に奮えるわけだからな。すぐに王と軍部に取り入って魔術技官の地位を手に入れて地下道を開拓し、秘密裏にここまでの連絡路も作ったわけだ」
「お前以外、誰もこれの存在は知らなかったのか?」
「当たり前だろ、下手に漏れればこいつを狙う輩も出てくる、だーれがこんなお宝を他人に渡すかってんだ。軍総帥も王も知らねえよ」
「なるほどな、つまり……」

 私はセイルに合図してゲルスの身柄を引き受ける。怪訝そうな目を向けるゲルスの服を、私は引っぺがした。

「なにもかもあなたが元凶だったってわけだーっ!」
「ひ、ひえええっ!?」

 白衣と布服を脱がされゲルスは下着姿となる。白衣の下のピンク色の下着姿は意外と女らしい。

「ななななななな、なにしやがるんだっ!?」

 顔を真っ赤にし、慌てて体を隠すゲルス。洗脳により元男のつもりの彼女にはかなりの羞恥だろう。私にはよくわかっている、だからやったのだ。

「ホントはぶん殴りたかったんだけどこれで済ましてあげる。つくづく諸悪の根源だねあんた」
「お前も薄々わかってたんだろ? この大魔水晶が、パイロヴァニアの地震の原因だって!」

 セイルが追及するとゲルスは罰悪そうに目を逸らした。図星だったのだろう。

「魔力ってのはマナの振動で生まれるエネルギーだ、この魔水晶からエネルギーを取り出すとなるとそれはもうとんでもない振動エネルギーになる」
「頻繁にエネルギーを取り出してたからかだいぶ不安定な状態になってる、地震はそのエネルギーの暴発が原因だね。一応の封印はされてるけど完璧じゃない……むしろ一度に大爆発を起こしたりしないよう、適度に小出しするようにあなたが設定したんでしょ?」

 さらなる追求にもゲルスは答えられず、ただただ居心地悪そうに黙秘する。肯定を意味することは疑いようもなかった。
 私たちはもう怒りも通り越して呆れていた。

「王があれほど思い悩み、国民も苦しんだ地震の原因までもがあなただったなんてね……」
「もう更生なんて期待せずにぶっ殺した方がいい気もしてきたよ」
「ひっ! い、命だけは……」
「安心しろよ、助けてやる。ただしちゃんと反省して協力しろよ? この大水晶を止めるにはどうすりゃいい?」
「言っておくけどパイロヴァニアのためにならない返答に対してはいくらでもお仕置きするからね」

 ゲルスの所業は許せないがその知識と技術は本物、しっかりと利用させてもらった方がいい。特にゲルスの悪行の尻拭いのためには……軽く脅しつけると、ゲルスは大人しく降参したようだ。

「そ、そこにいる魔晶兵にやらせろよ。魔水晶に対しては逆波長の振動をぶつけりゃ無効化できる、大魔水晶の波長を解析して魔力を撃ち続ければそのうち消え失せるぜ。お前らの無尽蔵な魔力を魔晶兵に注ぎ込み続けて、大魔水晶が消えるまでやりゃいいよ!」
「本当か? 嘘じゃないな?」
「おおおおおオレはお前らに洗脳されて逆らねーんだろ! 疑うなら命令でもなんでもして確かめろよ!」

 その後ゲルスの言う通り正式に命令して確認した本当のようだ。ついでに「こんな貴重なものを消すなんてどうかしてるぜ」という本心も聞けたが。

「カイン、話はわかったな。やったくれるな」
「無論だ……俺とてこの国ために戦ってきた、この力でこの国を救えるならば本望。ちと思い描いた形とは違うが……これもまた『英雄』の仕事」
「そうだね。それじゃあ私たちもサポートするから、やっちゃおう!」

 大魔水晶へとカインが進み出て、全身から魔力を高めつつ腕を構える。体内の魔水晶を振動させ、エコー検査のように弱い振動を魔水晶にぶつけて波長を調べる。やがて息を整え、カインは魔力を解放した。

「行くぞ……【水晶の終劇】!」

 カインの魔水晶が魔力波を放ち、次々に大魔水晶の魔力波長と干渉し相殺していく。

「俺たちも!」
「うん!」

 私とセイルはカインへと魔力を送り込みそのサポートをした。手を繋ぎ融合魔導の要領で私たちの魔力を合わせれば、大魔水晶の魔力にも匹敵させられるだろう。
 大魔水晶はだんだんと小さくなり……やがて消えたのだった。



 長く続いたパイロヴァニアとの戦いは複雑に絡んだ糸が解け、終息に向かっていく。もはや戦う意思を持つ者はおらず、元凶たるものも消え去った。
 だがまだひとつ、私たちには……いや私にはやらなければいけないことが残っている。それはこのパイロヴァニアを救うため、そして1人の少女のために固めた私の決断だった。

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