双子転生 -転生したら兄妹に分裂してた。天才双子の異世界ライフ-
第55話 砕かれた記憶
「やっぱりあなただったんだね、リオネちゃん」
突然の声にリオネちゃんはさぞ驚いたことだろう。私はドアのカギを破壊し、中へと入る。リオネちゃんが目を丸くして私を見ていた……2つの水晶を手に持って。
「さ、さ、サリア様!? どうしてここに……」
「リオネちゃんの態度がどうしても気になってね、悪いとは思ったけどこっそり後をつけて、盗み聞きさせてもらったよ」
セイルからリオネちゃんが本気で私を愛していること、そしてその余りに恐るべき行動に出ることもあると聞いていた。それが的中した形だ。
「その水晶が私の記憶なんだね? なんで持ち去ったのかはあえて聞かない、それを私に渡して」
「うっ……わ、私を、お怒りにならないのですか……?」
「私はやっぱり記憶がなくて……リオネちゃんの本意まではわからないから。記憶を取り戻して、リオネちゃんとの記憶も戻って、それから決めるよ。さ、お願いリオネちゃん」
私はリオネちゃんに手を伸ばし記憶が封じられているとおぼしき水晶を渡すよう迫る。だがリオネちゃんはさっと水晶を掴み、迷いながらも自らの背後に隠した。
「さ、サリア様のお願いでも、それはできません! これをあなたに渡せばあなたはもとのサリア様に戻ってしまいます……私を拒絶したサリア様に!」
「拒絶……やっぱり結婚とかは嘘だったんだね」
「ええ! サリア様は私との結婚を拒絶なさいました! 私は一度は諦めましたが……やはり私の大事なご主人様に尽くすこと、諦めきれません!」
リオネちゃんは涙すら流していた。本気なのだろう、私を愛しているというのは。私としてもそこまで想うのならば受け容れてあげたいのだが……それは今の私の選択であって、本来の、セイルやみんなが知る私のものではない。
「私はやっぱり、本当の私に戻らなくちゃならない。リオネちゃん、私のことを想うなら、まずは記憶を返して。全部それからだよ」
今の私は本来の私ではないのだから……私は改めてリオネちゃんに迫った。だがリオネちゃんはなおも一歩後ずさる。
「今のサリア様ならば、私の想いも受け止めてくださる……! それは記憶がないからでしょう? あらゆる経験も、それゆえの偏見もない真っ新ゆえに……私の愛も受け容れてくださる! 記憶がなくともサリア様はサリア様です! だから、私は!」
「違うよリオネちゃん。記憶がない私は私じゃない……それはセイルを見ればよくわかる」
生まれてからずっといっしょで、私のことを一番よく知るセイル。彼が記憶を失った私を見る目はどこか冷ややかだった。やはり記憶のない私はサリア・フェルグランドではないということなのだろう。
だがセイルの名前を出した途端、リオネちゃんが反応する。
「セイル……やはりあの男が大事なのですね。正直嫉ましいですよサリア様、私がいつ何をしても、あの男には勝てない……サリア様の愛という点において」
「あ、愛ってわけじゃあないんだけど、セイルと私は一心同体っていうか」
「同じことです。だから私は奪い、そして取り戻すのです。サリア様の、一番の愛を!」
リオネちゃんが叫ぶ。猫によく似たその目が据わっている。髪の毛がわずかに逆立ち、口から覗く牙が光った。
「私のこの手でッ!」
リオネちゃんが水晶を放り投げ、同時に腕を振りかざした。
まずい。すぐに私も動く。
「ダメ、リオネちゃんッ!」
水晶の片方、私に近かった方をかっさらう。だがもう片方に手を伸ばすにはリオネちゃんは速すぎた。
「ガァーッ!!」
唸り声を上げながら、リオネちゃんの腕が記憶の水晶を打ち砕いた。思わず息が止まった。私の目の前で粉々の破片となった欠片が地に落ち散らばる。不安定なマナはひとたび砕かれるとあっという間に昇華し消えていった。
「リオネちゃん、あなたなんてことを……くっ!」
