双子転生 -転生したら兄妹に分裂してた。天才双子の異世界ライフ-
第28話 蠢く闇……?
「……そうでしたか、そんなことが」
俺らの話を聞き終えたパイロヴァニア国王レグルオは申し訳なさそうに頷いた。
「ええ、こちらとしてもことを荒げるつもりはないのですが、命に係わるような攻撃をされたものですから」
「さすがにこのまま捨て置くわけにもいかず、ひとまず報告という形で参りました。カインから話は聞いていないのですか?」
自国の兵が他の貴族を襲撃したとなれば大問題だろう、そこを揺さぶるのが手っ取り早いと判断したのであくどく攻めていくことにする。
だがレグルオは首を横に振った。
「ご存知かもしれませんが、この国は人民が治める国、王は民が選ぶ者であり、そこに必要以上の権力は与えられないようなシステムとなっています。その一環として、軍と王の分断があります。王が武力をもって圧政を敷くようなことがないよう、王には軍を指揮する権利はなく、軍は政治と独立して存在しております。結論を申しますと、私は軍のことはわかりませんし、管理責任もない。無責任だと思われるでしょうが……これがこの国の仕組みなのです」
為政と軍部の独立は俺らの世界でも一般的なシステム、選挙で王を決めるパイロヴァニアではどうやらかなり進んだ民主主義が為されているようだ。だがそれにより軍が暴走するのもまた俺らの世界同様なのかもしれない。
「申し訳ありませんが私では力になれません、王が軍へ干渉することは固く禁じられております。どうかお引き取りください」
レグルオは謝罪するように頭を下げたが、それでいて意志は固いようだった。そんな父親の態度に、サリアの腕にしがみ付いていたリオネが異を唱える。
「お、お父さん、サリア様たちは私の命の恩人なんだよ? ちょっとぐらい手引きしてあげても……」
「リオネ、たしかに我らヘテロ族にとって恩は何より大事なものだ。だが私は同時に王でもある」
レグルオは静かに語ると、右目を覆う眼帯をなでた。両目の色が違うヘテロ族の特徴をその眼帯が隠している。
「ヘテロ族の美徳を認められ、私は皆に選ばれ王となった。だが王とは国のため、全てのために動くもの……ヘテロ族の哲学は恩人のために他を捨てるもの、王には相応しくない。私は王となった時、ヘテロ族としての己を殺すと誓ったのだ。私はあくまでもこの国の王として考え、行動する」
王の眼帯はヘテロ族であることを捨てる決意の表れということなのだろう。ポップに聞いたところヘテロ族が恩義に報いることを否定するのは存在意義の否定にも等しいこと、その覚悟のほどが伺える。物腰は柔らかいがさすがに王に選ばれる器、その意志は強固だ。
「わざわざ来てくださり申し訳ありませんが、私も仕事がありますゆえ、どうかお引き取り下さい。そうそう、娘との結婚のご報告でしたらまたすぐいらしてください、今度は親として歓迎いたしますよ」
「だから、結婚はしませんて!」
「ハハハ……では予定がありますので、大変失礼ですけれどもお先に席を外させていただきます」
サリアを軽くからかって場を和ませ笑った後、レグルオはいそいそと立ち上がり、また俺らに深く礼をしてから退出していった。王としての仕事は色々あるのだろう、むしろその合間を縫って嫌な顔せずに俺らと会いに来てくれたのが奇跡に近い。
だが必ずしも油断はできなさそうだ。
「あの王、喰えないな。態度は丁寧で実際善人のようだが、優先順位を見誤らない強かさがある。最後に笑顔で終えることで面会の印象をよくしようとするのも計算だろう」
「すみません、父がお役に立てず……」
「いいよリオネちゃん、まず国王と会えただけで十分。本当ならここで断られるまでもっと時間がかかっただろうからね」
収穫はなかったが王と出会うというプロセスを経て進展はした、次の目的も見えてくる。やはりカインのことを確かめるには軍に突っ込むしかないらしい。それは王との対面とは違い、物々しいものになるだろう。軍とはそういうものだ。
「だが、俺らがその気になれば」
「やりようはいくらでもあるからね」
俺らは双子同士密かにほくそ笑み、リオネは首と猫耳を傾げてそれを見ているのだった。
