双子転生 -転生したら兄妹に分裂してた。天才双子の異世界ライフ-

八木山蒼

第25話 密会 in the bath

 宮殿のとある部屋にて。
 その部屋は私とセイルの2人だけが使う場所である。防音加工がされており、音は内部では響くが外にはなかなか漏れない、それにあまり使用中は他人は近寄らない。そのため秘密の話をするときはよく使っていた。
 その日もその用途である――私は少し抵抗があるのだが。

「ね、ねえセイル」
「ん? どうした? 早く来いよ」
「いやその……」

 私は羞恥心を抑える。『恥ずかしい』と思っていると思われることが恥ずかしい、と極めてわかりにくい状態だ。
 なぜかというと、私は裸上にタオル1枚だけを巻き、体を隠しているためである。
 さらにいうと……

「……そろそろ、いっしょにお風呂入るのやめない?」

 ……ここが、浴場だからである。
 そう、この部屋はいわゆる風呂場。やや手狭な空間に浴槽として窪みが作られた石造りの浴場だ。元々入浴がそう日常的でないこの世界には普段使う浴場はないのだが、私たちが言って作らせたものだった。

「え? なんでだ?」
「だってその、昔は別に仲のいい兄妹だねーってみんな言ってたけど、私たちもう15歳だよ? そろそろ、混浴は周囲の目が気になるっていうか……」
「別にそんなタマじゃあないだろ。俺は気にしないし、俺が気にしないならお前も気にしないはずだ」
「それはそうなんだけどぉ……」

 私たちはいつも2人で同時に入浴している。基本はこの世界でお湯が文字通り『湯水のように』使えるウわけではないためだが――元々の目的はやはり、私の体であった。

 改めて言うのも自分で言うのもなんなのだが、私、サリアの体は美少女である。そう神が作ったのだから当然だ。そしてそのプロポーションも美少女に作られているのである。
 そしてまた、元々ごく一般的な男子であった私たちが、そんな美少女に興味を持つのも至極当然のことだった。
 それゆえに私たちはいっしょに入浴する習慣ができてしまったのだ。

 だが意識がかなり共通していた昔ならいざ知らず、転生して15年も経った今、私たちには少し考え方の差がある。もっとも私とセイルで違うのは性別だけ、かつ私たちは元々男なので……より簡単にいうのならば、私が……

「まあ、要するにだ」

 ハア、と、先に浴槽につかっているセイルがため息をついた。

「そろそろ思考も女性化してきて、裸を見られるのが恥ずかしいと」
「なっ!? ち、違うし!」

 図星だった。そう、私は最近、たとえ元々同一人物だったとしても、異性に裸を見られることに羞恥心を覚えているのだ。

「お前なあ、そうならそうと素直に言えば……」
「お、お前にわかるのかよ! 裸を見られるのもそりゃ恥ずかしいが、そういかにも女な思考をすることも恥ずかしい俺の気持ちが!」
「お前、こういう時わざと男口調にするよな。だけどもう女として生きていくんだし、そろそろ開き直った方が楽だぞ?」
「うるさいっ! 恥ずかしいんだよ! だいたいそういうお前は、私が恥ずかしがってることを薄々察してるくせに、美少女の体を見たいから知らんぷりしてんだろ!? この変態! スケベ! オス猿!」
「あー、言っちゃ悪いが、そういう男を罵倒するのって、いかにも美少女キャラのやることだよな」
「っ~~~~! もういいっ!」

 私はやけくそ気味に湯船に飛び込んだ。だがその瞬間、髪が濡れたら嫌だなとほぼ反射的に髪をかばってしまったのがまた恥ずかしい。
 転生して女になったが、まだまだ心の底では男であり、男でありたいと願う私の感情は複雑である。こればっかりは己が身でないと、分身であるセイルにもわからないのだった。

「やれやれ……そんなに女になるのが恥ずかしいのか?」
「恥ずかしいっていうか……別に、他の人ならいいんだよ? 私をただのサリア・フェルグランドって見てるから。でもセイルは私が元鈴木健司で男ってこと知ってるじゃん、だから嫌なの」
「ま、それはわからんでもないがな。そろそろ本題に入ってもいいか?」
「いいよもう、早くして」
「はいはい」

