双子転生 -転生したら兄妹に分裂してた。天才双子の異世界ライフ-
第56話 神と人
「お前が元、神……だと?」
パイロヴァニア地下、驚く俺の前でポップはまた笑みを浮かべた。
「初めて私と会った時、神を名乗る私を鼻で笑ったのは本物の神を知っているからなのだろうが、私からすれば神がただ1人きりという考えの方が失笑ものだ。世界がいくつもあるんだ、神だって何人もいてもいいだろう? フフフ……」
ずっと神を自称してきたポップ。だからこそ逆に本当に神だとは微塵も思わなかった……いや普通に考えて目の前の少女が神だなんて疑いすら持つわけない。今でも半信半疑なのだ。
だが神でもなければ俺の転生のことなど知っているはずがない。しかも転生に伴いチート能力をもらったことまで知り、それを『計画』に組み込むなど、けしてできない。神でない限り!
「……神としての禁を破った、と言ったな。どういうことだ?」
動揺しつつも問いを繰り返す。ポップは笑みを崩さなかった。
「お前も知っているだろう? いや、お前だからこそ知っているはずだ。逆に問うが、お前のこの世界での存在意義はなんだ?」
「存在……意義?」
「聞き方が悪いか、お前がその力を与えられた理由はなんだ。お前が望んだだけじゃないだろう? 私もさっき言ったばかりだよ」
一瞬質問の意図が掴めなかったが、重ねた問いでピンときた。神が俺らにこの力を与えた理由は、俺がそう望んだからというだけではない。強大な力の代わりに俺らにはある役割があるのだ。
「原則として人界に直接干渉しない神の代行……そのための力だったな」
「そうだ。神は人間に直接干渉しない……雷が落ちて悪人が裁かれたり、逆に善人が花畑に誘われたりもしない。お前らがその力で裁くことが天罰であり、救うことが神の救いと同義だ。もっともそれすらも直接じゃあないけれど」
ポップは一抹の寂寥感を滲ませて呟く。どこか自嘲気味でもあった。そしてポップは彼女が神でいれなくなった理由を語った。
「私が触れたのはそこだ。私は干渉禁止のルールを破り、この地に降りて人を手にかけた……フフッ、殺したんだよ。神の手でな。そしてそのまま神の座に戻ること許されず地に堕ちた」
神の手で人を殺した……それがポップの大罪。
「神に対しルールを決めたのは誰か? なんてことは聞いてくれるな、キリがないからな。水が下へ流れるように、光が影を作るように、神にも絶対の規則があるのさ。重要なのは私はその掟を破り、神から人となった……それだけだよ」
「なぜ……人を殺したりしたんだ?」
俺が問いかけると、ポップの表情が変わった。薄暗い湿っぽさが消え、代わって首をもたげるのは炎のごとき激情。瞳が吊り上がり、笑みは歪み、顔の筋が緊張する。
それは即ち怒り。憎しみ。
「私は人間というものに失望したんだ、そして神にもな。理由はわざわざ語るまでもないだろう? 憎悪の切っ掛けなんていくらでもある、神として全てを傍観してきた私には特に。フフッ、つくづく私は神には向いていなかった」
ポップは憎悪の笑みをそのままに、俺の目を見据えた。瞬間、シアン色の目が真っ黒に変わった。俺は背筋が凍った。
「神を下ろされた私からは『力』も没収された、この世界に下りたために少女の姿となり、魔力もほとんどなく……だが神としての記憶は守り抜いた。つまりは知識さ。私はその知識を使って目的のため動き出した、その目的がわかるか?」
ポップの目的、それはもう具体的にはわからずとも、ポップの心に宿る憎悪が答えを示している。少なくともそれが、世界にとって幸福なものであるはずはなかった。
そして俺の予感は的中する、最悪な形で。
「だから私はこの国の連中に教えたのさ。神が与えた力の存在と、それを操る術をな。神託の力と人の心を操る術を手に入れたパイロヴァニアは間違いなく暴走し……『神』に見せつけてくれるだろう。人の現実を、な。わかるか? 私がなにかするわけじゃあない、人が持つ悪意がそのまま人を滅ぼすわけだ。フフッ、物事はなるべくしてなるということだね」
