双子転生 -転生したら兄妹に分裂してた。天才双子の異世界ライフ-
第29話 パイロヴァニア軍部会議
パイロヴァニア王国、軍部。
その幹部たちが一堂に会し、神妙な面持ちで話し合っていた。
「さて、どうしたものか……」
奥の机に座り頭を悩ませるのは部屋の主でもあるケラサス・リッターヒルン。パイロヴァニア軍部総帥、つまりは軍のトップだ。屈強な体躯を持つ初老の男は険しい顔で事態を考えていた。
「知らぬ存ぜぬで突っ張ろう! うん、証拠はないはずだし、少なくとも時間稼ぎはできる」
その近くで副総帥のオニオー・シリックが提案する。オニオーは鳥の獣人、それも二足歩行の巨大な黒い鳥といった獣の側面の強い軍人だ。羽毛の上に軍服を着ている。
「いや、あの双子に敵対心を確固たるものにされれば困る。ここで暴れられては勝ち目はない、徒に兵を傷つけるのみだ」
参謀の案を否定したのは兵隊長、全兵の指揮官にして教官、緑の髪の女軍人ダイアナ・カシンスカヤ。手には鞭を持っていた。
「で、でもでも、ななな中に通すわけにはいきませんよ!? け、計画がバレたら、私の徹夜が台無しにぃ~!」
わたわたと騒ぐ丸メガネで白衣の女性はゲルス・ワースト、魔法研究者だ。小柄な彼女は丈の余った白衣を着て三つ編みの頭をわたわたと揺らし、この中で一番慌てていた。ちなみに犬耳を生やし鼻もそれらしい形をした獣人である。
ここにいる4人、軍総帥リッターヒルン、副総帥オニオー、兵隊長ダイアナ、そして魔術技官ゲルスがパイロヴァニア軍を統率する幹部。その幹部全員が一堂に会し話し合う今は、まさしく緊急事態だった。
「どどどどどうするんですか? すぐ下に、あの双子がいるんですよ~!?」
大慌てのゲルスが言った通り、この軍部大本営の1階には今、フェルグランド家の双子セイルとサリアがやってきている。曰く、アスパムでここの兵に命を狙われたから説明を求めているという。
もちろんパイロヴァニア側は赤裸々に説明などできるわけもない、だがフェルグランド家の力は強大だ、真っ向から敵対してはすぐにでも軍ごと潰されかねない。そのための緊急会議だった。
「ではとりあえず適当に話をつけて追い払おう! うん、計画は進んでいるのだし、しばらくごかまし続ければいい」
副総帥オニオーが甲高い声で言う。が、
「だだだダメです、サリア・フェルグランドは膨大な数の補助魔法を使えるんですよ? 心を読まれたりしてバレたらどうするんですかぁ!」
慌てて魔術技官ゲルスが否定した。やはりフェルグランド家の双子の力は未知数、下手に刺激してはやられかねない。
「むむむ……そうだ、その兵を引き渡してしまえばいい! うん、そもそも今回の襲撃はその兵の単独行動なのは間違いないだろう? その兵を奴らに私、後は煮るなり焼くなりしてもらえばそれなりに話はつくはず!」
「なんだと?」
オニオーの提案に今度は兵隊長ダイアナが反応した。明らかな怒りをもって睨みつける。
「お前、私の部下を捨て駒にするなどとよくぬけぬけと言えたな」
「何を言うか、そもそもお前が兵をちゃんと管理しないからだろう! じゃあお前が身を差し出せ、うん、それがいい! 責任者が出れば奴らも納得する!」
「……それしかない、か」
兵を守るためならばと納得しかけたダイアナだったが、その時。
「許さん」
総帥リッターヒルンが口を開く。その瞬間、部屋の空気が一変した。
騒がしかった会議は一転して沈黙し、その場にいる彼以外の全員の視線と意識がリッターヒルンへと向く。ただの一言、それだけで全てを掌握するほどの力と存在感。まるで心臓を掴み取られ剣を突き立てられるような緊張感が、その視線のみで引き出される。
彼が総帥たる所以の一端だ。
「お前は『魔晶兵』数人よりもはるかに価値のある軍人、そう簡単に身を捨てることは許さん。やはり、件の兵を奴らに引き渡すべきだ」
リッターヒルンの眼光は鋭かった。この男、口数はそう多くないものの、いざ口を開けばその言葉は有無を言わさぬ絶対の命令。
