双子転生 -転生したら兄妹に分裂してた。天才双子の異世界ライフ-

八木山蒼

第54話 転生の真実

 パイロヴァニア地下空間。

「初めて会った時から、違和感はあった」

 俺はポップに問いかける。俺の身長の半分ほどしかない少女を見下ろしているというのに、奇妙なプレッシャーが俺の背に張り付いていた。
 当のポップは俺を見上げてニヤニヤ笑っている。白い髪、白い肌。その小さな少女に、俺は言い知れぬ違和感を覚えていたのだ。

「お前は全てを知っているような言葉、そして行動を見せていた。神を名乗り、常に笑って、嘯いて……初めは単なる妄想癖のある子供かと思っていた。だがお前はミリアの危機を俺らに伝えたり、パイロヴァニア行きを勧めたり……初対面の時ですら、まるで俺らの素性を知っているようだった」

 神託の双子。ポップは俺ら双子をそう呼んだ。
 俺らは『天才』と呼ばれることはよくあったが、あの時のポップはあえてその呼び方を外していたような気がする。神託……『神』の字を出すように。
 それが単に神を自称するポップのポーズなのか、それとも。

「俺はもう確信している、お前はただの人間じゃあない。お前は何を知っている? お前の正体はなんなんだ? 答えろ、ポップ!」

 俺はポップに問いを突き付けた。サリアの記憶を取り戻すためにここに来た、しかしここでポップを無視するわけにはいかない。
 ポップはパイロヴァニア軍部に出入りし、まるで軍部の一員……それも重要人物であるようかのように振る舞い、あまつさえ作戦の提案まで行い、また軍部総帥はあっさりとそれを受けた。暴走した兵士がはびこるこの地下にメイリアと共に兵器で踏み込み、俺らの前に現れた……パイロヴァニアの『計画』と無関係なわけはない。
 元々『ゲルス・ワーストが計画の責任者かつ洗脳魔法の開発者』という情報しかない俺にとって情報は何よりも重要だ。ここでポップを問い詰めることは、俺にとって必要なことだった。

 当のポップはやれやれと肩をすくめる。

「私が誰か、だって? 最初から言っているじゃあないか」

 シアン色の瞳が薄暗い地下で怪しく光る。白い髪から一束だけたらりと垂れ、左目にかかっている黄色の髪が揺れる。そして笑っていた。

「神だ、とな」

 神。ポップは最初からそう自称していた。
 本物の神と出会い、その手によって転生し、この世界でも時折降臨する神と言葉を交わす俺らはそれを一笑に付していた。俺らの世界で髭をたくわえた老爺が神のイメージであるように、この世界では白い肌に白い髪の少女が神の一般的イメージ。ポップは多少の差異はあるがその通りの見た目をしている、偶然か意識して作ったものだと思っていたが……

「フフフッ、困惑しているようだな。お前さんのそういう顔を見るのは中々に楽しいが……急ぎのようだ、私もからかうのはほどほどにしておこう。なあ、鈴木健司?」

 ポップの言葉に俺は背筋が凍るのを感じた。鈴木健司、それは俺の、いや俺たちの前世の名前。この世界の人間が絶対に知るはずはないこと。それこそ神のみぞ知る……
 俺の驚愕を楽しむようにポップは笑っていた。

「あまりいじめるのもかわいそうだ、話してあげよう。半身が大事なんだろう? それとも妹君か? フフフ……大事なのは『計画』のことだ、違うかな?」
「……ああ」

 俺は自分からは必要以上に追及せず、ポップが語るのに任せることにした。問い詰めたり恫喝したところで、ポップがポップの話したいことを話すということに変わりはないだろうと思ったからだ。
 そしてポップは一言目から、衝撃の告白をした。

