双子転生 -転生したら兄妹に分裂してた。天才双子の異世界ライフ-

八木山蒼

第63話 再会

 旅立ってからほんの数分でセイルは帰ってきた。手には淡い光を宿していた。

「おかえりセイル……もう終わったの?」
「ああ、バッチリだ。あとはこの記憶をお前に渡すだけだ」

 鈴木健司としての記憶が宿っているらしい手を私に見せるセイル。私はごくりと唾を呑み込んだ。
 私がかつて異なる世界で男として生きてきたという事実……正直、未だに信じがたい。セイルの言葉でなければ一笑に付していたところだろう。だが同時にそれまではセイルと同一人物だったということに、セイルとの間に感じる一体感の説明が落ち着くのもまた事実。
 これまでできていたはずのことができなくなっているのだ、今の私が今までの私とは違うことはもはや疑いようがない。後は私の覚悟ひとつ。

「サリア、覚悟はいいか? お前のタイミングで言ってくれ」

 セイルも私の心中を察しているのだろう、慮ってくれていた。
 本来失われたものを取り戻すだけ……しかし今ここに生きている私にとっては、それは今を壊す行為に他ならない。私が私でなくなるかもしれない、それが落ち着くべきことだとしても、怖い。
 だが……覚悟は決めていた。セイルが信じているのなら、私も信じる。

「うん、いいよ。お願いセイル」

 私は覚悟を決めて目を閉じる。セイルの手が伸びてくるのがわかった。
 ついにセイルの手が私の頭に触れた。少しの温かみと共に、記憶が私の中に流れ込んできた。
 ああ、とうとう終わるんだな、私はこれで……私……私?
 私の中に流れ込む、前世の記憶。それが自分のものだとすぐにわかった。これまで心のどこかで感じていた違和感とは真逆な外れていたピースがぴったりとはまる充足感、怖れていたような自己の消失などはなかった。
 むしろ新しい記憶が来るよりも鮮烈に私の脳裏に浮かんだのは……私の、記憶を失っていた頃の言動だった。

 セイルを『お兄ちゃん』と呼んだこと。

 セイルの前で裸を恥ずかしがったこと。

 セイルに少しだけときめいたりしたこと。

 その他諸々、女としては当たり前で……元男としては恥ずかしい限りの記憶の数々。

「あ、あ、あ……!」

 みるみるうちに私の顔は赤面し、思わず頭を抱えた。

「ど、どうしたサリア? 何か異常でもあったか!?」

 セイルは素直に心配してくれているのだろうが、私はただただ首を振るしかできなかった。

「うるさい……ほっといて……うぅ……」

 私はとにかく恥ずかしくて消え入りそうだったが、追い打ちをかけてきた奴がいた。

「サリアちゃんはお兄ちゃんの前で恥ずかしいみたいだよ? 女の子だからね、フフッ」
「ぽ、ポップぅ!」

 相も変わらずニヤニヤ笑いのポップ。元神だというのにこの俗っぽさはなんなのだ。
 しかもポップのその言葉でセイルも事の次第を察したらしく、ポップみたいにニヤッと笑った。

「なんだサリア、女の子なんだから恥ずかしがることないだろ? お前はかわいい妹だぞ?」
「う、うるさいバカっ! 私は男! まだ男ぉっ!」
「ははっ、よかったな、記憶が戻って。もっと黒歴史が増える前にね」
「うるさいってのぉっ!」
「いやあ、よかったよかった」

 もはや涙目で抗議する私をセイルはからかうように笑っていた。
 ……だがやがて、その瞳から涙がこぼれた。

「よかった……本当に。お前が戻って来てくれて、よかった」

 堰を切ったようにセイルの瞳から涙が溢れだした。頬を涙が伝いこぼれていく。その涙を見て、私もセイルが抱いていた感情を理解した。
 私もまた、助けられたのだ。もしあのまま記憶が失われていたら、本当の私こそ永遠に消えていたのだ。特にかつて鈴木健司だった男は、体も、心も、記憶も失い……この世から完全に消滅するところだった。セイルに救われたんだ。

「うん……ありがとう、セイル」

 自然と、私たちは抱き合っていた。双子として、同じ人間として。
 再会できたことを喜び合った。

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