双子転生 -転生したら兄妹に分裂してた。天才双子の異世界ライフ-
第43話 女の子なサリア
ミリアとの死闘を終え、気絶したミリアを医院に送り届けた後、俺はサリアを探していた。サリアの方はミリアを襲った黒幕を探しているだろう、そちらに加勢しなければならない。
「ま、もう全部終わってるかもな……」
俺はそう苦笑しながら魔力の気配を辿りアスパムを駆ける。サリアは俺の分身だ、俺とほぼ同じ力があり、まず誰かに負けるようなことはない。
やがて俺は俺らの住むフェルグランド家の宮殿に魔力の気配を見つけた。なるほど灯台下暗しというわけだ、ここならミリアの動きもよく観察できる。俺は宮殿の屋上に飛び上がった。
「よっと。サリア、そっちは……」
てっきりサリアが待っていると思っていた俺は、そこに広がっていた光景を見て言葉を失った。
倒れ伏す4人の人間と、血を流して絶命する男……見覚えがある、悪徳貴族ゴーディーの執事ナイブズだ。なぜこいつがここに? なぜ死んでるんだ? そして倒れている人間の1人はヒトミだ、彼女もなぜここにいるのだろう。
だがそれより俺の目を引いたのは……後頭部から血を流して倒れる、サリアの姿だった。
「さ、サリア!」
俺は慌てて駆けよりサリアを抱き起した。信じられなかった、神によってあれほどの力を与えられた俺らがこんな状態で倒れているなんて。サリアも完全に気を失っているようだったが後頭部以外怪我もなく、毒を盛られたようなこともない。呼吸も正常だ。
「サリア! どうした? ここで何があった!」
俺はサリアを強くゆする。すると。
「う……うーん……」
ゆっくりとサリアの目が開く。それを見て俺は一安心した。
「よかった、大丈夫そうだな。まさかお前がここまでやられるなんてな」
「え……と……」
サリアは少し様子がおかしかった。ぼんやりとしていて、何が何だかわからないといった顔だ。
「ここは……どこ……?」
「どうしたサリア、寝ぼけてるのか? フェルグランド家の宮殿の屋上だよ、なんでここにいるのかはこっちが聞きたい」
「サリ、ア……フェルグランド……?」
なぜかサリアは首を傾げた。そして驚くべきことを口走った。
「あなたは、誰? 私は……誰なの?」
一瞬、冗談を言っているのだと思った。だがすぐに思い直す、サリアは、いや俺らはこんな時に冗談を言うような人間ではない。何よりもサリアの目は、俺の姿を映しこむサリアの青い瞳は、本当に疑問と不安に満ちていた。
「サリア……お前、まさか……」
背筋に悪寒が走る。そして俺はその結論に至った。
「記憶が……」
震える俺を見て、サリアはなおも不思議そうに首を傾げていた。
この日、魔法都市アスパムに起きた事件は一旦これで幕を閉じた。
ミリア・スノーディンの暴走は領主の子セイル・フェルグランドによって鎮圧され、またその暴走の原因が外部からの精神干渉であることと、その下手人が同じくサリア・フェルグランドによって捕らえられたことも伝えられ、アスパムの人々は安堵した。
暴走しつつも精神力で最低限の己を保ったミリアの尽力により、人的被害は皆無だった。せいぜい最前線で戦っていた魔術師が少ししもやけになった程度、死者やそれに準ずる被害はなく、破壊された家屋も魔法学校の教師やセイルの手でその日の内に元通り修復された。
しかしながら魔力を使い果たしたミリア、そして黒幕との交戦時に負傷したサリアが医院に運び込まれたことも知られ、アスパムの人々からは2人の安否を心配する声が聞こえた。
そんな人々の声には、分身のようにいつもいっしょだった双子の妹の怪我に心を痛めているであろう、兄セイルを案じる声もあった――
「なるほど、そんなことがあったのか……」
「はい……」
俺は医院の廊下で、ヒトミから事の一部始終を聞いた。ヒトミはナイブズに利用される形で全てを見ていたのだ。
「ヒトミ、君はもう大丈夫なのか?」
「はい、私にとりついていたナイブズは死にましたから、その魂もどこかに行ってしまいました」
「そうか……」
ヒトミの話からサリアと共に気絶していた4人、ナイブズを除くと3人はパイロヴァニアの人間とわかった。今は拘束し監禁してある、いずれ目を覚ましたらより詳しく話を聞くつもりだ。
