双子転生 -転生したら兄妹に分裂してた。天才双子の異世界ライフ-
第41話 狂気の終結
俺とミリアの死闘は、最終局面を迎えていた。
「ガァァァァーーーーッ!!!」
ミリアが狂気の雄叫びを上げる。両足で地を踏み、腰を落とし、両手を前に構える。すると両手を中心に氷の花が生まれた。
ミリアの氷の花は氷属性を転化した破壊魔法の前兆、その1つで人ひとり軽く殺せる威力を持つ。
だが氷の花は次々に生まれ並んでいく。尋常じゃない速度だった。ミリアの前面にざっと30、さらにその周囲に50。その砲口はいずれも遠くに立つ俺を狙っていた。
「いよいよしびれを切らして最大火力で来たな」
俺も身構える、ミリアの魔力を振り絞った一撃、俺もさすがに寒気がした。
「回避が一番いいんだが……」
ちらりと後ろを見ると、ミリアを逃がすまいとする魔術師たちや民家が目に入る。俺が回避などしたらそれらは一瞬で消滅してしまうだろう、つまり回避はできず、ミリアの膨大な魔力を全て受け止めなければならない。
元より覚悟の上だ。ミリアと戦い始めた時から委細承知、これは護るための戦いだ、アスパムもミリアも護るために俺は戦っている、何も犠牲にしないためには、自らを削るしかない。
「いいぞ、来いミリア! これがきっと最後になる!」
俺も来たる集中砲火を受け止めるべく用意する。まず両足で地を踏み、氷をぶち抜いて足を埋め固定した。
「【白銀の防壁】ッ!」
俺の防御魔法の中でも最高クラスの銀色の壁を、俺はできる限り広く展開した。俺を中心に相手を呑み込むような曲面を描き、攻撃を微塵も逃がさないために構える。
まずはこの壁で受ける。あとは撃たれてからだ。
ちょうどよく、と言っていいかはわからないが、敵もそう待ってくれはしなかった。
「アアアアアアアアアーーーーーーーーッ!」
ミリアの魔力が爆発する。瞬間、全ての氷の花から破壊の光が放たれた。『氷華』最大の一撃が俺へと迫る。
強烈な衝突音と共に、光は銀の防壁へとぶつかった。
光が俺の視界を塗りつぶす。固定した足がみしみしと痛む。消し飛びそうな意識を食い繫ぐ。
「ぐっ……【血肉の防壁】!」
俺は防壁を変質させた。銀の壁は赤黒く醜く変わり、広く展開されたそれが小さく収縮する。ミリアの攻撃は俺を一点集中で狙っていた、広い壁は必要ない。逆に壁を収め集中防御をしなければ破られる。
血肉色の壁は俺とまったく同じ姿となり、わずかに俺より大きいといった大きさで破壊の光を受け止める。それでもなお周囲への漏れがないほどに破壊の光は俺を的確に狙う。それは研ぎ澄まされた殺意を表しているようで、この防壁でなお防ぎきれる気配はなかった。
「こっ……【コンフルジョン・マルジ】!」
必死に壁を維持させながらさらなる魔法を使う。魔力撹乱の魔法で力の方向を操作し、地面や空へと攻撃を逸らす。だがミリアはそれを許さなかった。
「アアアアアアアアアッ、グッ、ガアアアアアアアーーーーーーーッ!」
絶叫が響く。その瞬間、俺の魔力撹乱はあっさりとかき消され、また極度に研ぎ澄まされた光が襲い掛かった。ダメだ、この程度の小細工は通用しない。
なら正面からぶち破るまでだ。
「望むところだ! 【フレイマスト・カラミティ】ーーーーーッ!」
俺が選んだのは火炎魔法だった。同属性の衝突ではミリアには勝てない、それは確実なこと。ならば対属性を用い、正面から受けて立つ。
俺の全身が火炎に覆われると、その火炎の色がみるみる変わっていく。赤が黄、黄が青へ。だが極大火炎魔法の威力はそれすらも超え、どす黒い、地獄の業火へと至り俺を呑み込んだ。
この火炎魔法は禁忌の魔法。あまりにも火炎が強すぎて、下手をすれば術者をも焼き尽くす。それも体ではなくその魂から――ただでさえ破壊の威力に吹き飛びそうな意識がさらに薄れていった。
俺は自らを叱咤する。気を強く持て、セイル・フェルグランド。お前はなんのためにここにいる? お前のその力はなんのためだ?