パイロヴァニアの地下。蝋燭がわずかに灯るのみのその部屋はじめじめとした陰気が漂っている。そこに2人の人間がいた。
1人はカイン・イーノック。アスパムでセイルを襲撃した黒髪の少年。両手足を鎖に縛られ引き延ばされ、足は床に繋ぎ、手は天井から吊るされていた。体に密着する黒い服は所々が破け、跡が血として残っている。
もう1人は鞭を持った長身の女性だった。丈の長い赤い軍服を着こみ、手には手袋をはめているため顔以外一切の肌を見せていない。その顔は美人ながらも三白眼は鋭く冷徹、軍帽の下の緑の髪はやや乱雑だった。左頬には消えない傷が生々しく残っている。
「ここまでの鞭は独断行動と情報漏洩への罰」
鞭の女はカインと正対し語り掛ける。その言葉からは感情がない、なじるような悪意も、失態を責める怒りもなく、ただただ冷徹に問いかける。カインが睨み返すのにもまったく動じなかった。
「では改めてお前に問おう。なぜ独断でアスパムに趣き、セイル・フェルグランドと接触した」
女軍人はその鋭い目にカインを移し込み、冷徹な声で尋ねた。
「無論、フェルグランド家の双子の打倒だ。奴がいなくなればソレイユ地方は落としたも同然、パイロヴァニアはソレイユの広大な土地の資源を手に入れられる! それこそが我らの目的だろう?」
カインもまた鎖に繋がれたままなれど媚びるでもなく逆上するでもなく応じる。
「つまりパイロヴァニアのためであった、と?」
「ああ……」
両者はにらみ合いしばし沈黙する。蝋燭の灯が揺れ、映し出す一対の影が怪しく現れては消える。両者以外の誰もいない闇の中で――
だが。
「ならばいいんだ……あまり心配を掛けさせないでくれよ」
鞭を持った女軍人は一転して心配そうに眉を下げて、あっさりとカインの両手足の鎖を解きにかかった。よほど解きたがっていたのかあっという間に鎖は解けてカインは自由になり、彼自身ははあとため息をついた。
そんなカインの体を女軍人はおろおろとなでる。
「痛かったか? すまんな、罰は与えねば示しがつかんからな、すぐに治癒をしてやるからな」
「別にいい……闇の眷属たる俺はこの程度の傷どうということもない」
「でも痛いだろう、それにほら鎖の跡もついている。ずっと拘束されっぱなしで辛かったろうな」
「1時間も繋がれてない……というかいつでも抜け出せる緩さだったぞ」
「だって鎖で皮膚挟んだりしたら痛いだろう? カイン、他に痛いところはないか? 本当にすまんな」
「いいってば。いい加減にしてくれよ、俺は兵でお前は上官だ、もっと厳しく接するべきだ。なぜ俺の方がこんなことを言わなくちゃならない……」
「そ、そうか。十分に厳しいつもりだったが」
カインはまたため息をついた。女軍人はさっきの冷徹な目はどこへやら、おろおろとカインを気遣うばかり。お前は俺の母親か、という言葉がカインの喉から出かかったが、闇っぽくないのでやめた。
「だがカイン、今回は本当に危険だったのだぞ。フェルグランドの双子の能力は未知数、死んでもおかしくなかった。鞭はどちらかというと不用意に己を危険に晒したことへの罰だ、肝に銘じておけ」
「フン、どうだか。今回は実力を測ることを重視し過ぎた。俺が本気を出せば奴らなど……」
その時。
女軍人はいきなりカインの顔を掴み強引に引き寄せた。カインが反応できないほどの圧倒的なスピード、そしてパワーだった。
そしてその冷徹な目が再びカインを覗き込む。
「奴らを甘く見るな。奴らが弱者ならば元より私たちも警戒したりはしない。これ以上浅慮で行動するのならばパイロヴァニアのためにもならん、今度こそ私も容赦せんぞ」
カインを気遣う優しさも、痛めつけたことを悔いる危うさもどこにもない。使命に忠実な軍人が兵へと忠告する。
これだ、こいつは普段はあれほどぬるいくせに、いざ責任を感じればこの上なく優秀な上官と化す――これが常ならばよいのだがと思いつつ、カインは頷いた。
その途端、彼女はまた不安げな表情に戻った。
「まったくもう……心配をかけないでくれ。不要な危険などないに越したことはないのだからな」
「フン、だがいずれフェルグランド家とは事を構える気なのだろう。あの双子は倒せねばならない障壁だ」
