双子転生 -転生したら兄妹に分裂してた。天才双子の異世界ライフ-
第62話 訣別
俺はその日もゲームに明け暮れていた。
学校には行く気がしない。友達もいないし、勉強したところで身に着かないし意味がない。そもそも地頭がそうできてるんだ、悪いのは親だ、友達ができない性格なのも親がそう生んだんだから仕方がない。
そうだ、環境が悪いんだ。生まれ持ったものが悪いならどうしようもない。いっそ一度死んで生まれ変わった方がいいのに……そんなことも考えていた。
そういえばあれは夢だったのだろうか、この部屋に神が現れて転生させるとかなんとか……結局それ以来何もなく、俺はピンピンしてここにいる。やはり寝ぼけて夢か何か見たのだろう、そういえば徹夜でゲームした翌日だったかもしれないし。俺は俺のままだった。
これからどうなるのか、ということは考えたこともある。学校に行かずに部屋でゲームして、時間が経って……その後は?
「ま、いいや」
俺は俺だけの部屋でそう呟き、ゲームを続けた。どうにでもなるだろう、別に死んだっていいんだ。どうせどんなにがんばっても俺のような人間には人間としての上限が決まっていて、それは他の人間にとっては下限だったりする。そんなものだ。努力したところでどうしようもない。
いっそ今死んでしまうのもありかもしれない……俺はそんなことすら思っていた。
「またあの神みたいなのが出てきたら、ちったあ面白いんだがなあ」
一区切りついたゲームを放り投げて、俺はベッドに転がった。
その時、空間が裂けた。
空間を引き裂いて、俺は狭い部屋に降り立った。
懐かしい部屋だ。狭くて、臭くて、散らかっている。脱ぎ捨てた服と下着、適当に読み散らかした漫画、置き場所のないゲーム。15年ぶりにやってくる自室……こんな部屋でも、二度と来ることはないと思っていたから感慨深いものだ。
「な、なんだ……お前」
よれよれのベッドの上で、かつての俺が俺を見て目を丸くしている。改めてみてもさえない風貌だ、身だしなみに気を使ってない分いっそう小汚く見える。だが久々に見ると懐かしくも思えるから不思議なものだ。
「意外と冷静だな、もっと騒ぐと思ったが。神に一度会ってるからか?」
「あ、ああ……で、お前は誰だ。また神か?」
「そんなもんじゃあないさ、お前と同じ人間だ」
俺はちらりと部屋のドアに目を向けた。そこを開けば下の階には母さんがいるだろうし、外には俺のよく知る世界が広がっているのだろう。もう二度と会うはずのなかった人、来るはずのなかった世界……見てみたい気もするが、ここに来る前に、もう関わらないと決めていた。
真実を知らなかったとはいえ、俺は一度死んで転生することを選んだ身。様々なものを得た代償として、失わなければならないのは当然のことだ。
「見たところあの日から数日ってとこか……あまり長くこっちにはいられない、手早く用事を済まさせてもらうぞ」
「な、なにを……」
俺は目の前の鈴木健司に対し手をかざした。すると彼の頭から記憶が光となって漏れ出し、俺の掌の中に収まった。といっても記憶を奪ったわけでなく、複製を作っただけだ。今の俺が生まれたように。
「考えてみりゃお前が本物で、俺は紛い物のクローンなんだな……少し複雑だよ」
何が起こってるのかわからず鈴木健司は目を白黒させていたが、あくまでもこの男が記憶の本体、俺やサリアはそこから生み出された分離体にすぎない。そう思うと俺という存在はあまりにも不確かなものだが……セイルとして生きた15年は、鈴木健司とは違う俺という個人を作るのには十分なものだった。
逆に、本来主人格たる男の方が自分を見失い、鬱屈とした生活を送っている。もちろん俺にはその気持ちはわかっている、だが……
「記憶をもらった代わりに、少しだけお返しをしよう」
俺は記憶を受け取った手で、今度は逆に相手に対し送り出した。
「俺の向こうの世界での記憶……というよりは、そこで学んだことや、思ったことの一部を教えるよ。元は同一人物、疑似的な人生体験ってとこだな」
自分の頭に知らない記憶が浮かんでいるのだろう、目を丸くして驚いている。だが俺の記憶がその人格に直接影響を及ぼすわけじゃあない……本人の印象からすればリアルな映画かアニメを見た、くらいに過ぎない。
あくまでも、決めるのは本人だ。
「こ、これは……俺……?」
鈴木健司は送られて記憶に戸惑っているようだ。俺の経験からこの男が何を思い、どう変わるかはわからない、あるいは何も思わず何も変わらないかもしれない。だが少なくとも俺は……死ななければならないほどこの男が絶望的だとは、思っていない。
これで用は済んだ。もう二度と、会うことはないだろう。
「じゃあな、がんばって生きろよ。一度は諦めて死んだ俺が言える立場じゃあないがな」
俺は相手からの答えを聞くことはせずに背を向け、神から貰った力で空間に裂けめを開く。そこを通ればもうこの世界に戻ってくることはできない。
ためらわず、中に飛び込んだ。その後ろに、かつての自分自身を残して。
学校には行く気がしない。友達もいないし、勉強したところで身に着かないし意味がない。そもそも地頭がそうできてるんだ、悪いのは親だ、友達ができない性格なのも親がそう生んだんだから仕方がない。
そうだ、環境が悪いんだ。生まれ持ったものが悪いならどうしようもない。いっそ一度死んで生まれ変わった方がいいのに……そんなことも考えていた。
そういえばあれは夢だったのだろうか、この部屋に神が現れて転生させるとかなんとか……結局それ以来何もなく、俺はピンピンしてここにいる。やはり寝ぼけて夢か何か見たのだろう、そういえば徹夜でゲームした翌日だったかもしれないし。俺は俺のままだった。
これからどうなるのか、ということは考えたこともある。学校に行かずに部屋でゲームして、時間が経って……その後は?
