双子転生 -転生したら兄妹に分裂してた。天才双子の異世界ライフ-
第51話 メイリアとカイン
俺は孤児院で生まれ育った。俺は捨て子だったらしい、残されていたのは産着に縫い付けられた名前だけ……パイロヴァニアは獣人も何もかも受け容れる人種のるつぼ、俺のような捨て子は多い。だから、そのこと自体は今は何も思っちゃいない。
メイリアは俺が5歳の頃に孤児院に入ってきた。あいつは両親を事故で失ったらしい。
あいつは当時から底抜けに明るい奴だった。ただバカなだけなのかもな……だが孤児院の中ではその明るさはまさに一等星。ともすればどこか陰鬱としがちな孤児院は奴の登場で急激に快活とし、俺自身もまた、認めたくはないが奴に救われた面もあるかもしれん。
だが事情が変わった。パイロヴァニアを襲うようになった、地震の存在だ。
メイリアが孤児院に来てから1年ほどの時、突如として地震は原因も予兆もまったくわからないままに、地が揺れ、生活を襲う。理解不能、回避不能な災害……それは想像以上にパイロヴァニアの心をすり減らした。
何より、地震は後押しにすぎなかった。パイロヴァニアには元々、不安や恐怖が蓄積していた。
迫害される獣人が自由に住める国。だが逆にいえば獣人はそこでしか自由に暮らせない……産業の街といえば聞こえはいいが、獣人は性質的に自然の方が性に合っている。鋼鉄作りの街は、少し視点を変えれば牢獄のように見えていたことだろう。
元来、パイロヴァニアは迫害された獣人たちが逃げるようにして作った国。山間のわずかな空間に家を建て人を集めた、土台からして不安定な国だ。国土は狭く生活も不便。建国当時の生きるだけで精一杯だった獣人にとってはそれでよかったのだろうが……
時は経ち、人も思想も変わった。増え続ける人口に対し、鉄の街には限りがある。
しかし外には出られない……出たい、出られない、出たい。獣人たちのジレンマが国を包み込む。一方で獣人以外の住人はそのジレンマが理解できず、獣人たちからすれば自分たちを迫害するのはそういった別種の人間たちだ。
迫害の歴史。人口の増加。産業の停滞。内部の分裂。数多もの問題がパイロヴァニアの中で淀み、腐臭を漂わせる。パイロヴァニアはじわじわと滅びつつあった。
ちょうど、今の国王を決める選挙の時も重なり、そんな雰囲気は俺ら子供にも伝わってきた。
だから欲したんだ、英雄を。
当時、孤児院ではやっていた絵本の物語の影響もあったんだろうな。英雄というワードは孤児院の中で大流行し、英雄がいれば、英雄がいればと孤児院の子供たちは口々に言っていた。
大人たちからすれば子供の語る絵空事だが、俺らからすれば大まじめだった。
子供だからな……必然的に何人かが言い出すわけだ。自分が英雄になる、と。具体的なイメージはなくとも、ただかっこいい、皆を救い光をもたらす英雄になる、と。メイリアはその筆頭で、俺もその夢に魅せられた。
だがメイリアは特に英雄に対して強く憧れを持っていたし、その必要性を理解していたらしい。純粋だったからかな、その分パイロヴァニアを覆う闇の気配を察していたのかもしれない。英雄になりたいと語る孤児の中でも、当時から剣の修行をしていたのは奴ぐらいだ。もちろん子供の独学、今となっては失笑もののレベルだったが……バカなことを大真面目にやるのは変わっちゃいない。
そんなメイリアが俺は好きだった。
やがて運命の時が来た。俺が10歳の時、パイロヴァニア軍部の人間が孤児院にやってきて、孤児を何人か軍で預かると言い出したんだ。兵隊にする、とは当時から言っていたがな。