「そのために『計画』があるのだ。まだ詳細は話せないが、『計画』が為されればパイロヴァニアは歴史を覆すほどの強国となれる、そのためにもお前たちの力が必要だ。今は無茶をしないでくれ、私も心配でまた寝込んでしまう」
「まったくなぜ俺の上官がこうもぬるいのか……」
「あ、そうだ、早く治療しないとな。上に行くぞ、こんなじめじめした場所にいると健康に悪い」
「フン」
そうして2人は歩いていき、階段を上り地下から去っていった。
カインと女軍人が去ってから少しして。
無人になった地下では残された蝋燭がわずかな灯で照らしている。だがそこに突然、影が動いた。
「……ふうっ」
息をつき、空間にすーっとその色と形を現していく。透明化の魔法を使い、密かに壁のそばに張り付いて潜伏していたのだ。
透明化の魔法を解いた私は、ずっと縮めていた体を伸ばしていく。あの2人はまったく気付かなかったようだ。
しかし驚いた、国王との話の後、議事堂を出ようとしたら地下に妙な魔力を感じ妙な予感がしたので透明化して潜ってみたら、まさかあんな場面に出くわすとは。
カインの襲撃が彼の独断であったことはわかったし、パイロヴァニアが私たち双子を特別に警戒しているらしいことも知れて、何やら『計画』という怪しいワードも聞けた。
そもそもなぜ王の為政の場である議事堂の地下にこんな空間があるのだろうか。この部屋に繋がる通路は厳重に隠されていたし(私の各種補助魔法があれば潜入は容易だが)、どうもこの部屋だけでなく地下は別のところにも通じていそうだ。
『軍への干渉は禁じられている』と語ったはずの王が、地下にこんなものを隠していた。これは何かありそうだ。
『サリア、潜入はどうだ。見つかってはいないか』
脳内に魔法によるテレパシーが届く。セイルからだった。
「うん、大丈夫。ちょっと面白い話が聞けたしすぐ戻るよ」
私は返事をするとすぐに透明化の魔法を使い姿を消す。そして誰にも知られることなく、地下から去っていくのだった。
俺らの話を聞き終えたパイロヴァニア国王レグルオは申し訳なさそうに頷いた。
「ええ、こちらとしてもことを荒げるつもりはないのですが、命に係わるような攻撃をされたものですから」
「さすがにこのまま捨て置くわけにもいかず、ひとまず報告という形で参りました。カインから話は聞いていないのですか?」
自国の兵が他の貴族を襲撃したとなれば大問題だろう、そこを揺さぶるのが手っ取り早いと判断したのであくどく攻めていくことにする。
だがレグルオは首を横に振った。
「ご存知かもしれませんが、この国は人民が治める国、王は民が選ぶ者であり、そこに必要以上の権力は与えられないようなシステムとなっています。その一環として、軍と王の分断があります。王が武力をもって圧政を敷くようなことがないよう、王には軍を指揮する権利はなく、軍は政治と独立して存在しております。結論を申しますと、私は軍のことはわかりませんし、管理責任もない。無責任だと思われるでしょうが……これがこの国の仕組みなのです」
為政と軍部の独立は俺らの世界でも一般的なシステム、選挙で王を決めるパイロヴァニアではどうやらかなり進んだ民主主義が為されているようだ。だがそれにより軍が暴走するのもまた俺らの世界同様なのかもしれない。
「申し訳ありませんが私では力になれません、王が軍へ干渉することは固く禁じられております。どうかお引き取りください」
レグルオは謝罪するように頭を下げたが、それでいて意志は固いようだった。そんな父親の態度に、サリアの腕にしがみ付いていたリオネが異を唱える。
「お、お父さん、サリア様たちは私の命の恩人なんだよ? ちょっとぐらい手引きしてあげても……」
「リオネ、たしかに我らヘテロ族にとって恩は何より大事なものだ。だが私は同時に王でもある」
レグルオは静かに語ると、右目を覆う眼帯をなでた。両目の色が違うヘテロ族の特徴をその眼帯が隠している。
「ヘテロ族の美徳を認められ、私は皆に選ばれ王となった。だが王とは国のため、全てのために動くもの……ヘテロ族の哲学は恩人のために他を捨てるもの、王には相応しくない。私は王となった時、ヘテロ族としての己を殺すと誓ったのだ。私はあくまでもこの国の王として考え、行動する」