お前のための力じゃない。神に与えられた力、今こそ活かすべきだ。誰かのために……生まれ育った町のために、そこに住まう人々のために……友のために!
「うおおおおおおおおおーーーーーーーーーーッ!」
俺は力を振り絞り、全てを護るべく力を使う。
やがて光が全てを呑み込んだ。
やがて光が晴れた時。
俺は変わらず立っていた。
「はあっ……はあっ……!」
全身には疲労感と痛みが襲い、体内の魔力が限界に迫っているのがわかる。だが俺は五体満足でしっかりと立っていたし、周囲の街や人々も無事のようだった。
耐えきったのだ、あの攻撃を。ミリアもこれでほとんどの魔力を使い果たしたことだろう。
「これで……」
俺は安堵してミリアの方を見た。
だが。
「アアアアアアアアアアアッーーーーーアアアアアアアアアアアーーーッーーーーッ!」
ミリアの絶叫がこだまする。
次の瞬間、『氷華』が猛然と襲い掛かってきた。
「ぐっ!?」
「アアアア、ガガアアアアア、アアアーッ!」
慌てて俺は右手足で攻撃を受け止める。ミリアは一瞬で俺の下まで迫り、拳を繰り出していたのだ。
その背面が氷で覆われている。いやよく見れば氷が竜のようにのし上がり彼女の背を支えている。氷魔法で急激に氷を生み出し、その勢いを身体能力に上乗せしているのだ。
「ガアアア、グアアア、アアアアーーーーーッ!」
ミリアは手を休めず攻撃を続けてきた。拳を繰り出せば氷で腕を押し、蹴りを繰り出せば氷の力を上乗せする。体自体も氷で覆い、強烈な打撃が俺を襲い続けた。俺も辛うじて肉弾戦を続け攻撃をさばき続けるが、ギリギリだ。
あれほどの攻撃をして魔力が尽きていないのか? いや違う、ミリアの魔力はもうほとんど尽きている、だからこそこの攻撃なのだ。魔法で攻撃するのではなく格闘戦のブーストをするという形で魔力を節約しているのがその証拠。
だがこの戦法には大きな弱点がある……少ない魔力は身体能力ブーストで精一杯、到底防御に回せるものではない。
つまりこれは捨身の戦法。防御をかなぐり捨てた決死の特攻なのだ。
はっきり言って俺の目的からいうとそれは極めてマズイ。防御を捨てられたところでミリアを傷つけるわけにはいかないのだ、むしろ防御してくれないのではこちらも攻撃しようがなく、ただただ防戦一方になる。そしてこちらも体力的に限界だ。
しかしそれでいいのだ。
「ガアァッ!」
「ぐふっ」
やがて俺は押し負けて、ミリアに押し倒される。完全にマウントをとられてしまった。だがその分お互いに近づき、チャンスはやってくる。
「ガッ!!」
ミリアはやはり防御を捨てた一撃を繰り出してきた。だがそれでいい。それがいいのだ。
「そこだ……!」
俺はミリアへと手を伸ばし、残していた魔力を打ち放った。
「【ショックバインド】」
それは雷属性の魔法。威力からすれば大したことはないが、特性は別にある。
俺の指から放たれた電撃がミリアの頭に迸った。
「ガッ……!?」
ミリアが短く呻く。振り上げていた拳は俺の頬をかすめた後、力を失い落ちていく。やがてその全身もぐったりと脱力し、氷も消え、俺の懐に倒れ込んだ。
人間は電気で動いている、脳の指令も電気だし、筋肉の動きも電気信号だ。俺の世界では常識だがこの異世界ではまだ知られていない事実を、俺は魔法に応用してみた。
そうして生まれたのがこの魔法だ。人間の体の電流を直接刺激し動きを止める、頭に当てればその意識を奪い取る。脳の電流を直接止めるのだからどんな方法でも抗えない、必殺の一撃だ。
たとえ魔法で暴走させられているミリアもこれならば止まる、俺はこのチャンスをうかがっていたのだ。
だがのんびりしてもいられない。俺はすぐにミリアをどかして起き上がった。
「【ソナー】」
ミリアに手を向け探知魔法を使った。ミリアを暴走させた魔法を取り除き、根本から解決しなければならない。慎重に魔力の気配を探ると、それはすぐ見つかった。
うつぶせに倒れたミリアのうなじをかき上げる。髪に隠されていたが、後頭部の辺りに怪しい膨らみがあった。
「魔水晶が埋め込まれてるな……魔水晶自体に魔法が設定されてる、『魔晶兵』と同じ技術か……」