なおも何か言いたげだったダイアナを見据え、リッターヒルンは続けた。
「件の兵が独断でアスパムに赴き、セイル・フェルグランドと接触、その襲撃に失敗したことは紛れもない事実。その失態を理由に処分することに、なんの非がある。ましてやその失態が今の状況を引き起こしたのだからな」
眼光と言葉による圧を受け、ダイアナは何も言えなくなった。兵を見捨てたくないというのは彼女の個人の感情、国の為の行動ではない。兵隊長としてとるべきはむしろ、兵の失態を責め、処罰することなのだ――そういったことをリッターヒルンの言葉は彼女に想起させ、沈黙させる。
リッターヒルンの威圧の力は、理不尽を力ずくで押し通すようなものではない。むしろその逆、正論を正論として真正面からぶつける力だ。彼の言葉を受けた者は威圧され、己が内に感情を押しとどめ下らない駄々はできなくなる。彼に歯向かうには正論をぶつけ返すしかない……そしてリッターヒルンが口を開く時、それは不可能なのだった。
「カイン・イーノックを引き渡し、全て奴の独断と話せ。情報漏洩はできん、死体で渡すのだ」
総帥がダイアナへと指示を出す。カインを殺せ、という指令にダイアナは今度こそ反論しようとしたが、リッターヒルンの正論の前には不可能だった。
だが、その時。
「それはやめといた方がいいだろうなあ」
声と共に、きぃ、と部屋の戸が開かれた。
そこは軍の最高幹部が集まる会議の場。戸を開く、ただそれだけでもできる者はそういない。その場にいる軍人たちの視線がそちらへと集まった。
そしてその視線の中現れたのは子供。パーカーを着た、白髪の少女――ポップ・バンディだった。
「あ、あなたは!?」
「ぽぽぽポップちゃん!? どうして今……」
「私がいちゃ悪いか? ちょっとトイレを借りたついでにな、ありがたい神託を授けに来たんだ」
ポップはいつものように歯を見せて笑い、部屋の奥の総帥の前へあっさりやって来た。リッターヒルンもまた彼女を真っ直ぐに見つめる。
「やめておいた方がよい……とは、どういう意味だ」
「そのままの意味だよ。もしカインを殺してあの双子に渡したりしたら、まず間違いなく双子はブチ切れる。そうでなくともお前らへの不信感は一気にマックスだろうな。生憎、あの双子はカインを敵とは思ってないんでね」
「ならばどうすればいい?」
リッターヒルンは年端も行かない少女に真剣に助言を仰いでいた。またそれを疑問に思う者はここにおらず、皆一様にポップの発言を待っている。奇妙な光景だが、それがここでは当たり前だ。
ポップはやはり笑っていた。
「カインを殺したりなんかせず、そのまま引き渡せばいい。あいつらはカインに対しかなり興味を持っているしお人よしだ、まずは軍のことなんかほっぽり出してカインの方に付きっ切りになるだろうぜ」
「し、しかしポップ様、それでは数々の情報が……!」
「オニオー、漏れたら困る情報ってのはなんだ? 『魔晶兵』のことか? そんなの大したもんじゃあないだろ。計画のことは兵には話してないんだろ? それに考えようによっちゃ、あの双子のところにスパイを送り込めるってことにもなる。敵の人格も利用できるなら利用するのが常道だろう?」
ポップの提案に軍幹部たちは騒然としたが、総帥リッターヒルンは静かに考えを巡らせている。ポップはそれをにやにや笑って見ていた。
「……わかった、そうしよう。ダイアナ、カインに斥候としての任を与え、そのまま奴らに引き渡せ」
「はっ!」
ダイアナは総帥の指示を受けすぐに部屋を飛び出していった。内心ではカインが救われることになり喜んでいるに違いない。
「神の子よ、感謝する。また助けられてしまったな」
「気にするな、神は迷える者に道を与えるものだよ」
総帥に対しにやにやと話すポップ。その態度は正論のぶつけ合いとは程遠く、ひょうひょうとした掴みどころのないもの。
「それじゃ私はこれでさようなら。ま、がんばるこったな」
ポップはまた笑うと引き留めようとする副総帥オニオーやゲルスの声を無視し、どこかへと去っていった。