「君はミリアについていてあげてくれ。教えてくれてありがとう」
「はい」
ヒトミは廊下を去っていく。ミリアはまだ目を覚ましていないが、そう遠くない内に目覚めることだろう。問題はやはりサリアのことだった。
俺はサリアのいる病室に入る。そこには先客がいた。
「うう、ごめんなさいご主人様ぁ、ご主人様の有事になんの役にも立てないなんて、私は死んでしまいたいくらいですぅ……」
サリアが寝ているベッドにすがりつき泣きじゃくるリオネ。彼女はあの時サリアに言われて他にパイロヴァニアの伏兵がいないか調べていたという。
そしてそんなリオネにすがりつかれ、ベッドから半身を起こして座っているサリアは困惑した様子だった。
「リ、リオネちゃん……だっけ。謝らなくていいよ、私には何が何だかさっぱりだし……ね?」
「うう、ごめんなさい、ごめんなさいサリア様。せめて入院中は身の回りのお世話をやらせてください」
「うん、それはお願いしようかな、ありがとうリオネちゃん……あっ」
サリアは俺に気付いたようだ。その表情にぎこちない笑みが浮かぶ。
「えと、お兄ちゃん……?」
普通のサリアからは絶対に出ない言葉を聞き、俺は思わず吹き出してしまった。
「え、ご、ごめん、なんか変だった?」
「いや! まあ、それでもいいんだがな……ははっ」
まさかあのサリアが殊勝にお兄ちゃんなどと呼ぶとは。図らずも妹萌えというものを理解してしまいそうになった。
「セイルでいいよ、双子の兄妹だ」
「ああ、じゃあ、セイル君」
「呼び捨てでいいって、双子なんだから。やれやれ」
俺は苦笑しながらサリアのそばにいった。記憶を失ったサリアは俺のこともわからない。まるで等身大の少女になってしまったようだ。
「体は大丈夫か? 頭が痛かったり、変な声が聞こえたりしないか」
「うん、それは大丈夫。記憶はまだ戻らないけど……」
「まあ、これといった大怪我もなくて何よりだ。頭の怪我もちゃんと治るらしいし」
「そうだね、私にはまだ何が何やらって感じだけど」
サリアはどうやらほとんどの記憶を失っているらしく、前世の記憶もないらしい。そのため今までのサリアには(元男なので当然だが)あった男っぽさというものがなくなり、口調などはそう変わっていないのだが、今のサリアは女らしさが増していた。
「あ、そうそう……ごめんセイル、汗かいてきたから、ちょっと着替えようと思うんだ」
「ん、ああそうなのか。体はちゃんと動くか? 無理せずにキツかったらリオネに手伝ってもらえよ」
「うん、ありがとう。でさ、セイル……」
サリアはもじもじと頬を赤くしながら、俺にとっては信じられないようなことを言った。
「その、恥ずかしいから、一旦外に出てもらえるかな? 双子といっても、男の子だし……」
いかにも女の子っぽくしなを作って言うサリアに、俺は再び吹き出した。
「え、な、なに、そんなに変だったの?」
俺の反応にわたわたとするサリア。記憶がないこともあり全体的に不安げな行動が多く、それが妙にかわいらしく見える。そして本来のサリアは(元男なので)かわいいと思われるのが何より嫌で、かつこういった女子の恥じらいとかを表に出すのも嫌がっていたので、そのギャップに俺は吹き出した。今のサリアを見たらあいつはどう思うだろうか。
「いやごめんごめん、そうだな、それが当然だよな」
「だ、だよね……ひょっとして前の私って男の子の前でも気にせずに着替えてたの?」
「いや、あいつも気にしてはいたよ、うん。それを認めたがらないだけで……まあいいや、一旦出直すよ。リオネ、サリアのことよろしくな」
「はいっ!」
ひとしきり笑った後俺はサリアに手を振って病室を出た。記憶を失ったのは大事だがそれ以上何かされた様子もないし、しばらくは純女の子のサリアを楽しむのも一興だろう。後で元に戻った後にからかうために色々とメモでもしておかねば、などと思いつつ、俺はミリアの方の病室に向かうのだった。
ともあれこれで事件には一段落ついた。パイロヴァニアの人間も拘束していることだし、次のことはサリアが記憶を取り戻した後でいいだろう。それまでは楽しませてもらえるし……俺はそう考えていた。