「そもそもこの『計画』を発案したのは私だ。お前らのような天才を洗脳し、忠実な兵とする計画のな」

 全身の血液が騒ぐのが分かった。緊張と混乱の入り混じった気味の悪い興奮が全身を包み、めまいが襲ってくる。
 同時に一部では冷静な思考が残り、俺はそこで気付いた。パイロヴァニアが全霊を注ぐこの『計画』、一朝一夕に立てられたものではない。最低でも数年前から準備を続けなければ到底不可能だろう。しかしポップは14歳、あるいはどう見てもそれ以下の年齢。14歳の今ですら怪しいのに、それよりもさらに幼い人間が、一国の命運を分ける計画を発案し、受け入られるだろうか?
 ポップは人間ではない。疑惑が確信に変わりつつある。

「事の発端はあのクソガキにも聞いただろうが、パイロヴァニアという国そのものを包む絶望。狭い土地がもたらす閉塞感、迫害された獣人たちの怨嗟、行き詰る産業。そして国を脅かす地の揺れ。国民のフラストレーションは限界に近付きつつあり、それを打開しなければ国が崩壊するのは目に見えていた。パイロヴァニアに必要だったのは二つ、国民たちの絶望を吹き飛ばすほどの拠り所と充分な国土……そしてそれらを同時に手に入れられるものこそ、軍事力だった。パイロヴァニアには軍事力が必要だった、それも圧倒的な軍事力がな。しかし軍事力を欲して手に入れば苦労はしない、魔法技術はアスパムに劣り、パイロヴァニア自慢の産業は国民の生活維持で精一杯。下手に軍事費をとればそれこそ国民の不満は爆発し国は崩壊する……八方手づまりだな。そこで登場したのが、神たるこの私だ」

 ポップは俺を見据えていた。その瞳の一部が垂らされた髪に隠れ、また覗く。そして彼女の口から語られる、パイロヴァニアの計画に俺らが対象とされたのではなく……『俺らがいたから計画が生まれ得た』のだと。
 そしてその背景には、ポップだけが……神だけが知り得る『天才』の真実があった。

「とにかく力を欲していたパイロヴァニアの連中に私は告げた。この世界には無敵の力がある、と。それは神がもたらした力、神がこの世の均衡を保つために地に遣わした者が生まれながらに持つ絶対の力。『天才』の力だ。無尽蔵な魔力、多種多様な魔法、超人的身体能力、常人の倍以上を生きる精神。卑怯なまでに研ぎ澄まされた神託の力……お前ら風に言えばチートって奴か? フフフフ……」
「ポップ、お前やはり……!」

 ポップの笑みが底なしの不気味さを持って、俺に突きつけられた。

「そうだ、私は全て知っている。お前ら双子がかつて1人の人間であったこと。神に神罰を受け死にその代償としてこの世界に転生したこと。転生の際に莫大な力を与えられたこと。そしてその力をもって、神に代わり地を守る役目を負っていることも。全てな」

 やはりだ、ポップは俺たちの素性の全てを知っていた。問題はそれをどうやって知ったか……想像もつかない。

「転生により与えられた力を手に入れること、それが私がパイロヴァニアに提案した『計画』だ。フフッ、説得力があるだろう? なにせ神が与えたチート級の力を手に入れるわけだ、圧倒的軍事力を望むパイロヴァニアにこれ以上の天啓はなかったわけだ」

 ポップは明らかにわざと自身の素性を後回しにして話を続けた。たしかにこれで『計画』が生まれる経緯についてもわかった、だが何よりも疑問なのはやはりポップがどうやって転生を知りえたか……ポップが何者なのか。

「ポップ。お前は……何者なんだ」

 耐え切れずに尋ねる。

「私は神だ」

 ポップはお決まりの返答を返す。だがフフッと小さく笑った後……ついに、核心に触れる。

「いや……正確には元・神」

 少女は笑う。
 この地で。
 その小さな体で。
 その、人としての魂で。
 そして、語った。

「私はかつて神だった。しかし神としての禁を破り……人と為り、地に堕ちた」

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