その幹部たちが一堂に会し、神妙な面持ちで話し合っていた。
「さて、どうしたものか……」
奥の机に座り頭を悩ませるのは部屋の主でもあるケラサス・リッターヒルン。パイロヴァニア軍部総帥、つまりは軍のトップだ。屈強な体躯を持つ初老の男は険しい顔で事態を考えていた。
「知らぬ存ぜぬで突っ張ろう! うん、証拠はないはずだし、少なくとも時間稼ぎはできる」
その近くで副総帥のオニオー・シリックが提案する。オニオーは鳥の獣人、それも二足歩行の巨大な黒い鳥といった獣の側面の強い軍人だ。羽毛の上に軍服を着ている。
「いや、あの双子に敵対心を確固たるものにされれば困る。ここで暴れられては勝ち目はない、徒に兵を傷つけるのみだ」
参謀の案を否定したのは兵隊長、全兵の指揮官にして教官、緑の髪の女軍人ダイアナ・カシンスカヤ。手には鞭を持っていた。
「で、でもでも、ななな中に通すわけにはいきませんよ!? け、計画がバレたら、私の徹夜が台無しにぃ~!」
わたわたと騒ぐ丸メガネで白衣の女性はゲルス・ワースト、魔法研究者だ。小柄な彼女は丈の余った白衣を着て三つ編みの頭をわたわたと揺らし、この中で一番慌てていた。ちなみに犬耳を生やし鼻もそれらしい形をした獣人である。
ここにいる4人、軍総帥リッターヒルン、副総帥オニオー、兵隊長ダイアナ、そして魔術技官ゲルスがパイロヴァニア軍を統率する幹部。その幹部全員が一堂に会し話し合う今は、まさしく緊急事態だった。
「どどどどどうするんですか? すぐ下に、あの双子がいるんですよ~!?」
大慌てのゲルスが言った通り、この軍部大本営の1階には今、フェルグランド家の双子セイルとサリアがやってきている。曰く、アスパムでここの兵に命を狙われたから説明を求めているという。
もちろんパイロヴァニア側は赤裸々に説明などできるわけもない、だがフェルグランド家の力は強大だ、真っ向から敵対してはすぐにでも軍ごと潰されかねない。そのための緊急会議だった。
「ではとりあえず適当に話をつけて追い払おう! うん、計画は進んでいるのだし、しばらくごかまし続ければいい」
副総帥オニオーが甲高い声で言う。が、
「だだだダメです、サリア・フェルグランドは膨大な数の補助魔法を使えるんですよ? 心を読まれたりしてバレたらどうするんですかぁ!」
慌てて魔術技官ゲルスが否定した。やはりフェルグランド家の双子の力は未知数、下手に刺激してはやられかねない。
「むむむ……そうだ、その兵を引き渡してしまえばいい! うん、そもそも今回の襲撃はその兵の単独行動なのは間違いないだろう? その兵を奴らに私、後は煮るなり焼くなりしてもらえばそれなりに話はつくはず!」
「なんだと?」
オニオーの提案に今度は兵隊長ダイアナが反応した。明らかな怒りをもって睨みつける。
「お前、私の部下を捨て駒にするなどとよくぬけぬけと言えたな」
「何を言うか、そもそもお前が兵をちゃんと管理しないからだろう! じゃあお前が身を差し出せ、うん、それがいい! 責任者が出れば奴らも納得する!」
「……それしかない、か」
兵を守るためならばと納得しかけたダイアナだったが、その時。
「許さん」
総帥リッターヒルンが口を開く。その瞬間、部屋の空気が一変した。
騒がしかった会議は一転して沈黙し、その場にいる彼以外の全員の視線と意識がリッターヒルンへと向く。ただの一言、それだけで全てを掌握するほどの力と存在感。まるで心臓を掴み取られ剣を突き立てられるような緊張感が、その視線のみで引き出される。
彼が総帥たる所以の一端だ。
「お前は『魔晶兵』数人よりもはるかに価値のある軍人、そう簡単に身を捨てることは許さん。やはり、件の兵を奴らに引き渡すべきだ」
リッターヒルンの眼光は鋭かった。この男、口数はそう多くないものの、いざ口を開けばその言葉は有無を言わさぬ絶対の命令。
なおも何か言いたげだったダイアナを見据え、リッターヒルンは続けた。
