双子転生 -転生したら兄妹に分裂してた。天才双子の異世界ライフ-
第50話 闇との対峙
兵士たちをなぎ倒し、パイロヴァニア地下を進み続けると、俺はあることに気付く。
「……こっちの方が、兵士が多いな」
迷路のような地下道だが、ある方向に進むと妙に兵の数が多い。まるでそちらに行かせたくないようだ。
もちろん、その程度で止められる俺ではなく、むしろそれは道を示しているようなもの。
「出てこい、ゲルス!」
俺は兵が多い方へと突き進んでいった。
唐突に、狭かった地下道が開けて大きな空間に出た。そこは鉄で補強された地下の大空洞、大きさは体育館くらいもある巨大な空間だ。何かの実験場なのか、周囲にはガラクタのようなものが大量に転がっており、特定できないおかしな臭いがぷんぷんする。
だがそんなものを一瞬で意識の外に追いやるようなものが、部屋の中心で待っていた。
「……グ」
人間1人。だがその存在感はおぞましいほどに俺の肌に突き刺さった。
振り乱した黒髪。中性的な容姿。全身を覆う黒装束――カイン・イーノック。その両手足を金色の枷で封じられている。
部屋に入ってきた俺を睨みつけるその目に正気の色はなかった。
「キ……タ……ナ! グ、ググ、ガアアッ!」
辛うじて言葉を話した後、その全身から邪悪な力が沸き上がった。本来人間が持つものとは違う異色の魔力……体に魔力を直接埋め込まれた存在、『魔晶兵』が持つ歪な力。
「薄々予感はしてたが、やっぱり暴走させられてたか……軍と改造人間とくればこうなるよな」
カインとの戦いは覚悟していた、そのカインがこういった状態なのも。そしてそれに対する策も作ってきた。
「ガアアアッ!!」
カインは両手足の枷を引きちぎり、粉砕した。おそらくそれはリミッターで、俺が来るのを合図に解除する算段だったのだろう。そうして抑えつけなければ暴走するほどのパワーをカインは秘めている。
カインとは2回戦ったが、2回目は偽物のよく似た人形のようなものだった。しかしここにいるカインは本物だ……そんな気がする。なぜなら。
こんなに強い兵を量産できるなら、『計画』なんて必要ない。
「『バーサーカー』……オールエンチャント! 【コード・ファイナル】!」
カインが叫ぶ。その瞬間、纏う邪悪な魔力が爆発的に増大した。さらにその全身が侵されるように黒く染まっていき、猛烈に消化されるマナ・エネルギーが生んだ熱が風を起こし俺へ吹き付ける。
「マナドラフト……!? 人体で起こる現象じゃないぞ」
俺は心底驚いた、このマナによる風はマナドラフトと呼ばれ、通常魔力を含む火山などで発生する超エネルギーを裏付ける現象だ。それがまさか人間1人の肉体で起こるとは……ひとつだけ言えるのは、そんなエネルギーを身に宿したカインが、生きていられるわけはないということだ。
「イク……ゾ! アアアアーーーッ!」
カインは叫び、両腕を地に打ち付けた。邪悪な魔力が空間を侵す毒の魔法、これまで2回使い2回とも俺に破られている。
おそらく目的は攻撃じゃない、対処に出た俺の隙を作ることだ。だがここはあえて乗ってやる。
「光魔法【フラッシュ・ポーズ】!」
構えを取ることで全身から浄化の光を放つ魔法。広がる毒の空間を妨げて押し返す。さあどうくる、カイン。
「ギ……【ギリー・レイド】!」
狂気に侵されつつあるカインが呪文を呟く。なるほど、魔法を使うために一部の自我を残してあるのか。
などと感心する余裕はすぐに消え去った。カインが使った魔法の力により、広がりつつあった毒の闇が急激に収縮、巨大な剣の形状となりカインの手に握られたのだ。
「ガアアアーーーーッ!」
闇の剣を振りかざし、カインが突っ込んでくる。『バーサーカー』により強化された身体能力は俺すらも遥かに上回る。
「アアッ!」
カインが剣を振るうと俺を包んでいた光の空間が切り裂かれた。魔法そのものを切り裂く力がある剣のようだ。今はその腕力、脚力共に超人的に強化されている、一呼吸油断すれば真っ二つだ。
だが【フラッシュ・ポーズ】は足を止めて放つ魔法、中止し迎撃するまでにはワンテンポ遅れてしまった。その一瞬でカインには十分。