パイロヴァニアに俺たちの力の存在を教え、洗脳魔法を指導した……ポップがしたことはそれだけだ。だがそれだけで世界を滅ぼし得る。
皮肉なのは俺たちの力とは神が与えた力であり、それを暴走させるのは人間の悪意であるということ。『人にも神にも失望した』と語るポップにとってまさしく思惑通りというわけだ。
「フフフ……これが事の顛末さ。私が全ての元凶というわけだ。全てはもう転がり出した、止めることはできない。たとえ私が死んでもな。どうした? ショックで突っ立ってるのか? 怒るなり悲しむなりしたらどうだ?」
ポップはいつものシアン色の瞳を覗かせて俺を嘲笑っていた。俺はそんなポップを前に沈黙する。怒りも悲しみもせず……ただ、考えていたのだ。
おかしい。ポップの説明は辻褄が合わない、と。
「ポップ……お前が人間に失望してるなら、なんでメイリアといっしょにいるんだ?」
メイリアの名を出すと、ポップはぴくりと反応した。平静を装ってはいるがメイリアの名が出た途端明らかに表情が崩れ、また戻した。
「それに、ミリアの危機の時に俺にそれを伝えたことも……おかしい。ポップ、お前はまだ嘘をついている。そうだな」
俺の問いにポップは沈黙した。ただいつものにやけ面を浮かべ、目を落とす。その心中で何を考えているのか……俺も逡巡していた時。
ふいに、ふわりとした光がポップの背後に舞い降りる。ポップも異変に気付き振り返ったやがて光は形を成し、人の姿となって……神は、降臨した。
ポップとよく似た白い姿の少女。白い髪、白いローブを着た、この世のものならざる神……そう、神だ。かつて鈴木健司だった頃の俺の前に姿を現し、今のように転生させた、俺の知る神が、俺たちの前に姿を現した。
神は静かに瞳を開くと、ポップと向き合った。
「……今は、ポップという名だったな」
神が口を開く。ポップは飄々とした仕草で肩をすくめた。
「これはこれは神様、直々のご降臨ですか。お久しぶりですね」
「茶化すな、私のお主の仲であろう。つくづく変わらぬな、お主は」
「神様、ポップを知っているのか? いや当然か……同業者だもんな」
「そういうとちと俗っぽすぎるが、その通りだな。お主ともこうして会うのは久々だのう」
神は普通に人々がイメージするよりもだいぶフランクだ。その点ではポップも同じか。
「さてポップよ、お主いつまでセイルをからかって遊ぶつもりだ? そんな場合ではなかろうに」
神は呆れた顔でポップを見た。なんのことやら、とポップは肩をすくめたが、その顔は笑っていた。俺は目を丸くする。
「からかう? どういうことだ?」
「まあ端的に言うと、こいつは悪ぶっているということだよ。こいつの本質はお主が指摘した通り、人間としての姉たるメイリア・バンディを慕う善性なのだよ」
「フフッ、種明かしとは無粋だね。つくづく神というものはつまらない」
やれやれと首を振り、神は俺に説明してくれた。
「こいつが人に干渉し、地に堕ち、パイロヴァニアに『計画』のことを伝えるまでは言った通りだよ。しかしその後、そしてその詳細は大きくぼかされている。具体的にいうとメイリアの存在だな」
「メイリア……そうだ、ポップが神ということは、メイリアとポップは姉妹じゃないんだろう?」
「うむ。しかしその関係は血よりも濃いかもしれん。そもそもこいつが神を辞め地に堕ちる原因となった殺人の一件だが……それは、メイリアを守るためのものだったのだ」
そして神が語ったのは、メイリア・バンディという人間を取り巻くさらなる真実だった。
「事の発端はメイリアが5歳の時、裕福な一家だったメイリアの家を強盗が襲ったことだ。両親は抵抗したのだが無惨に殺され……幸か不幸か襲撃は夜中であり、メイリアは眠っていたことで両親が殺されるまでは知らなかった。だが寝ていようが子供であろうが生き証人となりうる相手を強盗が見逃すはずがない、メイリアもまた両親と同じように殺されそうになった。ポップは神の身でその一部始終を偶然見て……耐えられなくなったのだ。強盗を自らの手で殺し、メイリアを救った。しかし平等に人を導かねばならん神としてそれは許されざること、即刻ポップは地に堕ち人となった……ポップは眠ったままのメイリアを救い出し、両親は事故で死んだようにうまく言いくるめ、孤児院へと預けた」