「件の兵が独断でアスパムに赴き、セイル・フェルグランドと接触、その襲撃に失敗したことは紛れもない事実。その失態を理由に処分することに、なんの非がある。ましてやその失態が今の状況を引き起こしたのだからな」
眼光と言葉による圧を受け、ダイアナは何も言えなくなった。兵を見捨てたくないというのは彼女の個人の感情、国の為の行動ではない。兵隊長としてとるべきはむしろ、兵の失態を責め、処罰することなのだ――そういったことをリッターヒルンの言葉は彼女に想起させ、沈黙させる。
リッターヒルンの威圧の力は、理不尽を力ずくで押し通すようなものではない。むしろその逆、正論を正論として真正面からぶつける力だ。彼の言葉を受けた者は威圧され、己が内に感情を押しとどめ下らない駄々はできなくなる。彼に歯向かうには正論をぶつけ返すしかない……そしてリッターヒルンが口を開く時、それは不可能なのだった。
「カイン・イーノックを引き渡し、全て奴の独断と話せ。情報漏洩はできん、死体で渡すのだ」
総帥がダイアナへと指示を出す。カインを殺せ、という指令にダイアナは今度こそ反論しようとしたが、リッターヒルンの正論の前には不可能だった。
だが、その時。
「それはやめといた方がいいだろうなあ」
声と共に、きぃ、と部屋の戸が開かれた。
そこは軍の最高幹部が集まる会議の場。戸を開く、ただそれだけでもできる者はそういない。その場にいる軍人たちの視線がそちらへと集まった。
そしてその視線の中現れたのは子供。パーカーを着た、白髪の少女――ポップ・バンディだった。
「あ、あなたは!?」
「ぽぽぽポップちゃん!? どうして今……」
「私がいちゃ悪いか? ちょっとトイレを借りたついでにな、ありがたい神託を授けに来たんだ」
ポップはいつものように歯を見せて笑い、部屋の奥の総帥の前へあっさりやって来た。リッターヒルンもまた彼女を真っ直ぐに見つめる。
「やめておいた方がよい……とは、どういう意味だ」
「そのままの意味だよ。もしカインを殺してあの双子に渡したりしたら、まず間違いなく双子はブチ切れる。そうでなくともお前らへの不信感は一気にマックスだろうな。生憎、あの双子はカインを敵とは思ってないんでね」
「ならばどうすればいい?」
リッターヒルンは年端も行かない少女に真剣に助言を仰いでいた。またそれを疑問に思う者はここにおらず、皆一様にポップの発言を待っている。奇妙な光景だが、それがここでは当たり前だ。
ポップはやはり笑っていた。
「カインを殺したりなんかせず、そのまま引き渡せばいい。あいつらはカインに対しかなり興味を持っているしお人よしだ、まずは軍のことなんかほっぽり出してカインの方に付きっ切りになるだろうぜ」
「し、しかしポップ様、それでは数々の情報が……!」
「オニオー、漏れたら困る情報ってのはなんだ? 『魔晶兵』のことか? そんなの大したもんじゃあないだろ。計画のことは兵には話してないんだろ? それに考えようによっちゃ、あの双子のところにスパイを送り込めるってことにもなる。敵の人格も利用できるなら利用するのが常道だろう?」
ポップの提案に軍幹部たちは騒然としたが、総帥リッターヒルンは静かに考えを巡らせている。ポップはそれをにやにや笑って見ていた。
「……わかった、そうしよう。ダイアナ、カインに斥候としての任を与え、そのまま奴らに引き渡せ」
「はっ!」
ダイアナは総帥の指示を受けすぐに部屋を飛び出していった。内心ではカインが救われることになり喜んでいるに違いない。
「神の子よ、感謝する。また助けられてしまったな」
「気にするな、神は迷える者に道を与えるものだよ」
総帥に対しにやにやと話すポップ。その態度は正論のぶつけ合いとは程遠く、ひょうひょうとした掴みどころのないもの。
「それじゃ私はこれでさようなら。ま、がんばるこったな」
ポップはまた笑うと引き留めようとする副総帥オニオーやゲルスの声を無視し、どこかへと去っていった。
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