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双子転生 -転生したら兄妹に分裂してた。天才双子の異世界ライフ-

八木山蒼

第36話 信頼ゆえの殺意

 俺らはアスパムへと到着する。敵が待ち受けていたら狙撃されないよう、街から少し離れた場所に着地した。
 遠く見ただけでもその異常事態がわかった、街の一部が凍り付いていたのだ。さながらインクを紙の上にこぼしたように、氷が街を侵食しつつあった。

「ここが魔法都市アスパム……ああ、これで私はご主人様の懐に収められたも同然……!」
「リオネちゃん今そういうのいいから! 見た感じ、魔法学校が氷の中心じゃなかった?」
「俺もそう見えた、まずは学校に行ってみよう! 頼んだぞサリア」
「もちろんだよ、リオネちゃんも掴まって!」

 アスパム内ならばサリアは転移魔法、いわゆるテレポートが使える。俺たちはサリアの手を握ると転移魔法により魔法学校に向かった。



 魔法学校はひどい有様だった。石造りの校舎は半壊状態で瓦礫だらけ、大勢の人間が駆けまわっているがそのほとんどが怪我を負っている。そして何よりその大部分が氷に覆われて冷たく光り輝いていた。

「ひどいね……パイロヴァニアの軍が襲ったの? そんな感じのはいなかったけど」
「この氷の魔法、まさか……」

 俺らが学校の惨状に驚いていると、遠くから駆け寄ってくる人がいた。魔法学校のダーチャ先生だ。

「セイル君、サリアちゃん! 戻ってきてくれたんですね? よかった~」

 ダーチャ先生もいつものセーターが半分ほど破れてその豊満な胸がこぼれそうになっているが、今はそれに気を取られる事態ではない。先生も負傷していた。

「先生、何があったんですか? これはいったい?」
「誰がやったんですか?」
「うーん、それがね……ミリアちゃんなんです」

 ミリア。俺の嫌な予感が的中した。これほど広範囲に、かつここまでの強度の氷を繰り出せるのは俺の知る限り彼女しかいない。なにせ彼女は、ともすれば暴走しかねないほどの魔力をその身に抱えているのだ。
 だが昔ならいざ知らず今の彼女は魔力を制御できていたはずだ。

「ミリアが、暴走したってことなんですか?」
「そうかもしれないんですけど、明らかに様子がおかしかったんです。それに暴走する直前に怪しげな人たちと何かしてたって話もありますし……」
「今、ミリアはどこに?」
「街の中心の方です、先生たちと生徒の何人かが止めに向かってます。でも止められるかどうか……すぐに行ってあげてください、私はフローラ先生といっしょに怪我した人の救助をするので手一杯なんです」
「わかりました」
「行こう、セイル!」

 元々魔力を感じていたのだ。俺らは再び転移魔法を使い、ミリアのいる方へと向かった。



 魔法都市アスパム市街。凍り付いた街の中に、彼女はいた。

「ウ……ウ……!」

 赤い髪は荒れ、服は乱れ。全身から膨大な量の魔力が溢れ、禍々しいオーラとなってその身から立ち上る。

 血走った眼は魔力のために光を放ち、歯を食いしばり歪む頬には怒り、あるいは苦痛が顕れる。

 滾る力を抑えきれず、身を震わせながら歩を進める。目的もなく、意志もなく。

 その身は狂気に支配されていた。

「アアアアアアアアアアアーーーーーーーーーーーーッ!」

 ミリアが悲鳴にも似た声で絶叫した。その途端、足元から一瞬にして氷が広がっていった。周囲には吹雪が吹き荒れ、雪と氷が全てを染めていく。

「【フレイマー】!」
「【フレイマスト】!」
「【ムスペル】ッ!」

 街を襲いそうになった氷を炎魔法が食い止める。だが複数人の炎魔法が束になりやっと侵攻が止まる程度で、すでに凍った場所を溶かすことすらできていない。
 現在、何十人もの魔術師がミリアを包囲していたが、彼女を止めることはできず、20mの範囲に近づくことすらできない状態だった。