魔力の本体であるマナの固体としての姿、魔水晶。パイロヴァニアにはそれを人体に埋め込み魔法を発動する技術がある。どうやらこの魔水晶がミリアに洗脳魔法を放ち続け暴走させているらしい。
俺はそこに手を触れて確かめる。魔水晶は完全にミリアに定着しており、簡単に抜けそうにはない。そもそも後頭部にめり込んでいるので下手に取り除けばミリアが死んでしまうだろう。
「……よし」
俺はすぐに決断した、これ以上ミリアを苦しませたくはない。
要は固体だから取り出せないのだ、一度マナを分解してしまえば刻まれた魔法も消えて、安全に取り出せる。他者の内部のマナに干渉するのは高度な魔法が必要だが……
「融合魔導」
俺には覚えがあった。相手の体内の魔力に自らを同調させ溶け込ませる。マナは同じ波長のマナを受けると互いにそれに影響され、状態変化すらも起こすのだ。今は俺が気体のマナを放ち同調させ、ミリアのマナを融かしていく。
本来融合魔導は心身を完全に同調させなければ成せない超高度魔法、たとえミリアが平時であろうとも使うことはできないが、マナに影響を与えるくらいならばできる。
それに、今のミリアの本当の心は俺と同じだろう……こんなこと、もうやめたい、と。
「そらっ!」
俺は手を引き抜く。そこに光の塊となったマナがついてきて、ミリアの頭の膨らみが消えた。俺はすかさずその魔力を握りつぶした。
ぴくり。ミリアの体が動く。俺はすぐに彼女の体を返して抱きかかえた。
「ミリア……大丈夫か?」
「ん、く……セイル……」
ミリアはぐったりとしていたが、掠れた声で俺の名を呼び、俺を見る目にはさっきまでの狂気の色は消え失せていた。よかった、と俺は笑う。
「セイル……ごめん、私……」
「大丈夫だ、全部わかっている。今はまだ休め。安心しろ、お前は誰も傷つけてなどいない」
「う、ん……あり……がと……」
ミリアは力なく微笑もうとして、そのまま気を失った。無理矢理魔力も体力も引き出され精魂尽き果てているだろう、まずは休ませてやらなくちゃならない。俺はミリアを抱きかかえた。
狂気は終わった。だが本当の戦いはこれから始まるのかもしれない。
ちょうどその時――俺の分身へ、危機が迫っていたように。
「ガァァァァーーーーッ!!!」
ミリアが狂気の雄叫びを上げる。両足で地を踏み、腰を落とし、両手を前に構える。すると両手を中心に氷の花が生まれた。
ミリアの氷の花は氷属性を転化した破壊魔法の前兆、その1つで人ひとり軽く殺せる威力を持つ。
だが氷の花は次々に生まれ並んでいく。尋常じゃない速度だった。ミリアの前面にざっと30、さらにその周囲に50。その砲口はいずれも遠くに立つ俺を狙っていた。
「いよいよしびれを切らして最大火力で来たな」
俺も身構える、ミリアの魔力を振り絞った一撃、俺もさすがに寒気がした。
「回避が一番いいんだが……」
ちらりと後ろを見ると、ミリアを逃がすまいとする魔術師たちや民家が目に入る。俺が回避などしたらそれらは一瞬で消滅してしまうだろう、つまり回避はできず、ミリアの膨大な魔力を全て受け止めなければならない。
元より覚悟の上だ。ミリアと戦い始めた時から委細承知、これは護るための戦いだ、アスパムもミリアも護るために俺は戦っている、何も犠牲にしないためには、自らを削るしかない。
「いいぞ、来いミリア! これがきっと最後になる!」
俺も来たる集中砲火を受け止めるべく用意する。まず両足で地を踏み、氷をぶち抜いて足を埋め固定した。
「【白銀の防壁】ッ!」
俺の防御魔法の中でも最高クラスの銀色の壁を、俺はできる限り広く展開した。俺を中心に相手を呑み込むような曲面を描き、攻撃を微塵も逃がさないために構える。
まずはこの壁で受ける。あとは撃たれてからだ。
ちょうどよく、と言っていいかはわからないが、敵もそう待ってくれはしなかった。
「アアアアアアアアアーーーーーーーーッ!」
ミリアの魔力が爆発する。瞬間、全ての氷の花から破壊の光が放たれた。『氷華』最大の一撃が俺へと迫る。
強烈な衝突音と共に、光は銀の防壁へとぶつかった。
