双子転生 -転生したら兄妹に分裂してた。天才双子の異世界ライフ-
第49話 リオネの牙
俺はパイロヴァニア軍部で暴動を続ける。ゲルスはなおも出てこない。
「【ハイドロ・プレッシャー】ッ!」
水魔法を撃ち放ち兵士どもをなぎ倒す。そこはパイロヴァニア軍部の地下空間、一般には秘密にされている場所だ。ここならば何かあるのではと思ったが沸いてくるのは兵士ばかり。
それも、どこか様子のおかしい兵だ。
「ガアアーーーーーッ!」
兵が血走った眼で方向を上げる。全身を魔力のオーラで包み鎧のようにして突っ込んでくる。そいつだけではなく、大勢の兵士が皆同じように獣のように猛り狂いながら突っ込んできていた。
「どいつもこいつも……! 【オメガ・カタストロフ】!」
俺は巨大な手を出現させる魔法により、兵どもをまとめて殴り飛ばした。
だが兵たちはそれだけでは倒れずまた起き上がってくる。口から涎を垂らし、狂気の色を目に宿して。
「この感じ……まさか、ミリアと同じ状態なのか?」
狂ったような兵士たちのさまはあの時のミリアとよく似ている。まさか奴ら、味方の兵にまで……
「ガアアアアアアアアーーーーーーーーーーーッ!!」
考えている暇はない、狂乱の兵士たちが押し寄せる。俺は舌打ちをした後、その魔法を解禁した。
「【ショックバインド】ッ!」
光り輝く電撃が兵士たちへ一気に迸った。びくりと痙攣した後、兵士たちは次々に倒れていった。脳信号を直接攻撃する魔法だ、いかに狂っていてもしばらくは起きられない。
だがこの魔法は相手を殺してしまわないよう手加減する必要がある繊細な技、魔力よりも気力・体力の消耗が激しい。
「これを使ってしまったか……」
あまり乱発したい魔法ではない。俺の魔力は無尽蔵だが体力は無限ではないし、戦い続ければいずれ尽きる。もっともそれこそミリア並の実力者がいない限りは問題ないだろうが……1人だけ危惧すべき相手がいる。それとぶつかる体力は残しておきたい。
「まあいい、それよりもとっとと、ゲルスを出せェーッ!」
俺はさらに地下を進んでいった。
やがて俺の危惧は現実となる――
私は魔法学校で一通り魔法について勉強を終え、帰路についていた。
「はあ。私、本当に魔法なんて使えるのかな」
思わずこぼすと、いっしょに歩くリオネちゃんが笑った。
「サリア様が魔法を使えなかったら、この世の人間はみんな使えませんよ。全属性魔法と数えきれないほどの補助魔法の使い手がセイルさんとサリア様ですよ?」
「そう、みんな言ってたけど……」
なぜだろう。私には、魔法を使える気がしない。
記憶を失った私は魔法の使い方も忘れてしまったのだが……それ以上に、私にはなぜか魔法というものの存在自体がしっくりこない。信じられないというか、まるで非日常的な存在のような……この世界では、当たり前のもののはずなのに。
……この世界?
「サーリーアーちゃんっ!」
「ひあっ!?」
考え事をしていると、いきなり後ろから胸を鷲づかみにされた。
「うーん、今のサリアちゃんは素直でかわいいねえ。でもちょっと寂しいかな」
「あっ、んん……や、やめてよっ!」
ひとしきり揉みしだかれた後なんとか振り払う。手をわきわきとさせながら、シィコという少女が笑っていた。
「えへへ、ごっつぁんでした」
「もう、シィコ……ちゃん。あなたいつもこんなことしてるの?」
「もっちろん! サリアちゃんだっていつもは喜んでたくせにー」
「え、ほ、ほんと?」
「ほんとほんと! ぐっひっひ」
「なんか怪しいんだけど……」
記憶がないのでわからないが、どうもこのシィコは信用ならない。隙あらば胸を揉みに来る。リオネちゃんも尻尾を立てて警戒している様子だった。
「でも、早く記憶が戻るといいね! やっぱり元気なサリアちゃんのおっぱいを楽しみたいから」
「う、うん。あなたにそう言われるとすごく複雑だけど」
シィコはそれだけ言うと去っていった。リオネちゃんに手を出さなかったのは彼女が本気で怒っていたからかもしれない。
「サリア様、大丈夫ですか!? お怪我は? お体の具合は!」
「だ、大丈夫大丈夫。ちょっと胸揉まれただけだし……」
「ああ、ご主人様に何かあったらどうしたらいいか……!」
リオネちゃんは涙目にすらなっていた。どうもこのリオネちゃん、私に対して感情が極端すぎるのだ。
入院してた頃から色々と世話を焼いてくれるのはありがたいのだが……様付け、ご主人様付けからしておかしいし、私を絶対にしすぎている感じがある。リオネちゃん曰く私は恩人らしいが、それにしてもやりすぎではなかろうか。
「リオネちゃん、どうして私のことをそこまで大事にしてくれるの?」