メイリアは真っ先に志願した。英雄になることが憧れの奴だ、当然だろう。俺もそれに追随した……結局、兵隊になりたがったのは俺ら2人だけだった。
だがその時に奴が現れた。メイリアの妹を名乗る謎のガキ……ポップだ。当時から奇妙な奴だし、5年経っても見た目がちっとも変わっちゃいない。
奴はメイリアの妹を名乗り、メイリアを孤児院から連れ出しに来たんだ。当然孤児院の大人たちは驚いたし、メイリアも自分に妹がいるなど聞いたことがなかった。だがポップはメイリアの素性や性格をよく知っていたし、何より住む家と少ないが財産を持っていた。孤児を引き取りに来たんだ、断る理由もなかった。
何よりメイリアはあっさりとポップを受け容れていた。もっとも奴が誰かを拒絶するイメージも湧かんがな……メイリアは家族の出現に大いに喜び、ポップが軍に入ってほしくないと言うとあっさりと承諾した。
ポップの登場に一番反抗したのは俺だったろうな。妹が出てきたからって英雄の夢をあっさり諦めたメイリアにも失望したし、何より俺はメイリアを奪われた気がしていたんだ。ポップもそんな俺の気配を察してたのか、俺を1人呼び出して、孤児院の大人もメイリアもいないところで2人きりで話した。
そこでポップは俺に語った。まず、メイリアは英雄になることを諦めたわけではなく、むしろ軍に入っても兵士として扱われるだけで英雄になれないと語り、メイリアがそれを受け容れたこと。パイロヴァニアのよりはっきりとした現実。何よりも、孤児院から子供を預かり軍が進めようとしている……魔晶兵のことをな。
なぜポップがそこまで知っていたのかは俺も知らない。だがポップの語り口には不思議な真実味があったし、事実全て本当だったのだろう。
ポップは俺に忠告した。このまま軍の誘いに乗ればたしかに強大な力を得られる、しかしそれは命を削り、また利用される力。一時的に重用されてもいずれ捨てられるだけだと……パイロヴァニアが強大な軍事力を手に入れる『計画』のために。
そうだ、パイロヴァニアは当時からこの『計画』を持っていた。魔晶兵はそれと並行して進められた人体改造の研究……その実験台として、孤児院の子供が最適だったわけだ。
ポップはその事実全て伝え、俺に問うた。それでも軍に行くのかと。望むのならばメイリアと共に連れて行ってやると。
だが俺は逆に尋ねたんだ、もし魔晶兵になればどうなるのか。『計画』に利用され、その果てに……英雄になれるのかと。
ポップは答えた。けして表の英雄にはなれない。だが魔晶兵の力は計画に大きな助けとなり、計画成立の暁にはパイロヴァニアを救った、闇の英雄にはなれるだろうと。
その時、俺には薄々わかっていた、メイリアは兵士としては優しすぎる。本当の意味で誰かを傷つけることはできないし、敵を殺すこともできず、戦場でも相手へ笑顔を見せながら死んでいくことだろう。
だから……闇が必要だった。
俺は決意した。俺が闇になると。メイリアが光なら、俺はそれを支える闇になる。
闇の英雄となり、メイリアの生きるこのパイロヴァニアを救う。
英雄! そうだ、俺は英雄になれればそれでいい。メイリアから与えられたその夢が、誰からも必要とされず捨てられた俺に光を与え、俺の生涯の夢となった。命を賭けても惜しくない夢に!
セイル・フェルグランド! 俺がお前を討った時に計画はなされ、俺は英雄となる! たとえ表に名は出ずとも、俺がパイロヴァニアを救ったという事実で俺は十分。メイリアに対し誇りを持って死ねる……そうだ、俺はそれでいい。
俺は英雄になる! それが俺の全てだ!