神の語りをポップ自身が受け継いだ。
「私もな、メイリアを助けた時は正義の心で満ちていたよ。だが同時に壮絶な矛盾を感じていた……神として正しいのは死にゆく人間を見殺しにすることであり、悪辣な強盗どももまた救うべき人。メイリアを救い出した後、私はやはり憎悪に包まれたんだ。人間、そして神へのな。あとのことは言った通りさ」
ポップの言葉が終わるとまた神が語りを継いだ。
「しかし、こいつは再び変心の機があった。それはずばりメイリアだよ。パイロヴァニアでひっそりと暮らしていたこいつはある日偶然、孤児院で遊ぶメイリアを目撃した。すっかりあの時助けた子供のことなど忘れていたようだがな、メイリアを見てすぐにハッとなったらしい。そしてしばらくメイリアを見て……悟ったようだな。滅亡させるほど、人間は捨てたものではないと」
「フフッ、どうだかな。私はメイリアが好きになっただけだよ。『計画』が進んだらメイリアが巻き添えをくうかもしれないから……それだけさ」
「ま、想像に任せる。要はこいつは『計画』のことを後悔し始めたのだ。だが智慧はあれど力はないポップに回り始めた車輪を止めることはできない……そこで」
全て理解し、俺は神の言葉を遮った。
「俺たちの登場……ってわけか」
神は頷いた。
「そうだ。ポップはメイリアにお主らの存在を伝え、アスパムへとやって来た。そして密かにお主らをサポートし、パイロヴァニアへと導いたわけだ。全ては計画を止め……自らの行いの埋め合わせをするためにな。のう、ポップ?」
神はポップに話を振る。ポップは少し表情に影を落としていた。
「結局、私は神に向いていなかったわけだ。そして人にも、な……憎悪のあまり浅慮で行動し、取り返しのつかないことをした。とんだ悪人だよ、私は」
俺はポップの表情に全てを察した。今の彼女の内に渦巻くのはメイリアへの慈しみ、そして同時に自責と後悔だ。だからこそ彼女はメイリアのために行動し、俺らを導いていたのだろう。張り付いた笑みに本心を隠して。
「人間くさいんだな、ポップは。たしかに神らしくない」
俺はそう言って笑い、ポップは軽薄な笑みで返した。
「話はわかった! ポップの正体も、『計画』の由来も! だが俺がやるべきことは変わらない」
俺はパンと手を叩いて空気をリセットする。そしてその手を拳に固めた。
「神に与えられたこの力で、世界に仇名す『計画』を潰す……だろ?」
俺が問いかけると、神、そしてポップは頷いた。
「うむ、それがお主たちの役目。神は不干渉、悪いが私はその原則を貫かせてもらうぞ。私が堕ちればお主らの力もそのままではいられぬしな」
「フフッ、まあ私も私の尻拭いの手伝いくらいはしないとな。我が姉のためでも……」
その時だった。
突如、地下に轟音が響き渡る。床が揺れて、壁に亀裂が走った。
「例の地震か!?」
「いや、これはちと違うな」
「フフッ、この国の連中のお出ましのようだ」
ポップが壁の亀裂に視線を向け、俺も続く。次の瞬間。
壁は崩壊し、悪魔がその姿を現した。
パイロヴァニア地下、驚く俺の前でポップはまた笑みを浮かべた。
「初めて私と会った時、神を名乗る私を鼻で笑ったのは本物の神を知っているからなのだろうが、私からすれば神がただ1人きりという考えの方が失笑ものだ。世界がいくつもあるんだ、神だって何人もいてもいいだろう? フフフ……」
ずっと神を自称してきたポップ。だからこそ逆に本当に神だとは微塵も思わなかった……いや普通に考えて目の前の少女が神だなんて疑いすら持つわけない。今でも半信半疑なのだ。
だが神でもなければ俺の転生のことなど知っているはずがない。しかも転生に伴いチート能力をもらったことまで知り、それを『計画』に組み込むなど、けしてできない。神でない限り!