「ガアアーーーッ!」
俺の頭上にカインの剣が迫った。
だが俺はその瞬間を狙っていたのだ。
「無駄だ」
俺は一歩も動かずにその剣を見つめる。その瞬間、闇の剣は消滅した。カインの表情に驚愕がにじむ。
俺はカインが起動を始めるまでに密かに魔法を使っていたのだ。【ディスペルマント】、解呪魔法の力を持つバリアーを全身に張る魔法。それを最大出力で放ち体を包んでいた。
これまでの経験から、魔晶兵最大の武器はその圧倒的な身体能力とわかっていた。ならば身を捨ててでも戦いに来るとき、カインは必ず白兵戦をかけてくる……そう読み、見事的中した。
そしてこの魔法を選んだ理由はもうひとつ。
「【ディスペルマント】!」
一瞬の隙を突き、俺は自分の身を包んでいたバリアで逆にカインの体を包み込んだ。俺が魔力を送り込んだ解呪魔法が直接、カインの体に触れる。
「ガアアアーーーーーーーッ!?」
カインが苦悶の声を上げ苦しみに呻く。その体からみるみる内に黒い色が失せていき、邪悪な迸りが静まっていく。
やがてカインは完全に平常の状態に戻り、ガクリと膝をついた。
しかし。
「……セイル、余計なことをするな」
正気に返ったはずのカインは俺を睨みつけるとすぐに立ち上がった。【ディスペルマウント】も振り払う。俺は大いに驚いた。
「何か勘違いしちゃいないか? 俺が操られ、意に添わぬ戦いをさせられていると。違う! 全て俺自身の意思だ」
カインははっきりとした言葉、そして目で俺に言い放った。到底操られているようには見えない。
「カイン……わかっているのか。パイロヴァニアは、お前を捨て駒にしようとしたんだぞ。魔晶兵に過剰なパワーを送り込み、暴走させて……」
俺は尋ねたが、カインは鼻で笑った。
「承知の上だ。俺は闇、パイロヴァニアの闇の兵……たとえこの身滅びようと、貴様と相討てばパイロヴァニアの悲願は果たされる!」
「バカを言うなカイン! このまま戦い続ければ本当に命を落とすんだぞ!」
カインは中二病のケがあり、斜に構えて厭世的なことをのたまう癖がある……俺はこの時もそうだとばかり思っていた。
だが違う、カインの目からは何か、確固たる決意のようなものがある。己の死を覚悟した、決意が。
「カイン! お前は確か10歳の頃に軍に預けられ、15歳になる今までずっと軍で訓練されてきたらしいな! その時に何を教えられた? 何を吹き込まれた? それは本当に、お前の意思なのか!?」
10歳の少年に5年もの歳月をかければ、魔法も何もなくとも洗脳はできる。カインはそれをされているのではないか、そうとも思った。その狂信が決意を生んでいるのではないかと……だが。
「それを聞いたのはメイリアからだろう?」
カインはフッと微笑んだ。メイリア、カインからすれば幼馴染となる少女。たしかに彼の言う通り、さっき俺が言ったのはメイリアから聞いたことだ。
その時、カインはどこか遠い目をしていた。
「貴様もわかるだろう……メイリアがどういう人間か。あいつがどれだけ愚かで、どれだけ間抜けで……どれだけ優しく、健気で、愛おしい存在なのかを。無邪気で純粋で、汚したくないかを」
「カイン……お前」
「そうだ、俺はメイリアに全てを語ってはいない。奴には言えなかった、言えば必ず止めるだろうし、悲しむだろうからな……軍に入った時から、命を捨てる覚悟だったなどと」
軍に入った時から? 俺は聞き返す。カインはまた悲し気に微笑んだ。
「そうだ。お前はパイロヴァニア軍部が幼い俺を騙し、魔晶兵の実験台に仕立て上げたような言い草だったな。だが違う、俺が志願したんだ。実験台にされたのは本当だが……それがパイロヴァニアのために、いや俺の為に必要な力ならと、リスクも承知のうえでな」
俺の知らないカインの表情が明らかになっていく。そしてその裏に見え隠れするのは、パイロヴァニアを覆いこむ謎の気配……カインがそこまでの覚悟を固めるに至った理由。
「カイン、お前はどうして、そこまで」
「フン……どの道これが最期。時間稼ぎも俺の役目だ。ゆっくりと話してやろう、俺の……いや、俺とメイリアの過去をな」