光が俺の視界を塗りつぶす。固定した足がみしみしと痛む。消し飛びそうな意識を食い繫ぐ。
「ぐっ……【血肉の防壁】!」
俺は防壁を変質させた。銀の壁は赤黒く醜く変わり、広く展開されたそれが小さく収縮する。ミリアの攻撃は俺を一点集中で狙っていた、広い壁は必要ない。逆に壁を収め集中防御をしなければ破られる。
血肉色の壁は俺とまったく同じ姿となり、わずかに俺より大きいといった大きさで破壊の光を受け止める。それでもなお周囲への漏れがないほどに破壊の光は俺を的確に狙う。それは研ぎ澄まされた殺意を表しているようで、この防壁でなお防ぎきれる気配はなかった。
「こっ……【コンフルジョン・マルジ】!」
必死に壁を維持させながらさらなる魔法を使う。魔力撹乱の魔法で力の方向を操作し、地面や空へと攻撃を逸らす。だがミリアはそれを許さなかった。
「アアアアアアアアアッ、グッ、ガアアアアアアアーーーーーーーッ!」
絶叫が響く。その瞬間、俺の魔力撹乱はあっさりとかき消され、また極度に研ぎ澄まされた光が襲い掛かった。ダメだ、この程度の小細工は通用しない。
なら正面からぶち破るまでだ。
「望むところだ! 【フレイマスト・カラミティ】ーーーーーッ!」
俺が選んだのは火炎魔法だった。同属性の衝突ではミリアには勝てない、それは確実なこと。ならば対属性を用い、正面から受けて立つ。
俺の全身が火炎に覆われると、その火炎の色がみるみる変わっていく。赤が黄、黄が青へ。だが極大火炎魔法の威力はそれすらも超え、どす黒い、地獄の業火へと至り俺を呑み込んだ。
この火炎魔法は禁忌の魔法。あまりにも火炎が強すぎて、下手をすれば術者をも焼き尽くす。それも体ではなくその魂から――ただでさえ破壊の威力に吹き飛びそうな意識がさらに薄れていった。
俺は自らを叱咤する。気を強く持て、セイル・フェルグランド。お前はなんのためにここにいる? お前のその力はなんのためだ?
お前のための力じゃない。神に与えられた力、今こそ活かすべきだ。誰かのために……生まれ育った町のために、そこに住まう人々のために……友のために!
「うおおおおおおおおおーーーーーーーーーーッ!」
俺は力を振り絞り、全てを護るべく力を使う。
やがて光が全てを呑み込んだ。
やがて光が晴れた時。
俺は変わらず立っていた。
「はあっ……はあっ……!」
全身には疲労感と痛みが襲い、体内の魔力が限界に迫っているのがわかる。だが俺は五体満足でしっかりと立っていたし、周囲の街や人々も無事のようだった。
耐えきったのだ、あの攻撃を。ミリアもこれでほとんどの魔力を使い果たしたことだろう。
「これで……」
俺は安堵してミリアの方を見た。
だが。
「アアアアアアアアアアアッーーーーーアアアアアアアアアアアーーーッーーーーッ!」
ミリアの絶叫がこだまする。
次の瞬間、『氷華』が猛然と襲い掛かってきた。
「ぐっ!?」
「アアアア、ガガアアアアア、アアアーッ!」
慌てて俺は右手足で攻撃を受け止める。ミリアは一瞬で俺の下まで迫り、拳を繰り出していたのだ。
その背面が氷で覆われている。いやよく見れば氷が竜のようにのし上がり彼女の背を支えている。氷魔法で急激に氷を生み出し、その勢いを身体能力に上乗せしているのだ。
「ガアアア、グアアア、アアアアーーーーーッ!」
ミリアは手を休めず攻撃を続けてきた。拳を繰り出せば氷で腕を押し、蹴りを繰り出せば氷の力を上乗せする。体自体も氷で覆い、強烈な打撃が俺を襲い続けた。俺も辛うじて肉弾戦を続け攻撃をさばき続けるが、ギリギリだ。
あれほどの攻撃をして魔力が尽きていないのか? いや違う、ミリアの魔力はもうほとんど尽きている、だからこそこの攻撃なのだ。魔法で攻撃するのではなく格闘戦のブーストをするという形で魔力を節約しているのがその証拠。
だがこの戦法には大きな弱点がある……少ない魔力は身体能力ブーストで精一杯、到底防御に回せるものではない。
つまりこれは捨身の戦法。防御をかなぐり捨てた決死の特攻なのだ。
はっきり言って俺の目的からいうとそれは極めてマズイ。防御を捨てられたところでミリアを傷つけるわけにはいかないのだ、むしろ防御してくれないのではこちらも攻撃しようがなく、ただただ防戦一方になる。そしてこちらも体力的に限界だ。
