双子転生 -転生したら兄妹に分裂してた。天才双子の異世界ライフ-
第45話 かけがえのない半身
朝の光を受けて、私は目を覚ました。
「っんー……」
ベッドから身を起こし、ぐっと伸びをする。光を眩しく思いつつ目を開くと、朗らかな顔が飛び込んでくる。
「おはようサリアちゃん。元気?」
「うん、グリーンさん。いつも通りだよ」
メイドのグリーンさんだ。私が記憶を失う前から、よく私を起こしに来てくれていたらしい。朝の身支度の世話もグリーンさんの仕事だそうだ。
「それじゃさっさとお着替えしちゃいましょうか」
「うん、わかった」
軽く顔を洗ってからクローゼットのそばで着替えが始まる。そばには姿見も置いてあって、私の全身がそこに映る。
姿見に映る私の姿を見ると、私は少しどきりとする。記憶を失った私は自分の体も自分であるとはあまり思えず、いきなり別人が現れたように見えてしまうからだ。
ただそれだけではなく、鏡に映るサリア・フェルグランドはとってもきれいで……自分で言うのもなんだが自分という意識も薄いので言うが、水色の髪、サファイアのような瞳、中性的で整った顔立ち、美しいプロポーションなど、文句なしの美少女だ。
しかしなぜだろう、私はどうも鏡の中のサリアに、サリアがただ美少女だからという以上の何かを感じ緊張しているような気がした。
「じゃあ腕を上げて、脱がせちゃいますねー」
「あっ、はい」
グリーンさんに言われて腕を上げると、着ていたネグリジェが脱がされて私は下着姿となり、鏡の中のサリアも下着姿になる。そんなサリアを見ると私はやはりドキリとする。なぜだろう、女の子の、それも自分の姿だというのに……どうしてこんなにドキドキするのだろう。
「それじゃ今日の服はどうします?」
「えと、グリーンさんに任せるよ。私はまだ、よくわからなくて」
「そうですか? それじゃこれなんかどうですか? ふりっふりでかわいいワンピース!」
「じゃあ、それにしようかな」
「かしこまりましたー♪」
グリーンさんはノリノリで私に服を着せていく。ここまで子供の用に面倒を見てもらう必要があるかは疑問だったが、貴族とはそういうものらしい。記憶喪失の私はおとなしく従うことにしていた。
「いやあ、最近のサリアちゃんは女の子らしい服を着てくれて嬉しいわあ」
「前の私は、あんまりそういう服を着なかったんですか?」
「着なかったわねえ。スカートも基本的に嫌がって、セイルくんと同じ服ばかり着たがるのよね。せっかくかわいいんだからかわいい服着ればいいのに」
「ふうん……」
私は姿見に映るサリアを見る。飾りのついた女の子らしいワンピースに身を包んだ私はかわいらしく、とても似合っている。なぜ前の私がこれを嫌がったのか理解できなかった。
「さ、これでよしと。それじゃ朝ごはんできてますから行きましょ!」
「うん」
私はグリーンさんに連れられて自室の戸を開ける。広い宮殿は記憶を失った私には歩き辛く、グリーンさんに付き添ってもらうことにしている。
するとドアを開けた先で、ばったりとセイルに出くわした。
「あ、セイル、おはよう」
私はセイルに挨拶をした。セイル・フェルグランド、私の双子の兄。
今の私には兄という認識がないので、目の前の青い髪の男は見事な美少年に見える。心の奥では実の兄という記憶があるのかドキリとしたりはしないけれど、私とよく似た中性的な顔立ちは改めてみてもイケメンだ。
「あ、ああ、サリア。おはよう」
しかしセイルの方はどこかぎこちない。記憶を失った私が目覚めてからしばらくはそんな態度はなかったのだが、ここのところセイルはなぜか私に対しぎこちない態度をとっていた。
「サリア、記憶はまだ戻らないのか? 何か、断片的なものだけでも……」
「ううん、まだダメみたいなんだ。ごめんねセイル」
「そうか……いや、いいんだ」
セイルは私の記憶が戻らないかを強く気にしていた。やはりずっといっしょに育ってきた双子として、妹が記憶喪失になり自分のことも忘れられているのは辛く、それがぎこちない態度に繋がっているのかもしれない。
「先に行ってる。じゃあな」
セイルはどこか力なく微笑んでから去っていった。私は少し複雑な気持ちでその背を見つめていた。
「セイル、なんだか元気ないね。やっぱり私のことかな……」
「でしょうねぇ、なにせ2人はいつでもいっしょに行動してたくらいだもの。まさに一心同体以心伝心って感じで、ほとんど心の中まで同じってくらいに繋がってた双子ですからね。今のサリアちゃんには悪いけど、やっぱり自分のことまで忘れられてるっていうのは、セイルくんには辛いでしょねぇ」