だがやがて思い知る、それがあまりにも甘い考えであったこと。
サリアの存在が……俺にとって、どれだけ大きかったのかを。
「ま、もう全部終わってるかもな……」
俺はそう苦笑しながら魔力の気配を辿りアスパムを駆ける。サリアは俺の分身だ、俺とほぼ同じ力があり、まず誰かに負けるようなことはない。
やがて俺は俺らの住むフェルグランド家の宮殿に魔力の気配を見つけた。なるほど灯台下暗しというわけだ、ここならミリアの動きもよく観察できる。俺は宮殿の屋上に飛び上がった。
「よっと。サリア、そっちは……」
てっきりサリアが待っていると思っていた俺は、そこに広がっていた光景を見て言葉を失った。
倒れ伏す4人の人間と、血を流して絶命する男……見覚えがある、悪徳貴族ゴーディーの執事ナイブズだ。なぜこいつがここに? なぜ死んでるんだ? そして倒れている人間の1人はヒトミだ、彼女もなぜここにいるのだろう。
だがそれより俺の目を引いたのは……後頭部から血を流して倒れる、サリアの姿だった。
「さ、サリア!」
俺は慌てて駆けよりサリアを抱き起した。信じられなかった、神によってあれほどの力を与えられた俺らがこんな状態で倒れているなんて。サリアも完全に気を失っているようだったが後頭部以外怪我もなく、毒を盛られたようなこともない。呼吸も正常だ。
「サリア! どうした? ここで何があった!」
俺はサリアを強くゆする。すると。
「う……うーん……」
ゆっくりとサリアの目が開く。それを見て俺は一安心した。
「よかった、大丈夫そうだな。まさかお前がここまでやられるなんてな」
「え……と……」
サリアは少し様子がおかしかった。ぼんやりとしていて、何が何だかわからないといった顔だ。
「ここは……どこ……?」
「どうしたサリア、寝ぼけてるのか? フェルグランド家の宮殿の屋上だよ、なんでここにいるのかはこっちが聞きたい」
「サリ、ア……フェルグランド……?」
なぜかサリアは首を傾げた。そして驚くべきことを口走った。
「あなたは、誰? 私は……誰なの?」
一瞬、冗談を言っているのだと思った。だがすぐに思い直す、サリアは、いや俺らはこんな時に冗談を言うような人間ではない。何よりもサリアの目は、俺の姿を映しこむサリアの青い瞳は、本当に疑問と不安に満ちていた。
「サリア……お前、まさか……」
背筋に悪寒が走る。そして俺はその結論に至った。
「記憶が……」
震える俺を見て、サリアはなおも不思議そうに首を傾げていた。
この日、魔法都市アスパムに起きた事件は一旦これで幕を閉じた。
ミリア・スノーディンの暴走は領主の子セイル・フェルグランドによって鎮圧され、またその暴走の原因が外部からの精神干渉であることと、その下手人が同じくサリア・フェルグランドによって捕らえられたことも伝えられ、アスパムの人々は安堵した。
暴走しつつも精神力で最低限の己を保ったミリアの尽力により、人的被害は皆無だった。せいぜい最前線で戦っていた魔術師が少ししもやけになった程度、死者やそれに準ずる被害はなく、破壊された家屋も魔法学校の教師やセイルの手でその日の内に元通り修復された。
しかしながら魔力を使い果たしたミリア、そして黒幕との交戦時に負傷したサリアが医院に運び込まれたことも知られ、アスパムの人々からは2人の安否を心配する声が聞こえた。
そんな人々の声には、分身のようにいつもいっしょだった双子の妹の怪我に心を痛めているであろう、兄セイルを案じる声もあった――
「なるほど、そんなことがあったのか……」
「はい……」
俺は医院の廊下で、ヒトミから事の一部始終を聞いた。ヒトミはナイブズに利用される形で全てを見ていたのだ。
「ヒトミ、君はもう大丈夫なのか?」
「はい、私にとりついていたナイブズは死にましたから、その魂もどこかに行ってしまいました」
「そうか……」
ヒトミの話からサリアと共に気絶していた4人、ナイブズを除くと3人はパイロヴァニアの人間とわかった。今は拘束し監禁してある、いずれ目を覚ましたらより詳しく話を聞くつもりだ。
「君はミリアについていてあげてくれ。教えてくれてありがとう」
「はい」