王の眼帯はヘテロ族であることを捨てる決意の表れということなのだろう。ポップに聞いたところヘテロ族が恩義に報いることを否定するのは存在意義の否定にも等しいこと、その覚悟のほどが伺える。物腰は柔らかいがさすがに王に選ばれる器、その意志は強固だ。
「わざわざ来てくださり申し訳ありませんが、私も仕事がありますゆえ、どうかお引き取り下さい。そうそう、娘との結婚のご報告でしたらまたすぐいらしてください、今度は親として歓迎いたしますよ」
「だから、結婚はしませんて!」
「ハハハ……では予定がありますので、大変失礼ですけれどもお先に席を外させていただきます」
サリアを軽くからかって場を和ませ笑った後、レグルオはいそいそと立ち上がり、また俺らに深く礼をしてから退出していった。王としての仕事は色々あるのだろう、むしろその合間を縫って嫌な顔せずに俺らと会いに来てくれたのが奇跡に近い。
だが必ずしも油断はできなさそうだ。
「あの王、喰えないな。態度は丁寧で実際善人のようだが、優先順位を見誤らない強かさがある。最後に笑顔で終えることで面会の印象をよくしようとするのも計算だろう」
「すみません、父がお役に立てず……」
「いいよリオネちゃん、まず国王と会えただけで十分。本当ならここで断られるまでもっと時間がかかっただろうからね」
収穫はなかったが王と出会うというプロセスを経て進展はした、次の目的も見えてくる。やはりカインのことを確かめるには軍に突っ込むしかないらしい。それは王との対面とは違い、物々しいものになるだろう。軍とはそういうものだ。
「だが、俺らがその気になれば」
「やりようはいくらでもあるからね」
俺らは双子同士密かにほくそ笑み、リオネは首と猫耳を傾げてそれを見ているのだった。
パイロヴァニアの地下。蝋燭がわずかに灯るのみのその部屋はじめじめとした陰気が漂っている。そこに2人の人間がいた。
1人はカイン・イーノック。アスパムでセイルを襲撃した黒髪の少年。両手足を鎖に縛られ引き延ばされ、足は床に繋ぎ、手は天井から吊るされていた。体に密着する黒い服は所々が破け、跡が血として残っている。
もう1人は鞭を持った長身の女性だった。丈の長い赤い軍服を着こみ、手には手袋をはめているため顔以外一切の肌を見せていない。その顔は美人ながらも三白眼は鋭く冷徹、軍帽の下の緑の髪はやや乱雑だった。左頬には消えない傷が生々しく残っている。
「ここまでの鞭は独断行動と情報漏洩への罰」
鞭の女はカインと正対し語り掛ける。その言葉からは感情がない、なじるような悪意も、失態を責める怒りもなく、ただただ冷徹に問いかける。カインが睨み返すのにもまったく動じなかった。
「では改めてお前に問おう。なぜ独断でアスパムに趣き、セイル・フェルグランドと接触した」
女軍人はその鋭い目にカインを移し込み、冷徹な声で尋ねた。
「無論、フェルグランド家の双子の打倒だ。奴がいなくなればソレイユ地方は落としたも同然、パイロヴァニアはソレイユの広大な土地の資源を手に入れられる! それこそが我らの目的だろう?」
カインもまた鎖に繋がれたままなれど媚びるでもなく逆上するでもなく応じる。
「つまりパイロヴァニアのためであった、と?」
「ああ……」
両者はにらみ合いしばし沈黙する。蝋燭の灯が揺れ、映し出す一対の影が怪しく現れては消える。両者以外の誰もいない闇の中で――
だが。
「ならばいいんだ……あまり心配を掛けさせないでくれよ」
鞭を持った女軍人は一転して心配そうに眉を下げて、あっさりとカインの両手足の鎖を解きにかかった。よほど解きたがっていたのかあっという間に鎖は解けてカインは自由になり、彼自身ははあとため息をついた。
そんなカインの体を女軍人はおろおろとなでる。
「痛かったか? すまんな、罰は与えねば示しがつかんからな、すぐに治癒をしてやるからな」
「別にいい……闇の眷属たる俺はこの程度の傷どうということもない」
「でも痛いだろう、それにほら鎖の跡もついている。ずっと拘束されっぱなしで辛かったろうな」