――そして、カインは語り始めた。
「……こっちの方が、兵士が多いな」
迷路のような地下道だが、ある方向に進むと妙に兵の数が多い。まるでそちらに行かせたくないようだ。
もちろん、その程度で止められる俺ではなく、むしろそれは道を示しているようなもの。
「出てこい、ゲルス!」
俺は兵が多い方へと突き進んでいった。
唐突に、狭かった地下道が開けて大きな空間に出た。そこは鉄で補強された地下の大空洞、大きさは体育館くらいもある巨大な空間だ。何かの実験場なのか、周囲にはガラクタのようなものが大量に転がっており、特定できないおかしな臭いがぷんぷんする。
だがそんなものを一瞬で意識の外に追いやるようなものが、部屋の中心で待っていた。
「……グ」
人間1人。だがその存在感はおぞましいほどに俺の肌に突き刺さった。
振り乱した黒髪。中性的な容姿。全身を覆う黒装束――カイン・イーノック。その両手足を金色の枷で封じられている。
部屋に入ってきた俺を睨みつけるその目に正気の色はなかった。
「キ……タ……ナ! グ、ググ、ガアアッ!」
辛うじて言葉を話した後、その全身から邪悪な力が沸き上がった。本来人間が持つものとは違う異色の魔力……体に魔力を直接埋め込まれた存在、『魔晶兵』が持つ歪な力。
「薄々予感はしてたが、やっぱり暴走させられてたか……軍と改造人間とくればこうなるよな」
カインとの戦いは覚悟していた、そのカインがこういった状態なのも。そしてそれに対する策も作ってきた。
「ガアアアッ!!」
カインは両手足の枷を引きちぎり、粉砕した。おそらくそれはリミッターで、俺が来るのを合図に解除する算段だったのだろう。そうして抑えつけなければ暴走するほどのパワーをカインは秘めている。
カインとは2回戦ったが、2回目は偽物のよく似た人形のようなものだった。しかしここにいるカインは本物だ……そんな気がする。なぜなら。
こんなに強い兵を量産できるなら、『計画』なんて必要ない。
「『バーサーカー』……オールエンチャント! 【コード・ファイナル】!」
カインが叫ぶ。その瞬間、纏う邪悪な魔力が爆発的に増大した。さらにその全身が侵されるように黒く染まっていき、猛烈に消化されるマナ・エネルギーが生んだ熱が風を起こし俺へ吹き付ける。
「マナドラフト……!? 人体で起こる現象じゃないぞ」
俺は心底驚いた、このマナによる風はマナドラフトと呼ばれ、通常魔力を含む火山などで発生する超エネルギーを裏付ける現象だ。それがまさか人間1人の肉体で起こるとは……ひとつだけ言えるのは、そんなエネルギーを身に宿したカインが、生きていられるわけはないということだ。
「イク……ゾ! アアアアーーーッ!」
カインは叫び、両腕を地に打ち付けた。邪悪な魔力が空間を侵す毒の魔法、これまで2回使い2回とも俺に破られている。
おそらく目的は攻撃じゃない、対処に出た俺の隙を作ることだ。だがここはあえて乗ってやる。
「光魔法【フラッシュ・ポーズ】!」
構えを取ることで全身から浄化の光を放つ魔法。広がる毒の空間を妨げて押し返す。さあどうくる、カイン。
「ギ……【ギリー・レイド】!」
狂気に侵されつつあるカインが呪文を呟く。なるほど、魔法を使うために一部の自我を残してあるのか。
などと感心する余裕はすぐに消え去った。カインが使った魔法の力により、広がりつつあった毒の闇が急激に収縮、巨大な剣の形状となりカインの手に握られたのだ。
「ガアアアーーーーッ!」
闇の剣を振りかざし、カインが突っ込んでくる。『バーサーカー』により強化された身体能力は俺すらも遥かに上回る。
「アアッ!」
カインが剣を振るうと俺を包んでいた光の空間が切り裂かれた。魔法そのものを切り裂く力がある剣のようだ。今はその腕力、脚力共に超人的に強化されている、一呼吸油断すれば真っ二つだ。
だが【フラッシュ・ポーズ】は足を止めて放つ魔法、中止し迎撃するまでにはワンテンポ遅れてしまった。その一瞬でカインには十分。
「ガアアーーーッ!」
俺の頭上にカインの剣が迫った。
だが俺はその瞬間を狙っていたのだ。
「無駄だ」