「……神としての禁を破った、と言ったな。どういうことだ?」
動揺しつつも問いを繰り返す。ポップは笑みを崩さなかった。
「お前も知っているだろう? いや、お前だからこそ知っているはずだ。逆に問うが、お前のこの世界での存在意義はなんだ?」
「存在……意義?」
「聞き方が悪いか、お前がその力を与えられた理由はなんだ。お前が望んだだけじゃないだろう? 私もさっき言ったばかりだよ」
一瞬質問の意図が掴めなかったが、重ねた問いでピンときた。神が俺らにこの力を与えた理由は、俺がそう望んだからというだけではない。強大な力の代わりに俺らにはある役割があるのだ。
「原則として人界に直接干渉しない神の代行……そのための力だったな」
「そうだ。神は人間に直接干渉しない……雷が落ちて悪人が裁かれたり、逆に善人が花畑に誘われたりもしない。お前らがその力で裁くことが天罰であり、救うことが神の救いと同義だ。もっともそれすらも直接じゃあないけれど」
ポップは一抹の寂寥感を滲ませて呟く。どこか自嘲気味でもあった。そしてポップは彼女が神でいれなくなった理由を語った。
「私が触れたのはそこだ。私は干渉禁止のルールを破り、この地に降りて人を手にかけた……フフッ、殺したんだよ。神の手でな。そしてそのまま神の座に戻ること許されず地に堕ちた」
神の手で人を殺した……それがポップの大罪。
「神に対しルールを決めたのは誰か? なんてことは聞いてくれるな、キリがないからな。水が下へ流れるように、光が影を作るように、神にも絶対の規則があるのさ。重要なのは私はその掟を破り、神から人となった……それだけだよ」
「なぜ……人を殺したりしたんだ?」
俺が問いかけると、ポップの表情が変わった。薄暗い湿っぽさが消え、代わって首をもたげるのは炎のごとき激情。瞳が吊り上がり、笑みは歪み、顔の筋が緊張する。
それは即ち怒り。憎しみ。
「私は人間というものに失望したんだ、そして神にもな。理由はわざわざ語るまでもないだろう? 憎悪の切っ掛けなんていくらでもある、神として全てを傍観してきた私には特に。フフッ、つくづく私は神には向いていなかった」
ポップは憎悪の笑みをそのままに、俺の目を見据えた。瞬間、シアン色の目が真っ黒に変わった。俺は背筋が凍った。
「神を下ろされた私からは『力』も没収された、この世界に下りたために少女の姿となり、魔力もほとんどなく……だが神としての記憶は守り抜いた。つまりは知識さ。私はその知識を使って目的のため動き出した、その目的がわかるか?」
ポップの目的、それはもう具体的にはわからずとも、ポップの心に宿る憎悪が答えを示している。少なくともそれが、世界にとって幸福なものであるはずはなかった。
そして俺の予感は的中する、最悪な形で。
「だから私はこの国の連中に教えたのさ。神が与えた力の存在と、それを操る術をな。神託の力と人の心を操る術を手に入れたパイロヴァニアは間違いなく暴走し……『神』に見せつけてくれるだろう。人の現実を、な。わかるか? 私がなにかするわけじゃあない、人が持つ悪意がそのまま人を滅ぼすわけだ。フフッ、物事はなるべくしてなるということだね」
パイロヴァニアに俺たちの力の存在を教え、洗脳魔法を指導した……ポップがしたことはそれだけだ。だがそれだけで世界を滅ぼし得る。
皮肉なのは俺たちの力とは神が与えた力であり、それを暴走させるのは人間の悪意であるということ。『人にも神にも失望した』と語るポップにとってまさしく思惑通りというわけだ。