「そう、だよね……」
セイルと私は双子のはずだが、今の私たちは見た目以外全然似ていない。心の中もまったく別だ。それにセイルは何か、言えない秘密を抱えているようで……
早く記憶を取り戻したいな。本当ならとっくに戻っていてもいいはずなのに。
「さっ、サリアちゃん私たちも朝食に行きましょう! 冷める前に食べないとね」
「う、うん、グリーンさん。行こうか」
一抹の不安を抱えつつも、私は私として暮らしていた。
――孤独。
思えば俺は、転生してから孤独というものを感じたことはなかった。
当然だ、いつも、いつでも、すぐそばにあいつがいたのだから。
俺と心を分け合った妹、サリア。
記憶も、考え方も、まったく一緒の分身。
どんな秘密も俺らの間ではないに等しかった。
自分が異世界から転生した存在であるという最大の秘密も、俺らは互いに知っている。
かつての自分について考えて反省することもあった。
あちらの世界のゲームやアニメについて語り合うこともあった。
男だった前世を振り返り、恥じらうサリアとじゃれ合うこともあった。
いつでも俺らは一心同体だったし、互いが何を考えているか通じ合い、理解し合っていた。
始めは記憶を失ったサリアも悪くないと思っていた。顔は文句なしの美少女だし、振る舞いもあどけなく新鮮で、かわいいからいいかと。
だが日が経つにつれて、俺を蝕んだのはまるで自分の半身を奪われたかのような喪失感だった。
今のサリアのことはわからない。何を考えているのか、何を思っているのか、まったくわからない。
今のサリアは知らない、俺らがかつて1人の男であったことを、転生する前の世界のことを。
2人の秘密は俺だけの秘密となり、途端に重くのしかかった。
話したい。
いつものサリアと話したい。
会いたい。
互いのことを理解しあった相棒に会いたい。
取り戻さなくてはならない……忘却の彼方に消えた、俺自身を。
「サリア……」
廊下を歩きつつ思わず呟く。
戻ってきてくれ、サリア。
俺はサリアの記憶が失われて初めて、俺にとってサリアがどれほど大事な存在かを思い知ったのだった。
「っんー……」
ベッドから身を起こし、ぐっと伸びをする。光を眩しく思いつつ目を開くと、朗らかな顔が飛び込んでくる。
「おはようサリアちゃん。元気?」
「うん、グリーンさん。いつも通りだよ」
メイドのグリーンさんだ。私が記憶を失う前から、よく私を起こしに来てくれていたらしい。朝の身支度の世話もグリーンさんの仕事だそうだ。
「それじゃさっさとお着替えしちゃいましょうか」
「うん、わかった」
軽く顔を洗ってからクローゼットのそばで着替えが始まる。そばには姿見も置いてあって、私の全身がそこに映る。
姿見に映る私の姿を見ると、私は少しどきりとする。記憶を失った私は自分の体も自分であるとはあまり思えず、いきなり別人が現れたように見えてしまうからだ。
ただそれだけではなく、鏡に映るサリア・フェルグランドはとってもきれいで……自分で言うのもなんだが自分という意識も薄いので言うが、水色の髪、サファイアのような瞳、中性的で整った顔立ち、美しいプロポーションなど、文句なしの美少女だ。
しかしなぜだろう、私はどうも鏡の中のサリアに、サリアがただ美少女だからという以上の何かを感じ緊張しているような気がした。
「じゃあ腕を上げて、脱がせちゃいますねー」
「あっ、はい」
グリーンさんに言われて腕を上げると、着ていたネグリジェが脱がされて私は下着姿となり、鏡の中のサリアも下着姿になる。そんなサリアを見ると私はやはりドキリとする。なぜだろう、女の子の、それも自分の姿だというのに……どうしてこんなにドキドキするのだろう。
「それじゃ今日の服はどうします?」
「えと、グリーンさんに任せるよ。私はまだ、よくわからなくて」
「そうですか? それじゃこれなんかどうですか? ふりっふりでかわいいワンピース!」
「じゃあ、それにしようかな」
「かしこまりましたー♪」
グリーンさんはノリノリで私に服を着せていく。ここまで子供の用に面倒を見てもらう必要があるかは疑問だったが、貴族とはそういうものらしい。記憶喪失の私はおとなしく従うことにしていた。
「いやあ、最近のサリアちゃんは女の子らしい服を着てくれて嬉しいわあ」
「前の私は、あんまりそういう服を着なかったんですか?」