ヒトミは廊下を去っていく。ミリアはまだ目を覚ましていないが、そう遠くない内に目覚めることだろう。問題はやはりサリアのことだった。
俺はサリアのいる病室に入る。そこには先客がいた。
「うう、ごめんなさいご主人様ぁ、ご主人様の有事になんの役にも立てないなんて、私は死んでしまいたいくらいですぅ……」
サリアが寝ているベッドにすがりつき泣きじゃくるリオネ。彼女はあの時サリアに言われて他にパイロヴァニアの伏兵がいないか調べていたという。
そしてそんなリオネにすがりつかれ、ベッドから半身を起こして座っているサリアは困惑した様子だった。
「リ、リオネちゃん……だっけ。謝らなくていいよ、私には何が何だかさっぱりだし……ね?」
「うう、ごめんなさい、ごめんなさいサリア様。せめて入院中は身の回りのお世話をやらせてください」
「うん、それはお願いしようかな、ありがとうリオネちゃん……あっ」
サリアは俺に気付いたようだ。その表情にぎこちない笑みが浮かぶ。
「えと、お兄ちゃん……?」
普通のサリアからは絶対に出ない言葉を聞き、俺は思わず吹き出してしまった。
「え、ご、ごめん、なんか変だった?」
「いや! まあ、それでもいいんだがな……ははっ」
まさかあのサリアが殊勝にお兄ちゃんなどと呼ぶとは。図らずも妹萌えというものを理解してしまいそうになった。
「セイルでいいよ、双子の兄妹だ」
「ああ、じゃあ、セイル君」
「呼び捨てでいいって、双子なんだから。やれやれ」
俺は苦笑しながらサリアのそばにいった。記憶を失ったサリアは俺のこともわからない。まるで等身大の少女になってしまったようだ。
「体は大丈夫か? 頭が痛かったり、変な声が聞こえたりしないか」
「うん、それは大丈夫。記憶はまだ戻らないけど……」
「まあ、これといった大怪我もなくて何よりだ。頭の怪我もちゃんと治るらしいし」
「そうだね、私にはまだ何が何やらって感じだけど」
サリアはどうやらほとんどの記憶を失っているらしく、前世の記憶もないらしい。そのため今までのサリアには(元男なので当然だが)あった男っぽさというものがなくなり、口調などはそう変わっていないのだが、今のサリアは女らしさが増していた。
「あ、そうそう……ごめんセイル、汗かいてきたから、ちょっと着替えようと思うんだ」
「ん、ああそうなのか。体はちゃんと動くか? 無理せずにキツかったらリオネに手伝ってもらえよ」
「うん、ありがとう。でさ、セイル……」
サリアはもじもじと頬を赤くしながら、俺にとっては信じられないようなことを言った。
「その、恥ずかしいから、一旦外に出てもらえるかな? 双子といっても、男の子だし……」
いかにも女の子っぽくしなを作って言うサリアに、俺は再び吹き出した。
「え、な、なに、そんなに変だったの?」
俺の反応にわたわたとするサリア。記憶がないこともあり全体的に不安げな行動が多く、それが妙にかわいらしく見える。そして本来のサリアは(元男なので)かわいいと思われるのが何より嫌で、かつこういった女子の恥じらいとかを表に出すのも嫌がっていたので、そのギャップに俺は吹き出した。今のサリアを見たらあいつはどう思うだろうか。
「いやごめんごめん、そうだな、それが当然だよな」
「だ、だよね……ひょっとして前の私って男の子の前でも気にせずに着替えてたの?」
「いや、あいつも気にしてはいたよ、うん。それを認めたがらないだけで……まあいいや、一旦出直すよ。リオネ、サリアのことよろしくな」
「はいっ!」
ひとしきり笑った後俺はサリアに手を振って病室を出た。記憶を失ったのは大事だがそれ以上何かされた様子もないし、しばらくは純女の子のサリアを楽しむのも一興だろう。後で元に戻った後にからかうために色々とメモでもしておかねば、などと思いつつ、俺はミリアの方の病室に向かうのだった。
ともあれこれで事件には一段落ついた。パイロヴァニアの人間も拘束していることだし、次のことはサリアが記憶を取り戻した後でいいだろう。それまでは楽しませてもらえるし……俺はそう考えていた。
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