双子転生 -転生したら兄妹に分裂してた。天才双子の異世界ライフ-
第23話 闇の少年
魔法学校の食堂にて。
「あ」
「あ」
お盆を持った状態で、俺とミリアはばったりと会った。珍しく俺もヒトミも姉妹を連れておらず1人だった。
「ミリアか。ヒトミはいないのか?」
「あの子はちょっと勉強がいいとこらしいから……っていうか会って早々なによ? ヒトミの方が気になるわけ?」
「別に、大抵姉妹でいるから聞いてみただけだよ」
「そ、そう? まあいいわ、それより2人で座れるところは……」
ミリアは人の行き交う食堂からすぐさま2人分の席を見つけ出し、その片方に盆を置いた。そして立ったままの俺に気付き顔を赤くする。
「な、なに? なんか言いたいわけ? 別に、たまたま目が合っちゃって、今さら別々になるのがなんか気まずいからってだけよ! 嫌なら別のとこ座れば!?」
「ちょっと出遅れただけだって、せっかくだし2人で食べようか」
俺もミリアの向かいに盆を置き、なんだかんだで俺らは昼食を共にすることになった。
今日の俺の昼食はセンペリアール・スープ。センペリアールという扁平なパスタを数枚コンソメベースのスープに入れたシンプルな郷土料理。一方のミリアはオムライスだった。
「どうだミリア、アスパムは。そろそろ慣れてきたころだろう」
「まあね、ヒトミに案内してもらってるし地理も大体把握できたわ。『氷床の大地』と違って過ごしやすいところね」
「あそこは極端すぎるからな、ここも寒冷な地方ではあるのだが」
食べつつ適度に雑談する。ミリアは俺より1歳年下だが、同い年のはずのヒトミはやけに俺らを持ち上げる癖があるので、こっちの方が対等な友人に近い。
「逆に、お前のことはアスパムで知られ始めているぞ。『氷華』の名はここでも轟きそうだ」
「当然でしょ? 私は天才だもの! 今にあんたらの評価を塗り替えてやるわよ」
「……ダジャレか? それ」
「え? あっ……ち、違うわよ! 偶然! 偶然そうなっただけで……その顔やめなさい! 『こんなとこでも氷の才能があるんだな』って顔!」
「別にいつも通りだよ。そうだな、『氷華』の評価は大事だよな」
「っ~~~!! 喧嘩売ってんのあんた!」
「悪い悪い、つい面白くて」
「むううっ!」
顔を真っ赤にして怒るミリアを俺はなんとか宥める。ミリアは少しつつくとかわいい反応が返ってくるので、面白くてつい意地悪を言ってしまうのだ。
ミリアは数少ない、俺と真っ向から渡り合えるほどの才能の持ち主。だからこそそういう態度をとってしまうのかもしれない。
「いいわ、こうなったら決闘よ! 白黒はっきりつけようじゃあないの!」
「またか。メイリアといい、なぜ決闘を挑まれるんだろうな」
「ごちゃごちゃ言わない! 氷漬けになって風邪引いても看病なんかしてやんないからね!」
一方のミリアも俺に対しては容赦なく暴言も飛ばすし魔法も使う。かつて姉を殺しかけた彼女は魔法の行使にトラウマを持っていたのだが、俺には遠慮はいらないと思っているらしい。
なんだかんだ俺らは似た者同士なのかもしれない。人並外れた力を持つ者同士――だが俺のそれは欲望ゆえに得たものでミリアは天性のもの。どっちにしろ神に与えられたものではあるのだが、俺はある種真の天才といえるミリアへの敬意を持っていた。
そしてその日。
また新たな種類の『力』を持つ者が、俺らの前へと現れる。
邪悪な意思と共に。
「……セイル・ド・ソレイユ・フォン・フェルグランドと、ミリア・スノーディンだな」
食事をしている俺らにふいに声がかけられる。長いので普段は省略する俺のフルネームをわざわざ言う相手にはあまりいい思い出がない。
いつの間にか俺らが座るテーブルの隣に、1人の男が立っていた。
俺とそう歳は変わらない少年だ。黒髪を右で小さくバンドで留めている。服は妙にぴっちりとしたこれまた真っ黒な、布のようなゴムのような(この世界ではまだゴムは一般的でない)奇妙な材質のものを着ていた。左の腰には鞘に入った短刀、背には謎の筒を背負っている。
だがその奇妙な出で立ちとは対照的に、女性と見紛うほどの美形だった。目は鋭いものの肌は白く美しく、細身の体と長めの髪がより一層中性的な印象を際立たせる。男装のようにも見えるが細身ながら筋肉のある体格はたしかに男のものだ。
食堂はざわついていた。アスパムで見慣れないおかしな格好の男が、この学校では知られている俺とミリアに話しかけているのだ、気になるだろう。俺とてこの少年の正体が気になった。
