双子転生 -転生したら兄妹に分裂してた。天才双子の異世界ライフ-
第53話 掌の中の記憶
魔法都市アスパム。
「じゃあねリオネちゃん、また後で」
「はい!」
フェルグランド家の宮殿の前でリオネはサリアと別れた。
アスパムに留まるにあたり、リオネはフェルグランド家宮殿の部屋を貸し出すことを提案されていたが断って適当な宿屋を利用している。
サリアと別れ、リオネは宿屋の自室へと帰ってくる。
「……ウフフっ」
リオネは小さく笑った。ドアに鍵をかけ、窓から外を確認する。
そしてベッドと共に置かれた宿屋の簡素な机の引き出しを開けた。そこには彼女の予備の服がしまいこまれている。だがそれはダミーだった。
衣服をどけ、引き出しの奥を探る。すると布に包まれた球状の何かがころんと手元に転がる。それは2つあった。
「ウフフフフフフフフフっ」
部屋にリオネの笑い声が細く響く。リオネは球を包んだ布を取り払った。
そこにあったのは魔力の本体マナが固形化した物質、魔水晶。だがただの魔水晶ではない。魔水晶は透き通っており、その中にまるでガラス窓のように何かが代わる代わる映し出されている……
「ウフフフフフ! ウフフ、ウフフフフフフフフッ!」
リオネはそれをうっとりと眺め、その内の片方を瞳に近づける。するとその目の中に生々しい映像がありありと飛び込んできた。
魔法学校の中庭。目の前に赤い髪の少女……メイリアがいる。メイリアがいきなりレモンを取り出し、視線がそちらに集中する。
他にもある。よくわからない地下で、巨大な鎧の怪物相手に、セイルと手を取り合って打倒す。魔水晶の中には一人称視点の情景がいくつも浮かんでは消えていく。
そう、この魔水晶は、サリア・フェルグランドの記憶そのものだった。
「ウフフフフ……サリアさま、あなたはもう私の掌の中……」
リオネは狂気ともとれる恍惚を浮かべ、魔水晶の中のサリアの記憶を眺めていた。
パイロヴァニアがアスパムを襲撃したあの日……サリアが記憶を奪われた日。
リオネはサリアに言われ哨戒を行い、サリアのそばにはいなかった。事が全て終わってからようやくサリアに起こった悲劇を知り、己の無力を悔い嘆いた……そういうことになっている。
実はリオネは哨戒を行いつつも、優れた聴覚を活かし常に主と慕うサリアの周囲を警戒していた。つまり、リオネは全て知っていたのだ。
だがそれでなお、サリアの危機にすぐに駆け付けることはできず、駆け付けた時にはすべて終わっていた。ヒトミに憑依したナイブズの手によりサリアは気を失い、ナイブズ及び他の襲撃者たちも相撃ちの形で倒れていた。セイル・フェルグランドはまだ来ていなかった。
リオネはすぐにサリアを介抱しようとした。だが同時にサリアのすぐそばに転がっている2つの魔水晶に気付き、なにげなく拾い上げる。
そしてそれがサリアの記憶を封じ込めたものだということに気付いた。
リオネは国王の娘、かつ斥候として双子に取り入る任を請け負うなど『計画』に深くかかわっている。ナイブズの手によりサリアの記憶が奪われたのだということをすぐ理解した。
その直後くらいに、リオネの耳はセイル・フェルグランドがこちらへと向かってくることを察知した。そしてリオネは咄嗟に2つの魔水晶を懐にしまい込み、セイルに見つからないようにその場を去った。
「ウフフフフ……あの時は、なぜこんなことをしたのかと自己嫌悪したものですが……ウフフフフフ……」
掌の上で記憶の魔水晶を転がし、リオネは独り微笑む。
「ご主人様の全ての過去が……私の掌に……ウフフフフ……」
リオネはサリアを愛している。その愛は海よりも深く、空よりも果てしない。ゆえに記憶の魔水晶を持ち去ることはその背信でもある。だがそれ以上に……愛する者の記憶の全てを掌中に収めることに、リオネは酔いしれていたのだ。
私はサリア様の全てを知られる。どんな秘密も、本心も……全て。サリア様以外誰も知らなかったことに私は手を触れている!
そう、あの男ですら知られなかったことを!