「なんて魔力だ、まるで底が見えない……!」
「だがこのまま放っては置けない! 俺が行ってみる、援護を頼むぞ!」
「わ、わかりました!」

 魔法学校の生徒の1人が飛び出し、一気にミリアへと迫った。

「【フレイマー】!」

 その男子生徒は炎魔法で全身を覆い、一直線にミリアへと駆ける。

「グウ、アアアアーーーーーーーーーッ!」

 接近に気付いたミリアが手をそちらに向けると、可視化するほどの魔力が冷気となり溢れだした。

「【フレイマー・アロウズ】!」
「サ、【サイコキネシス】ッ!」

 援護する他の生徒が炎の矢や念動力を放って冷気を推し留めようとする。作戦を察した周囲も様々な魔法を撃ち放ってミリアを止めようとした。
 しかし。

「アアア……アアアッ、アアアアアアアアーーーーーーーーーーッ!」

 より強く、高く、苦しく、ミリアが叫ぶ。
 その瞬間、全てが凍てついた。

 宙を舞う魔法が氷の塊と化し、砕け散る。

 炎を纏っていた男子はその炎ごと氷に包まれる。

 地を走る氷は一瞬にして数倍にもその毒牙を伸ばし、包囲していた人間たち全員を物言わぬ氷像に変えた。

 人も、魔法も、草も、家も、全ては氷に覆われて、動くものはミリアだけとなった。

 ――だが。

「ウッ、クッ、ウッ! アアアアッ!」

 ミリアは頭を抑えもがくように喘いだ後、全身から衝撃波のような魔力を放った。氷の世界にその波が襲い掛かる。
 すると、周囲の氷像、その表面の氷だけが壊されて、中の人間を無傷で追い出した。もっとも近くにいた男子生徒も炎こそ消えたが無事だ。我に返ると、あまりのことに慌てて逃げ出していった。

「アアアアアア……アアアアアア……」

 獣のように叫び続けるミリアの瞳からは涙が流れていた。とめどなく流れる涙は零れ落ち、ミリアから離れるや否や氷の結晶となり風に消えていく。そしてなおもその体は止まることを許さず、苦しみに動かされるように進み続けていた。

「に、人間は、避けている、のか……?」
「とにかく止められない! 魔力が膨大すぎる」
「くそ、せめてあの2人がいれば……!」

 絶望的な力量差を前に魔術師たちの表情が曇る。もしも敵に殺意があれば死んでいたのだ。自然と足が竦み、どうしようもないという気持ちが募っていく。
 その気持ちを打ち壊したのは、空から舞い降りた影だった。

「お、おい……」
「あれ!」
「見て、あれってもしかして」
「まさか!」

 だんだんと魔術師たちはそれに気付き、指差して喜びの声を上げた。それは空から転移魔法により現れて、臆することなく、暴走する『氷華』の射程内へと着地した。
 見慣れない獣人を連れていたが、その毅然とした佇まいと凛々しい顔は、フェルグランド家の天才双子、セイルとサリアだった。



 俺らが氷の上に降り立つと、周囲から歓声が上がった。俺らの不在を嘆きながら今まで戦ってくれたのだろう。

「悪いな、待たせた。よく今まで耐えてくれた」
「あとは私たちに任せて」

 神から授かった力、使うべきは他者のため。俺らはミリアと対峙する。

「ウウ、ググウウウウ……ッ!」

 ミリアは明らかに正気を失っていた。獣のように歯を見せて唸り、眼は血走り暴走する魔力が溢れている。
 ただの魔力の暴走ならばこうはならない――俺らはすぐに異常の正体を察した。

「精神干渉だ……! ミリアは、精神魔法を受けている」
「やっぱりミリアが暴走しているわけじゃないんだね」
「ああ、ミリアはもう自分を克服している、これは間違いなく外部の……」

 俺らが話していたその時。

「セ……イ……ル……!」

 正気がないはずのミリアが俺の名を呟く。次の瞬間。

「アアアアアーーーーーーッ!」

 ミリアは氷魔法を撃ち放った。極限の冷気は空気すら凍てつかせながら俺へと真っ直ぐに走ってくる。容赦のない、殺意すらこもった一撃だった。

「【フレイマー】!」

 俺は炎魔法をまとった前に出てサリアとリオネを守る。だがただの炎魔法では俺の魔力があれどそう長くは持ちそうにない。

「ミリアちゃんがセイルに攻撃を? しかも今までで一番強い……まさかこれも精神干渉?」
「いや……違う!」

 俺にはミリアの考えていることがわかっていた。かつて姉を殺しかけた経験から、自分の魔力に恐れを抱いていた彼女。そのトラウマを乗り切ったのには俺が深く関係している。ならば彼女の行動の理由は……

「とにかくミリアは俺が相手をする、お前らは下がってくれ! でないともっとミリアを苦しめることになる」
「セイルが言うならそうするよ、行くよリオネちゃん!」
「はいっ」

 サリアとリオネが氷から去っていく。思った通りミリアはそれを歯牙にもかけず、俺への攻撃を続けていた。

「ミリア……そうだ、俺ならいいんだ。遠慮なく全力をぶつけろ」

 俺は炎魔法を強めて耐える。

「アアアア……アアアアアアッ!」

 猛り狂うミリアは容赦なく魔力を高め冷気を放ち続けていた。

 ミリアは俺に好意を抱いている、なのになぜ俺にだけ強く攻撃するのか。それは憎悪や怒りからではない、むしろ逆だ。

 『もし暴走したら俺が受け止める』、そう約束したからミリアは過去の恐怖を乗り越え、莫大な魔力を受け入れた。

 彼女は信頼しているのだ、俺の実力を、強さを。

 全力で攻撃しても死にはしない、自分を抑えて止めてくれると――他の人たちが傷つく前に。

「約束は果たすぞ、ミリア……!」

 俺も覚悟を決めた、ミリアの信頼に応える覚悟を。

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