「君は? 見ない顔だが」
「一方的にこっちの名前呼んでないでまずそっちが名乗りなさいよ」
ミリアは俺よりも警戒している。なぜだか不機嫌な様子だった。食事を邪魔されたのが嫌だったのだろうか。
「俺に名はない。あるのは使命だけだッ!」
少年はそう言うと、いきなり動いた。
短刀に手を掛ける。その一瞬の動きで手練れとわかった。身を縮める。腰を下ろす。肩を回す。足を引く。手を伸ばす。一連の動作の俊敏さ、幾度も鍛錬したとわかる正確さだった。
「おっと」
俺は咄嗟に短刀の柄に手を添えた。一瞬俺の方が早く、抜刀の阻止に成功する。少年は俺を睨んだ。
「ここで暴れてくれるな……俺は狙われることはなれっこだが、周りに迷惑をかけたくない」
「フン」
少年は表情を変えず鼻を鳴らすと素早く俺の手を振り払った。
「ぬるいな。ぬるすぎる。貴様は闇を知らない……俺の生きてきた世界は、情を抱く者から死んでいった。血だけをすすり三晩生きたことはあるか?」
少年はその時、猟奇的な笑みを見せた。その表情は彼の語る闇そのものだったことだろう。が。
俺は黙ってスープを飲んだ。
「スープの方が美味いよ。そしてぬるくもない、ホカホカだぞ」
「ぐっ……貴様!」
茶化されたことを理解した少年は声を荒げた。どうやらこちらが彼の素のようなので、俺はニヤりと笑う。なんとなくミリアをつつく時と同じ感覚だった。
「お前さては腹が張っているのか? 昼時ど真ん中だもんな、無理もない。アスパムに来てから何か食べたか?」
「黙れ。空腹などとうに超越した、俺は闇の中であらゆる苦痛を得て……」
とその時、食堂に漂ういい匂いに刺激されたのか、少年の腹がくぅ、と鳴った。いよいよ少年は顔を真っ赤にして震えだす。
「ほら見ろ、誰だって腹は減るんだ、恥ずかしいことじゃあない。まずは食事を……」
「黙れッ!」
少年が叫んだ直後。
俺らの前の机が、真っ二つに切り裂かれた。
一瞬だった。俺も辛うじて刃のようなものが振るわれたことだけがわかり、自分のスープを避難させるので精いっぱいだった。ミリアは目を丸くして、自分のオムライスが崩れ落ちるのを見ていた。
短刀を抜こうとした時よりもさらに速く、そして見えなかった。魔法? 武器? いずれにせよ、口だけの相手ではなさそうだ。
「……わかった、相手になろう。だが他に邪魔の入らない場所に行くことが条件だ。それくらい呑んでくれてもいいだろう?」
「最初からそう言えばいいのだ……俺を愚弄したこと、死の一瞬まで懺悔させてやる」
俺が残ったスープとパスタを飲み干して席を立ち、少年と共に外に出ようとしたその時。
思わぬ寒気を背後から感じ振り返る。寒気は物理的なものだった。
「あんた……デー……いや、2人きりをぶち壊しただけでなく、私のオムライスまで……!」
ミリアが激怒していた。頭は沸騰しているはずだがその周囲に冷気が渦巻き始める。きちんと抑えてはいるようだが、すぐにでも爆発させたそうだ。
「このピチピチ黒豆ヤロー! まず私と戦いなさい! 向こう一週間はしもやけにしてやるわ!」
「まあまあ落ち着けミリア、お前が本気でキレるとシャレにならない」
「どいてセイル! そいつを凍らせて氷屋に売りつけてやる!」
「フッ、ミリア・スノーディン、貴様はそんなことで感情を揺さぶられるのか? ぬるいな……ぬるすぎる!」
「ぬるい? じゃあガッチガチに冷やしてやるわよ! いいから来なさい! ふーっ!」
「落ち着けって……仇は俺がとってやるから。な?」
「うー……別に私が戦ってもいいでしょ? なんで止めるのよ」
ミリアに問われ、俺はそっと耳打ちした。
「こいつは俺が相手した方がいい。そんな気がする」
「はあ? 何を根拠に……」
「こいつの体からは何か……異質な気配がするんだ。よくわからないが、な……ここは俺に任せてくれ」
「むぅ……あんたが言うなら任せるけど……きっちりぶっ倒してよ? でなきゃ気が収まらないわ」
「ああ、そこは約束するよ」
ミリアを宥めた俺は改めて少年の方へと向かい合う。
「魔法学校の裏に広い空き地がある。そこがいいだろう」
「好きにしろ。俺は戦場を選ばん」
少年は聞くが早いかあっという間に人混みをすり抜けて消えていった。着飾ったような言動はともかく、その身のこなしは本物だ。そしてその全身から放つ異質な気配。
強敵かもしれない。
俺は久々に全力を出す覚悟も決め、少年の後を追った。
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