「話はこれで終わりだ、セイル」
自らの過去と戦いに臨む動機を語り終え、俺の目の前でカインは言い放つ。その全身から邪悪な魔力が再び渦巻き始めた。
「俺は貴様を討つ……! 英雄となれるまたとない好機! 情けは無用、俺はここで命を捨てようと、惜しくはないッ!」
カインは誰にも操られているわけにはない。全て己の意志で動いている……メイリアの明るさが彼に捨身の死を覚悟させているのはなんという皮肉だろう。
「やるしかないのか」
「そうだ! 貴様は俺が英雄となるための踏台! 敵でしかない!」
カインを殺さずに止められるだろうか? 今カインの命を削るのはカイン自身の体に宿されたエネルギー、なんとかそれを奪えば……しかし下手をすれば殺されるのは俺だ。やはりやるしかないのか? 俺が逡巡していたその時。
「待てーッ!!」
突然、新たな声が地下に響き渡る。地下道を潜り抜け、入ってきたのは。
メイリアだった。
メイリアは俺が5歳の頃に孤児院に入ってきた。あいつは両親を事故で失ったらしい。
あいつは当時から底抜けに明るい奴だった。ただバカなだけなのかもな……だが孤児院の中ではその明るさはまさに一等星。ともすればどこか陰鬱としがちな孤児院は奴の登場で急激に快活とし、俺自身もまた、認めたくはないが奴に救われた面もあるかもしれん。
だが事情が変わった。パイロヴァニアを襲うようになった、地震の存在だ。
メイリアが孤児院に来てから1年ほどの時、突如として地震は原因も予兆もまったくわからないままに、地が揺れ、生活を襲う。理解不能、回避不能な災害……それは想像以上にパイロヴァニアの心をすり減らした。
何より、地震は後押しにすぎなかった。パイロヴァニアには元々、不安や恐怖が蓄積していた。
迫害される獣人が自由に住める国。だが逆にいえば獣人はそこでしか自由に暮らせない……産業の街といえば聞こえはいいが、獣人は性質的に自然の方が性に合っている。鋼鉄作りの街は、少し視点を変えれば牢獄のように見えていたことだろう。
元来、パイロヴァニアは迫害された獣人たちが逃げるようにして作った国。山間のわずかな空間に家を建て人を集めた、土台からして不安定な国だ。国土は狭く生活も不便。建国当時の生きるだけで精一杯だった獣人にとってはそれでよかったのだろうが……
時は経ち、人も思想も変わった。増え続ける人口に対し、鉄の街には限りがある。
しかし外には出られない……出たい、出られない、出たい。獣人たちのジレンマが国を包み込む。一方で獣人以外の住人はそのジレンマが理解できず、獣人たちからすれば自分たちを迫害するのはそういった別種の人間たちだ。
迫害の歴史。人口の増加。産業の停滞。内部の分裂。数多もの問題がパイロヴァニアの中で淀み、腐臭を漂わせる。パイロヴァニアはじわじわと滅びつつあった。
ちょうど、今の国王を決める選挙の時も重なり、そんな雰囲気は俺ら子供にも伝わってきた。
だから欲したんだ、英雄を。
当時、孤児院ではやっていた絵本の物語の影響もあったんだろうな。英雄というワードは孤児院の中で大流行し、英雄がいれば、英雄がいればと孤児院の子供たちは口々に言っていた。
大人たちからすれば子供の語る絵空事だが、俺らからすれば大まじめだった。
子供だからな……必然的に何人かが言い出すわけだ。自分が英雄になる、と。具体的なイメージはなくとも、ただかっこいい、皆を救い光をもたらす英雄になる、と。メイリアはその筆頭で、俺もその夢に魅せられた。
だがメイリアは特に英雄に対して強く憧れを持っていたし、その必要性を理解していたらしい。純粋だったからかな、その分パイロヴァニアを覆う闇の気配を察していたのかもしれない。英雄になりたいと語る孤児の中でも、当時から剣の修行をしていたのは奴ぐらいだ。もちろん子供の独学、今となっては失笑もののレベルだったが……バカなことを大真面目にやるのは変わっちゃいない。
そんなメイリアが俺は好きだった。
やがて運命の時が来た。俺が10歳の時、パイロヴァニア軍部の人間が孤児院にやってきて、孤児を何人か軍で預かると言い出したんだ。兵隊にする、とは当時から言っていたがな。
メイリアは真っ先に志願した。英雄になることが憧れの奴だ、当然だろう。俺もそれに追随した……結局、兵隊になりたがったのは俺ら2人だけだった。