 浴槽の端同士に向かい合い、私たちは今日の本題に入った。
 それは、セイルが今日出会ったという、少年についてだ。

「それで、そのカインっていう子は何か話してくれたの?」
「いや、さすがに食べ物でつれるほど口は軽くなかった。だが隣にいる奴は恐ろしい口の軽さの持ち主だったからな」
「メイリアちゃんか」
「ああ、カインは終始メイリアに閉口してたよ」

 魔法学校に突如現れ、セイルを襲撃したという謎の少年カイン。セイルは彼からきな臭い雰囲気を感じ取ったという。

「カイン・イーノックは15歳、出身はメイリアと同じくパイロヴァニア王国、メイリアとは子供の頃の友人らしい。昔はよく遊んだそうだが、カインは10歳ぐらいで王宮の軍隊見習いになりメイリアとは会わなくなったらしい。昔は今のような言動はしない普通の男子だったそうだ」
「5年前か……10歳で軍隊見習いってかなり早くない?」
「ああ、本人もやれ闇を知るだの常人はぬるいだの言ってたし、どうもその5年で通常ではない訓練を行われたのかもしれない。実力も異常なほど強かった」

 セイルは少し厳しい顔を見せた。

「戦った印象からすると……サイボーグだ。人体改造されている、というのが一番しっくりくる。ついでにそれを適応させるための訓練もな」
「サイボーグ? この世界の技術でできるの?」
「魔法を用いれば可能かもしれないだろう、詳しくは知らないがな。だがもし、あれほどの実力を持った兵を人為的に生み出し量産できるとなるとパイロヴァニアの軍事力は他国の比じゃないぞ」
「そして同時にそれだけの軍事力を必要としていた理由も存在する、ってわけか……カインはその後?」
「パイロヴァニアに帰ったようだ。俺を襲撃した理由も不明だが、遊びに来たという感じではない。ポップにも聞いてみたんだが、返答はひとつだけだった」
「なんて?」

 ポップ。見た目幼いメイリアの妹だが、『氷床の箱庭』の異常を知っていたりと奇妙な知識を持つ少女。同じくパイロヴァニアの出身だ。
 そしてそのポップが語った通り、セイルは口にした。

「『パイロヴァニアに行ってみろ』。いつものにやにや笑いでこれだけ言ったよ」

 それを聞き、私は決断する。私が決断したということはセイルも決断しているということだ。

「じゃあ行こうか、パイロヴァニア王国へ」
「ああ、そのつもりだ。何かと気になることが多いからな……メイリアたちに案内を頼もう」
「それがいいね。産業と獣の街、楽しみだな」
「色んな意味でな」

 これで話は決まった。実のところ、ここ最近私たちには懸念材料がいくつかあるのだ。悪徳貴族ゴーディー、北のマフィア猩々団、竜獄の谷の異変、そして今回。パイロヴァニア、一度行く価値はありそうだった。

「さて、話がまとまったところで体洗おうかな……」

 そうして私が湯船から出ようと立ち上がった時だった。
 話に集中していた私はつい体を覆っていたタオルへの注意が疎かになっていた。それが悲劇を呼んだ。ただしセイルにとっては幸運だったのだろうが……
 私はタオルを湯に置き去りにして、立ち上がってしまったのだ。

「あ」
「あ」

 私たちの声が重なった。私の肌が何にも隠されず露わになった。
 私は一瞬迷った。ここで下手に羞恥心のリアクションをとればそれこそ女そのものである。ここは男らしく、まるで気にしていませんよという調子で、落ち着いてタオルをとって……
 そう思った私だったが、対面するセイルの目が私の胸をガン見して、かつそっと下に移りかけたのを見て。

「み、見るな、このーッ!」
「ぐぁっ」

 男のプライドも何もかなぐり捨てて飛び掛かり、その頭を掴むと湯船に叩きこんだ。

「うう……ラッキースケベされる側になるとは……はあ……」

 そしてそのいかにも過ぎる一連の流れに、私は改めて自己嫌悪に陥ったのだった。

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