双子転生 -転生したら兄妹に分裂してた。天才双子の異世界ライフ-

八木山蒼

第59話 サリア、復活……!?

「【フレイマスト・タイラント】!」

 火炎が巨大な竜の形となって放出される。町ひとつゆうに呑み込む火竜が鎧の怪物へと襲い掛かった。

『魔性防壁・展開!』

 魔法陣が盾として展開され、炎の竜を受け止める。
 竜は魔法陣をせめぎ合いの末その壁を食い破り鎧を焼いたが、途中で防がれて落ちた出力では魔法を防ぐ鎧の表面を焦がすだけに留まった。

「俺の炎魔法で最大級の奴でこれか……じゃあやっぱ殴り倒すしかないな! 【ペルフェルト・ツヴァイ】!」

 敵の兵器は魔法を防ぐ、ならパワーを上げて物理で殴るのみ。身体能力魔法を強めにかけ、俺は鎧目掛け飛び掛かった。

『させませんよ~、MR-03!』

 しかし敵は肩口から柱状の魔水晶をロケットのように打ち放つ。それは俺に向かって飛ぶと、途中で爆発し熱風と閃光で俺を攻撃した。

「クソッ!」

 俺は突撃を中断し飛び退く。直後、鎧の巨大な腕が俺のいた場所を潰していた。

「魔法が効かない上にパワー、スピードも十分か、厄介すぎる。たしかにゴーディーの屋敷の奴とは段違いの強さだ」
『ふふふ~そうでしょ~? なんてったってこの私が徹夜で作った奴ですからね~!』

 ゲルスは技官らしく自らの技術に誇らしげだ。だがその性根は歪んだマッドサイエンティスト、俺はただイラつくだけだ。
 それにもう、そのご自慢の兵器の弱点を俺は見抜いていた。

「だがどんな兵器にも弱点はある、特にこれだけの出力がある兵器ならな。戦い続ければいずれ……」
『エネルギーのことですかぁ~?』

 見抜いたつもりの弱点をゲルス自ら語った。そう、これだけ巨大な兵器を動かすには莫大なエネルギーが必要だ。見たところケーブルで繋がったりはしていないし、戦い続ければいずれエネルギーは尽きるはず……

「わかってるなら話は早い、その自信、俺と根比べでもするつもりか? 言っておくが俺の魔力は常人のそれとは比べ物にならないぞ」
『わかってますとも! ちゃんとリサーチ済みです、ミリア・スノーディンとの戦いでね』

 ミリアの名が出て俺の中の怒りがゆっくりと再燃した。そうだ、こいつはミリアを操り、彼女がもっとも苦しむことをさせた……ただの実験と調査のために。

『あの戦いであなたも限界近くまで魔力を使ったはずですが、大目に見積もってあなたの魔力は成人男性の標準を1とすると、ずばり500はありますね~。たたたたたしかに従来の兵器ではどうあがいても250が限度でしたが、この魔導アーマーはその点を解決する画期的アイデアを搭載してるんですよ~』

 ゲルスは俺の怒りを煽るようにぺらぺらと語った。だが俺は怒りのそばでゲルスの言葉を分析する、彼女の語った俺の魔力が常人の500倍という計算はおそらく正しい。ゲルスは俺を侮っているわけではないようだ。
 そしてゲルスは驚くべきことを語った。

『はっきり言いますとですね、この魔導アーマー、成人男性1000人分以上のエネルギーを蓄えています! 根比べなら望むところですよ~』

 俺を500として、1000……なかなかの数字だ。ハッタリじゃないとすれば俺でも勝てないかもしれない。
 俺がもう1人いたりでもしない限り……そう、俺がもう1人。
 その時突然、声が響いた。

「【ドルマナー・エクスパンダ】!」

 魔法の詠唱の声だ。するとゲルスの乗る魔導鎧の周囲に妖しく輝く魔力の球が無数に出現し浮遊し始める。それは魔力吸収魔法、魔力の球ひとつひとつが鎧から魔力を吸い出し始める。

『あ、あわわわわわ!? たたたた対魔導光陣~!』

 慌ててその全身を光で包み込んで防ぎ、その巨腕でぶうんと振ってなんとか魔力吸収魔法を振り払った。
 それは高位の補助魔法、生半可な魔術師に扱えるものではない。これほどの魔法を操れるのは……俺は聞き慣れた声のした方を見た。この地下空間へと続く入り口に。

「お待たせ、セイル!」

 我が妹にして半身、サリア・フェルグランドが立っていた。

「サリア、お前……! どうしてここに?」
「ヒトミから聞いたんだ、セイルがパイロヴァニアに向かったって! メイリアちゃんを助けてたら遅くなっちゃった、あっちはポップとヒトミがいるから大丈夫」

 サリアは短く魔法を唱えるとパッと瞬間移動し俺のそばに並んだ。転移魔法、これも高度な魔法だ。サリアは記憶を失い魔法の使い方も忘れてしまっていたはず、それなのにこんな魔法を使えるということは……

「お前まさか、記憶が……!」

 尋ねると、サリアは頼もしい笑顔で応じた。

「うん、もう大丈夫だよ。心配かけてごめんね」

 ついに俺の半身が戻ってきた。その笑顔に涙すらこぼれそうになる。

「どうやって記憶を取り戻したのか聞きたいが……今はこいつを倒してからだ」
「そうだね、協力してやっちゃおう。ゴーディーの屋敷で見たのと同じ奴だね」

 過去の出来事を交えて話すサリアに安心する、記憶はちゃんと戻ったようだ。

『ままままままさか、サリア・フェルグランドがなぜ~!? けけけ計算外! 計算外です~!』

 さしものゲルスもサリアの登場に動揺している。当然だろう、自分の兵器は俺の倍強いと誇ったばかりなのに、俺と同じ強さの人間がやってきてしまったのだから。
 そして俺ら双子には合わせた力を倍増させる、特別な奥義がある。

「やることはわかるか?」

 俺はサリアにそれだけ聞いた。俺らは同一人物、思考回路もほとんど同じ。本当にサリアの記憶が戻っているのならば、語らずとも通じ合えるはずだ。
 そしてサリアは応じてくれた。

「うん、ゴーディーの屋敷と同じだね」

 そう、俺らがかつて似たような兵器を片付けた時もそれを使った。俺らは頷き合うと、互いに手を握り合う。

「行くぞ」
「うん」

 互いに魔力を高め、それを同調させる。心も体も一致させ、魔力をそれぞれの体に循環させていく……

『ゆ、ゆゆゆゆゆゆ融合魔導ユナイトマージ!? まままま、魔性防壁・最大出力っ!』

 大慌てでゲルスが魔法の壁を出現させ、全力で防御する姿勢を見せた。だがそれで防ぎきれる魔法じゃあない。
 融合魔導ユナイトマージ、それは術者2人が魔力を融合させ共鳴することで倍以上の威力の魔法を放つ俺らの秘密兵器。常人ならば数十年の修行の果てにやっと成せる技、それゆえに威力も想像を絶する。
 俺らは心を2つにわかったまさに一心同体の存在、かつ神に貰った無尽蔵の魔力を持つ双子……俺らが放つ融合魔導ユナイトマージに勝るものは何もない、そう断言できる。

「これで終わりだ、ゲルス」

 俺は勝利を確信し、サリアと魔力を共鳴させた。
 だが。

「……ん?」

 俺は次第に異常に気付いた。魔力が共鳴しない、サリアと融合できていない。これは……まさか。

融合魔導ユナイトマージが……発動しない!?」

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