俺は一歩も動かずにその剣を見つめる。その瞬間、闇の剣は消滅した。カインの表情に驚愕がにじむ。
俺はカインが起動を始めるまでに密かに魔法を使っていたのだ。【ディスペルマント】、解呪魔法の力を持つバリアーを全身に張る魔法。それを最大出力で放ち体を包んでいた。
これまでの経験から、魔晶兵最大の武器はその圧倒的な身体能力とわかっていた。ならば身を捨ててでも戦いに来るとき、カインは必ず白兵戦をかけてくる……そう読み、見事的中した。
そしてこの魔法を選んだ理由はもうひとつ。
「【ディスペルマント】!」
一瞬の隙を突き、俺は自分の身を包んでいたバリアで逆にカインの体を包み込んだ。俺が魔力を送り込んだ解呪魔法が直接、カインの体に触れる。
「ガアアアーーーーーーーッ!?」
カインが苦悶の声を上げ苦しみに呻く。その体からみるみる内に黒い色が失せていき、邪悪な迸りが静まっていく。
やがてカインは完全に平常の状態に戻り、ガクリと膝をついた。
しかし。
「……セイル、余計なことをするな」
正気に返ったはずのカインは俺を睨みつけるとすぐに立ち上がった。【ディスペルマウント】も振り払う。俺は大いに驚いた。
「何か勘違いしちゃいないか? 俺が操られ、意に添わぬ戦いをさせられていると。違う! 全て俺自身の意思だ」
カインははっきりとした言葉、そして目で俺に言い放った。到底操られているようには見えない。
「カイン……わかっているのか。パイロヴァニアは、お前を捨て駒にしようとしたんだぞ。魔晶兵に過剰なパワーを送り込み、暴走させて……」
俺は尋ねたが、カインは鼻で笑った。
「承知の上だ。俺は闇、パイロヴァニアの闇の兵……たとえこの身滅びようと、貴様と相討てばパイロヴァニアの悲願は果たされる!」
「バカを言うなカイン! このまま戦い続ければ本当に命を落とすんだぞ!」
カインは中二病のケがあり、斜に構えて厭世的なことをのたまう癖がある……俺はこの時もそうだとばかり思っていた。
だが違う、カインの目からは何か、確固たる決意のようなものがある。己の死を覚悟した、決意が。
「カイン! お前は確か10歳の頃に軍に預けられ、15歳になる今までずっと軍で訓練されてきたらしいな! その時に何を教えられた? 何を吹き込まれた? それは本当に、お前の意思なのか!?」
10歳の少年に5年もの歳月をかければ、魔法も何もなくとも洗脳はできる。カインはそれをされているのではないか、そうとも思った。その狂信が決意を生んでいるのではないかと……だが。
「それを聞いたのはメイリアからだろう?」
カインはフッと微笑んだ。メイリア、カインからすれば幼馴染となる少女。たしかに彼の言う通り、さっき俺が言ったのはメイリアから聞いたことだ。
その時、カインはどこか遠い目をしていた。
「貴様もわかるだろう……メイリアがどういう人間か。あいつがどれだけ愚かで、どれだけ間抜けで……どれだけ優しく、健気で、愛おしい存在なのかを。無邪気で純粋で、汚したくないかを」
「カイン……お前」
「そうだ、俺はメイリアに全てを語ってはいない。奴には言えなかった、言えば必ず止めるだろうし、悲しむだろうからな……軍に入った時から、命を捨てる覚悟だったなどと」
軍に入った時から? 俺は聞き返す。カインはまた悲し気に微笑んだ。
「そうだ。お前はパイロヴァニア軍部が幼い俺を騙し、魔晶兵の実験台に仕立て上げたような言い草だったな。だが違う、俺が志願したんだ。実験台にされたのは本当だが……それがパイロヴァニアのために、いや俺の為に必要な力ならと、リスクも承知のうえでな」
俺の知らないカインの表情が明らかになっていく。そしてその裏に見え隠れするのは、パイロヴァニアを覆いこむ謎の気配……カインがそこまでの覚悟を固めるに至った理由。
「カイン、お前はどうして、そこまで」
「フン……どの道これが最期。時間稼ぎも俺の役目だ。ゆっくりと話してやろう、俺の……いや、俺とメイリアの過去をな」
――そして、カインは語り始めた。
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