しかしそれでいいのだ。
「ガアァッ!」
「ぐふっ」
やがて俺は押し負けて、ミリアに押し倒される。完全にマウントをとられてしまった。だがその分お互いに近づき、チャンスはやってくる。
「ガッ!!」
ミリアはやはり防御を捨てた一撃を繰り出してきた。だがそれでいい。それがいいのだ。
「そこだ……!」
俺はミリアへと手を伸ばし、残していた魔力を打ち放った。
「【ショックバインド】」
それは雷属性の魔法。威力からすれば大したことはないが、特性は別にある。
俺の指から放たれた電撃がミリアの頭に迸った。
「ガッ……!?」
ミリアが短く呻く。振り上げていた拳は俺の頬をかすめた後、力を失い落ちていく。やがてその全身もぐったりと脱力し、氷も消え、俺の懐に倒れ込んだ。
人間は電気で動いている、脳の指令も電気だし、筋肉の動きも電気信号だ。俺の世界では常識だがこの異世界ではまだ知られていない事実を、俺は魔法に応用してみた。
そうして生まれたのがこの魔法だ。人間の体の電流を直接刺激し動きを止める、頭に当てればその意識を奪い取る。脳の電流を直接止めるのだからどんな方法でも抗えない、必殺の一撃だ。
たとえ魔法で暴走させられているミリアもこれならば止まる、俺はこのチャンスをうかがっていたのだ。
だがのんびりしてもいられない。俺はすぐにミリアをどかして起き上がった。
「【ソナー】」
ミリアに手を向け探知魔法を使った。ミリアを暴走させた魔法を取り除き、根本から解決しなければならない。慎重に魔力の気配を探ると、それはすぐ見つかった。
うつぶせに倒れたミリアのうなじをかき上げる。髪に隠されていたが、後頭部の辺りに怪しい膨らみがあった。
「魔水晶が埋め込まれてるな……魔水晶自体に魔法が設定されてる、『魔晶兵』と同じ技術か……」
魔力の本体であるマナの固体としての姿、魔水晶。パイロヴァニアにはそれを人体に埋め込み魔法を発動する技術がある。どうやらこの魔水晶がミリアに洗脳魔法を放ち続け暴走させているらしい。
俺はそこに手を触れて確かめる。魔水晶は完全にミリアに定着しており、簡単に抜けそうにはない。そもそも後頭部にめり込んでいるので下手に取り除けばミリアが死んでしまうだろう。
「……よし」
俺はすぐに決断した、これ以上ミリアを苦しませたくはない。
要は固体だから取り出せないのだ、一度マナを分解してしまえば刻まれた魔法も消えて、安全に取り出せる。他者の内部のマナに干渉するのは高度な魔法が必要だが……
「融合魔導」
俺には覚えがあった。相手の体内の魔力に自らを同調させ溶け込ませる。マナは同じ波長のマナを受けると互いにそれに影響され、状態変化すらも起こすのだ。今は俺が気体のマナを放ち同調させ、ミリアのマナを融かしていく。
本来融合魔導は心身を完全に同調させなければ成せない超高度魔法、たとえミリアが平時であろうとも使うことはできないが、マナに影響を与えるくらいならばできる。
それに、今のミリアの本当の心は俺と同じだろう……こんなこと、もうやめたい、と。
「そらっ!」
俺は手を引き抜く。そこに光の塊となったマナがついてきて、ミリアの頭の膨らみが消えた。俺はすかさずその魔力を握りつぶした。
ぴくり。ミリアの体が動く。俺はすぐに彼女の体を返して抱きかかえた。
「ミリア……大丈夫か?」
「ん、く……セイル……」
ミリアはぐったりとしていたが、掠れた声で俺の名を呼び、俺を見る目にはさっきまでの狂気の色は消え失せていた。よかった、と俺は笑う。
「セイル……ごめん、私……」
「大丈夫だ、全部わかっている。今はまだ休め。安心しろ、お前は誰も傷つけてなどいない」
「う、ん……あり……がと……」
ミリアは力なく微笑もうとして、そのまま気を失った。無理矢理魔力も体力も引き出され精魂尽き果てているだろう、まずは休ませてやらなくちゃならない。俺はミリアを抱きかかえた。
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