ひとまず私は奪い取れた方の魔水晶を頭に押し込んだ。ゆっくりと魔水晶が頭に入っていき、膨大な量の映像と感情……記憶が私の中へと宿っていく。
それは、サリア・フェルグランドとしての記憶だった。
「……ん……よし」
少しめまいがしたものの、私は記憶を取り戻すことができた。卓越した才能を持って生まれ、セイルと共に育ち、魔法学校で魔法を学び、ヒトミちゃんたちと出会って……リオネちゃんが魔水晶を砕いた時はどうなることかと思ったが、どうやら全ての記憶が戻ったようで一安心だ。
――でも。
「あれ……なんだろう、この違和感……」
私は自分の記憶を振り返る。全ての記憶がちゃんとあり、どこかが欠落しているようには思えない。だがなぜか強い違和感があった。大事なものが……まるで自分の基盤となるべきものが消え去ってしまったような……それに記憶の一部における私の言動も整合していないような気がするし……
「……あっ!」
私がそのことに気を取られている隙に、リオネちゃんは窓から逃げ去ってしまっていた。開かれた窓だけが空しく揺れている。
しまった、リオネちゃんは私のこの違和感について何か知っていたのかもしれないのに……私が悔やんでいると、後ろからどたどたと足音が聞こえてきた。
「サリアさん! ここにいらっしゃったんですね、探しました」
現れたのはヒトミだった。ひどく慌てている。
「どうしたのヒトミ、そんなに慌てて」
「じ、実はその、セイルさんが今パイロヴァニアに行っているんです! サリアさんの記憶を取り戻すために……わ、私、セイルさんなら大丈夫って思ってたんですけど、今になってパイロヴァニアにはセイルさんでも勝てないくらいのものがあるかもしれないってナイブズが……」
「ナイブズ? ああ、ヒトミちゃんは一度憑依されてたもんね」
「あ、はい、その時の記憶が一部残ってて……って、サリアさん、記憶戻ったんですか!?」
「一応ね。それより詳しく教えて、その話」
「は、はい。実は……」
息を整えつつ話し出すヒトミ。その話は緊急で、どうやら今は私の違和感について考えている場合じゃなさそうだった。
突然の声にリオネちゃんはさぞ驚いたことだろう。私はドアのカギを破壊し、中へと入る。リオネちゃんが目を丸くして私を見ていた……2つの水晶を手に持って。
「さ、さ、サリア様!? どうしてここに……」
「リオネちゃんの態度がどうしても気になってね、悪いとは思ったけどこっそり後をつけて、盗み聞きさせてもらったよ」
セイルからリオネちゃんが本気で私を愛していること、そしてその余りに恐るべき行動に出ることもあると聞いていた。それが的中した形だ。
「その水晶が私の記憶なんだね? なんで持ち去ったのかはあえて聞かない、それを私に渡して」
「うっ……わ、私を、お怒りにならないのですか……?」
「私はやっぱり記憶がなくて……リオネちゃんの本意まではわからないから。記憶を取り戻して、リオネちゃんとの記憶も戻って、それから決めるよ。さ、お願いリオネちゃん」
私はリオネちゃんに手を伸ばし記憶が封じられているとおぼしき水晶を渡すよう迫る。だがリオネちゃんはさっと水晶を掴み、迷いながらも自らの背後に隠した。
「さ、サリア様のお願いでも、それはできません! これをあなたに渡せばあなたはもとのサリア様に戻ってしまいます……私を拒絶したサリア様に!」
「拒絶……やっぱり結婚とかは嘘だったんだね」
「ええ! サリア様は私との結婚を拒絶なさいました! 私は一度は諦めましたが……やはり私の大事なご主人様に尽くすこと、諦めきれません!」
リオネちゃんは涙すら流していた。本気なのだろう、私を愛しているというのは。私としてもそこまで想うのならば受け容れてあげたいのだが……それは今の私の選択であって、本来の、セイルやみんなが知る私のものではない。
「私はやっぱり、本当の私に戻らなくちゃならない。リオネちゃん、私のことを想うなら、まずは記憶を返して。全部それからだよ」
