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双子転生 -転生したら兄妹に分裂してた。天才双子の異世界ライフ-

八木山蒼

第57話 ゲルス現る

 壁を壊して現れたのは、見覚えのある巨体。
 黒紫色の甲冑を複雑に組み合わせた鎧の兵器は、無機質な目で俺らを見下ろしていた。

「こいつは……ゴーディー屋敷でも見た魔導兵器!」

 俺が声を上げると、それに応じるかのように声が響いた。

『その通りですよセイルさん~。これはなかでも特注でして、パイロヴァニアの製鉄技術をフルに活かし、かつ魔法吸収鉱石ファンサライトのポテンシャルを数倍に引き上げるアークライト合金製で強度も魔法耐性も当社比78%上の珠玉の一品なんです! 私の徹夜の成果ですね~』

 女の声だ。どこか間延びしているようだが、兵器の性能を誇る声は早口だった。

「セイル。お待ちかねだ。お呼び出しのお客様がおこしだよ」

 ポップがニヤリと笑って言う。俺はそれでハッと気付いた。

「まさか……お前が、ゲルス・ワースト!?」
『はい~、パイロヴァニア魔術技官ゲルスです~。お初ですセイル・フェルグランド』

 鎧の兵器に巨大ロボットのように搭乗しているであろう人物はゲルス・ワースト……この『計画』の中心格にして、サリアの記憶を取り戻す鍵。パイロヴァニアの魔法技術を司る女だ。

『しょ、正直、こここここまで来られるとは思ってなかったですけど、こ、このま、魔導アーマーがあれば、あなたたちなんかケチョンケチョンですからね~!』

 だが悪の根源といったイメージに反し、ゲルスの声は震え気味で動揺丸出しだった。あくまでも技術者というだけで本人はそう悪辣ではないのかもしれない……『計画』の提案者はポップということもある。
 そう思ったが、すぐにその考えは覆されることになる。

『歯向かっちゃダメですよ! ももももももし歯向かったら、ひ、人質がどうなるか知りませんからね~!』

 ゲルスの言葉に、俺とポップは同時に反応した。

「人質?」
『はい! メイリア・バンディはこっちで預かってます~、ついでにカイン・イーノックもー。お友達なんですよね? 殺しちゃいますよ』

 人質……下衆の考えそうなことだ。俺の中でしばらく静まっていたゲルスへの怒りが再燃する。だが俺以上に感情の炎を燃やしていたのは隣のポップだった。

「おい、ゲルス。お前らはとうとう私に正面から反旗を翻したわけだ。いつかはやると思っていたが……相応の始末は覚悟しているんだろうな」

 ポップはいつものニヤニヤ顔で言う。しかしその目だけは微塵も笑っていなかった。

『ひっ……で、でもでもでも、さっきの話みんな聞いちゃいましたからね! あなたは元・神で神じゃない! そうとわかればさっさと捕らえて、知ってること根掘り葉掘り聞いちゃいますからね~、徹夜してでも聞きますからね~!』

 ゲルスも怯えは隠せていなかったが、かといって退く気はなさそうだ。巨大な鎧はそれだけで恐るべき存在感を放ち、人質作戦をより盤石にしている。
 だがポップも伊達に元神ではない。その笑みを崩すことはなかった。

「ところで、本当にメイリアを人質にとったのか? どうやって? 大半の兵をこいつにやられたお前らが? 私たちをハメるための嘘なんじゃあないのか?」
『えっ!? ほほほほほほホントですよ~、魔晶兵がそばにいるんですから、それを操っただけです~』
「どうかな。あのクソガキはセイルの手で能力を一部封印されているし、メイリアはピンピンしてる。仮にクソガキを洗脳下においたとしても時間的に考えて早すぎる。つまり嘘ってことだな」
『ちちちちち違いますって! いいんですか~ホントに殺しちゃいますよ~?』
「さてね……ウチの姉はそんなにやわじゃあない。それに捕まっていたとしても……すぐに助けが来るだろうさ。なあ?」

 ポップは笑って、神の方を振り返った。神は少し逡巡したがやがて頷いた。

「メイリアのことはお主らが心配せずとも大丈夫だ、今まさに向かっている」
「向かっている?」

 俺は聞き返したが、神は答えなかった。

「悪いが私はこれ以上の助言はできん。しかしこれだけは言おう、パイロヴァニア、そしてゲルスは滅ぼすべき邪悪、その打倒にお主らの力を振るうことを何も咎めはせんとな」
『ひ、ひひひひどいじゃあないですか神様~! 私だって真面目なんですよ? 徹夜までしてがんばってるのに~』
「ゲルス、私自らがお主を罰しはしない。あくまでもお主らを打倒するのはこのセイルたちの意思だ。後はお主ら人間の世界のこと……ではな」

 神はそのままパッと姿を消した。神はあくまで傍観者、道を切り開くのは人間自身の力……もっとも俺の場合はそうともいえないのだがな。
 しかし神から与えられ認められた力、使えるのなら使うだけだ。

「ポップ、本当にいいんだな? メイリアのことは気にしなくても」
「ああ、私が保証する。私もそっちに向かう、ここは任せる。どの道こいつはお前がやらないとが気が済まないのだろう?」
「ああ……そうだ!」

 俺は拳をパンと叩いた。ゲルス・ワーストの成敗、それが俺がここに乗り込んだ理由だ。その怨敵が目の前にいて逃がすわけがない。

「ただし気をつけろ、一筋縄ではいかない相手だ……敵意を緩めるなよ。ではな」

 ポップは悠々と手を振りその場を去ろうとする。瞬間、魔導鎧が動き始めた。

『に、にににににに逃がしませんよ~!』

 わたわたとしたゲルスの声。反面、兵器の動きは迅速だった。
 巨大な腕を振りかぶり、突き出す。見上げるほどの巨体が動く速度は人間のそれに並ぶ。しかしそのエネルギーは質量的に数十倍以上……巻き起こった風圧だけで並の人間ならば吹き飛んで消える。
 そしてポップに振り下ろされたような拳は、人間1人の命を奪うにはあまりにも容易い。
 だがそんなことは、俺にだって簡単だ。

「させるかよッ!!」

 俺は身体強化魔法をかけつつ、魔導鎧の拳を蹴り飛ばした。巨体はバランスを崩し、拳は壁にめり込んだ。ポップはそのままスタスタと歩き、部屋の外の通路へと消えていった。

『うう~、さすがは神託の双子、恐るべき能力です~。でも私だって徹夜したんです! 対策もありますからね~』

 魔導鎧が体勢を立て直し、改めて狙いを俺へと定める。俺も受けて立つ。

「いいからかかってこい! そのデカブツから引きずり出された後の懺悔の準備をしてな!」

 パイロヴァニア地下で、決戦は始まった。

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