双子転生 -転生したら兄妹に分裂してた。天才双子の異世界ライフ-

八木山蒼

第61話 分裂

「黄昏てるねぇ、双子さんよ」

 嘲るような声と共に、地下道から見慣れた顔……ポップが現れる。サリアを失った孤独感に打ちひしがれていた俺はその声でやっと我に返った。

「ポップ……そうだ、メイリアは大丈夫だったのか?」
「ああ、そこのサリアも手伝ってくれたおかげでね。今はクソガキと、ついでにヒトミ・スノーディンと脱出してるだろ、副総帥がやられて軍も大混乱中だしな」
「ヒトミまで来ていたのか……」

 さらにポップに続くようにして現れたのは白い服の少女……神だ。

「サリアの状況は私たちも把握している。厄介なことになったものだな」
「え、と……あなたは……?」

 サリアは幾度となく会ってきたはずの神を見て怪訝な表情を浮かべていた。

「思った通り、この世界での記憶の中でも転生前のものが色濃いものは失われておるようだな。人格面への影響もことのほか強かろう」
「ああ……言う通りだ」

 サリアが失ったのは転生前の記憶というよりは、転生前の鈴木健司としての人格を丸ごと失ったに等しい。そのためこの世界での出来事でも、たとえば転生者として神と接したことや俺との会話の一部は消えているはずだろう。

「ねえセイル、さっきから何なの? 私が失った記憶って一体なに? 教えてよ、セイル!」

 1人取り残されたサリアが俺へと迫る。やむをえず、俺は事情を説明した。



 転生……そんなことを言われても、私はまったく訳が分からなかった。
 私が元々別の世界で、男として生きていた? それが神によって転生して……2つに分かれて、それが私とセイル? そんな荒唐無稽なこと……
 でも……言われてみれば、記憶に何かが引っかかるような気もする。少なくとも私の記憶は完全じゃない、そんな予感は確信に変わりつつあった。

「……今の私が、本当の私じゃあないんだったら」

 私はひとつの決心をして、セイルと向かい合った。
 大事な双子の兄である彼。彼が私の事を違うというのなら……

「私は、本当の私を取り戻したい」

 それは今の私を否定すること、だがそれでいい。私にだってわかっている、今が不自然な状況だと。そして何よりも、目の前のセイルの目がとても悲しいこと……それが私に決心させた。

「ありがとう……サリア。でも、どうすればいいんだ」

 セイルの表情はまだ浮かない。私が決心したところで、砕かれた記憶が戻ることはないのだ。私たちが持つ力でもどうしようもない、失ったものはもう……そう途方に暮れていると。

「なーに、手ならある」

 救いの手を差し伸べたのはポップだった。いつものにやにや笑いで私たちを見ていた。

「普通の人間なら記憶は当人だけのもんだが、お前らは違う。1本が途中で二股に別れて分岐しただけで、失われたのが元の1本の部分なら、そっくりそのまま同じものがあるだろう?」

 ポップはセイルを指差した。それでセイルがハッと気付く。

「そうか! 転生前の記憶は俺もサリアも同じだから、俺が持っているものをサリアにコピーすれば……」

 セイルの顔に希望が見え始めたが、ポップの隣にいる白い服の女の子(神、らしい)は首を横に振った。

「それは無理だ。お主の記憶はただでさえ一度複製し分ったもの、この上の分割はできん。無理にやればセイルの記憶までもが壊れてしまう」
「そんな……クソッ、ならどうすれば!?」
「フフッ、まあ慌てるなよセイル」

 この状況でもポップは余裕の笑みを浮かべている。ある意味頼もしいが……解決策はあるのだろうか。

「もう1人いるだろ、同じ記憶の持ち主がさ」
「え? もう1人……?」

 ポップの言っている意味がわからなかった、セイルの話によると私とセイルが元同一人物で、それ以上はないはず。同じ記憶を持つもう1人とは?
 怪訝に思っていると、ポップはまたいやらしく笑った。

「考えてもみなよ、神は直接人間に干渉できない、それゆえに代理人としてお前らのような存在を送り込んでいる……だがお前らはいったいどうやって転生したんだ?」
「……あっ」

 セイルは気付いたらしい。私はピンと来ないが……

「そうだ、俺は神によって殺されて転生したはず……だけど人間を殺すなんて、神ができるのか?」
「今まで気付いていなかったのか? そんな直接的な干渉を神がするわけないだろう」
「じゃ、じゃあ、いったいどうなっているんだ? 俺は確かに転生したはず……どうなってるんだ、神よ」

 白い服の少女に視線が集まる。少女は少し顔をうつむけた後、語り始めた。

「そもそも……精神を2つに分け、お主らが生まれた。それと同じだよ」

 少女が顔を上げ、私とセイルそれぞれを瞳に映しこむ。そしてその口から真実が語られた。

「お主らは転生したのではない。元となる1人の男から、魂を分かっただけだ」

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