「着なかったわねえ。スカートも基本的に嫌がって、セイルくんと同じ服ばかり着たがるのよね。せっかくかわいいんだからかわいい服着ればいいのに」
「ふうん……」
私は姿見に映るサリアを見る。飾りのついた女の子らしいワンピースに身を包んだ私はかわいらしく、とても似合っている。なぜ前の私がこれを嫌がったのか理解できなかった。
「さ、これでよしと。それじゃ朝ごはんできてますから行きましょ!」
「うん」
私はグリーンさんに連れられて自室の戸を開ける。広い宮殿は記憶を失った私には歩き辛く、グリーンさんに付き添ってもらうことにしている。
するとドアを開けた先で、ばったりとセイルに出くわした。
「あ、セイル、おはよう」
私はセイルに挨拶をした。セイル・フェルグランド、私の双子の兄。
今の私には兄という認識がないので、目の前の青い髪の男は見事な美少年に見える。心の奥では実の兄という記憶があるのかドキリとしたりはしないけれど、私とよく似た中性的な顔立ちは改めてみてもイケメンだ。
「あ、ああ、サリア。おはよう」
しかしセイルの方はどこかぎこちない。記憶を失った私が目覚めてからしばらくはそんな態度はなかったのだが、ここのところセイルはなぜか私に対しぎこちない態度をとっていた。
「サリア、記憶はまだ戻らないのか? 何か、断片的なものだけでも……」
「ううん、まだダメみたいなんだ。ごめんねセイル」
「そうか……いや、いいんだ」
セイルは私の記憶が戻らないかを強く気にしていた。やはりずっといっしょに育ってきた双子として、妹が記憶喪失になり自分のことも忘れられているのは辛く、それがぎこちない態度に繋がっているのかもしれない。
「先に行ってる。じゃあな」
セイルはどこか力なく微笑んでから去っていった。私は少し複雑な気持ちでその背を見つめていた。
「セイル、なんだか元気ないね。やっぱり私のことかな……」
「でしょうねぇ、なにせ2人はいつでもいっしょに行動してたくらいだもの。まさに一心同体以心伝心って感じで、ほとんど心の中まで同じってくらいに繋がってた双子ですからね。今のサリアちゃんには悪いけど、やっぱり自分のことまで忘れられてるっていうのは、セイルくんには辛いでしょねぇ」
「そう、だよね……」
セイルと私は双子のはずだが、今の私たちは見た目以外全然似ていない。心の中もまったく別だ。それにセイルは何か、言えない秘密を抱えているようで……
早く記憶を取り戻したいな。本当ならとっくに戻っていてもいいはずなのに。
「さっ、サリアちゃん私たちも朝食に行きましょう! 冷める前に食べないとね」
「う、うん、グリーンさん。行こうか」
一抹の不安を抱えつつも、私は私として暮らしていた。
――孤独。
思えば俺は、転生してから孤独というものを感じたことはなかった。
当然だ、いつも、いつでも、すぐそばにあいつがいたのだから。
俺と心を分け合った妹、サリア。
記憶も、考え方も、まったく一緒の分身。
どんな秘密も俺らの間ではないに等しかった。
自分が異世界から転生した存在であるという最大の秘密も、俺らは互いに知っている。
かつての自分について考えて反省することもあった。
あちらの世界のゲームやアニメについて語り合うこともあった。
男だった前世を振り返り、恥じらうサリアとじゃれ合うこともあった。
いつでも俺らは一心同体だったし、互いが何を考えているか通じ合い、理解し合っていた。
始めは記憶を失ったサリアも悪くないと思っていた。顔は文句なしの美少女だし、振る舞いもあどけなく新鮮で、かわいいからいいかと。
だが日が経つにつれて、俺を蝕んだのはまるで自分の半身を奪われたかのような喪失感だった。
今のサリアのことはわからない。何を考えているのか、何を思っているのか、まったくわからない。
今のサリアは知らない、俺らがかつて1人の男であったことを、転生する前の世界のことを。
2人の秘密は俺だけの秘密となり、途端に重くのしかかった。
話したい。
いつものサリアと話したい。
会いたい。
互いのことを理解しあった相棒に会いたい。
取り戻さなくてはならない……忘却の彼方に消えた、俺自身を。
「サリア……」
廊下を歩きつつ思わず呟く。
戻ってきてくれ、サリア。
俺はサリアの記憶が失われて初めて、俺にとってサリアがどれほど大事な存在かを思い知ったのだった。
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