「だってご主人様は命の恩人ですから!」
「うーん……でもやっぱり過剰だと思うな。本当にそれだけなの?」
私はリオネちゃんに尋ねてみた。するとリオネちゃんは考え込み始める。なにかまずいことを聞いたかな、と私が思っていると。
「その……サリア様が忘れてしまわれているのは、本当に悲しいのですけれど」
リオネちゃんはおずおずと切り出す。そしてとんでもないことを言い出した。
「私たちは、結婚を誓い合った仲ですから……」
「え、ええっ!?」
結婚!? その単語に驚く私の前で、リオネちゃんはぽっと頬を赤らめた。
「け、結婚って……女の子同士で?」
「私たちの種族では当たり前ですよ。ご主人様、私を妻として迎えると誓ってくれたこと、お忘れですか……?」
リオネちゃんは不安げに私を覗き込む。うるむ瞳はネコのようなかわいらしさに溢れていて、思わず私は言葉に詰まる。記憶を失う前の私がその、け、結婚を誓っていたのならば、それを忘れられているのは相当なショックだろう。
「サリア様! 私はサリア様を愛しています! 私たちは愛し合っておりました! 今のサリア様が私を拒絶されても、私は……!」
「わ、わかった、わかったから! リオネちゃん、とりあえず落ち着こう?」
すがりつくリオネちゃんをなんとか宥める。美少女に縋られるのは悪い気持ちではないが……あれ、女の子同士だよね? なんでこんな気持ちに……
やっぱり私、女の子が好きだったの? セイルもかなり美男子だけど全然ピンと来なかったし、むしろかわいい女の子の方が……え、じゃあ、やっぱりリオネちゃんの言う通り……?
「サリア様、お慕いしております。これからもずっといっしょですよ……?」
私の腕にすりすりと頬を寄せるリオネちゃんの頭を、私はたじろぎながらも望まれるままに撫でた。喜んだリオネちゃんがゴロゴロと喉を鳴らす。
その笑みの奥で光っていた彼女の牙を、私はまだ知らなかった。
「【ハイドロ・プレッシャー】ッ!」
水魔法を撃ち放ち兵士どもをなぎ倒す。そこはパイロヴァニア軍部の地下空間、一般には秘密にされている場所だ。ここならば何かあるのではと思ったが沸いてくるのは兵士ばかり。
それも、どこか様子のおかしい兵だ。
「ガアアーーーーーッ!」
兵が血走った眼で方向を上げる。全身を魔力のオーラで包み鎧のようにして突っ込んでくる。そいつだけではなく、大勢の兵士が皆同じように獣のように猛り狂いながら突っ込んできていた。
「どいつもこいつも……! 【オメガ・カタストロフ】!」
俺は巨大な手を出現させる魔法により、兵どもをまとめて殴り飛ばした。
だが兵たちはそれだけでは倒れずまた起き上がってくる。口から涎を垂らし、狂気の色を目に宿して。
「この感じ……まさか、ミリアと同じ状態なのか?」
狂ったような兵士たちのさまはあの時のミリアとよく似ている。まさか奴ら、味方の兵にまで……
「ガアアアアアアアアーーーーーーーーーーーッ!!」
考えている暇はない、狂乱の兵士たちが押し寄せる。俺は舌打ちをした後、その魔法を解禁した。
「【ショックバインド】ッ!」
光り輝く電撃が兵士たちへ一気に迸った。びくりと痙攣した後、兵士たちは次々に倒れていった。脳信号を直接攻撃する魔法だ、いかに狂っていてもしばらくは起きられない。
だがこの魔法は相手を殺してしまわないよう手加減する必要がある繊細な技、魔力よりも気力・体力の消耗が激しい。
「これを使ってしまったか……」
あまり乱発したい魔法ではない。俺の魔力は無尽蔵だが体力は無限ではないし、戦い続ければいずれ尽きる。もっともそれこそミリア並の実力者がいない限りは問題ないだろうが……1人だけ危惧すべき相手がいる。それとぶつかる体力は残しておきたい。
「まあいい、それよりもとっとと、ゲルスを出せェーッ!」
俺はさらに地下を進んでいった。
やがて俺の危惧は現実となる――
私は魔法学校で一通り魔法について勉強を終え、帰路についていた。
「はあ。私、本当に魔法なんて使えるのかな」
思わずこぼすと、いっしょに歩くリオネちゃんが笑った。
「サリア様が魔法を使えなかったら、この世の人間はみんな使えませんよ。全属性魔法と数えきれないほどの補助魔法の使い手がセイルさんとサリア様ですよ?」
「そう、みんな言ってたけど……」
なぜだろう。私には、魔法を使える気がしない。
記憶を失った私は魔法の使い方も忘れてしまったのだが……それ以上に、私にはなぜか魔法というものの存在自体がしっくりこない。信じられないというか、まるで非日常的な存在のような……この世界では、当たり前のもののはずなのに。
……この世界?