「フフフ……これが事の顛末さ。私が全ての元凶というわけだ。全てはもう転がり出した、止めることはできない。たとえ私が死んでもな。どうした? ショックで突っ立ってるのか? 怒るなり悲しむなりしたらどうだ?」
ポップはいつものシアン色の瞳を覗かせて俺を嘲笑っていた。俺はそんなポップを前に沈黙する。怒りも悲しみもせず……ただ、考えていたのだ。
おかしい。ポップの説明は辻褄が合わない、と。
「ポップ……お前が人間に失望してるなら、なんでメイリアといっしょにいるんだ?」
メイリアの名を出すと、ポップはぴくりと反応した。平静を装ってはいるがメイリアの名が出た途端明らかに表情が崩れ、また戻した。
「それに、ミリアの危機の時に俺にそれを伝えたことも……おかしい。ポップ、お前はまだ嘘をついている。そうだな」
俺の問いにポップは沈黙した。ただいつものにやけ面を浮かべ、目を落とす。その心中で何を考えているのか……俺も逡巡していた時。
ふいに、ふわりとした光がポップの背後に舞い降りる。ポップも異変に気付き振り返ったやがて光は形を成し、人の姿となって……神は、降臨した。
ポップとよく似た白い姿の少女。白い髪、白いローブを着た、この世のものならざる神……そう、神だ。かつて鈴木健司だった頃の俺の前に姿を現し、今のように転生させた、俺の知る神が、俺たちの前に姿を現した。
神は静かに瞳を開くと、ポップと向き合った。
「……今は、ポップという名だったな」
神が口を開く。ポップは飄々とした仕草で肩をすくめた。
「これはこれは神様、直々のご降臨ですか。お久しぶりですね」
「茶化すな、私のお主の仲であろう。つくづく変わらぬな、お主は」
「神様、ポップを知っているのか? いや当然か……同業者だもんな」
「そういうとちと俗っぽすぎるが、その通りだな。お主ともこうして会うのは久々だのう」
神は普通に人々がイメージするよりもだいぶフランクだ。その点ではポップも同じか。
「さてポップよ、お主いつまでセイルをからかって遊ぶつもりだ? そんな場合ではなかろうに」
神は呆れた顔でポップを見た。なんのことやら、とポップは肩をすくめたが、その顔は笑っていた。俺は目を丸くする。
「からかう? どういうことだ?」
「まあ端的に言うと、こいつは悪ぶっているということだよ。こいつの本質はお主が指摘した通り、人間としての姉たるメイリア・バンディを慕う善性なのだよ」
「フフッ、種明かしとは無粋だね。つくづく神というものはつまらない」
やれやれと首を振り、神は俺に説明してくれた。
「こいつが人に干渉し、地に堕ち、パイロヴァニアに『計画』のことを伝えるまでは言った通りだよ。しかしその後、そしてその詳細は大きくぼかされている。具体的にいうとメイリアの存在だな」
「メイリア……そうだ、ポップが神ということは、メイリアとポップは姉妹じゃないんだろう?」
「うむ。しかしその関係は血よりも濃いかもしれん。そもそもこいつが神を辞め地に堕ちる原因となった殺人の一件だが……それは、メイリアを守るためのものだったのだ」
そして神が語ったのは、メイリア・バンディという人間を取り巻くさらなる真実だった。