「ま、いいや」
俺は俺だけの部屋でそう呟き、ゲームを続けた。どうにでもなるだろう、別に死んだっていいんだ。どうせどんなにがんばっても俺のような人間には人間としての上限が決まっていて、それは他の人間にとっては下限だったりする。そんなものだ。努力したところでどうしようもない。
いっそ今死んでしまうのもありかもしれない……俺はそんなことすら思っていた。
「またあの神みたいなのが出てきたら、ちったあ面白いんだがなあ」
一区切りついたゲームを放り投げて、俺はベッドに転がった。
その時、空間が裂けた。
空間を引き裂いて、俺は狭い部屋に降り立った。
懐かしい部屋だ。狭くて、臭くて、散らかっている。脱ぎ捨てた服と下着、適当に読み散らかした漫画、置き場所のないゲーム。15年ぶりにやってくる自室……こんな部屋でも、二度と来ることはないと思っていたから感慨深いものだ。
「な、なんだ……お前」
よれよれのベッドの上で、かつての俺が俺を見て目を丸くしている。改めてみてもさえない風貌だ、身だしなみに気を使ってない分いっそう小汚く見える。だが久々に見ると懐かしくも思えるから不思議なものだ。
「意外と冷静だな、もっと騒ぐと思ったが。神に一度会ってるからか?」
「あ、ああ……で、お前は誰だ。また神か?」
「そんなもんじゃあないさ、お前と同じ人間だ」
俺はちらりと部屋のドアに目を向けた。そこを開けば下の階には母さんがいるだろうし、外には俺のよく知る世界が広がっているのだろう。もう二度と会うはずのなかった人、来るはずのなかった世界……見てみたい気もするが、ここに来る前に、もう関わらないと決めていた。
真実を知らなかったとはいえ、俺は一度死んで転生することを選んだ身。様々なものを得た代償として、失わなければならないのは当然のことだ。
「見たところあの日から数日ってとこか……あまり長くこっちにはいられない、手早く用事を済まさせてもらうぞ」
「な、なにを……」
俺は目の前の鈴木健司に対し手をかざした。すると彼の頭から記憶が光となって漏れ出し、俺の掌の中に収まった。といっても記憶を奪ったわけでなく、複製を作っただけだ。今の俺が生まれたように。
「考えてみりゃお前が本物で、俺は紛い物のクローンなんだな……少し複雑だよ」
何が起こってるのかわからず鈴木健司は目を白黒させていたが、あくまでもこの男が記憶の本体、俺やサリアはそこから生み出された分離体にすぎない。そう思うと俺という存在はあまりにも不確かなものだが……セイルとして生きた15年は、鈴木健司とは違う俺という個人を作るのには十分なものだった。
逆に、本来主人格たる男の方が自分を見失い、鬱屈とした生活を送っている。もちろん俺にはその気持ちはわかっている、だが……
「記憶をもらった代わりに、少しだけお返しをしよう」
俺は記憶を受け取った手で、今度は逆に相手に対し送り出した。
「俺の向こうの世界での記憶……というよりは、そこで学んだことや、思ったことの一部を教えるよ。元は同一人物、疑似的な人生体験ってとこだな」
自分の頭に知らない記憶が浮かんでいるのだろう、目を丸くして驚いている。だが俺の記憶がその人格に直接影響を及ぼすわけじゃあない……本人の印象からすればリアルな映画かアニメを見た、くらいに過ぎない。
あくまでも、決めるのは本人だ。
「こ、これは……俺……?」
鈴木健司は送られて記憶に戸惑っているようだ。俺の経験からこの男が何を思い、どう変わるかはわからない、あるいは何も思わず何も変わらないかもしれない。だが少なくとも俺は……死ななければならないほどこの男が絶望的だとは、思っていない。
これで用は済んだ。もう二度と、会うことはないだろう。
「じゃあな、がんばって生きろよ。一度は諦めて死んだ俺が言える立場じゃあないがな」
俺は相手からの答えを聞くことはせずに背を向け、神から貰った力で空間に裂けめを開く。そこを通ればもうこの世界に戻ってくることはできない。
ためらわず、中に飛び込んだ。その後ろに、かつての自分自身を残して。
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