今の私は本来の私ではないのだから……私は改めてリオネちゃんに迫った。だがリオネちゃんはなおも一歩後ずさる。
「今のサリア様ならば、私の想いも受け止めてくださる……! それは記憶がないからでしょう? あらゆる経験も、それゆえの偏見もない真っ新ゆえに……私の愛も受け容れてくださる! 記憶がなくともサリア様はサリア様です! だから、私は!」
「違うよリオネちゃん。記憶がない私は私じゃない……それはセイルを見ればよくわかる」
生まれてからずっといっしょで、私のことを一番よく知るセイル。彼が記憶を失った私を見る目はどこか冷ややかだった。やはり記憶のない私はサリア・フェルグランドではないということなのだろう。
だがセイルの名前を出した途端、リオネちゃんが反応する。
「セイル……やはりあの男が大事なのですね。正直嫉ましいですよサリア様、私がいつ何をしても、あの男には勝てない……サリア様の愛という点において」
「あ、愛ってわけじゃあないんだけど、セイルと私は一心同体っていうか」
「同じことです。だから私は奪い、そして取り戻すのです。サリア様の、一番の愛を!」
リオネちゃんが叫ぶ。猫によく似たその目が据わっている。髪の毛がわずかに逆立ち、口から覗く牙が光った。
「私のこの手でッ!」
リオネちゃんが水晶を放り投げ、同時に腕を振りかざした。
まずい。すぐに私も動く。
「ダメ、リオネちゃんッ!」
水晶の片方、私に近かった方をかっさらう。だがもう片方に手を伸ばすにはリオネちゃんは速すぎた。
「ガァーッ!!」
唸り声を上げながら、リオネちゃんの腕が記憶の水晶を打ち砕いた。思わず息が止まった。私の目の前で粉々の破片となった欠片が地に落ち散らばる。不安定なマナはひとたび砕かれるとあっという間に昇華し消えていった。
「リオネちゃん、あなたなんてことを……くっ!」
ひとまず私は奪い取れた方の魔水晶を頭に押し込んだ。ゆっくりと魔水晶が頭に入っていき、膨大な量の映像と感情……記憶が私の中へと宿っていく。
それは、サリア・フェルグランドとしての記憶だった。
「……ん……よし」
少しめまいがしたものの、私は記憶を取り戻すことができた。卓越した才能を持って生まれ、セイルと共に育ち、魔法学校で魔法を学び、ヒトミちゃんたちと出会って……リオネちゃんが魔水晶を砕いた時はどうなることかと思ったが、どうやら全ての記憶が戻ったようで一安心だ。
――でも。
「あれ……なんだろう、この違和感……」
私は自分の記憶を振り返る。全ての記憶がちゃんとあり、どこかが欠落しているようには思えない。だがなぜか強い違和感があった。大事なものが……まるで自分の基盤となるべきものが消え去ってしまったような……それに記憶の一部における私の言動も整合していないような気がするし……
「……あっ!」
私がそのことに気を取られている隙に、リオネちゃんは窓から逃げ去ってしまっていた。開かれた窓だけが空しく揺れている。
しまった、リオネちゃんは私のこの違和感について何か知っていたのかもしれないのに……私が悔やんでいると、後ろからどたどたと足音が聞こえてきた。
「サリアさん! ここにいらっしゃったんですね、探しました」
現れたのはヒトミだった。ひどく慌てている。
「どうしたのヒトミ、そんなに慌てて」
「じ、実はその、セイルさんが今パイロヴァニアに行っているんです! サリアさんの記憶を取り戻すために……わ、私、セイルさんなら大丈夫って思ってたんですけど、今になってパイロヴァニアにはセイルさんでも勝てないくらいのものがあるかもしれないってナイブズが……」
「ナイブズ? ああ、ヒトミちゃんは一度憑依されてたもんね」
「あ、はい、その時の記憶が一部残ってて……って、サリアさん、記憶戻ったんですか!?」
「一応ね。それより詳しく教えて、その話」
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