「1時間も繋がれてない……というかいつでも抜け出せる緩さだったぞ」
「だって鎖で皮膚挟んだりしたら痛いだろう? カイン、他に痛いところはないか? 本当にすまんな」
「いいってば。いい加減にしてくれよ、俺は兵でお前は上官だ、もっと厳しく接するべきだ。なぜ俺の方がこんなことを言わなくちゃならない……」
「そ、そうか。十分に厳しいつもりだったが」
カインはまたため息をついた。女軍人はさっきの冷徹な目はどこへやら、おろおろとカインを気遣うばかり。お前は俺の母親か、という言葉がカインの喉から出かかったが、闇っぽくないのでやめた。
「だがカイン、今回は本当に危険だったのだぞ。フェルグランドの双子の能力は未知数、死んでもおかしくなかった。鞭はどちらかというと不用意に己を危険に晒したことへの罰だ、肝に銘じておけ」
「フン、どうだか。今回は実力を測ることを重視し過ぎた。俺が本気を出せば奴らなど……」
その時。
女軍人はいきなりカインの顔を掴み強引に引き寄せた。カインが反応できないほどの圧倒的なスピード、そしてパワーだった。
そしてその冷徹な目が再びカインを覗き込む。
「奴らを甘く見るな。奴らが弱者ならば元より私たちも警戒したりはしない。これ以上浅慮で行動するのならばパイロヴァニアのためにもならん、今度こそ私も容赦せんぞ」
カインを気遣う優しさも、痛めつけたことを悔いる危うさもどこにもない。使命に忠実な軍人が兵へと忠告する。
これだ、こいつは普段はあれほどぬるいくせに、いざ責任を感じればこの上なく優秀な上官と化す――これが常ならばよいのだがと思いつつ、カインは頷いた。
その途端、彼女はまた不安げな表情に戻った。
「まったくもう……心配をかけないでくれ。不要な危険などないに越したことはないのだからな」
「フン、だがいずれフェルグランド家とは事を構える気なのだろう。あの双子は倒せねばならない障壁だ」
「そのために『計画』があるのだ。まだ詳細は話せないが、『計画』が為されればパイロヴァニアは歴史を覆すほどの強国となれる、そのためにもお前たちの力が必要だ。今は無茶をしないでくれ、私も心配でまた寝込んでしまう」
「まったくなぜ俺の上官がこうもぬるいのか……」
「あ、そうだ、早く治療しないとな。上に行くぞ、こんなじめじめした場所にいると健康に悪い」
「フン」
そうして2人は歩いていき、階段を上り地下から去っていった。
カインと女軍人が去ってから少しして。
無人になった地下では残された蝋燭がわずかな灯で照らしている。だがそこに突然、影が動いた。
「……ふうっ」
息をつき、空間にすーっとその色と形を現していく。透明化の魔法を使い、密かに壁のそばに張り付いて潜伏していたのだ。
透明化の魔法を解いた私は、ずっと縮めていた体を伸ばしていく。あの2人はまったく気付かなかったようだ。
しかし驚いた、国王との話の後、議事堂を出ようとしたら地下に妙な魔力を感じ妙な予感がしたので透明化して潜ってみたら、まさかあんな場面に出くわすとは。
カインの襲撃が彼の独断であったことはわかったし、パイロヴァニアが私たち双子を特別に警戒しているらしいことも知れて、何やら『計画』という怪しいワードも聞けた。
そもそもなぜ王の為政の場である議事堂の地下にこんな空間があるのだろうか。この部屋に繋がる通路は厳重に隠されていたし(私の各種補助魔法があれば潜入は容易だが)、どうもこの部屋だけでなく地下は別のところにも通じていそうだ。
『軍への干渉は禁じられている』と語ったはずの王が、地下にこんなものを隠していた。これは何かありそうだ。
『サリア、潜入はどうだ。見つかってはいないか』
脳内に魔法によるテレパシーが届く。セイルからだった。
「うん、大丈夫。ちょっと面白い話が聞けたしすぐ戻るよ」
私は返事をするとすぐに透明化の魔法を使い姿を消す。そして誰にも知られることなく、地下から去っていくのだった。
「ファンタジー」の人気作品
書籍化作品
-
-
4
-
-
93
-
-
267
-
-
56
-
-
140
-
-
49989
-
-
24252
-
-
23252
-
-
769
コメント