「サーリーアーちゃんっ!」
「ひあっ!?」
考え事をしていると、いきなり後ろから胸を鷲づかみにされた。
「うーん、今のサリアちゃんは素直でかわいいねえ。でもちょっと寂しいかな」
「あっ、んん……や、やめてよっ!」
ひとしきり揉みしだかれた後なんとか振り払う。手をわきわきとさせながら、シィコという少女が笑っていた。
「えへへ、ごっつぁんでした」
「もう、シィコ……ちゃん。あなたいつもこんなことしてるの?」
「もっちろん! サリアちゃんだっていつもは喜んでたくせにー」
「え、ほ、ほんと?」
「ほんとほんと! ぐっひっひ」
「なんか怪しいんだけど……」
記憶がないのでわからないが、どうもこのシィコは信用ならない。隙あらば胸を揉みに来る。リオネちゃんも尻尾を立てて警戒している様子だった。
「でも、早く記憶が戻るといいね! やっぱり元気なサリアちゃんのおっぱいを楽しみたいから」
「う、うん。あなたにそう言われるとすごく複雑だけど」
シィコはそれだけ言うと去っていった。リオネちゃんに手を出さなかったのは彼女が本気で怒っていたからかもしれない。
「サリア様、大丈夫ですか!? お怪我は? お体の具合は!」
「だ、大丈夫大丈夫。ちょっと胸揉まれただけだし……」
「ああ、ご主人様に何かあったらどうしたらいいか……!」
リオネちゃんは涙目にすらなっていた。どうもこのリオネちゃん、私に対して感情が極端すぎるのだ。
入院してた頃から色々と世話を焼いてくれるのはありがたいのだが……様付け、ご主人様付けからしておかしいし、私を絶対にしすぎている感じがある。リオネちゃん曰く私は恩人らしいが、それにしてもやりすぎではなかろうか。
「リオネちゃん、どうして私のことをそこまで大事にしてくれるの?」
「だってご主人様は命の恩人ですから!」
「うーん……でもやっぱり過剰だと思うな。本当にそれだけなの?」
私はリオネちゃんに尋ねてみた。するとリオネちゃんは考え込み始める。なにかまずいことを聞いたかな、と私が思っていると。
「その……サリア様が忘れてしまわれているのは、本当に悲しいのですけれど」
リオネちゃんはおずおずと切り出す。そしてとんでもないことを言い出した。
「私たちは、結婚を誓い合った仲ですから……」
「え、ええっ!?」
結婚!? その単語に驚く私の前で、リオネちゃんはぽっと頬を赤らめた。
「け、結婚って……女の子同士で?」
「私たちの種族では当たり前ですよ。ご主人様、私を妻として迎えると誓ってくれたこと、お忘れですか……?」
リオネちゃんは不安げに私を覗き込む。うるむ瞳はネコのようなかわいらしさに溢れていて、思わず私は言葉に詰まる。記憶を失う前の私がその、け、結婚を誓っていたのならば、それを忘れられているのは相当なショックだろう。
「サリア様! 私はサリア様を愛しています! 私たちは愛し合っておりました! 今のサリア様が私を拒絶されても、私は……!」
「わ、わかった、わかったから! リオネちゃん、とりあえず落ち着こう?」
すがりつくリオネちゃんをなんとか宥める。美少女に縋られるのは悪い気持ちではないが……あれ、女の子同士だよね? なんでこんな気持ちに……
やっぱり私、女の子が好きだったの? セイルもかなり美男子だけど全然ピンと来なかったし、むしろかわいい女の子の方が……え、じゃあ、やっぱりリオネちゃんの言う通り……?
「サリア様、お慕いしております。これからもずっといっしょですよ……?」
私の腕にすりすりと頬を寄せるリオネちゃんの頭を、私はたじろぎながらも望まれるままに撫でた。喜んだリオネちゃんがゴロゴロと喉を鳴らす。
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