「事の発端はメイリアが5歳の時、裕福な一家だったメイリアの家を強盗が襲ったことだ。両親は抵抗したのだが無惨に殺され……幸か不幸か襲撃は夜中であり、メイリアは眠っていたことで両親が殺されるまでは知らなかった。だが寝ていようが子供であろうが生き証人となりうる相手を強盗が見逃すはずがない、メイリアもまた両親と同じように殺されそうになった。ポップは神の身でその一部始終を偶然見て……耐えられなくなったのだ。強盗を自らの手で殺し、メイリアを救った。しかし平等に人を導かねばならん神としてそれは許されざること、即刻ポップは地に堕ち人となった……ポップは眠ったままのメイリアを救い出し、両親は事故で死んだようにうまく言いくるめ、孤児院へと預けた」
神の語りをポップ自身が受け継いだ。
「私もな、メイリアを助けた時は正義の心で満ちていたよ。だが同時に壮絶な矛盾を感じていた……神として正しいのは死にゆく人間を見殺しにすることであり、悪辣な強盗どももまた救うべき人。メイリアを救い出した後、私はやはり憎悪に包まれたんだ。人間、そして神へのな。あとのことは言った通りさ」
ポップの言葉が終わるとまた神が語りを継いだ。
「しかし、こいつは再び変心の機があった。それはずばりメイリアだよ。パイロヴァニアでひっそりと暮らしていたこいつはある日偶然、孤児院で遊ぶメイリアを目撃した。すっかりあの時助けた子供のことなど忘れていたようだがな、メイリアを見てすぐにハッとなったらしい。そしてしばらくメイリアを見て……悟ったようだな。滅亡させるほど、人間は捨てたものではないと」
「フフッ、どうだかな。私はメイリアが好きになっただけだよ。『計画』が進んだらメイリアが巻き添えをくうかもしれないから……それだけさ」
「ま、想像に任せる。要はこいつは『計画』のことを後悔し始めたのだ。だが智慧はあれど力はないポップに回り始めた車輪を止めることはできない……そこで」
全て理解し、俺は神の言葉を遮った。
「俺たちの登場……ってわけか」
神は頷いた。
「そうだ。ポップはメイリアにお主らの存在を伝え、アスパムへとやって来た。そして密かにお主らをサポートし、パイロヴァニアへと導いたわけだ。全ては計画を止め……自らの行いの埋め合わせをするためにな。のう、ポップ?」
神はポップに話を振る。ポップは少し表情に影を落としていた。
「結局、私は神に向いていなかったわけだ。そして人にも、な……憎悪のあまり浅慮で行動し、取り返しのつかないことをした。とんだ悪人だよ、私は」
俺はポップの表情に全てを察した。今の彼女の内に渦巻くのはメイリアへの慈しみ、そして同時に自責と後悔だ。だからこそ彼女はメイリアのために行動し、俺らを導いていたのだろう。張り付いた笑みに本心を隠して。
「人間くさいんだな、ポップは。たしかに神らしくない」
俺はそう言って笑い、ポップは軽薄な笑みで返した。
「話はわかった! ポップの正体も、『計画』の由来も! だが俺がやるべきことは変わらない」
俺はパンと手を叩いて空気をリセットする。そしてその手を拳に固めた。
「神に与えられたこの力で、世界に仇名す『計画』を潰す……だろ?」
俺が問いかけると、神、そしてポップは頷いた。
「うむ、それがお主たちの役目。神は不干渉、悪いが私はその原則を貫かせてもらうぞ。私が堕ちればお主らの力もそのままではいられぬしな」
「フフッ、まあ私も私の尻拭いの手伝いくらいはしないとな。我が姉のためでも……」
その時だった。
突如、地下に轟音が響き渡る。床が揺れて、壁に亀裂が走った。
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