だがその時に奴が現れた。メイリアの妹を名乗る謎のガキ……ポップだ。当時から奇妙な奴だし、5年経っても見た目がちっとも変わっちゃいない。
奴はメイリアの妹を名乗り、メイリアを孤児院から連れ出しに来たんだ。当然孤児院の大人たちは驚いたし、メイリアも自分に妹がいるなど聞いたことがなかった。だがポップはメイリアの素性や性格をよく知っていたし、何より住む家と少ないが財産を持っていた。孤児を引き取りに来たんだ、断る理由もなかった。
何よりメイリアはあっさりとポップを受け容れていた。もっとも奴が誰かを拒絶するイメージも湧かんがな……メイリアは家族の出現に大いに喜び、ポップが軍に入ってほしくないと言うとあっさりと承諾した。
ポップの登場に一番反抗したのは俺だったろうな。妹が出てきたからって英雄の夢をあっさり諦めたメイリアにも失望したし、何より俺はメイリアを奪われた気がしていたんだ。ポップもそんな俺の気配を察してたのか、俺を1人呼び出して、孤児院の大人もメイリアもいないところで2人きりで話した。
そこでポップは俺に語った。まず、メイリアは英雄になることを諦めたわけではなく、むしろ軍に入っても兵士として扱われるだけで英雄になれないと語り、メイリアがそれを受け容れたこと。パイロヴァニアのよりはっきりとした現実。何よりも、孤児院から子供を預かり軍が進めようとしている……魔晶兵のことをな。
なぜポップがそこまで知っていたのかは俺も知らない。だがポップの語り口には不思議な真実味があったし、事実全て本当だったのだろう。
ポップは俺に忠告した。このまま軍の誘いに乗ればたしかに強大な力を得られる、しかしそれは命を削り、また利用される力。一時的に重用されてもいずれ捨てられるだけだと……パイロヴァニアが強大な軍事力を手に入れる『計画』のために。
そうだ、パイロヴァニアは当時からこの『計画』を持っていた。魔晶兵はそれと並行して進められた人体改造の研究……その実験台として、孤児院の子供が最適だったわけだ。
ポップはその事実全て伝え、俺に問うた。それでも軍に行くのかと。望むのならばメイリアと共に連れて行ってやると。
だが俺は逆に尋ねたんだ、もし魔晶兵になればどうなるのか。『計画』に利用され、その果てに……英雄になれるのかと。
ポップは答えた。けして表の英雄にはなれない。だが魔晶兵の力は計画に大きな助けとなり、計画成立の暁にはパイロヴァニアを救った、闇の英雄にはなれるだろうと。
その時、俺には薄々わかっていた、メイリアは兵士としては優しすぎる。本当の意味で誰かを傷つけることはできないし、敵を殺すこともできず、戦場でも相手へ笑顔を見せながら死んでいくことだろう。
だから……闇が必要だった。
俺は決意した。俺が闇になると。メイリアが光なら、俺はそれを支える闇になる。
闇の英雄となり、メイリアの生きるこのパイロヴァニアを救う。
英雄! そうだ、俺は英雄になれればそれでいい。メイリアから与えられたその夢が、誰からも必要とされず捨てられた俺に光を与え、俺の生涯の夢となった。命を賭けても惜しくない夢に!
セイル・フェルグランド! 俺がお前を討った時に計画はなされ、俺は英雄となる! たとえ表に名は出ずとも、俺がパイロヴァニアを救ったという事実で俺は十分。メイリアに対し誇りを持って死ねる……そうだ、俺はそれでいい。
俺は英雄になる! それが俺の全てだ!
「話はこれで終わりだ、セイル」
自らの過去と戦いに臨む動機を語り終え、俺の目の前でカインは言い放つ。その全身から邪悪な魔力が再び渦巻き始めた。
「俺は貴様を討つ……! 英雄となれるまたとない好機! 情けは無用、俺はここで命を捨てようと、惜しくはないッ!」
カインは誰にも操られているわけにはない。全て己の意志で動いている……メイリアの明るさが彼に捨身の死を覚悟させているのはなんという皮肉だろう。
「やるしかないのか」
「そうだ! 貴様は俺が英雄となるための踏台! 敵でしかない!」
カインを殺さずに止められるだろうか? 今カインの命を削るのはカイン自身の体に宿されたエネルギー、なんとかそれを奪えば……しかし下手をすれば殺されるのは俺だ。やはりやるしかないのか? 俺が逡巡していたその時。
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