今はまだランダムに想起される記憶を眺めるだけ……しかしやがては望む記憶を全て見られるようになり……
記憶のない無垢なサリア様を『教育』し……望む未来を手に入れる。
愛のために……
「ウフフフフフ……!」
リオネは声を押し殺して笑った後、1つ目の魔水晶を置く。そしてもうひとつを手に取り、同じように瞳に近づけた。
その中に映る記憶を始めてみた時リオネは言葉にできないほどに驚いたものだ。なにせそこにある記憶は魔法都市アスパムのものではない、それどころかこの世界のどこにいってもないであろう街と景色……動く絵や鉄の箱などの未知なる物体の数々。
そして何より、随所で移る記憶の持ち主の体は、サリアとは似ても似つかない男だった。
他人の記憶かと思った。だがサリアの記憶と照らし合わせ、そしてある偶然により、リオネはその正体を知った。いや正確にはサリアの正体を知ったのだ。
偶然、神と遭遇した時の記憶を見たことで。
「異世界……転生。サリア様、あなたはこのような秘密を持っていたのですね。またそれを共有するゆえに、あの男は特別だった……」
前世の記憶の魔水晶を見つめ、リオネは呟く。そしてより深く、嗤った。
「でも今は……私が知っている……ウフフフフ……ウフフフフフフ」
もうひとつの魔水晶も再び手に取り、手の中で弄ぶ。
今ここでこれを潰してしまえば、サリア様は永遠に……
でもそれをすると記憶を覗くこともできなくなってしまう。
「今はまだ……しかしいずれ……ウフフフっ」
リオネは狂気の笑みを浮かべながら、愛しき記憶に没頭するのだった――
「じゃあねリオネちゃん、また後で」
「はい!」
フェルグランド家の宮殿の前でリオネはサリアと別れた。
アスパムに留まるにあたり、リオネはフェルグランド家宮殿の部屋を貸し出すことを提案されていたが断って適当な宿屋を利用している。
サリアと別れ、リオネは宿屋の自室へと帰ってくる。
「……ウフフっ」
リオネは小さく笑った。ドアに鍵をかけ、窓から外を確認する。
そしてベッドと共に置かれた宿屋の簡素な机の引き出しを開けた。そこには彼女の予備の服がしまいこまれている。だがそれはダミーだった。
衣服をどけ、引き出しの奥を探る。すると布に包まれた球状の何かがころんと手元に転がる。それは2つあった。
「ウフフフフフフフフフっ」
部屋にリオネの笑い声が細く響く。リオネは球を包んだ布を取り払った。
そこにあったのは魔力の本体マナが固形化した物質、魔水晶。だがただの魔水晶ではない。魔水晶は透き通っており、その中にまるでガラス窓のように何かが代わる代わる映し出されている……
「ウフフフフフ! ウフフ、ウフフフフフフフフッ!」
リオネはそれをうっとりと眺め、その内の片方を瞳に近づける。するとその目の中に生々しい映像がありありと飛び込んできた。
魔法学校の中庭。目の前に赤い髪の少女……メイリアがいる。メイリアがいきなりレモンを取り出し、視線がそちらに集中する。
他にもある。よくわからない地下で、巨大な鎧の怪物相手に、セイルと手を取り合って打倒す。魔水晶の中には一人称視点の情景がいくつも浮かんでは消えていく。
そう、この魔水晶は、サリア・フェルグランドの記憶そのものだった。
「ウフフフフ……サリアさま、あなたはもう私の掌の中……」
リオネは狂気ともとれる恍惚を浮かべ、魔水晶の中のサリアの記憶を眺めていた。
パイロヴァニアがアスパムを襲撃したあの日……サリアが記憶を奪われた日。
リオネはサリアに言われ哨戒を行い、サリアのそばにはいなかった。事が全て終わってからようやくサリアに起こった悲劇を知り、己の無力を悔い嘆いた……そういうことになっている。
実はリオネは哨戒を行いつつも、優れた聴覚を活かし常に主と慕うサリアの周囲を警戒していた。つまり、リオネは全て知っていたのだ。
だがそれでなお、サリアの危機にすぐに駆け付けることはできず、駆け付けた時にはすべて終わっていた。ヒトミに憑依したナイブズの手によりサリアは気を失い、ナイブズ及び他の襲撃者たちも相撃ちの形で倒れていた。セイル・フェルグランドはまだ来ていなかった。
リオネはすぐにサリアを介抱しようとした。だが同時にサリアのすぐそばに転がっている2つの魔水晶に気付き、なにげなく拾い上げる。
そしてそれがサリアの記憶を封じ込めたものだということに気付いた。
リオネは国王の娘、かつ斥候として双子に取り入る任を請け負うなど『計画』に深くかかわっている。ナイブズの手によりサリアの記憶が奪われたのだということをすぐ理解した。
その直後くらいに、リオネの耳はセイル・フェルグランドがこちらへと向かってくることを察知した。そしてリオネは咄嗟に2つの魔水晶を懐にしまい込み、セイルに見つからないようにその場を去った。
「ウフフフフ……あの時は、なぜこんなことをしたのかと自己嫌悪したものですが……ウフフフフフ……」
掌の上で記憶の魔水晶を転がし、リオネは独り微笑む。
「ご主人様の全ての過去が……私の掌に……ウフフフフ……」
リオネはサリアを愛している。その愛は海よりも深く、空よりも果てしない。ゆえに記憶の魔水晶を持ち去ることはその背信でもある。だがそれ以上に……愛する者の記憶の全てを掌中に収めることに、リオネは酔いしれていたのだ。
私はサリア様の全てを知られる。どんな秘密も、本心も……全て。サリア様以外誰も知らなかったことに私は手を触れている!
そう、あの男ですら知られなかったことを!
今はまだランダムに想起される記憶を眺めるだけ……しかしやがては望む記憶を全て見られるようになり……
記憶のない無垢なサリア様を『教育』し……望む未来を手に入れる。
愛のために……
「ウフフフフフ……!」
リオネは声を押し殺して笑った後、1つ目の魔水晶を置く。そしてもうひとつを手に取り、同じように瞳に近づけた。
その中に映る記憶を始めてみた時リオネは言葉にできないほどに驚いたものだ。なにせそこにある記憶は魔法都市アスパムのものではない、それどころかこの世界のどこにいってもないであろう街と景色……動く絵や鉄の箱などの未知なる物体の数々。
そして何より、随所で移る記憶の持ち主の体は、サリアとは似ても似つかない男だった。
他人の記憶かと思った。だがサリアの記憶と照らし合わせ、そしてある偶然により、リオネはその正体を知った。いや正確にはサリアの正体を知ったのだ。
偶然、神と遭遇した時の記憶を見たことで。
「異世界……転生。サリア様、あなたはこのような秘密を持っていたのですね。またそれを共有するゆえに、あの男は特別だった……」
前世の記憶の魔水晶を見つめ、リオネは呟く。そしてより深く、嗤った。
「でも今は……私が知っている……ウフフフフ……ウフフフフフフ」
もうひとつの魔水晶も再び手に取り、手の中で弄ぶ。
今ここでこれを潰してしまえば、サリア様は永遠に……
でもそれをすると記憶を覗くこともできなくなってしまう。
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